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「ECが活発な時代だからこそ、販売員の価値をもっとお客様に感じてもらえるようにしたい」 株式会社クライアンテリング アドバイザリー 代表取締役/土井美和さん

「ECが活発な時代だからこそ、販売員の価値をもっとお客様に感じてもらえるようにしたい」 株式会社クライアンテリング アドバイザリー 代表取締役/土井美和さん

約20年間、ルイ・ヴィトンの販売員を務め、顧客保有数が全国1位になった経歴を持つ土井美和さん。現在は自身の会社を設立し、著書やオンラインを通じて独自の接客のノウハウを発信する彼女に、これまでの仕事や家庭・育児との両立など、働く女性をめぐる環境の変化や現状を聞いた。

土井 美和さん/株式会社クライアンテリング アドバイザリー 代表取締役
大学を卒業後、2001年にルイ・ヴィトン ジャパン(株)に入社し、クライアントアドバイザーとなる。2度の育児休暇を経ながら仕事を続け、サービスエキスパート、シニアサービスエキスパート、エキスパートアドバイザー、フレグランススペシャリストとステップアップ。2012年に顧客保有数が日本一となる。2020年に退社し、2022年1月に株式会社クライアンテリング アドバイザリーを起業。
YouTube:土井美和 YouTubeチャンネル
Instagram:@miwa__doi

出産後、復帰したスタッフが珍しかった時代

ルイ・ヴィトンの販売職で、出産後に復職した方は珍しかったそうですね。

出産した16、17年前、出産して子育てをしながら働いている方は、私のお店にいなかったんです。寿退社や妊娠がわかって退社する仲間が多いなか、仕事が好きだった私にその選択肢はありませんでした。どうしても子供の発熱などでやむを得ず早退させていただくなど、お店にご迷惑をおかけしてしまうこともあり、その点で気負いすることも多々ありました。だからこそ、限られた時間でどれだけパフォーマンスを高めて、お店・会社に還元できるのかを意識していました。

―復帰後、どんな点で苦労されたのでしょうか?

最初の出産のとき、1年間の育児休暇を取りました。そんなに長く仕事を離れるのは初めての経験です。家ではただただ初めての育児と家事の生活になり、そのため復帰したとき、想像以上に仕事のことがわからなくなっていたんです。スピーディに変化する業界なので、1年間という期間の間に新商品が発売になっているという想像していたことだけではなく、システムが一新されていたりして戸惑いをすごく覚えました。休暇中も会社の業務が流れ続けていたことを改めて感じて、接客や自分のいなかった時間の商品の変化など、さまざまな感覚・知識を取り戻すまでに半年もかかってしまいました。

家族のサポートが復帰後の助けに

―復帰後の苦境を、どのように乗り越えたのでしょうか?

一番私を理解している夫がつねに味方でいてくれたのが大きかったです。そばでいつも励まし続けてくれました。大好きな仕事だと理解してくれていて、一時的な感情で弱音を吐いているだけだと彼が一番わかっていたと思います。

-その後、お2人目をご出産なさっていますね。

最初のブランクで自分自身の気持ちが現場に追い付かず苦しんだ感覚があったので、2人目のときは半年で復帰しました。1年休んだら、感覚を取り戻すのに半年もかかったという経験から、今回はできるだけ早く復帰しなくては、と思っていました。そして11月末に出産して4月には復帰しました。

―育児をしながらの勤務だと、トラブルもありそうですね。

仕方なく帰らせていただくこともありました。お店に対して申し訳ないという気持ちと、子供には待たせてしまって申し訳ないという気持ちで、今思えばあちこちに謝ってばかりだった気がします。

―子育てと仕事の両立はうまくいきましたか?

二世帯住宅に住んでいたので、(ご主人の)両親のサポートがつねにあったり、千葉の実家の母も週に一回、手伝いに来てくれたり。公休日は自分で子どもの面倒を見て、それ以外の週5日は家族がチームとなり一丸でサポートしてくれたのはとても心強かったですね。

インタビューに答える女性
今年起業し、順風満帆の土井さん

権利だけを主張せず、自分が貢献できる提案が重要

―育児中の勤務について会社側から配慮はあったのですか?

復帰するのが私だけだったり、増えても数名だけだったりという時代は、会社が私を早番に固定して、全面的にサポートしてくれたので帰宅が遅くなりすぎることはありませんでした。その後フルタイムになっても、シフトは基本的に早番固定で勤務させていただけましたが、家族のサポートが得られる金土日の週末は遅番もやらせてください、と伝えました。お互いに寄り添える部分を店長と何度も相談しながら、私が働き続けられるように会社が一緒に道を探ってくれたことに心から感謝しています。

―土井さんからも、会社に貢献するための提案があったわけですね。

権利を主張するだけではなく、数字などで会社に貢献していくからこそ話を聞いてくださったでしょうし、「努力して成果を出してくれる人だから」と譲歩してくださる部分もあったのかもしれません。双方歩み寄りながら、自分が差し出せるところは最大限に差しだしたことがよかったのだと思います。

―子育てをしながら働き続けたい女性にアドバイスはありますか?

保育園や家庭の事情で、何時までには会社を出なくてはいけないなど、子育てをしながらの勤務にはそれぞれの環境で制限があるものだと思います。ただ、育児しながら勤務するかたの割合も増えたことで、全てのかたを早番固定にはできなくなりました。親が近くに住んでいてサポートが受けられる人、お子さんの保育園が認可・未認可、ベビーシッターを頼める余裕があるかないかなど、それぞれの家庭環境も違いますし、いろんな環境があるはずです。

悩みに対して、まず自分でできること、できないことの優先順位を整理したうえで、上司に相談することが重要です。「あれもしたい、これもしたい」と権利だけ主張しているような印象を与えると話がうまく進まなくなるので、まずは優先事項を明確にしてから。また、正社員でなくてもいいという条件なら、別の形もあるかもしれません。自分の考えを整理して話し合いを進めていくのは、家族と会社の両方に対して重要ですね。

お客様とのコミュニケーションを深めるための努力とは?

―お客様保有数日本一の実績をお持ちですが、そのための努力について教えてください。

私は、お客様と同じライフスタイルを過ごしているわけではないけれど、普段、お客様が過ごしていらっしゃるホテルに行って朝食だけ食べてみる、カフェやラウンジだけ利用してみる。そうして、お客様のライフスタイルを垣間見ました。そんな体験はすごく楽しいので、無理をしている感覚はまったくありません。「お客様はこういう景色をご覧になっているのか」などと少しでも自分が感じることで、お客様と会話をしていく中での想像力、共感力が養われたと感じます。

講師をする女性
現在は企業からセミナーの依頼も舞い込んでいる

―海外のお客様にもご対応なさっていたとか。

もともと英語でのコミュニケーションは販売をするうえで問題なかったのですが、在職期間の後半は、中国からのお客様が多くなってきました。英語が通じない方も多くいらして、より深いサービス、コミュニケーションをとりたい、より喜んでいただきたいと思うようになりました。そんなとき、お店から数名が会社の語学カリキュラムに選出される機会があり、「ぜひチャレンジさせてほしい」と参加。3年近く、週に1回、2時間、中国語を勉強しました。時間は遅番の就業前の10時から12時。そして、12時から20時30分までが勤務です。

―そうした積み重ねが、日本一に結びついたわけですね。

販売員としてお客様に接するというよりも、シンプルに今日初めてお会いする「人と人」という点を大事にしていました。私が考えていたのは、初めて会う方にいかに今日のこのお買い物の時間を楽しんでいただけるか?ということ。商品を売るために語学を学んでいたわけではなかったんです。楽しんでいただけた結果として販売につながることがあるだけ。お客様が喜んでくださると私もすごく嬉しいので、そのための努力は惜しみません。

誰かの人生に寄り添える機会が得られた

―印象的なエピソードはありますか?

入社2、3年目に出会った高校生の男の子がいます。彼は高校の帰りに制服姿でキーケースを買いに来てくれたんです。話もしやすくて楽しい時間を過ごし、キーケースを買ってくれました。そこからは毎月のようにお葉書を出し、親戚のお姉さんのような感覚で長いお付き合いになりました。のちにご結婚される際に、プロポーズでルイ・ヴィトンのジュエリーを贈りたいからとおっしゃったので一緒に話し合ったんです。結婚式にも招待してくださって、異例ですが会社に許可をもらって、チャペルにうかがい、ルイ・ヴィトンの結婚指輪が交わされるシーンを拝見して、すごく感動しました。

―いいお話ですね!

誰かの人生に寄り添って、そのときどきで一緒にアイテムを選ぶお手伝いをするなど、一販売員としては考えられないような経験がたくさんできました。私にとって、しょっちゅう商品を買いに来られる方だけが顧客というわけではありません。年に1回でも、2年に1回でも会いに来てくださって、長くお付き合いくださるなかで時折、買ってくださる。私との出会いから、生涯にわたりルイ・ヴィトンのファンでいてくださる。そういったお客様とのつながりが作れる体験は、私が販売員を続けるうえでとても重要でした。

40歳で決断した独立への道

―その後、独立なさったきっかけはなんですか?

20年働いて40歳になり、この先にさらに20年があるわけです。トップパフォーマーとして走っている中で、この先20年も走り続けられるかなと考えました。体力的にも年齢的にも、考えるべきことが少しずつ出てきたんです。タイトルをおろして、一販売員として続ける選択肢もあったかもしれないけれど、私にはその選択はありませんでした。

―先の20年を改めてお考えになったわけですか。

いまがピークだと感じているときだからこそ、新しい何かをスタートできないかと考えがうまれました。40歳になると体力は落ちてきています。でも気持ちは20歳代よりも元気な気がしていて、ここからまだ20年あるから新しい何かを始められるかも、とモチベーションが生まれました。中学生と高校生の子どもたちがその翌年ダブル受験を迎えるにあたり、そばにいて一緒に受験を戦いたいなという母としての気持ちも強くなって。そういったいろんな事柄のタイミングが合致したことで独立に至ったという感じですね。

―独立後は、どんなことから始めたんですか?

まずはオンラインで発信するコンテンツづくりです。動画教材を作って販売を始めました。配信している内容はお客様とのコミュニケーションで得た顧客づくりについてのノウハウです。ルイ・ヴィトン時代のお客様のなかに「土井さんは、きっとなにかができる」と何度もおっしゃってくださる方がいらっしゃいました。当初は、新卒で入社したルイ・ヴィトンという会社しか知らないし、とんでもないと思っていたんです。でも、何度もそういう声を掛けてくださって、少しずつ気持ちが動かされていきました。独立して間もない頃、Instagramでの投稿やライブを見てくださっていた出版社の編集者の方から出版の打診があり、独立から半年後には出版していました。昨年2冊目も出版しています。講師としては、ご依頼いただいた企業に伺い、リピート顧客を作るためのノウハウを紹介しています。コンサルティングのお話もいただいていて、こちらは今年スタート予定です。

本を持っている女性
すでに2冊の土井さんの著書が発売されている。1冊目の『元ルイ・ヴィトン顧客保有数No.1 トップ販売員の接客術』は、発売1年で1万4000部を販売した。

年齢にとらわれず、チャレンジする人を励ましたい

―オンラインの反響はいかがですか?

普段、月に2、3回インスタライブをしていて、いろいろな質問をいただきます。「40歳代で初めて販売をします」「全然違う営業職から販売に異動になった」などいろんな方がいらっしゃる。私の起業も40歳代ですから決して早くないし、遅いと思う人もいるかもしれません。でも年齢を問わず新しいことをはじめて刺激を受けられる方は気持ちも若くいられると思うので、その方々が自信を持って仕事を楽しめるようにどのように伝えようか試行錯誤することにやりがいを感じています。

―年齢を問わず、チャレンジする姿は魅力的ですね。

まず、行動してみないと何もわかりません。これは販売員時代に教えられました。このお客様は、こういうのはお好きじゃないかも?こういう高額商品はお買いにならないかも?と勝手に決めて、こちらからなにも言わないと扉は開きません。まずはバッターボックスに立ってみる、バットを振ってみる。立ってバットを振ったら、「こういうのお好きなんだ!」「こういうのもお探しになっていた!」と、予想しなかった驚きがたくさんあります。まずはトライしてみて、失敗なら修正していけばいいし、やっぱり前の職場が向いていたと思えば戻ればいいんです。いくらでも人生において修正はできますから。いつか挑戦してみたいと思っているなら、まずは飛び込んでほしいです。

仕事と出会って、自分の存在価値を感じられた

―今後の目標をお聞かせください。

販売員の価値を向上させたいんです。ただの売り子さんでもブランドの従業員でもなくて、個々が確立してこの人がいるから買い物に来た、この人がいるからブランドを好きになったとお客様に感じていただけるようにしたい。ECでなんでも便利に購入できる時代だからこそ、リアルに出会える「人」の価値を感じてもらえる人を増やしたいと余計に思うんです。

私は幼少期から自分に自信がありませんでした。そういう気持ちを持ったまま販売員になり、商品が売れる喜びではなくて「あなたに出会えたから」、「あなたに会えて楽しかったから」と言ってもらえることで、自分の存在価値を感じられた。そういう仕事に出会えたなって思っています。

仕事でも、プライベートでも自分を好きになれるし、自信を持てるようになる。これは私が仕事との出会いから感じられたことなんですね。そういう方が増えたらいいな、と思います。

著書紹介
『元ルイ・ヴィトン顧客保有数No.1 トップ販売員の接客術』大和出版
初めてのお客様と長いお付き合いをするために、初回の接客はどうするべきか、何を大事にしていけば自分の接客を好きになってもらえるかといった接客術を紹介。販売員や接客業じゃない方にも、学ぶべき点が多いと多方面からの支持を得て、1年で1万4000部を販売した。

『元ルイ・ヴィトン トップ販売員の 接客フレーズ言いかえ事典』 大和出版
販売員や接客業の方が、無難になりがちな接客から脱却し、お客様の心を動かすフレーズを使えるようになるためのノウハウを紹介。ファーストアプローチからお客様を知るヒアリング、困ったシーンなど、50の場面を想定し、心を動かすフレーズを具体的に徹底解説している。

取材=T.Kawata
撮影=Takuma Funaba

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