テック、アウトドア系の台頭で勢力図に変化?「アトモス」小島奉文さんが読み解く、 スニーカービジネス最前線 NEW

ストリートやライフスタイルシーンで「サロモン」や「オン」などのテック系、アウトドア系ブランドが存在感を増している。これまで「ナイキ」や「アディダス」が築いてきた王道構造に対し、静かな市場再編が進んでいる状況だ。このムーブメントの背景には何があるのか。多様化する市場で、人気セレクトショップはどのような戦略を描いているのか。Foot Locker atmos Japan合同会社(フットロッカー アトモスジャパン)でメンズシニアディレクターを務める小島奉文さんに、スニーカービジネスの最前線と展望を聞いた。
小島 奉文さん/フットロッカー アトモスジャパン合同会社 メンズシニアディレクター・ GM代理
1981年、埼玉県生まれ。文化服装学院を卒業後、2001年からスニーカーショップ「チャプター」でキャリアをスタート。その後、系列ショップ「アトモス」でバイイングや数々の別注企画を手がける。現在は商品のセレクトからコラボレーション企画までを統括。
スニーカー市場に起きている主流構造の揺らぎ
─ 主流ブランド中心だった市場で、「サロモン」や「オン」が存在感を高めています。この変化をどう見ていますか。
要因のひとつは、王道ブランドが市場を席巻したことへの反動です。定番モデルが広く浸透し、拡大量産によって希少性も薄れました。その結果、差別化を求める層が「他の人が履いていない一足」を探すようになった。こうしてアウトドアやランニング領域からテック系ブランドが台頭しました。
また、「サロモン」や「オン」は最先端のデバイスのように“未来の匂い”を感じさせます。無駄をそぎ落としたミニマルなデザインと高度なテクノロジーの融合は、従来のスニーカーとは異なる佇まいを持っています。こうした先進的なイメージが、いまの時代の気分に合致したのでしょう。
─ 本来は過酷な環境やスポーツ向けのシューズが、日常のファッションアイテムとして受け入れられている背景には、どのようなマインドの変化があるのでしょうか。
根底には、ファッションとカルチャーの垣根が薄れたライフスタイルがあります。その結果、日常着とストリートウェアの中間にある曖昧なゾーンで、高スペックなシューズを自然に取り入れるスタイルが定着したのです。
現代の生活では、機能性とデザイン性はワンセットで求められています。その象徴が「オールブラック」「GORE-TEX(ゴアテックス)」「Vibram(ビブラム)ソール」の3要素で、私はこれを“三種の神器”と呼んでいます。見た目の洗練と実用性を両立する組み合わせとして支持が広がり、今やひとつの基準になりつつあります。

熱狂消費から意味重視の消費へ
― 王道ブランドと台頭ブランドとでは、ショップでの売れ方や商品の動きにも違いがありそうですね。
売れ方は明確に異なります。王道ブランドは安定して動きますが、新しいブランドは特定の層に強く刺さる傾向があります。客層の重なりは少なく、求める価値が違うのです。
特に「オン」の売れ行きは驚異的です。もともとは本格的なランニングシューズの文脈で入ってきたブランドですが、いまはライフスタイルの領域で圧倒的な支持を得ています。パフォーマンスの高さはもちろん、日常に溶け込む洗練されたデザインが、新しい客層をしっかりと掴んでいます。
また、5~10年前のストリートシーンでは主役になり得なかった歴史ある競技用ブランドが爆発的な支持を集めるなど、ブランド序列そのものが再編局面に入っています。
─ そうした潮流を踏まえ、アトモスはどのような軸で商品を提案していますか。
お客様が求めているのは単なる靴ではありません。意味のある1足です。限定品だから買うという衝動消費は落ち着き、自分の生活にフィットするかどうかが基準になっています。プロダクトの背景にある物語、共感できるストーリー、何より自分事として捉えられるかどうかが大事。本当に納得できるものだけを選ぶ、非常にシビアな時代になってきていると感じます。
実際、15,000円の靴を2足買うよりも、30,000円の1足を長く履くという選択が広がっています。背景や価値に共感できれば、高価格帯でも支持される市場が形成されています。
加えて、体験の価値も重要です。昨年、スニーカーの祭典「atmoscon(アトモス コン)」を復活させたところ大盛況で、多くの方が特別なコミュニティを強く求めていると痛感しました。同じ熱量を持った仲間と直接交流できるリアルな場があること。そうした体験の共有が、スニーカーの価値をさらに高めてくれると確信しています。

売れる前から伴走するセレクト戦略
― 市場構造が揺らぐ状況下、「アトモス」では独自のセレクト基準やコラボレーション戦略をどう描いているのですか。
世間で広く売れる前からブランドのポテンシャルを見極めて取り扱うスタンスを大切にしています。例えば、現在大人気のブランドでも、最初に取り扱いを始めた時はたった7足しか売れなかったこともありました。それでもブランドの魅力を信じ、一緒に育てていくインキュベーション的な関係性を築いてきたのです。その結果、わずか数年で何万足と売れるようになっています。
売れてから声をかけても遅い場合が多い。まだ注目されていない段階から伴走することがとても大切です。情報源はリアルな現場の声。信頼できるメンバーの鋭いアンテナを重視しています。
「アトモス」の最大の武器はスニーカーショップであること。「スニーカーを通じて異文化をつなぐ」という独自のテーマを掲げ、スニーカーをハブにeスポーツをはじめ、ミュージシャンのRADWIMPSさん、カーカルチャー、フード、アニメなど、幅広い分野とコラボレーションしてきました。
― いま、特に注目している分野はありますか。
日本発のプロダクトです。世界へ発信することに注力しています。日本のモノづくりやカルチャーには、海外のブランドにはない独自の魅力があるからです。例えば、新しいパフォーマンスランニングブランドである「HYBEX(ハイベックス)」のローンチパートナーとして取り組みを始めました。ほかにも、日本の伝統的な雪駄とスニーカーを融合した「goyemon(ごゑもん)」があります。独自カルチャーを背景に持つプロダクトには大きな可能性を感じています。


量から質へ。市場再編の行方
─ 「アトモス」は、銀座や渋谷などの実店舗においてどのような体験価値を提供していますか。
それぞれの街に根づいたお店づくりを目指しています。銀座や渋谷など、その街のカルチャーを反映させ、リアル店舗でしか味わえない体験価値を提供したいと考えています。
その体験を支えているのが人です。アトモスは現場主義を徹底しており、店舗にはアニメや特定のスニーカーに深い知識を持つスタッフが多く在籍しています。そうした熱量のあるスタッフとの会話や接客こそが、ブランドの価値を立体的に伝える力になると考えています。
─ 今後5年、市場はどう進化すると見ていますか。また、アトモスが目指す先について教えてください。
業界全体が大きく再編されていくと考えています。これまでの安く大量につくるモデルから、数を絞りながら一足あたりの価値や単価を高めていく方向へシフトしていくのではないでしょうか。
例えば、ランニング領域では1回のフルマラソンで消耗するハイエンドモデルも登場しており、ギア全体で10万円規模になるケースも珍しくありません。機能性そのものが価値として認識される時代に入っています。量から質への転換は、スニーカー市場全体の構造変化を端的に示しているといえるでしょう。
今後、お客様がモノを選ぶ目がさらに厳しくなると予想されます。だからこそ、アトモスがどれだけ世界で戦えるかを常に見据えています。これからは国内のマーケットにとどまらず、世界を舞台にしたビジネス展開が、アトモスの目指す先だと捉えています。
─ 最後に、スニーカービジネスの最前線で働きたいと考えている読者へ、メッセージをお願いします。
何より「好きなことで飯を食う」のが一番幸せなことだと思います。スニーカーやカルチャーが本当に好きで、この熱いマーケットで新しい価値を作っていきたい方にとって、これほど刺激的な環境はないはずです。スニーカーは、日本から世界へ発信できる強力なグローバルコンテンツです。現状に満足せず、世界を舞台に本気で挑戦する気概を持った人と一緒に働けるなら、それ以上にうれしいことはありません。
文:中谷藤士
Brand Information
atmos
東京のスニーカーカルチャーを世界に向けて発信し続けるショップ「atmos」