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伝統工芸に光を当てる。日伊のサステナブルなものづくりを実現するレナクナッタの想い

伝統工芸に光を当てる。日伊のサステナブルなものづくりを実現するレナクナッタの想い

日本とイタリアでの生活経験や想いを形にした「レナクナッタ」。時代の変遷とともに忘れられがちな「古くて良いもの」をいかにサステナブルなものづくりへと転換してきたのか。「四方よし」の精神で、伝統工芸に光を当て、文化を纏う取り組みを手掛けるきっかけとなった自身の生い立ちや今後の展開について、株式会社Dodiciの大河内愛加さんにお話を伺った。

大河内愛加さん/株式会社Dodici 代表取締役
1991年横浜市出身。15歳でイタリア・ミラノに移住。2016年2月に、ブランド「renacnatta(レナクナッタ)」を立ち上げ、日本とイタリアのデッドストックや伝統工芸品などの素材を組み合わせたアイテムを展開している。

家族でイタリア移住。東日本大震災で自分の中の“日本人”に気づく

― 大河内さんの原点は15歳でのイタリア移住だということですが、当時の気持ちをお話いただけますか。

本当にワクワクしていました。幼い頃の習い事で一番好きだったのは、絵画教室だったんですよ。ものをつくったり絵を描いたりするのがすごく好きで、デザイナーなどクリエイティブな職業に憧れていました。イタリアは美術のレベルが高いということで、留学も兼ねて家族で引っ越したのです。父はビジネスマンでしたので物事を論理的、数字的に捉えるタイプですが、私や弟にはクリエイティブで解決できるようになってほしいと考えていたようです。

― イタリアへ行った当初は、語学の壁に大変な思いをされたとお聞きしましたが。

移住する前、家庭教師を付けて1年くらいかけて勉強して、現地の高校に通いました。現地の高校1年生と一緒にイタリア語で国語、美術史、数学、理科などの授業を受けたのですが、幼稚園児レベルの会話力しかなくて、最初はまったく分からなかったです。私自身は、一人でいるより友達とわいわい話すほうが好きなので、それができなくてすごく辛かったです。今でこそイタリアに連れて行ってくれた親には感謝していますが、当時は「なんで連れてきたんだ」と思っていました(笑)。幸運にも、先生や友達がイタリア語を話せない私のことをいつも気にかけてくれて、いじめや馬鹿にされることはなかったので、その点は良い環境でしたね。今振り返ると貴重な体験でした。

― その後は、デザインの大学へ進まれたわけですが、そこではイタリアのデザインを勉強されていたのですか。

将来は広告代理店のアートディレクターになりたいと思っていたので、学校では広告デザインを専攻しました。でも、イタリアの広告デザインには思っていた面白さがなく、広告デザインへの興味が薄れていってしまいました。

― そうでしたか。大河内さんの日本への興味関心や日本人としてのアイデンティティは、3.11の東日本大震災をきっかけに高まったそうですね。

その経験は大きかったですね。移住したばかりの時期は、日本が恋しすぎて帰りたい一心で、それが次第にイタリアに慣れてきた頃の3.11だったので、とてもショックを受けました。自分もそうだし、周りのイタリア人の友達もショックで「大丈夫?」と心配してくれたんです。ああ、この人たちにとって私は唯一の日本人なんだって気づいて、日本人であるというアイデンティティをもっと大切にしたいなと思いました。私ならイタリアにいながら日本とつながる仕事ができるんじゃないかと。当時は、クールジャパンが盛り上がっていましたので、「クールジャパン ミラノ」で調べてみたら、ミラノにクールジャパン機構のショールームがあることが分かり、すぐにドアをノックしたんです。ショールームにインターンとして入りました。

イタリアでのさまざまな経験や出来事が、自身の原動力になっていると語る

日本とイタリアの「使わ”れなくなった”ものを使う」から始まったレナクナッタ

― ショールームのインターンでは、どのような仕事をしていたのですか。

日本のメーカーやブランドとのやりとりをすべて担当していました。ミラノを拠点にして、日本の商品をドイツ、スイス、フランスを中心としたヨーロッパ全体に販売する仕事です。

日本の商品といっても、和風のものはひとつもなかったことに驚きました。今のヨーロッパの生活に馴染むような日本製のバッグや小物などを取り扱っていました。「メイドインジャパン」だから高品質で安心というイメージで売れていた印象です。それまでは、海外で日本のものを売るお店って着物や羽織りばかりかなと想像していましたが、ドイツ、スイス、フランスあたりはヨーロッパの中でも少し進んでいて、カジュアルなものやポップなものが売れていたので面白いなと感じました。

― 日本の象徴的な着物ではなく、メイドインジャパンの質が評価されていたというのは、たしかに面白いですね。大学を卒業後は、そのままインターン先へ就職されたのですね。

経済産業省が管轄するショールームだったので、官庁の方々とのやりとりが面白かったのですが、ショールームは期間限定だったので2年くらい勤めてショールームの閉鎖とともにその仕事を離れました。ショールームでの経験が面白かったので、その後もイベントをオーガナイズしたり商品をキュレーションする仕事をフリーランスでやっていました。また、経験値を積むためにグラフィックデザインをしたり、色々な業界を見たい気持ちで通訳をやったりもしました。

― これが、デザイナーやクリエイターとしての仕事につながったんですね。ご自身のブランドを立ち上げるまでに、どれくらいかかりましたか。

1年くらいです。イタリアに住んでちょうど10年経った年で、日伊国交150周年のタイミングでした。立ち上げ当初は明確なものがなく、日本に15年、イタリアに10年住んできたことを表現できる何かを作りたいなと思っていたくらいで。結果的に日本とイタリア、それぞれのデッドストックを組み合わせたリバーシブルの巻きスカートに辿り着きました。巻きスカートにしたのは、イタリアでは私の体に合うサイズの服が見つけにくかったことが原体験になり、フリーサイズで展開できてオンラインでも販売しやすいという理由です。

大河内氏が作り上げた「リバーシブル巻きスカート」はそれぞれ個性があり、売り切れ必至の商品ばかりだ

― デッドストックを組み合わせて作った商品には、量産が難しいという悩みがあったそうですね。十分な商品をユーザーに届けられない苦難を伝統工芸とのコラボレーションで乗り越えたそうですが、これも大河内さんのアイデアでしょうか。

そうです。 「使わ”れなくなった”ものを使う」からレナクナッタなのに、量産するのに生地を作ったらそれは全然違うものじゃないですか。でも、すぐに売り切れるようになってどうしようか考えているとき、夫と暮らしはじめた京都とイタリアを行き来するようになって西陣織の職人さんや金彩作家さんなど、伝統に携わる人たちに会う機会が増えたんです。京都の伝統工芸は衰退しつつある現状をみて「昔よりも作られなくなったもの」だということに気づき、これもひとつのレナクナッタなのかなとひらめきました。レナクナッタという時点でネガティブな印象だけれど、その中に個性や面白さが見い出せる、と。職人さんの中には、素晴らしい技術をもっていてもデザインや販売チャネルを知らない人もいます。自分が欲しい、世に知ってもらいたいと思うものを作っていくうちに商品もバラエティ豊かになっていきました。

― 大河内さんが大切にしている部分は、そのまま何もしなければなくなっていってしまうかもしれない伝統工芸や職人さんをうまく生かすというところでしょうか。

今のところ、いわゆる「斜陽」と言われる産業と組んできていますね。昔から残ってきたものが消えゆくのが悲しいなと思って。それも古いものに囲まれて暮らしてきたイタリアの生活でずっと馴染んできたことですね。それが自分の原動力につながっていると思います。伝統産業は着物につながるものが多いですが、コロナ禍で着物を着る機会も減り、業界自体に元気がなくなっていた状況もあって、西陣織のマスクを作ったときはとても売れたので感謝されました。改めて感謝されると、やってて良かったな、自分がやるべきはこれなのかもしれないと思いましたね。

― 大河内さんじゃないとできない、突き進んでいける天職のようなものでしょうか。

そうかもしれません。例えば、私がファッションをずっと勉強してきて、デザインだけで仕事をしていたらSDGsとかサステナブルとか伝統工芸とか一切関係なしに服を作ると思うんです。でも、私はファッション出身ではないので、生産でも消費でも関わる人が少しでも良くなるものづくりをすることが私の役割だと思っています。

愛車である96年式ローバーミニも大切に乗り続けている

目指すのは、ファッションのカテゴリーを超えて「文化を纏う」という体験

― たしかに、ほかのファッションブランドとは一線を画していますね。ものづくり以外で今後、積極的にやっていきたい分野はありますか。

ワークショップで、貴重な技術に触れたり伝統文化を知ったりするきっかけをつくりたいですね。どんな職人さんがどこでどのように作っているか、そういうことを知ると面白いじゃないですか。職人さんの技術がこんな表情の生地を作りだすんだと分かれば、知らない時とでは見え方が変わってくるし、ただの高級なスカートじゃなくなります。お客さんにより身近に感じてもらえるようにやっていきたいなと思っています。

― ファッションブランドというカテゴリを超えている感じがありますね。

そうなんです。だからファッションを売るのではなく「文化を纏う」という表現を発信しています。

― なるほど。文化を纏う、文化を知るきっかけを作って、昔ながらのものに改めて光を当てるという活動をされているのですね。今後、大河内さんがチャレンジしてみたいことはどんなことでしょうか。

ワークショップや体験のほかに、日本には面白い生地やテキスタイル、それに技術がまだたくさんあると思うので、それらを見つけていきたいですね。あとは、もう少しレナクナッタの地名度をあげて職人さんに「レナクナッタを頼ればいいんじゃないか」って思ってもらえるようなブランドになりたいです。

近いところでは、デッドストックのレザーに着物を組み合わせた商品を発売予定です。牛のレザーは畜産物の副産物なので、実は牛乳や牛肉を私たちが口にする限り生じるもの。せっかくいただく命、無駄なく使うことが1番のエコだと考えています。それをSNSで投げかけたら、「知らなかった」「レザー製品を買わないようにしていたけど、欲しいものを大事に使えばサステナブルなんだ」というご意見がきて、知るきっかけを作ることは大事だと感じました。このプロジェクトにはクラウドファンディングを使うことを考えています。ECの商品ページよりもクラウドファンディングのランディングページに書かれたストーリーのほうが、文章は長くても読んでくれる人が多いので熱量が伝わりやすいと思っています。楽しみですが、ドキドキしますね(笑)

メンズライン「cravatta by renacnatta(クラヴァッタ・バイ・レナクナッタ)」での新たな展開も注目だ

日本とイタリア、ふたつの国に共通する「古くて良いもの」が作り手、売り手、買い手にとって価値あるものになり、産地を盛り上げていきたいという大河内さんの想い。「技術に触れる」「文化を知る」きっかけを作り「文化を纏う」機会が増えていくことを願っています。現在挑戦中のクラウドファンディングもぜひご覧ください。また、クラヴァッタ・バイ・レナクナッタでは、想いに共感いただけるビジネスパートナーを募集しています。こちらより詳細をご確認の上、ご興味があればぜひご応募頂けますと幸いです。

撮影:渡邉力斗(Seep)

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cravatta by renacnatta

cravatta by renacnatta

cravatta by renacnatta(クラヴァッタ・バイ・レナクナッタ)は着物のアップサイクルがテーマのファッションブランドです。