避難民支援は未来への投資。NPO法人REIが掲げる、レジリエンスとエンパワーメントの社会的価値 NEW
世界では、紛争や内戦によって1億2,300万人もの人が、故郷から避難を余儀なくされているという。そのうち、先進国などへの亡命を希望する人の数はわずか840万人。残りの人々は、自国内の難民キャンプと呼ばれるエリアや国境近くで、時には長期にわたる避難生活を送っている。NPO法人REIは、そうした避難民の自立支援を行っている団体だ。小規模ながらこれまでに1,150万ドル以上の資金提供を行い、数々のプロジェクトを支援してきた。しかし活動の継続は簡単ではなく、まだまだ金銭的・労力的支援を必要としているという。REIのミッションや活動内容、私たちにできる支援の一例などについて、ジェネラル・マネージャーを務めるエリソン安子さんに聞いた。
エリソン安子さん/NPO法人REI ジェネラル・マネージャー
6歳よりアメリカと日本を行き来しながら育つ。大学卒業後、銀行、航空会社、マスコミ、通訳・翻訳とさまざまな仕事を経験した後、2022年にREIに入職。
幼少期の原体験が他者を理解する心を育んだ
― エリソンさんは幼少期、日本だけでなく海外でも生活されてきたそうですね。印象的だった体験は何ですか。
日本人がまったくいない地域に住んでいたため、常に「自分は周りの人と違う」ということを意識して育ちました。一方で、理解を示してくれる人がいるととても嬉しかったのを覚えています。初めてアメリカに行った時、英語のサポートの先生が「あなたの母国はどんな国なの?」と聞いてくれたんです。国のことは上手に説明できなかったのですが、「日本の遊びを教えてほしい」と言われ、先生におはじきを教えながら英語を覚えていきました。子供ながらに“あなたはここにいていいのよ”と言われたような気がして、今でも印象に残っています。
このような経験が何度かあった中で、自分もそのように他者を理解する人でありたいと考えるようになったのかもしれません。
― NPO 法人REIの活動内容について教えてください。
REIは1979年に日本で発足した、難民支援のNPOです。難民支援というと、来日する避難民のサポートや海外での緊急支援を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、REIは紛争や内戦によって住まいを追われ、自国内や国境近くの難民キャンプなどで長期的な避難生活を強いられている避難民が、自ら立ち上げたプロジェクトに資金提供を行っています。現在は、タイとミャンマーの国境周辺エリアと、レバノン、ケニアにあるプロジェクトを支援しています。
ちなみに私たちは支援を必要とする人々を「難民」ではなく「避難民」と呼んでいます。「難しい民」や「弱者」というイメージを払拭し、「避難を強いられた人」と考えるためです。

避難民が自ら立ち上げ、運営するプロジェクトを支援
― REIが避難民支援で重視していることは何でしょうか。REIが重要なキーワードとして掲げる「レジリエンス」「エンパワーメント」についてもお聞かせください。
今すぐに人の命を救う必要がある緊急支援には、国や大きな国際機関でなければ賄えない、多額な予算が必要です。民間企業や個人の支援者の皆様のご寄付で成り立っているREIのような小さな団体が、その大切な寄付金を効果的に使うためにはどうしたら良いか、今の代表のJane Bestが、海外の避難民コミュニティーを数多く訪問して考えたのが、今のREIのエンパワーメント支援です。つまり、学校、クリニック、職業支援といった、避難民が自ら立ち上げ運営している持続可能な自立支援プロジェクトに、資金提供を行うというものです。
過酷な経験を生き抜き、トラウマを乗り越えた後、自分たちの力で立ち上がろうとする人々がいます。その強さがレジリエンスです。それを支えて後押しするのがエンパワーメントなのではないかと思います。
― 資金面での支援のほか、頻繁に現地にも赴いていると聞きました。具体的にはどのような活動をされているのですか。
REIの支援は、現地で私たちが何かを「してあげる」支援ではありません。なぜなら、
避難民や、地元コミュニティーの人々こそが、自分たちの必要なことを、自分たちの方法ですでにやっているということを知ったからです。REIはこの20年以上の世界各地への現地訪問で、避難生活を強いられているにもかかわらず、避難民になる前に持っていた職業スキルを活かして活躍している数多くの人々に出会ってきました。
REIの役割は、このようなプロジェクトを見つけ、現地リーダーと関係を構築し、視察で「なぜそのプログラムが必要なのか」「どのように運営しているのか」「どういう効果があるのか」「どのようにコミュニティに波及しているのか」ということを確認することです。そして学んだストーリーを日本で伝え、支援者を増やす活動をすることが、私たちの使命だと考えています。
― これまで関わってきた中で、特に心に残っているエピソードはありますか。
REIはミャンマー東部の山岳地域に住む、カレン族という民族の母子健康指導プロジェクトを支援しています。カレン族の女性団体が、ジャングルの中に隠れて住んでいる同族の女性と乳児のために、危険な道のりを歩いてベビーキットを届け、健康指導を行うというものです。道中は大変険しく、届ける側も地雷やミャンマー国軍に捕らえられる危険があります。思わず、なぜそんな危険なことができるのかと聞いたところ、「私たちがやらなければ誰がやるの?」という答えが返ってきました。
もうひとり、タイとミャンマーの国境にある麻薬中毒の治療センターのリーダーの話も印象に残っています。彼自身もかつては麻薬中毒で、難民キャンプ生活で生きる目標を見失い、今日自分が楽しければよいという暮らしをしていました。しかし治療センターでは周りの人が自分を家族のように扱ってくれたおかげで、麻薬中毒を克服することができたそうです。プログラムを卒業して自らもセンターのトレーナーになった彼は「他人のために生きることを知って幸せになった。今度は自分が周りの人を助けたい」と話してくれました。
いずれも、故郷に戻れず、避難生活を続けている人々の活動と、言葉です。このような人間のレジリンスを示すストーリーを、訪問のたびに持ち帰っています。
小規模でも持続可能なサポートを。若者にも知恵を借りたい
― 諸外国と日本の、難民支援や寄付活動といった活動に対する考え方の違いと、日本が抱える課題についてどのようにお感じになりますか。
欧米ではドネーションやチャリティー活動が身近で盛んです。日本人も、慈悲の気持ちや助け合いの精神を持っていますが、国境を超えると興味を失ってしまう部分があるように感じます。これだけ世界がグローバライズしていてどこにでも行ける時代なのに、海外への支援に目があまり向かないのが、個人的に残念です。色々な社会問題がありますが、海外のこのような事情にも目を向ける人が増えるのが私の願いです。
― 資金や協力者の確保など、NPOの運営面ではどのような苦労があるのでしょうか。支援を考える企業に向けて伝えたいことがあればお聞かせください。
社会貢献はどの分野においても、その課題が解決するまでの粘り強い長期支援、継続支援が必要です。REIの支援は、私たちがヒーローになる支援ではなく、避難民コミュニティーのヒーローたちを支える支援です。だからこそ、誰にでもできて、継続性もある支援なのです。この方法ですと、数千万円という単位ではなく、数十万円、数万円、という単位でも大きな効果をもたらします。トップダウンではない、ボトムアップの支援をしているREIは、日本の民間のソフトパワーを示す団体だと自負しています。避難民の生まれない世の中を作るためには脆弱な立場に置かれた人々が力をつけなければなりません。REIと共に避難民のエンパワーメント支援に取り組んでください。
― 資金面以外でサポートできることはあるのでしょうか。
REIのスタッフはわずか3名です。そのため、ボランティアとインターンの力を借りています。ファンドレイジングイベントの企画と運営、ウェブサイトやSNSアカウントの管理も彼らに支えられています。REIのミッションに賛同し、長期的にサポートしてくださる企業や個人の方を募集しています。
REIのボランティアとインターンは外国人がメインなのが現状です。日本ではNPOをプロボノ(無償)でサポートするという風習があまりないように感じます。企業のポートフォリオに、NPOへの無償サービス提供を加えるというのが欧米の大中小企業にはあります。資金繰りが厳しいREIのような小規模NPOにはこれが非常に助かるのです。企業側も、自らのサービスをNPOに無償提供することをアピールできます。また個人の方も、「ボランティア=無償のお手伝い」から、「自分のスキルを社会貢献に生かすチャンス」と捉えていただけると、互いにベネフィットがあると思います。日本でも徐々にこのような意識改革ができていくといいなと思っています。
― これからのREI、そしてご自身が目指す未来について教えてください。
REIは、日本にいながら海外にいる避難民を直接支援できる、日本人として誇りを持てる団体です。REIの取り組みを一人でも多くの方に知っていただき、サポーターを増やしていきたいです。REIでの私の役割は、日本人に向いたファンドレイジングの仕方を模索していくことだと考えています。最近、これは、海外ブランドを日本で展開させる企業の発想に似ているのではないかと思い始めました。また、Z世代は社会課題に敏感だと感じます。彼らとも交流してヒントを得たいと考えています。「REIの支援のアプローチがもっと広がれば世界を変えることができるはず」という大きな夢を抱き、これからも活動を続けていきたいと思っています。
文:大貫翔子
撮影:船場拓真