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一人ひとりのアクションを脱炭素社会につなげる— 共創型プラットフォーム「Earth hacks」が描く未来とは

一人ひとりのアクションを脱炭素社会につなげる— 共創型プラットフォーム「Earth hacks」が描く未来とは

6月5日の「世界環境デー2022」は、環境保全の重要性を認識させ、その啓発を図るために国連が定めた国際デー。NESTBOWLでは、この「世界環境デー」をより広めるための取り組みとして6月、環境問題に対しさまざまな取り組みを行う企業や人物をフィーチャーし、その取り組みを発信する。

今回ご登場いただくのは、生活者一人ひとりのアクションで脱炭素社会を推進する共創型プラットフォーム「Earth hacks(アース ハックス)」を共同で手掛ける、三井物産株式会社(以下、三井物産)生澤一哲氏と、株式会社 博報堂(以下、博報堂)の新規事業開発組織 ミライの事業室 関根澄人氏、博報堂DYホールディングスグループのソーシャルビジネススタジオ 株式会社SIGNING 清水祐介氏。国や企業の文脈で語られることの多い脱炭素社会やカーボンニュートラルは、わたしたち一人ひとりがどのようなアクションを起こせば実現できるのか?また、「Earth hacks」が目指す未来についてもお話を伺った。

生澤 一哲さん/三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 New Downstream事業部 新事業開発室長
神奈川県出身。2000年、三井物産に新卒入社。入社以来、大型インフラ開発に従事。フランス、カナダ駐在等を経て現職。(写真右)

関根 澄人さん/株式会社博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター
埼玉県出身。2009年、博報堂入社。営業職を経て、2018年から博報堂従業員組合中央執行委員長を経て、2020年よりミライの事業室のディレクターに就任。(写真中央)

清水 佑介さん/株式会社SIGNING 執行役員 Creative Director/Strategist
神奈川県出身。2003年、博報堂入社。営業職、マーケティング職を経て、2012年に博報堂ケトルに異動後、2021年に 株式会社SIGNING の執行役員に就任。(写真左)

― まず、 “脱炭素社会”について教えてください。

生澤 一哲さん(以下、生澤):脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を含む=温室効果ガスの排出量の実質ゼロを目指す社会、カーボンニュートラルを目指す社会です。温室効果ガスを減らすには非常に多くの方法があります。いわゆるパリ協定などでは、世界の平均気温上昇を減少する目的で、国や企業が地球規模で連携し、温室効果ガスを排出しない社会を目指しています。

―  国や企業の文脈が多くなかなか消費者には分かりづらいですが、生活者向けにご説明いただくと?

生澤:脱炭素社会と一言でいっても、生活者にとってはあまりピンとこないと思います。皆さん脱炭素社会を目指すということ自体はもちろん理解していても、具体的に一人ひとりがなにをしていけばいいのか分からないんですよね。一方で温室効果ガスの排出量の分布を見てみると、消費ベースでは家庭消費が全体の6割を占めており、多くが家庭から排出されるものです。結局は生活者一人ひとりが行動に起こして削減しなければ、このカーボンニュートラルの社会は実現出来ません。

具体的に行動に起こすには、まず自分たちの生活のなかでどれだけの温室効果ガスを排出しているのか、知ることが重要です。我々が普段の生活の中で行っている消費活動、自動車の運転や家事など、生活に関わる事の多くが少なからず温室効果ガスの排出につながっています。「Earth hacks」では、こうした生活に関わる温室効果ガスの排出量をわかりやすく可視化することをはじめました。

―  三井物産ではこれまでどのような脱炭素社会への取り組みを行ってきたのでしょうか?

生澤:当社はこれまで温室効果ガスの削減に向けて世界各地で再生可能エネルギーインフラを整えたり、環境にやさしい燃料や製品を供給したりするなど、あらゆる産業向けにソリューションを提供しています。このように気候変動問題に対応する取り組みは数多く行ってきている一方、「Earth hacks」のような生活者向けのサービスは、日本では本格的に事業化に至っているものはありません。生活者向けの取り組みは、脱炭素社会を目指すには必要不可欠であり、更には大きな事業機会もあるのではとの考えのもと、今回「Earth hacks」をスタートしました。

20年前に入社したときから使っている鞄をずっと大切にして愛用しています。環境を強く意識していた訳では無いけれど、”好きなもの”だから直して長く使っていて、それが結果脱炭素につながっているんですと語る生澤氏。

「関心はあっても、何からはじめればいいか分からない」。日本人の意識とは?

― 海外での一人ひとりの意識は、日本に比べ高いですか?

生澤:消費者の環境意識は、世界規模でみると、欧米、中でも欧州は高いです。我々は総合商社であることを強みに、グローバルネットワークを活用し、海外の新しいサービスやビジネス、ソリューションをキャッチして日本で展開するという動きをはじめています。今回も「Earth hacks」の取り組みの一つとして、三井物産が提携するスウェーデンのインパクトテック企業「Doconomy(ドコノミー)」と連携し、Doconomyが提供する温室効果ガス排出量を可視化するツール「The 2030 Calculator」を活用しております。このように海外の企業との連携も今後も積極的に進めていきます。

― 日本の若者の関心はどうでしょうか? 

関根 澄人さん(以下、関根):博報堂では生活者発想をフィロソフィーに掲げ、生活者に関する様々な調査や研究を行っています。2021年には、全国の生活者を対象に「生活者の脱炭素意識&アクション調査」を実施しました。10代〜70代に向けた、脱炭素の認知や現在のアクションに対する調査です。脱炭素の認知に関しては、全体で85.4%と浸透が進んでおり、特に若年層やシニア層での関心が高く、Z世代(男女15〜24歳)では「非常に関心がある」が34.5%と、全体のなかでも若い世代の関心の高さがうかがえました。

残念ながら我々のような30-40代の男性がもっとも関心が低いという結果も分かりました。また、大企業や政府だけでなく自分たちも取り組むべきだと感じている人は70%近くいた一方、実際にアクションを起こしているという人は全体の3.3%と僅か。アクションを起こせない理由として、「なにをすればいいかわからない」と感じている人が多くいることが分かりました。

Z世代はサステナブルをトレンドワードとして使うことに抵抗がある?! 調査から分かってきたこと。

―こういった課題が「Earth hacks」の取り組みへとつながっていくのですね。

関根:「Earth hacks」は博報堂と三井物産の共同で2021年にスタートした共創型プラットフォームです。開始するにあたり生活者向けに、「どんなアクションだったら始めやすいか?」というアンケートをとったのですが、その結果から、「やれ」というような、押しつけがましい発信だと、アクションしにくい意識があるということがわかりました。すなわち、日常生活のなかでできることや、やっていて楽しいと思えること、そしてその行動が脱炭素につながる実感があるということがアクションにつながることが分かったのです。

若い世代は「サステナブルや環境にいいということで選んで購入する」ことにはストレスを感じ、それを“トレンドワード”のように使われることには否定的な印象をもっています。この結果から、普段からいいなと思っているものが実は環境にもいい、そんなアクションがポジティブに働くのであれば、こういった日本人の特徴を意識した取り組みをしっかりやるべきだと考えました。

―「Earth hacks」はそうした日本人の意識をふまえたプラットフォームなのですね。

関根:「Earth hacks」は海外の先進的ソリューションを日本に持ってきて、“大企業や政府が主語ではない”、あくまで生活者一人ひとりのアクションで脱炭素化を推進するプラットフォームです。「何からはじめたらいいのかわからない」という生活者に対し、情報をお届けするだけでなく、一緒に一歩を踏み出すためのサービスや場などきっかけづくりを行っています。また企業に対しても「生活者に向けて何を発信すればいいかわからない」といった企業向けにソリューションを提供します。生活者の仲間もつくり、企業の仲間もつくっていき、脱炭素社会を目指すコミュニティをつくる取り組みです。

―  どうしても脱炭素=「我慢する」というイメージが強いですよね。

関根:「やらなきゃいけない」ではなく、“新しい選択肢”であることを打ち出していきたいです。欧米のように生活者一人ひとりが楽しみながら参加し、それが結果脱炭素につながる動きにつながればうれしいです。生活者に一番近いのは商品ですから、見える化も商品単位で行うことが重要だと考えています。自分たちの身近な商品が、どれくらい温室効果ガスを排出しているのか。その単位が可視化されることが重要です。

関根氏が着ているシャツは10年前に奥様からもらったプレゼントを京都紋付の染め替えサービスで黒染めしたもの。

消費に対しストーリーを重要視する世代へ、ものづくりのストーリーを届ける。

―「Earth hacks」に参加している企業を紹介してください。

清水 佑介さん(以下、清水):「Earth hacks」の考えに共感いただいた全国各地の企業様にご参加頂いています。例えば、京都の老舗の「京都紋付」は、和服の黒染めを大正4年から行ってきて、近年では洋服の染め替えサービスを行っています。着古したシャツなどを黒く染め替えることでさらに長く着ることができるサービスで、こういったサービスが普及すると、新しい素材で服をつくることもないので、綿をとることもなければ布をつくることも、縫うこともない。服をつくる過程で使う水や電気は大幅に削減できますし、染めるだけで服の寿命が伸びるという、素晴らしいサービスです。

こういうサービスは、聞いたらやってみたくなるものですよね。この「やってみたい」という気持ちがとても重要だと考えていて。そういう企業にどんどん参加してほしいと思っています。もう1つ、エシカルジュエリーというカテゴリーの「ミルーナ」は、使われなくなったジュエリーの天然石を回収し、それをリ・デザインすることで、天然石を採ることや空輸の過程をなくすことで脱炭素につながっています。

― どのように参加企業を選んでいるのですか?

清水:我々は、そのブランドに強いストーリーがある企業様に共感した場合にお声がけをして、参加いただいています。「Earth hacks」はインスタグラムを活用しているので、そこでコミュニケーションすることもあります。若い世代の人は、消費に対して“ストーリーを重要視”しているんですよね。皆さん本当にユニークな取り組みをされているので、そのストーリーを届けることが、「Earth hacks」の重要な役割の一つだと考えています。

目指すのは、普通の生活がカーボンニュートラルになる社会。

―「Earth hacks」が目指す社会とは?

清水:普通に生活していることがカーボンニュートラルである、そんな社会を目指したいですね。何かを我慢したり、生活に必要なものが失われたりするのではなく、普通にお店にならんでいるものや欲しいと思うものが意識しなくてもカーボンニュートラルになっている。それが普通になればいいと思っています。そのために今「Earth hacks」を含め、選択肢を増やしている感じです。

廃棄されてしまう魚を使ったミールパックを提供するサービス、「Fishlle!(フィシュル)」をよく活用すると語る清水氏。地産地消も大切なので、できるだけ地元の食材を食べることにこだわりをもつ。

― どんな企業を増やしたい?

清水:先ほどご紹介した企業様はもともと強いストーリーを持っている方々ですが、まだそこまで強いストーリーを描けていない企業様だとしても、このプロジェクトの一員である博報堂ケトルには編集部があるので、我々がその企業様のストーリーを見出し、伝えていくことができます。例えば脱炭素社会に向けて意識的に取り組んでいるけれど、あまり知られていない。そんな企業様がいたら、我々がその取り組みが世の中に広まるお手伝いをさせていただくのが「Earth hacks」の重要な役割です。なので、どんなカテゴリーの企業様でもぜひお声がけいただきたいです。

― ありがとうございました!

これまで大企業や政府が主語となっていた脱炭素社会やカーボンニュートラル。3名が語ってくれた “自分が楽しいと思うアクション”は、日々の生活にすぐに取り入れられるものばかり。まずは「Earth hacks」のサイトを見ることからアクションを起こしてみては。

「Earth hacks」
HP:https://earthhacks.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/earthhacks.jp/

撮影:Takuma Funaba

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