世界初の「万博サウナ」は膜建築。“ととのう”の先にある革新的なサウナ体験 NEW
4月の開幕以降、連日にぎわいを見せる大阪・関西万博。さまざまなパビリオンが注目を集めている中、“万博初”となるのが公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、万博協会)が主催するサウナパビリオン「太陽のつぼみ」だ。大型膜面構造物を手がける太陽工業株式会社が協賛し、サウナのコンサルティングやブランディングを手がけるサウナクリエイティブ集団・TTNE株式会社がプロデュースしている。世界でも類を見ないプロジェクトに込めた思いと制作秘話を、太陽工業の能村祐己社長とTTNEの“サウナ師匠”こと秋山大輔さんに聞いた。
能村祐己さん/太陽工業株式会社 代表取締役社長
大学卒業後、機械工具などの専門商社を経て、2008年に家業である太陽工業株式会社に入社。2022年3月、社長に就任。
サウナ師匠・秋山大輔さん/TTNE株式会社 サウナプロデューサー
イベントを軸としたブランディング会社を経営しながら、世界を舞台に活動するプロサウナー。ととのえ親方(松尾大)と共にサウナクリエイティブ集団「TTNE」を設立。日本のサウナカルチャーを未来へと導くキーパーソンとして国内外で注目を集める。
前代未聞の「木を使わない膜製サウナ」
― 大阪万博に出展された背景と経緯を教えてください。
能村祐己さん(以下、能村):当社は万博を契機として成長した会社です。1970年の大阪万博では、膜構造建築物(軽量で高強度な膜材料を使用し、広大な空間を実現する新しい建築技術)の約9割を手がけました。当時のアメリカ館で用いた「エアドーム技術」がのちに東京ドームで採用されるなど、当社を代表する実績にもつながっています。
2025年に再び大阪で万博が開かれることになり、成長の源である万博に恩返しをしたいと考えました。せっかくならグループ全体を巻き込んでひとつのプロジェクトに取り組もうとなり、会社としてパビリオン出展に協賛することとなりました。以前から親交があった秋山さんに万博のことを話すと、「万博会場にサウナが必要では」という提案をいただき、「それだ!」と感じました。

― 当初はどのようなサウナを構想されていたのですか。
能村:「誰も見たことがないサウナ」を作りたいと考えました。当社は膜のメーカーですので、膜を使ったサウナを作りたいと秋山さんや建築家の小室舞先生に相談し、企画していただきました。
秋山大輔さん(以下、秋山):ヒントになったのは、香川県直島にある「SANA MANE / SAZAE」という木のサウナです。設計を隈研吾建築都市設計事務所、監修をTTNEが担当しました。アートとしてのサウナの建築実績があったので、パビリオンの主催者である万博協会側がイメージしやすかったのだと思います。サウナブームにも後押しされ、時代の流れに引き寄せられているようにも感じました。
― 膜を使ったサウナというのは斬新なアイデアですね。ご苦労もあったのでしょうか。
能村:万博を控え、施工業者も材料も不足している時期に、新たにパビリオンを建築するのは無謀ともいえる挑戦でした。現場からの反発も多かったのですが、当社は運よく施工業者や材料の工場、運営スタッフを自社で手配することができました。難易度の高い課題にチームは何度も諦めかけたのですが、秋山さんと小室先生が踏みとどまってくれて、一切木を使わないというコンセプトを最後まで守ることができました。
秋山:木もタイルも使わずにサウナを作るのは大きな挑戦でした。パビリオンの中では後発のスタートだったため、1年半という短期間で構想しました。当然工期も短く、オープン前日に「椅子もドアもできていない」というほどギリギリだったんです。通常業務もある中、皆さんプロ意識を持って真剣に取り組んでくださいました。議論が白熱することもありましたが、グループ一体となって協力してくれたからこそ成功したと思います。

サウナ体験を通して、自分と、人と、地球とつながる
―「太陽のつぼみ」というタイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか。
秋山:主催者催事のパビリオンには協賛企業のロゴが入れられないので、代わりに社名の一部である「太陽」をタイトルに据えました。コンセプトとして“人生が変わるようなサウナ”を考えていたので、生命やよみがえりを想起させる「つぼみ」で人生が花開くストーリーを表現しています。レギュレーションの厳しさをネガティブにとらえず、クリエイティブな発想に転換することで新しいアイデアが生まれました。


― 「太陽のつぼみ」を通じて、来場者にどんな体験や気づきを得てほしいですか。
能村:まずは純粋に楽しんでいただき、世界中の人がつながる場にしたいですね。一緒に来た人とより仲良くなるのもよいですし、たまたま同じグループになった人と一体感を共有してもらうのもよいですし。また、「太陽のつぼみ」には「地球共感覚」というテーマもあるので、大阪湾を眺めながら地球とつながる感覚も味わっていただきたいです。
秋山:太陽グループの理念である「世界を、やわらかく。未来を、あたたかく。」をサウナで表現することを意識しています。本来サウナは外界と隔てた空間ですが、膜で作ったことで太陽の光を映しだし、夕方はオレンジ色に染まり、夜は真っ暗になります。外の世界とシームレスにつながり、柔らかく包み込まれる感覚を楽しんでいただきたいです。
体験の最後にガイドから「自分とつながり、人とつながり、地球とつながる」というお話をさせていただきます。服を脱ぎ捨てて自分らしくいられるのはサウナの魅力のひとつですし、人種や性別、年齢の枠を超え、サウナ初心者の方も愛好家の方も同じグループで体験することで、人とのつながりを感じていただけるのではないでしょうか。地球や太陽のありがたみを感じながら、人間らしさを取り戻すきっかけにしていただければと思います。

サウナの本場フィンランドからも熱視線
― 万博開幕から約2ヶ月半が経ち、体験者からは「人生で最高のサウナ体験」「普通のサウナとは全く違う新しい体験」などの声があり、好評です。反響に対するお気持ちをお聞かせください。
能村:来場者の評価は心配していませんでしたが、単純に嬉しいですね。「すごいものが出来上がってしまったので、早く皆さんに体験してほしい」という気持ちです。
秋山:みんなで悩みに悩んで作ったものが完成して嬉しいです。演出を提案してもイメージしにくく、本当に実現するのかみんな半信半疑でしたから。現場から届く好評の声が張り合いになり、もっとお客さんを満足させたいと感じます。
― 万博終了後の活用や、今後の展開についてはどのようなビジョンをお持ちですか。
能村:ご縁のある場所に移設して残したいと考えておりまして、すでに複数からお問い合わせをいただいています。
秋山:まさにつぼみが花開くように、日本中、世界中でローカライズしながら花を開いてほしいですね。今回のプロジェクトを通してアップデートできるところも見えているので、第二弾、第三弾にも挑戦していきたいです。
膜製のサウナは世界でも例がありません。世界のサウナ業界関係者が集まるフォーラムで「太陽のつぼみ」を紹介したところ大きな反響があり、世界シェア1位のサウナブランド「Harvia」の役員が「太陽のつぼみ」を体験するために来日することになりました。サウナの本場フィンランドでも注目されているので、ゆくゆくは世界での展開もありうるかもしれません。
― 「太陽のつぼみ」をまだ体験していない方へ、メッセージをお願いします。
能村:ここでしかできない体験があります。普段サウナに行かない方にも、秋山さんが企画してくれた「サウナリチュアル」をぜひ体験していただきたいです。
秋山:暑さや混雑や抽選の倍率などハードルはありますが、それを乗り越えた人だけが体験できるコンテンツともいえます。万博自体、見どころが多いですし、太陽工業さんが携わる他のパビリオンも素晴らしいので、ぜひ応募してみてください。

文:大貫翔子
撮影:船場拓真
Brand Information

TTNE
サウナーによるサウナーのためのサウナー専門ブランド