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ラグジュアリーブランド販売員から営業責任者へ。店舗経験を活かすキャリアのつくり方 NEW

店舗で働きながら、「いつかオフィスの仕事にも挑戦したい」と考える人は少なくない。現在、外資系ラグジュアリーブランドで営業責任者を務める高橋進治さんも、「グッチ」の販売員からキャリアを始め、「ラルフローレン」での社内公募をきっかけにオフィスへ移った一人だ。店頭で積んだ経験は、オフィスでどう役立つのか。また、昇格やオフィスへの異動の前に準備しておくべきこととは何か。高橋さんの経験からそのヒントを探る。

高橋 進治さん/外資系ラグジュアリーブランド Head of Sales
大学卒業後、グッチに入社。約6年間、販売から副店長を務める。ラルフローレンでは店舗勤務を経て社内公募でオフィスへ異動し、店舗開発や人事システム導入などのプロジェクトを担当。日本ロレアル、チャールズ&キースでリテールヘッドを経験し、現職。


お客様の大切な決断に立ち会える、販売の仕事に惹かれた

― まずは、これまでのキャリアをご紹介ください。
新卒で「グッチ」に入り、販売員として店頭に立ちました。29歳のときに、最年少で副店長へ昇格し、その後「ラルフローレン」へ転職。店舗マネジメントを経て、オフィスへ異動し、新規店舗の出店・退店、新たな人事システムの導入などに携わりました。

そして、日本ロレアルでは新規プロジェクトの立ち上げを経験し、チャールズ&キースでは、リテールヘッドとして日本進出における新しいフレームワーク作りを主導しました。現在は外資系ラグジュアリーブランドのHead of Salesを務めています。

― 新卒でラグジュアリーブランドを選んだのは、どのような理由からですか。
金融や商社、大手メーカーのように、組織で大きなものを動かす仕事を自分の中ではイメージできず、働くならお客様と直接向き合い、自分の目の前で物事を動かせる仕事が良いと考えていたんです。

ラグジュアリーブランドは、誕生日、結婚、昇進といった人生の節目の贈り物に選ばれることが多いです。その後も目に触れる度に思い出すような、お客様の大切な買い物の瞬間に立ち会える。そこに惹かれました。

お客様の人生の節目に寄り添えることに、ラグジュアリーブランドの販売職ならではの魅力を感じたと語る高橋さん

「仕事日記」で経験の差を埋め、副店長へ昇進

― 実際に「グッチ」の店頭に立ってみて、いかがでしたか。
入社1年目は、売上を意識することも、将来こうなりたいという目標もなく、毎日を淡々と過ごしていました。ラグジュアリーな商品に囲まれ、富裕層のお客様とお話すること、非日常で華やかな空間に身を置くことを楽しんでいたように思います。仕事にどう向き合うかまでは、考えが及んでいませんでした。 

― その後、仕事への意識はどのように変化しましたか。
1年下の後輩たちが入社してきたことをきっかけに変わりました。彼らは、「お客様に誠実でありたい」「この買い物を後々まで思い出してもらえるものにしたい」といった、仕事に対する情熱を持っていました。一方の私は、彼らから日々の接客や店舗での業務について「なぜ、こうしているんですか」と聞かれても、うまく答えられませんでした。理由を考えたことがなかったからです。

お客様は、記念日や人生の節目の大切な買い物をしに、期待を持って来店されます。店に立つスタッフも、その期待に充分に応えたいという気概を持っています。そのなかで、私だけが仕事にきちんと向き合えていない。それは先輩として恥ずかしく、お客様に商品をお勧めする準備もできていない状態だと感じました。 

この仕事は、お客様から“選ばれる”仕事でもあります。自分がお客様の大切な買い物をする節目にふさわしい販売員でなければ、違う販売員から、あるいは他のブランドで購入されることもあります。販売員として、仕事に対する信念を持ち、成長していくことの大切さを改めて考えるようになったのです。

― その気づきをきっかけに、仕事への向き合い方はどう変わりましたか。

「後輩たちの思いを形にできる先輩でありたい」、「お客様の期待にもっと応えたい」と思うようになりました。そのために、お客様への接し方やスタッフ同士のコミュニケーション、お客様をお迎えするための準備を一つひとつ見直していきました。

改善すべき点は上司にも提案しましたが、一スタッフの立場では、なかなか取り入れてもらえません。それなら、自分が裁量を持てる立場になろうと、副店長や店長を目指すようになりました。

管理職を目指す上で、壁になったのが「経験の差」です。先輩たちは、棚卸しやクリスマス商戦などを何度もこなしているので、「前回はこうだったから、今回はこうしよう」と判断できます。しかし、入社2年目の私にはその積み重ねがありませんでした。

そこで私が始めたのが、「仕事日記」です。販売スキルはすぐには追いつけませんが、実際に経験したことを具体的に記録して蓄積していくことで、その差を補えるのではないかと考えたのです。

― 例えば、どのようなことを記録していたのでしょう。

「お店でいつ、何が起きたか」を紙の手帳に記録していました。例えば、棚卸しの際、誰がいつ頃に準備を始め、どんな声かけをしていたかを書き留めます。

翌年は、その「仕事日記」をもとに、先輩たちが動き出す前に率先して準備を提案しました。繁忙期も、前年のいつ頃に準備が始まり、何人でどのくらい時間がかかったかを記録していたので、早い段階から根拠を持って動けます。経験が浅くても、「記録」があれば、先回りして提案できます。こうした積み重ねが功を奏したのか、同世代では一番早く副店長になることができました。

経験の差を埋めるために始めた「仕事日記」。日々の記録が、早期の副店長昇進につながったと語る

ラルフローレンの社内公募で、店舗からオフィスへ

― 副店長になってから、店舗を改善していくことができたのでしょうか。

副店長や店長になっても、店舗の判断だけでは変えられないことがありました。次第に、会社全体の判断や、他部署との関わりまで含めて考える必要があると感じるようになっていきました。

当時は、人事やマーケティング、物流、ファイナンスなどの本を読みましたし、店舗を支えるさまざまな部署の仕事にも関心を持つようになりました。店頭以外の仕事にも自然と目が向くようになり、「ラルフローレン」に勤務していた際は、社内公募をきっかけに店舗開発のプロジェクトマネージャーになりました。

― 販売員としての店舗経験は、オフィスでも活かせましたか。

新規店舗の出店・退店のプロジェクトは、さまざまな部署からメンバーが集まって進めていきます。私は店舗での経験があったので、計画段階から店舗への影響をより明確にイメージでき、進めるべきか、見直すべきかを判断しやすかったですね。

もう一つ活かせたのが、人との関わり方です。店頭では毎日、さまざまなお客様と話します。それにより、相手が求めていることや、逆に触れられたくないことを会話から汲み取る経験が自然と増えていきます。社内で関わる相手とのコミュニケーションも、その点は同じ。店頭で培った感覚は、部署間の調整にも活かせました。

― 店舗で積んだ経験を、現在はどのように捉えているでしょうか。

どのような声かけをすれば、お客様が商品に興味を持ち、購入を決めてくださるのか。反対に、どんな時に気持ちが離れてしまうのか。それを毎日目の前で見てきたことは、オフィスだけでは得られない経験です。店舗で培った、さまざまなお客様に合わせて対応する力は、今の仕事で社内の人と関わるときにも役立っています。  

新卒からオフィスで経験を積んできた年下の同僚よりも、経験年数が少ないことで、引け目を感じることがオフィスへ異動した直後はありました。ただ、先述のように、店舗で積んできた経験には別の価値があります。オフィスの経験値が少ないことをマイナスに捉える必要はないと思います。


店頭の対応力を、言葉で説明できる力に変える

― これからのリテールで活躍する人には、どのような力が求められると考えますか。

店頭では、来店されるお客様も状況も、その都度変わります。 手順どおりに進む接客は、ほとんどありません。その都度やり方を変えていくうちに、対応力は自然と身につきます。 

一方で気をつけたいのは、その経験が本人の感覚のみにとどまりやすいこと。大切なのは、うまくいく時、いかない時の条件をきちんと言語化することです。

この点は、店舗からオフィスへ移った方が苦戦する場面でも多く見られます。本人の中でイメージはあっても、人に言語化して説明することができないのです。

― 言葉にする力は、「仕事日記」を続けたことで培われたのですか。

そうですね。加えて、本を読んで要点を短くまとめることもしていました。共通点を見つけて整理する習慣が、店舗での経験を言葉にすることにもつながりました。後輩にも、感覚ではなく、根拠を持って説明できるようになったと思います。

― 現在は、本部から店舗へ方針を伝える立場です。伝えるときに意識していることはありますか。 

決定事項だけでなく、そこに至った背景もセットで伝えるようにしています。店舗にいると、指示が出るまでの経緯までは分かりません。自分もその立場だったので、何を補って伝えるべきかが分かります。メールでも、「こういう背景があるので、今回はこれをお願いします」と添えています。

店舗で培ったお客様への対応力や現場感覚は、オフィスでのプロジェクト推進や部署間の調整にも生かされているという

一つ上の立場を想定し、上司の判断を学ぶ

― オフィスの仕事に関心があっても、なかなか機会をつかめない人もいます。

「自分のキャリアの最終ゴールをどこに置くのか」について考えてみると良いと思います。そして、道筋は一つではありません。例えば、私は店長の次はエリアマネージャーだと思い込んでいました。しかし、途中で別の道を通ってもいいわけです。理想の手順に固執して順番を待つことだけでキャリアの可能性を狭めているかもしれません。

― 最後に、ラグジュアリーブランドの店舗で働く方へのアドバイスをお願いします。

昇格したその日から役割を果たせるよう、今のうちから準備しておくことをお勧めします。例えば店長であれば、エリアマネージャーの仕事を知っておく、自分ならどう判断するかを考えて、上司と答え合わせをする、上司の仕事を一つでも任せてもらえないか頼んでみる、といったことです。どれも今の立場から始められますし、私自身もそうして次の役割に備えてきました。 

もう一つ大切なのは、「会社や上司がなぜその判断をしたのか」までを知ろうとすることです。店舗にいると、決定事項だけを受け取る場面が多くなります。上司や会社が置かれている状況を想像し、判断に至った背景までを知ると、自分とは異なる視点で仕事を捉えるようになります。その積み重ねは、自身の望むキャリアを拓く上できっと役立つはずです。

文:中谷藤士
撮影:加藤千雅

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