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「毎日うんちを観察する」ことがビジネスの発想の原点に。道なき道を進む元サッカー日本代表|AuB(オーブ)代表 鈴木啓太氏インタビュー【前編】

「毎日うんちを観察する」ことがビジネスの発想の原点に。道なき道を進む元サッカー日本代表|AuB(オーブ)代表 鈴木啓太氏インタビュー【前編】

ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「CAREER NAKED」がスタートする。記念すべき第1回目は、プロサッカー選手として活躍した鈴木啓太氏が登場。鈴木氏は現役引退後、アスリートの腸内細菌を解析して、その研究で得たものを社会に還元するAuB(オーブ)株式会社を設立した。今回インタビュアーを務めるのは、鈴木氏と親交があり、数々の世界的なブランドでマーケターとして活動し、現在はブランドコンサルティング企業 H-7 HOUSE(エイチセブンハウス)の代表である堀 弘人氏。サッカー選手時代に経験したことが、ビジネス界においてどのように生かされているのか。そしてAuB(オーブ)株式会社がこれから目指すものについてお話を伺った。

鈴木 啓太さん/AuB(オーブ)株式会社 代表取締役
元サッカー日本代表。静岡県出身。2000年に高校を卒業すると同時に、Jリーグ浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)に加入。ボランチとして活躍し、チームの中心選手として2006年のJ1リーグ年間優勝、2007年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献。ベストイレブンを二度獲得。2015年シーズンの現役引退まで、16年間浦和レッズ一筋だった。日本代表では国際Aマッチ通算28試合に出場。イビチャ・オシム監督が指揮を執った期間、唯一全試合にスタメンで出場した。引退後は実業家に転身し、アスリートの腸内細菌を研究するAuB(オーブ)株式会社の代表取締役を務める。

堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
米系広告代理店でキャリアをスタートさせ、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど世界的に業界をリードする数々の外資系ブランドでマーケターとして要職で活躍したのちに、大手日系企業 楽天の国際部門にて戦略プロジェクトをプロジェクトリーダーとして率いてきた。2021年、自身の経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。メディアNESTBOWLのブランドディレクターも務めている。

大事な試合で力を発揮できたのは、腸のおかげ

―最初に鈴木啓太さんのキャリアについてお伺いしていきたいと思っています。現状、どういったお仕事をされているかを教えていただけますか?

AuB株式会社というバイオベンチャーを立ち上げ、現在は7期目となりました。事業は「アスリートの腸内細菌の研究」を軸に、研究から得られた知見で製造したサプリメントや食品を販売するフードテック事業と、研究データから導き出されたサービスを展開するコンディショニングサポート事業を行っています。

―なぜプロのサッカー選手から、ヘルス・コンディショニング領域を選ばれたのでしょうか?

まずアスリートはパフォーマンスが求められていると同時に、コンディショニングを非常に大事にしています。私自身もコンディションで苦労をしてきましたし、逆に良いパフォーマンスを出せた経験がある中で、それをアスリートに還元していくだけではなく、一般の方々、特に個人的な思いとしては、ファン・サポーターに貢献したいと考えました。以前、ファン・サポーターから「年を取ると、スタジアムに行くのも大変なんです」という話を聞いたことがあって。観戦するにはもちろん時間がかかるし、今は声を出せないですけれど、通常の応援だと飛び跳ねたり、声を出したりしますから、体調が良くないとつらいものです。自分の好きなことはコンディションが整っている時に初めて100%楽しめるし、それはいくつになっても楽しみたいはずなんですよね。だから私のアスリート経験の中で“コンディショニング”は、一般の方々にも必ず貢献できる分野だろうと考えました。

そして私たちはコンディショニングを“腸から整えていこう”としています。最近の言葉で言うと「腸活」が近いですね。腸内細菌は免疫や持久力や、さまざまな病気・疾患ともかかわりがあると言われていますし、そういったところから、いろいろな方の健康・コンディショニングに貢献したい、という思いで活動しています。

AuB社では、独自開発をしたアスリート・ビオ・ミックス(ATHLETE BIO MIX (R))をもとに、腸内環境からコンディションを整える商品・サービスといった体験を提供している

―腸にフォーカスしようと思われた理由を教えてください。

私は幼少のころから母親に「人間は腸が一番。だから毎日うんちを見なさい」と言われて育ちました。今、振り返ってみると、確かにそうだと思うんですよ。なぜかというと、言葉をしゃべることができない赤ちゃんの体調は、便で見るわけですよね。それで「今日は調子悪そうだな」といって判断する。数値化はしていませんが、観察というのが一番原始的な方法なのかな、と思います。当時は何も思わなかったですけれど、母が言ってたことは、まさに今、大事なことだなと実感していますね。

また現役時代にアテネオリンピックの最終予選でドバイに行ったのですが、その時に23人中18人がお腹を壊してしまって。私はお腹を壊さなかった5人の1人だったんですけれど、チームとしてはもちろん大変な状況で、大事な試合でいいパフォーマンスが出せなくなってしまいます。その時に「こんなにお腹の状態は大事なんだな」と、身に染みて感じました。

そういった経験があったので、今回、事業を起こすにいたっては、「当時の感覚や経験をどうやって伝えられるんだろう?」と考えました。ここ最近ではゲノム解析や遺伝子解析によって、どんな構成で、どういったタイプの人がこのような症状を持っているのか、なんとなく分かるようになってきました。それで特徴的な被験者を調べることが大きな発見につながるという状況になった時に、「アスリートがいるじゃないか」と考えてアスリートたちに協力してもらい、起業することになりました。

―ドバイの時は現地に行って気をつけたことがあったから、体調を壊さなかったのでしょうか?それとも日々のコンディショニングの賜物で、現地に行っても壊さなかったのでしょうか?

それは両方だと思っています。まず私は高校生ぐらいから母にすすめられて、腸内細菌のサプリメントを飲んでいて。あとは梅干を必ず海外遠征に持っていったり、食後は必ず温かい緑茶を飲んだりしていました。日頃の行動がドバイに行った時、最も効果があったのかな?海外に行くから特別に何かをやるというわけではなく、習慣として身についていたことが、その時にはいい方向に働いたのかと思っています。

自分の役割はひとをつなぐ接着剤

―2015年シーズンに引退されてから起業家・実業家(代表取締役)としての経歴を歩まれているわけですけれども、プロのサッカー選手時代、それから実業家となった今の中で、共通点についてお伺いできたら、と思っています。当時、サッカー選手として輝かしいキャリアを歩まれてきた中で、今、ビジネスに生かされていることは、何でしょうか?

一つは「自己責任」というところでしょうか。これは私がベンチャーだからこそ思うことなのかもしれないのですが、仕事に対する責任イコール、プロフェッショナルということだと思うんです。サッカー選手であればプロというのは分かりやすい言葉ですけれども、仕事をすることは、すなわちすべての人がプロフェッショナルでいなければならない。そこが共通点なのかなと思います。

組織にいると、助けられることも多々あると思いますが、サッカーチームでも同様です。自分のボールロストから、誰かがもう1回それを取り返してくれたりする。逆に誰かのミスを自分がカバーしたりもする。それがボール一つなので、分かりやすいんですよ。
でも意外と仕事の中では、それがうやむやになったり、ミスを組織の体質のせいにしてしまったりすることが多いのかな?と思うんです。そこで私たちは規模が小さいということもあるのですが、ミスの原因を明確にして、「誰の責任か」「どういう形にして組織を前に進めていくのか」をみんなで考えます。成功のために会社を運営すること、試合に勝つためにチームを運営していくこと。そういったところは、ほぼ一緒なのかなと思いますね。

ビジネス、プロスポーツの共通点として「プロフェッショナル」の意識を持つこと

―特に鈴木さんの場合は、現役時代にキャプテンとしての重責を担われていた経験も多かったと思います。ある種、キャプテンシーという観点でタクトを振るという点では、非常に似通っているのかもしれないですね。

周りから見るとそうなのかもしれないんですけれど、実際のところ、私はキャプテンらしいキャプテンではなかったですね。優秀な選手がチームにいて、彼らをどうすれば生かすことができるのか?といった、どちらかというと接着剤みたいな役割を担っていたと思います。それは今の会社でも一緒で。社員がどうやったら輝くのかを考える。そういったタイプだと思います。

―昨今、プロスポーツ選手が現役を引退した後のキャリアの選択肢が、非常に幅広くなってきました。投資家になる方、鈴木さんのようにビジネスを起業される方、スポーツの業界に関わり続ける方もいらっしゃいます。鈴木さんはアスリートのセカンドキャリアはどのように考えるべきだと思われますか?

それはものすごくシンプルで、人によって人生の目的が違うと思うんです。だからその目的に沿った手段を選べばいいだけなのかな、と。私の場合は起業という道になりましたけれど、それは達成したい目的がある、目標があるからこそ選んだだけの話であって。どうあるべきかというと、自分のやりたいことをやるべきだと思っています。

最大の失敗は、自分(鈴木啓太)が社長なこと!?

―AuB社の代表となってからのキャリアの中で、最大の失敗談があれば、ぜひお伺いしたいです。

最大の失敗談は、私が社長をやっていることですからね(笑)。冗談は置いておいて、すべてにおいて、これは成功かどうか、良かったかどうかは、最後にならないと分からないと思っているんです。つねに失敗はつきもので、特に私の場合で言うと、起業した時のボードメンバーは、私ともう一人ぐらいしか残っていません。ではそれが失敗だったかどうかと言うと、そうでもないだろう、と。ただそこから歯車が崩れていったり、重大な局面を迎えることもあるわけですね。

AuB社としての最大の危機は、2019年の夏頃でしょう。残り1〜2ヶ月でキャッシュアウトする、といった時期がありました。その断片だけ見ると、お金のないことが問題に見えますが、実はそうではなくて。そこにいたるまでの組織づくりやファイナンス、事業計画などの見通しが甘かったということで、これが私にとって一番の最大の失敗だと思います。ただ今こうやってお話できるのも、それが逆に失敗ではなくて、成長のもとなのかもしれないと考えているからです。サッカーでもそうでしたけれど、大きなピンチが来れば来るほど、成長できるチャンスであって。私はできないことができるようになることが、人生の喜びだと思っているんです。

―その失敗談を含めて、会社の代表としては、キャッシュアウトしてしまう危険性や人間関係など、さまざまなプレッシャーと隣り合わせであると思います。そこで鈴木啓太流メンタルコンディションの秘訣を教えていただきたいです。

私は楽観的であることが重要だと思っています。チャレンジできるうちにチャレンジしないというのは、最大の後悔でしょう。サッカーが上手になる一番の方法は、できるプレイをすることではないんです。チャレンジをして、失敗しても失敗しても何回も繰り返して、できないことをできるようにすることが成長なんですよね。それがサッカーを上手くなる唯一の方法なんです。他人はあまり他の人の失敗を覚えていません。だからお互いに助け合いながら、最終的に自分が後悔しないために、常にチャレンジしようと考えています。

常に笑顔を絶やさずに快くインタビューに受け答えしてくれる鈴木氏

後編へ続く>>>

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