「未知の世界への挑戦で人は成長する」転職エージェント 北川加奈のキャリア論 Vol.3 NEW

学習塾の講師からリクルーターへ転身して18年。現在、人材紹介会社・エーバルーンコンサルティングのヴァイスプレジデントを務める北川加奈さんは、これまで3,000人近くもの人々の仕事人生の岐路に立ち会ってきた。このコラムでは、北川さんがリクルーターとしてキャリアを積み重ねてきたなかで得た学びや気づきを、自分自身の体験も交えながら綴る。
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2
突然始まった、ラグジュアリー業界でのチャレンジ
2010年の春、私のキャリアに大きな転機が訪れました。
当時の直属の上司が産休に入るタイミングで、ファッション&ラグジュアリー領域に特化し、高い実績を上げていたコンサルタントが入社してくることになったのです。そして突然、会社からこう言われたのです。
「新しくファッション&ラグジュアリーチームを立ち上げる。加奈もそこに入ってほしい」
正直に言えば、とても意外でした。
もちろんファッションは好きでした。
おしゃれをすることも大好きでした。
けれど、“好き”と“仕事”はまったく別です。ましてや、ファッション業界の採用を専門にするなど、その時の私には想像もしていない未来でした。
当時の私は、人材業界に入って数年。ありとあらゆる業界のジュニア層の転職支援を担当していて、軌道に乗り始めた頃でした。それまで必死にもがきながら積み上げてきたものが、少しずつ形になり始めていたタイミングでもありました。だからこそ、新しい業界へ飛び込むことには不安もありました。何より、知識が圧倒的に足りなかったからです。
マーチャンダイザーとは何をする仕事なのか。
マーチャンダイザー略してMDの前にVがつくVMDとはどんな業務内容なのか。今では当たり前のように理解している言葉も、当時の私にはほとんど分かりませんでした。
また、ラグジュアリーブランドの世界には、複数の大きなグループが存在します。
どのブランドがどのグループに属しているのか。
どんなブランド哲学を持っているのか。
誰がどこで働いているのか。
そうした業界の構造を、一から覚えていく必要がありました。
いや、正確には“一から”ではありません。ゼロから、でした。
新しく入社してきたコンサルタントは、アメリカ人の男性でした。
今振り返ると、彼と私はまるで映画「プラダを着た悪魔」に登場するミランダとアンディのような関係だったと思います。彼は、見た目も、ファッションも、立ち振る舞いも、すべてが洗練されていました。
一方の私は、ファッション業界について右も左も分からない状態。毎日がカルチャーショックの連続でした。けれど、その環境は私に多くのことを教えてくれました。ファッション&ラグジュアリー業界でリクルーターを務める場合、知識だけでは足りません。
どんな服を着ているのか。
どんな空気感を持っているのか。
どのように振る舞うのか。
そうした“見られ方”も含めて、仕事の一部なのだということを知りました。クライアントや候補者と話をするとき、「新人なので知りません」は通用しません。特にファッション業界では、「誰を知っているか」ということも非常に重要です。
どこのブランドに誰がいるのか。
どんなキャリアを歩んできた人なのか。
業界のネットワークや人間関係まで含めて理解していなければ、候補者ともクライアントとも深い会話はできません。そこで私は、とにかく学びました。
ブランドを調べる。
店舗を見に行く。
雑誌を読む。
ラグジュアリーグループの構造を頭に入れる。
休日にショップへ足を運び、接客を見ることもありました。候補者との会話で知らないブランド名が出てきたら、その日のうちに調べる。そんな毎日の積み重ねでした。
振り返ると、この頃から私は“転職を支援する”ことに加えて、“業界を理解する”という感覚を強く持つようになった気がします。
「未熟さを痛感した経験」を糧にする
人材紹介の仕事は、単に求人を紹介する仕事ではありません。
その業界が何を大切にしているのか。
どんな価値観で動いているのか。
どんな人が評価されるのか。
そこまで理解して初めて、候補者とクライアントの間に立つことができるのだと思います。
そして、ファッション&ラグジュアリー業界は、そのことを私に最も強く教えてくれた世界でした。
もちろん平坦な道のりではありませんでした。新しい知識を身につけ続けなければならない。業界のスピードについていかなければならない。さらに、見た目や振る舞いに対する意識も求められる。
けれど私は、この世界に強く惹かれていきました。ブランドには、それぞれ哲学があります。
なぜこのブランドは支持されるのか。
なぜこのクリエイティブが人を惹きつけるのか。
なぜ同じラグジュアリーでも、ブランドごとに空気感がまったく違うのか
そうした背景を知れば知るほど、この業界の奥深さに魅了されていきました。そして何より、そこで働く人たちにも強く惹かれました。
情熱を持ってブランドを語る人。
ブランドの世界観を本気で体現しようとしている人。
店舗でお客様と向き合い続ける人。
ファッション業界には、“仕事をしている”というより、“生き方として仕事をしている”ような人が多くいます。その熱量は、私にとって非常に刺激的でした。思えば、東京へ出てきてからの私は、何度も「ゼロから学ぶ」という経験を繰り返してきました。
ビジネスの基本、人材業界、そしてファッション&ラグジュアリーの世界。そのたびに、自分の未熟さを痛感してきました。けれど今振り返ると、あの経験があったからこそ、私はリクルーターとして成長できたのだと思います。
知らない世界に飛び込むことは怖い。けれど、人はその瞬間に最も成長するのです。
ファッション&ラグジュアリー業界との出会いは、私にとって単なる担当領域の変更ではありませんでした。それは、リクルーターとしての視野を大きく広げてくれた、新たな挑戦の始まりだったのです。
■著者プロフィール
北川加奈/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国留学後、塾の講師を経て人材業界に転身。2021年エーバルーンコンサルティングに上級職として就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界に強みを持ち、外資系エグゼクティブサーチに従事。1,000件以上の紹介実績があり、業界屈指のネットワークを誇る。平日は都会的なライフスタイル、週末はアウトドアを愛し、愛犬と共に都市と自然の調和の取れた生活を送る。
エーバルーンコンサルティングでは、ラグジュアリー・ファッション業界における人材サーチのご相談、またキャリアの可能性を広げたいとお考えの方からのご相談を承っております。ブランドの未来を担う人材との出会いを、丁寧にサポートいたします。お気軽にこちらまでお問い合わせください。
Brand Information
A Balloon Consulting
「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。