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ファッションが異業界から学ぶこと―「食」編

ファッションが異業界から学ぶこと―「食」編

仕事は、ひとつだけの業種だけで成り立っているものではない。ファッション業界においても、素材を作り出す生産者、製造工程に必要な機械・化学分野、縫製、加工、製品を運ぶための流通、PRのためのメディアなど、さまざまな業界・業種があってこそ初めてひとつの服ができあがり、消費者の手元に届く。異業種の仕事を知り、そこから学ぶことは自分が働く業界を客観的に見ることにもつながる。
今回は、生産にスポットを当てる。生産されるもののうち、私たちに一番身近な「食」から、今、そしてこれからのファッション業界が学ぶべきことを考えてみよう。

浸透してきた「食・食材選び」

私たちは、日々食べるものを購入および食するために、スーパーや小売店、コンビニエンスストア、飲食店などに足を運ぶ。また、通販で食材を購入する人も多いだろう。食べ物は私たちの身体に入るものだから、多かれ少なかれ誰しもが「身体によいもの・安全なもの」を選びたいと思うのは当然のことだろう。かつての食品は、合成着色料や保存料にまみれているものも多かったが、近年は「身体に安全なもの」に着目することが当たり前になってきた。農薬や放射能物質の有無、遺伝子組み換え、人工調味料等の添加物をチェックして購入する人は多いし、安全性の高い食材は、大量生産されるものと比べて割高であることも理解されている。

また近年は、畑を借りたり家庭菜園で無農薬の野菜を育てて食べる生活を始めたり、植物性の食品だけを食べる「ヴィーガン」に目覚める人も増えてきた。安全で美味しい農作物を食べたいとの理由で、日本全国の「顔の見える」生産者からの直接購入もネットのおかげで手軽に利用できるようになった。

食選びへのこだわりは人それぞれだが、「安全かつ身体によい食生活のための食材選び」の背景には、「食材や食への問題意識」があるのではないだろうか。たとえば体調を崩したりアレルギーを発症した際は、口にするものの身体への影響を心配するし、結婚・出産を機に家族の健康を守るための食とは何かを考えるようになる人も多いだろう。

問題意識は人それぞれ

たとえば野菜を選ぶ際、もっとも気になるのは産地だろう。東日本大震災以降は、放射能の影響を受けたとされる産地で作られたものは極端に敬遠された。放射能検査が行われ安全性がクリアされても今なお放射能による汚染のイメージを根強く持つ人も多い。また、無農薬や有機栽培で育てられたものか、さらには遺伝子組み換えやゲノム編集食品を問題視する風潮もある。肉の場合も同様だ。どこで、何を食べ、どのように育てられた肉なのか。国産、輸入なのか。

一方で食への問題意識を持ち調べてみても様々な意見があり、どれが正しいのか明確ではないこともある。使用した肥料や飼料の違いによって、何がどう異なるのか。抗生剤、成長ホルモン剤、添加物の使用が具体的に何に影響するのか。無添加とは何が無添加で、それが何の安全性につながるのかなど、疑問を持てばきりがない。

大切なのは、「問題意識を持つこと」

しかし問題意識を持ち、「知りたい」と思うことは消費者にとって当然の権利である。そのため今は、野菜や肉、魚の産地を表記することは当たり前で、一般のスーパーにもオーガニックコーナーが存在するし、オーガニック専門の店も増えている。売り手や生産者も情報開示をオープンにし、消費者のニーズに応えるようになってきたことは、多くの消費者が食に対する問題意識を持ち、声を上げるようになってきたからである。

問題意識をファッションに置き換えてみる

では、買い物の対象を「食」から「衣」に変えたとしたらどうだろう。私たちが服を購入するうえで気にすることは、「好み・ブランド・トレンド・価格・機能性・シルエット・着心地・手入れのしやすさ・着回し・希少性」などが多いのではないだろうか。

「食」の場合は、商品の背景である産地やどのように生産されたのかをチェックする人が多いが、服の場合はそこまで考える人は少ない。近年は服に使用される素材がどこでどのような工程で作られ、服として加工されたのか、環境への影響はどうか、といったいわゆるサスティナブルな視点が広まりつつあるが、まだまだ一般的には浸透していないことが現状だろう。

環境問題における「食」と「ファッション」の共通点

しかし考えてみれば、コットンや麻は畑から収穫されるし、シルクも天然素材だ。ウールも日々餌を食べ牧場で育った動物から作られるし、レザーも生きた動物からできた素材だ。さらにそうした素材が服として生産されるまでに、どのような工程を経ているのか。使用された水の量や薬品の有無、それが環境にどのような影響を与えているのか。「食」を選ぶ際、私たちが農畜産業の生産について問題意識を持つように、「服選び」においても素材や生産、環境問題への意識を高めることが広がっていけば、より多角的視野で環境問題を考え、ゆくゆくは環境を守るために何ができるのかという「気づき」につながるのではないか。

ファッション業界においては、元祖サステナビリティブランドとして知られるステラ・マッカートニーをはじめ、ケリング、ルイ・ヴィトン、エルメス、プラダ、パタゴニアなどのブランドが環境を考慮した取り組みを具体的に進め、積極的に発信している。そうした情報に耳を傾け、生産者だけでなく消費者の意識が変化すれば、おのずとビジネス戦略、デザイン、売り方、接客も変わってくるだろう。

地球環境を守るためにファッション業界としてできることを考え・発信すると同時に、わたしたち一人ひとりが少しずつ意識を変えてゆく。それは、ファッションに限らずすべての業種において問題視されている、大量生産、大量消費のモノづくりを見直していくきっかけになるのではないだろうか。

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