ウール産業 体験型エンタメ「ひつじサミット尾州」6月5&6日開催― 繊維産地の魅力をクローズアップ
日本を代表する織物産地「尾州」。2021年6月5日(土)・6日(日)の2日間にわたって開催予定の「ひつじサミット尾州」。その概要と目的、開催への想いを同イベント発起人のひとり、岩田真吾氏(三星グループ代表取締役社長)に伺った。
岩田 真吾さん
三星グループ代表取締役社長
1981年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。三菱商事株式会社、ボストン・コンサルティンググループを経て、2009年三星毛糸(株)・三星ケミカル(株)入社。2015年三星毛糸(株)代表取締役社長就任。2016年三星ケミカル(株)代表取締役社長就任。2016年より一宮商工会議所議員も務める。
―岩田さんが共同発起人のひとりとして参加していらっしゃる「ひつじサミット尾州」とはどのようなイベントなのでしょう。
「ひつじサミット尾州」のコンセプトは、「着れる、食べれる、楽しめる!ひつじと紡ぐサスティナブル・エンターテイメント」。一言で言えば、愛知県一宮市、岐阜県羽島市を中心とした尾州エリアに根付いた織物産業をさまざまな視点から楽しんでいただく観光イベントです。年齢を問わず、たくさんの方々にご参加いただける内容となっていますが、繊維業界に身を置く私としては、ぜひファッション業界やこれからファッション業界を目指す若い人たちにたくさん来ていただけたら、と思っています。
―なぜ、尾州というエリアをターゲットに?
20~30年前からアパレル業界に携わっている方なら、「尾州=繊維の産地」というイメージがパッと浮かぶと思うのですが、若い方は尾州という名称すらほとんど知らないと思います。
もともと尾州は江戸時代から日本を代表する繊維の産地で、綿や絹など和服用の生地を作っていました。1891年(明治24年)に起こった濃尾大地震によって壊滅的な被害を受けたものの、文明開化や富国強兵という背景からウール生地のニーズが高まったことで、ウール産業が盛んな地として蘇り、ウールによって戦後の復興も支えた地なんです。1990年代以降、ウール産業そのものは縮小化し、最盛期は4000以上あった繊維関連会社は現在100社ほどになってしまいましたが、今なお繊維の仕事はこの地に根付いています。
世間的にはあまり知られていなくても、いいものを作り続けている会社はたくさんあります。それをぜひたくさんの方々に知っていただきたい。そんな想いで「ひつじサミット尾州」を企画しました。
―今さかんに言われているサスティナビリティともからめた試みでもあるとも伺いました。
ウールは天然繊維ですから環境にやさしく、まさにサスティナビリティそのものなんです。「ひつじサミット尾州」では、代々伝わる工法で糸や繊維を生産している老舗の工場の見学もできます。サスティナビリティという言葉が出てくる前からごく当たり前のこととして環境にやさしいものづくりを続けてきた技術をぜひ生で見ていただきたいですね。
―今回は、岩田さんへのインタビューだけでなく、「ひつじサミット尾州」に参加される会社のなかから3社の方々にもオンラインでインタビューに応じていただいています。
「ひつじサミット尾州」への参加企業はどこも伝統があり、かつユニークな取り組みを行っています。そのなかから今回は、「紡績」、「織り編み」、「染め」を代表する各企業を紹介させてください。尾州のウール産業の強みは、「糸を作って布を織り、染める」工程がワンストップでできること。ご紹介する3社はいずれも伝統ある会社であると同時に、若い世代による革新的な取り組みに力を入れています。彼らの話を聞いていただくことで、「ひつじサミット尾州」に行ってみたい、と思っていただけたら嬉しいですね。
ひつじサミット尾州 代表企業スペシャルインタビュー Part1. 紡績
タキヒヨー株式会社 一宮工場
工場長 神尾 芳さん
―自社紹介、得意分野について教えてください。
弊社は1751年の創業で、繊維製品卸売業を中心とした事業を行っています。私は企画開発チームに所属しており、アパレル製品やテキスタイル向けの提案・生産を担当しています。
―同イベントでの見どころについて
今回の「ひつじサミット尾州」では、弊社の生産拠点のひとつである一宮工場をご紹介させていただきます。一宮工場の見どころは、何と言っても「英式紡績機」によるオリジナルヤーンの製造、開発です。
一宮工場にある英式紡績機は、イギリスの産業革命期に生まれた技術を用いた機械です。およそ70年以上前の歴史ある紡績機で、今も現役。弊社ではこの紡績機でオリジナルヤーンを製造しています。弊社が所有している型の英式紡績機は日本国内には片手で数えるほどしかなく、本場英国でも博物館に展示されているような貴重なもの。昔ながらの紡績機と当時の技術によって製品を作っていますので、大量生産はできませんがこの紡績機でしかできないヤーンがあります。
弊社では、昔ながらの紡績機の良さを活かすためにウールの原料を徹底的に追及・選択し、さらには顧客ニーズに沿って原料をブレンドしながらものづくりを行う一方で、新たなヤーンの開発にも力を入れています。日本人ならではの繊細で丁寧な「仕事」が、魅力的なヤーンを生み出す原動力となっています。
今や世界に数えるほどしかない貴重な紡績機が紡ぐ新しい糸。「ひつじサミット尾州」では、古き良き伝統と、今のトレンドに沿った要望から生まれるコラボレーションの素晴らしさと可能性をぜひご覧いただけたらと思っています。
ひつじサミット尾州 代表企業スペシャルインタビュー Part2. 織り編み
中隆毛織(株)
営業 木村 将之さん
―自社紹介、得意分野について教えてください。
中隆毛織が得意とするのは、特殊な編地や織物です。編みと織り、どちらもやっているので双方の視点からの提案ができることが弊社の大きな特徴です。「どこにお願いしてもできないと言われた」「どこに聞いたらよいのかわからない」といったお客様からのお問合せが多く、「困ったときに頼っていただける会社」といったところでしょうか。逆に言えばそれだけどこにもできないもの作りを実現できる会社なんです。
なぜそれが可能であるかというと、長年のノウハウと経験により、お客様のニーズに応じた生地企画が出来ること、またこれまで積み重ねてきたおつきあいによって豊富な外注先があり、依頼を受けた生地を作るのに適した外注先の選択が可能だからです。
とはいえ「待ち」の姿勢だけでは商売にも限界がありますから、近年はInstagramで生地の写真を発信しています。SNSの発信力は想像以上で、知らないデザイナーさんから「生地の資料をください」とDMが届いたりしますし、海外からの問い合わせもあります。たまに余った生地を数メートルプレゼントします、なんて企画もやったりして、なかなかの反響なんですよ。
―同イベントでの見どころについて
「ひつじサミット尾州」は、そんな弊社のおもしろい生地をもっと広く知っていただく機会になればと思っています。Instagramなどの写真で見るのと現物はやはり違いますから、見て触って生地を体感していただけたら、と。また、端切れなどをご持参いただいて「こんなのって作れますか?」というご依頼も大歓迎です。こんな生地があれば、とお悩みの方こそ、ぜひ「ひつじサミット尾州」に足を運んでいただきたいですね。必ずお役に立てると思いますよ。
ひつじサミット尾州 代表企業スペシャルインタビュー Part3. 染め
レインボー株式会社
企画・営業 伊藤 匠さん
―自社紹介、得意分野について教えてください。
レインボー株式会社は、絣(かすり)染色専門の会社です。かすり染色とは1本の白い糸を複数の色で染める技術で、現在世界中でこの工法を行っている会社は30あるかないかと言われています。その30社のうちの5社ほどが尾州にあり、うちもそのひとつなんです。かすり染の技術はすごく古くからあり、当時は手作業で糸を縛って色に染めたのちにほどいて別の色に染めるという工法で行われていたのですが、それを最初に機械化したのが弊社だと聞いたことがあります。
ビジネス的には商社の方から連絡がきてオーダーに応じて糸を染める流れなので、実はどこのブランドからのオーダーなのかはわからないことが多いんです。のちに発表された作品を見て「あ、うちで染めた糸だ」と気づくんですが(苦笑)。
あるときデザインを学ぶ学生さんがうちの糸を使ってくれて、「こんなカラフルな糸は初めて見ました」と言ってくれたんですね。それはとても嬉しい言葉でしたが、逆に言えば業界の方々にもうちの糸や技術がまだまだ知られていないということでもあって…。だからこそもっとアピールしていかなければと思い、SNSなどではかすり染めの技術を動画でも発信しています。それだけではなく、一人でも多くの人にかすり染めを知っていただきたくて、今はネットやSNSで開発した商品を掲載し、虹色の靴紐、手芸用品、ニットマスクなどの販売も行っています。
―同イベントでの見どころについて
「ひつじサミット尾州」は、かすり染めの美しさと職人技を知っていただく絶好の機会だと思います。色使いによってカラフルにもシックにもなり、どんなアイテムにも使用できます。かすり染めを知っていただくことで、今私たちが想像もしていないものにうちの技術を使ってもらえるかもしれません。ぜひ直接見ていただいてもの作りの可能性をお手伝いできたら、と思っています。
―どの会社もとても魅力的で、ぜひ現物を見たくなりますね。
おもしろそうでしょう?2日あれば自分が見たい会社をかなり体感できると思います。
今のファッション業界はモノがあふれていて、作り手と使う側との距離が離れてしまっていますよね。でも一方で、ひとつのモノの背景を知りたい、どんな人がどんな想いで作っているのかをわかったうえで納得いくものを購入したいという声も増えています。
だからこそ作り手側からの発信が大切。個別ではなく共同で作り手の心と工場をオープンにし、たくさんの方々に見ていただく機会が「ひつじサミット尾州」なんです。
―まだコロナ禍ではありますが、今開催する意義をどのように考えていらっしゃいますか。
コロナ禍はさまざまなものを分断してしまいました。人の流れが抑制され、対面で会えない状況も続いています。けれどもその経験があったからこそ、アパレル、小売り、作り手のつながりの大切さもより明確になったのではないでしょうか。「ひつじサミット尾州」によって今一度尾州をひとつにして結束したい。そのうえで繊維業界の可能性を見出し、未来につなげていけたらと思っています。
【ひつじサミット尾州】
6/5(土)〜6(日)に愛知県一宮市〜岐阜県羽島市(尾張の国「尾州」)にて開催される産業観光。約30カ所で、工場の見学やワークショップ、ポップアップストアでのショッピング体験ができる。また、レストランやカフェではイベント限定メニューも楽しめる。
Brand Information
MITSUBOSHI 1887
三星毛糸株式会社