【セミナーレポート】大阪IR開業で変わる「りんくうタウン」。空港隣接型MICEの可能性を探る NEW

2030年の大阪IR(統合型リゾート)の開業によって、関西国際空港の利用客の増加が見込まれている。それに伴い、今改めて注目されているのが、空港まで1駅5分という立地に位置する「りんくうタウン」だ。
2026年7月16日(木)、一般社団法人日本観光・IR事業研究機構は、「大阪IR開業による観光客増加を更に加速させる『りんくうタウン』での新しい日本型MICE施設の可能性」と題したセミナーを開催。泉佐野市の関係者や観光・IR、MICE、エンターテインメント分野の有識者が登壇し、「りんくうタウン」の歩みと現状、大阪IR開業後に担うべき役割について議論した。
■イベント登壇者
千代松 大耕氏/泉佐野市長
池田 剛氏/一般社団法人日本観光・IR事業研究機構 代表理事・事務局長
井尻 学氏/泉佐野市 成長戦略室 MICE推進担当理事
中平 良太氏/泉佐野市 成長戦略室おもてなし課 MICEアドバイザー
井手 憲文氏/一般社団法人日本観光・IR事業研究機構 副理事長 、元観光庁長官
大山 賢一氏/一般社団法人コンサートプロモーターズ協会関西支部会 副会長
熊取谷 和巳氏/日本土木建設株式会社 代表取締役
大阪IR開業を見据えたワーキンググループが始動
日本観光・IR事業研究機構は、日本の観光産業の拡大と統合型リゾート開発に貢献する実務的な研究を行い、業界を越えた事業モデルの構築や政策提言に取り組む団体です。研究会やセミナーの運営、観光・IRに関する調査研究、人材育成などを行っています。
冒頭、同機構の代表理事を務める池田剛さんからは、今回のセミナーを起点に、「りんくうタウン」周辺の観光とMICE施設の可能性を研究するワーキンググループを立ち上げたことが発表されました。池田さんは、法改正を見据えた提言の重要性や交通インフラに関する課題、業界の最新動向にも触れながら、ワーキンググループの方向性を示しました。
セミナー開始のご挨拶の中で、泉佐野市の千代松大耕市長は、同市の長年にわたるMICE誘致について説明しました。
「コロナ禍が落ち着き、MICEの開催決定件数も少しずつ回復しています。昨年は日米の姉妹都市が集まる国際的なサミットを誘致し、アメリカから多くの参加者をお迎えしました。大阪・関西万博の来場者が1日平均約15万8,000人だったのに対し、大阪IRでは1日平均約5万〜5万5,000人、年間約2,000万人の来場が想定されており、年間を通して人流を生み出す起爆剤として、泉佐野市としても大きな期待を寄せています」
関西国際空港とともに歩んだ、「りんくうタウン」の30年
最初のスピーカーとして登壇した泉佐野市成長戦略室 MICE推進担当理事の井尻学さんは、泉佐野市と「りんくうタウン」の概要と歴史を改めて紹介しました。
「『りんくうタウン』は、関西国際空港の対岸の泉佐野市、田尻町、泉南市にまたがって造成された318.4haの埋立地で、そのうち130.8haが産業用地となっています。
計画当初は、1994年の関西国際空港の開港と同時に伊丹空港が廃止され、国際線、国内線を含む大きな航空需要が関空に集まる想定でした。しかし結果として伊丹空港が存続したこと、さらにバブル崩壊が重なったことにより、期待したほど関空の利用者が伸びず、低迷を続けていました。
企業の進出計画が相次いで撤回されるなか、開発初期から比較的安定して需要があったのが物流施設です。また2010年代からはビザ発給要件が緩和され、同時に中国、香港、台湾など東アジア地域の経済成長により、関空を利用する外国人旅行者が増加しました。人流の増加に伴って宿泊施設も集積し、空き地は解消しております。定期借地の期間が満了する土地では、企業が土地を購入し、再開発する動きも出てきています。
2030年の大阪IRの開業は、ここに加えてさらなるインパクトをもたらすでしょう。滞在者のニーズを満たす施設が集積していくことを予想しています」
関西国際空港の利用者増で高まる「りんくうタウン」の存在感
「りんくうタウン」の成長を考える上で重要なのが、関西国際空港の存在です。井尻さんによると、関空を利用する旅客数と、「りんくうタウン」駅の利用者数や泉佐野市内の宿泊者数は相関関係にあるといいます。
「万博効果もあり、2025年の関空の総発着回数は27万回超、外国人訪日客数は2,120万人と、過去最高を記録しました。いずれも右肩上がりの傾向にあり、2030年代前半には発着回数30万回を目指しています。実際、関空を利用される旅客の2/3が訪日外国人旅行者です。空港から1駅というアクセスの良さに加え、帰国前に買い物を楽しめる『りんくうプレミアム・アウトレット』は、外国人旅行者を引き付ける大きな存在となっているのではないでしょうか」
泉南ロングパークが生む新たな人流
さらに、2020年にオープンした「泉南ロングパーク」も人の動きに弾みをつけています。
「グランピング施設、バーベキュー場、温浴施設、飲食店、サッカー場などを備える複合施設で、花火や音楽イベントも開催されています。今後もレストランやビーチスポーツの施設が出店予定です。施設が整えば駅の利用者や宿泊者の増加が見込まれます。宿泊施設が増えれば、そこから新たな飲食や商業の需要も生まれるでしょう。
しかしながら、宿泊者の便益、特にインバウンドの夜間ニーズを満たせる飲食店が足りていないという課題があります。仕事や会議が終わってからの行き先が限られてしまうというのが現状です」
インバウンドとともに経済成長を支えるMICE誘致
続いて登壇したのは、元観光庁長官で、日本観光・IR事業研究機構 副理事長である井手憲文さん。日本のインバウンド市場を左右する要因を3つに整理しました。
「一つ目は、目的地である日本そのものの魅力です。『世界経済フォーラム』が2年ごとに発表している旅行・観光関係のランキングでは、日本は2~3位という上位につけています。二つ目は、近隣地域の所得水準です。海外旅行に行けるような中間層以上の方がどれだけいるかが関係します。ASEANの国々の平均所得は伸び続けています。円安も追い風になり、今後は東南アジア、インドからの旅行者も増加するでしょう。三つ目は、ビザ緩和や免税制度、プロモーションといった国や自治体の政策です。この3つの条件がそろうことで、インバウンド市場はさらなる成長が期待できます。国は2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円を目標に掲げています」
井手さんは、一般の観光に比べて滞在期間が長く、消費額も多いMICEの重要性も強調します。
「参加者は単に会議に出席するだけではなく、宿泊や飲食といった消費活動を伴うため、経済波及効果が一般のインバウンドよりも大きいと言われています。ビジネスやイノベーションの機会にもつながるため、MICEの誘致は地域にとって大きな意味を持ちます。オンライン会議の普及によって国際会議の開催件数や参加者の数は減っていますが、一方で業界の展示会は一度開催されると同じ場所で連続開催される傾向があり、誘致による経済活性化が期待できます」

井尻さん・井手さんのお話から、関西空港と「りんくうタウン」の関係やインバウンド・MICEといった需要拡大の可能性が見えてきました。ただし、最上位のハイクラス層を受け入れる施設は十分とはいえません。
「大阪IRに誕生するホテル『MGM大阪』では、3つのホテルブランドで合計約2,500室を供給しますが、そのうち1,800室超が5つ星です。IR・MICEによる来訪者増加を見据えると、大阪エリアには5つ星ホテルがまだ不十分といえます。この空白は弱点であると同時に、勝機としてとらえるべきでしょう」と池田さんは話します。
セミナーでは、そのほかの登壇者も、それぞれの立場から今後の展望や課題について意見を交わし、活発な議論が展開されました。
「りんくうタウン」はIR構想のモデルケースとなれるのか
IR実現に向けた動きは、他の地域でも進んでいます。その一例が、中部国際空港島を候補地とする愛知県の構想です。愛知県では2027年に予定されている第二次募集に向けて応募手続きを進めています。
空港に近接し、MICE件数や観光客数の増加、日本各地への送客を目指す同エリアでの構想は、関空と「りんくうタウン」の関係にも通じる部分があります。大阪IRと日本型MICE施設、「りんくうタウン」のあり方は、次のIR区域として手を挙げようとする自治体にとって、一つのモデルケースとなりうるでしょう。
ただし、そのためには、関空や大阪IRによって生まれる人流を待つだけではなく、宿泊、飲食、買い物、エンターテインメントを組み合わせ、「りんくうタウン」そのものを訪れる目的地へと変えていく必要があります。
空港の前後泊やMICEのオーバーフロー需要、ハイクラス層の滞在を地域内の消費へつなげられるかもカギとなりそうです。大阪IRの開業を契機に、空港隣接型の観光・MICE拠点としての「りんくうタウン」の歩みは今後も続きます。
文・大貫翔子
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