【連載④「大名古屋展2025」の裏側】地元を盛り上げる“大人の文化祭”。「愛知トヨタ」が感じた意義と価値 NEW

今年で6回目の開催を盛況に終えた「大名古屋展」。主催者のビームス ジャパンが、企業や団体、スポーツチームとコラボして、名古屋・愛知の魅力を発信、シビックプライドの醸成、名古屋・愛知に足を運んでもらう機会創出を目指すプロジェクト。それだけでなく、地域をつなぐコミュニティの役割も担っている。本連載では「大名古屋展」プロジェクトリーダーの佐野明政さんがコラボ企業や団体の方々をゲストに迎え、名古屋・愛知のコミュニティが目指す未来について語り合う。
今回のゲストは「大名古屋展」初回開催時から中心的企業の一つとして参画する「愛知トヨタEAST株式会社」「愛知トヨタWEST株式会社」を傘下にもつ株式会社ATグループ。佐野さんが大恩人と称するATグループ(以下:愛知トヨタ)の熊澤謙介さんに、ビームスの「日本の魅力を発信する」事業、ビームス ジャパンが主催する「大名古屋展」に参画したきっかけや、プロジェクトを通じて感じた価値について聞いた。
熊澤謙介さん/株式会社ATグループ マーケティング部次長(写真:右)
愛知県名古屋市出身。2000年愛知トヨタ自動車株式会社に新車営業スタッフとして入社。2006年に営業企画部へ配属となり販促・宣伝業務に従事。2020年にグループ傘下のトヨタ販売会社4社統合プロジェクトのPMOを務め、2022年10月より現職にて愛知トヨタのブランディングを中心に、販促企画や販売店DXを推進。
佐野明政さん/株式会社ビームスクリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(写真:左)
愛知県名古屋市出身。2000年ビームスに入社。2010年に修士号取得。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2015年よりビームス ジャパンのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2019年、名古屋・愛知を盛り上げるイベント「鯱の大祭典」の象徴となる名古屋グランパスの選手ユニフォームのデザインオファーをきっかけに、「大名古屋展」を立ち上げた。2021年より現職。
不思議な縁と互いのリスペクトからコラボが実現
― ATグループさんは、「大名古屋展」初開催時からご参画されていますね。どのような経緯だったのでしょうか。
熊澤謙介さん(以下、熊澤):きっかけは、「名古屋グランパス」で、マーケティング部長 兼イベント・プロモーションリーダーを務める戸村英嗣さんから、名古屋グランパスが開催する「鯱の大祭典」についてご相談いただいたことです。毎年、ファン投票をもとに一番活躍した選手にクルマを贈呈させていただいておりますが、さらなる盛り上げに貢献できればと考え、協賛することになりました。このイベントの記念ユニフォームのデザインをビームス ジャパンが手がけていたことから、「大名古屋展」への参画の話が持ち上がりました。
そうしたらまったく別の日に、ひとつ年上の先輩から「昔お世話になった先輩がビームスにいて、愛知トヨタとつながりたいと言っているんだけど、会ってみてくれない?」と言われまして。偶然、2つの方向からビームスさんとのご縁をいただいたんです。
― そこでお会いされたのが佐野さんだったんですね。もともとビームスにはどのようなイメージをお持ちでしたか。
熊澤:若い頃から憧れのブランドでしたね。高校生の時にはオレンジ色のビニールバッグで通学していましたし、デートでおしゃれしたい時に洋服を買いに行くなど、自分に自信をつけてくれる存在でした。ですからお話をいただいた時には「新しいことができそうだ」という好奇心がありました。
佐野明政さん(以下、佐野):当時はまだ企画自体が手探りで、手を挙げてくださった企業が少なかったので、嬉しかったです。私自身が名古屋育ちで、実家でもトヨタ車に乗っていましたから、愛知トヨタさんに馴染みがありましたし、憧れの会社とご一緒できることは光栄でした。
― 初開催時の印象的なエピソードがあればお聞かせください。
熊澤:初めてお会いした2018年の頃は、まだ「大名古屋展」の具体的な内容が決まっておらず、まずは佐野さんの「名古屋・愛知を盛り上げたい」という想いを伺いました。それを受けて、「BEAMS的ナゴヤの巡り方」というドライブマップを作って、エリア内のスポットに車で出かけてもらうというような企画を一緒に考えました。ドライブマップという企画自体は昔からあるものですが、ビームスさんが作ってくれたオリジナル冊子がとてもおしゃれで、いろいろなアイデアを盛り込んでいただいたので、社内でも大変話題になりました。
ただ、新宿のビームス店舗でも配ると聞いたときには、私も役員も驚きましたね。突拍子もないアイデアだと思いましたが、愛知トヨタの名前が入った冊子が東京で配られること自体は嬉しかったです。思ったほどの反響は得られなかったものの、ビームスさんとお仕事ができたことに達成感を感じていました。

「大名古屋展」は地元企業による“大人の文化祭”
― 第3回以降、毎年ご参画されています。社内にはどういった背景があったのでしょうか。
熊澤:第2回の時は私の部署異動で参画を見送ったのですが、第3回からは社内で「またやりたい」という声が上がり、参画させていただきました。というのも当社では、2023年にグループ販社の統合を予定しており、インナーブランディングの目的があったんです。社員のエンゲージメントを高めるため、ビームスさんのブランド力を活用させていただきたいと考えました。
― 社内の反響はいかがですか。
熊澤:一般発売前に行っているグッズの社内販売では、申込数が年々増えています。新聞やテレビで報道されることもあり少しずつ認知度は上がっていまして、社員の家族から「どこで買えるの?」という問い合わせもあるようです。
― 熊澤さんにとって「大名古屋展」の魅力はどのようなところにあるのでしょうか。
熊澤:いろいろな人に出会える点ですね。参画企業の方々とお話することで、地元の企業同士のつながりが生まれるんです。「地元を盛り上げたい」という想いを共有する企業を佐野さんが集めてくださっているからだと思います。
せっかく地元を盛り上げていくなら、他の企業と連携して楽しんじゃえばいいと思うんです。各社が得意分野やアイデアを持ち寄って、キャンペーンを実施したり商品を作ったり。1社だと限界がありますが、他社と手を組むことで可能性は大きく広がります。そういう意味で「大名古屋展」は“大人の文化祭”みたいなものですね。
― 皆さんが楽しんでいるからこそ、どんどん新しいアイデアが生まれるんですね。参画企業同士の交流やコミュニティ活動で印象に残っていることはありますか。
熊澤:ビームスさん主催の懇親会では名刺交換をして終わるのではなく、次につながるお話ができることが多いですね。お互い地元の企業なので親しみやすく、初対面でも距離が縮んで話し込んでしまいます。実際、毎年どこかの企業と共同で企画を行っていまして、「佐野さんにはいつ報告しましょうか」なんて相談しています(笑)。
佐野:他社さんからも「『大名古屋展』を通じて新しい会社と知り合えるのが嬉しい」というお声をいただいています。我々が思っていた以上に、そこに価値を感じていただけているようで嬉しいです。初回こそモノを売ることが中心のイベントでしたが、回を重ねるごとにコミュニティが形成されていることもよいことだと思います。
― ビームスと組んだからこそ実現できたことはどんなことでしょうか。
熊澤:顧客に新しい経験を提供できているのではないかと思います。例えば「大名古屋展」のコラボTシャツやトートバッグはお客様や取引先からも大変好評で、「毎年買ってます」という方もいらっしゃるくらいです。
佐野:そこも当社の強みだと思っています。お客様に商品を買ってもらうことから会話が生まれますよね。
熊澤:もしかしたら車を買ってくださるきっかけになるかもしれませんし。即効性は求めませんが、「どうせ買うなら愛知トヨタで」と思っていただけたら嬉しいですね。
ディーラーというと、昔から「来場プレゼント」のような施策で販促していましたが、今はそういう時代ではありません。目的を持って来店いただいて、そこで驚きや楽しさを提供することで期待を上回りたいと思っています。ビームスさんや「大名古屋展」を通して出会った企業さんのお力を借りながら、そうした新しい取り組みにもチャレンジしていきたいですね。

エンタメ性のあるイベントで名古屋の魅力を伝えたい
― 今後、「大名古屋展」をどのように展開していきたいとお考えですか。
熊澤:あまり大上段に構えず、気づいたら大きくなっていた、という感覚で育っていくといいですね。いろいろな企業さんが興味を持ってくれていますし、参画企業が増えれば関係する従業員、家族も増えていくので、参画のハードルは低く保ったまま、できる範囲で協力し合いながら作っていきたいです。
佐野:熊澤さんがおっしゃるように、入口がどうであれ、みんなが楽しみにしてくれる“参加型のお祭り”でありたいと思います。年に1回、2週間の開催ではもったいないので、将来的にはビームス名古屋の店内に「大名古屋展コーナー」を常設して、さらに活発なコミュニティが生まれる場にしたいと妄想しています。
―名古屋や愛知の街づくりにおいて、「大名古屋展」が貢献できることは何だと思われますか。
熊澤:名古屋は「ものづくりの街」といわれていて、技術や開発は進んでいる一方で、ちょっと硬いところがあると思います。ですので「大名古屋展」のようなエンタメ性のあるイベントで魅力を伝えて、地元企業の採用や職人の後継者育成に貢献していきたいです。
佐野:今後、リニア中央新幹線の開業が予定されていますが、東京に出なくても十分刺激的な経験ができる街になるといいですね。そのためにいま必要なのは、「大名古屋展2025」のテーマである「かぶけ!名古屋・愛知」というメッセージなのかもしれません。
文:大貫翔子
撮影:Wataru Sato