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「CFOの必要性から考えたい、良いものを作り広げる力」クールジャパン渡邊真之助氏

「CFOの必要性から考えたい、良いものを作り広げる力」クールジャパン渡邊真之助氏

渡邊真之助さん
クールジャパン機構投資戦略グループディレクター

文化服装学院アパレルマーチャンダイジング科、米Indiana University Bloomington校Kelley School of Business (学士) 、伊SDA Bocconi School of Management (MBA)卒。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社にて、アパレル業界やテクノロジー・メディア・通信業界の海外事業戦略立案、クロスボーダーM&A、業務改善案件に従事後、2014年2月に経済産業省管轄の政府系ファンド クールジャパン機構に入社。クールジャパン機構では、ファッション・ライフスタイル、メディア・コンテンツ領域における国内外の投資を担当。

クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)の投資戦略グループディレクター、渡邊真之助さんにインタビュー。ご自身の希代なキャリアストーリーからファッション業界におけるwithコロナ時代の経営課題とCFOの必要性、海外進出のものさしや渡邊さんが手掛けるプロジェクトについてお話を伺いました。

文化を卒業後、海外でMBAを取得しコンサル業へ―そのきっかけとは?

−渡邊さんは、ファッションを軸にキャリアアップのために様々なスキルを積み重ねていらっしゃいますよね。

服が好きで文化服装学院に入学しましたが、この業界で働いていく未来を考えた時に「英語ができないと、日本国内のファッション事業にしか携われない」と気付きました。当時周りの方からアドバイスを貰い、それがきっかけとなり卒業後は英語の勉強のためイギリスに渡りました。それから一年程で英語は話せるようになるのですが、結局学位がないと自分が良いと思える仕事には繋がらないんですよね。

−そこでファッションビジネスを学ぶため、アメリカの大学に進学された。

ファッションに特化する必要性はなかったので、アメリカの大学でビジネスを学び、国内のコンサルティングファームで働いた後、イタリアでMBAを取得しました。就職に関して考えた時には、ファッションの企業では会社内でしか自分の可能性は広がらないのでは?と、発展的に目線やこれまでの考えが柔軟に変わっていきました。ファッションに限らず、企業が抱える問題を解決するコンサルタントとして、経営層に近いポジションを目指したことが今に繋がっています。

withコロナ時代に見据える経営課題

-ファッション業界は、新型コロナウイルス感染拡大による営業自粛もあり、一層厳しい状況ですが、渡邊さんの視点から考える経営課題を教えてください。

ファンド担当者の目線で言えば、ファッション業界も他業界と同様、良いものを作ってもDXを進め、デジタルマーケティングで認知度を上げないと当然売れません。この辺りにより注力する必要があるように感じます。

また、個人的にクリエイションの面で感じている課題は、今は世の中に洋服が増えていて、とにかく尖ったものを発表しないと埋もれてしまう時代ですが、大手のアパレル会社でのクリエイション力は決して上がっているとは言えない状況だということです。幾つか理由があるかと思いますが、一つは間に入っている商社への依存度が高まりすぎてしまい、世の中にエッジが効いたものが出せなくなっている。

-小さいデザイナーズブランドはどうですか?

ファッション業界は参入障壁が比較的低く、若いデザイナーが独立し、自らのブランドを立ち上げやすい環境にあります。ただ早い段階で独立しまうと、上下関係の中で技術や感性が研磨される機会が減ってしまうことの裏返しを意味しています。結果として、継続して良いものを生み出せない、再現性に乏しいブランドが乱立していると感じますね。経験が浅く知識の幅が小さいので、出来上がるものも薄くなってしまいがちですが、こういう時代だからこそ、しっかりと「服」について理解している人が求められていると感じています。

使えるお金が湯水の如くあれば良いですが、限られたリソースの中でこれらのファッション業界が抱える課題を解決するために大事なことは、お金の流れを理解しながらコントロールできるCFOの存在です。そのような存在がいないと、服を作り続けることも情報を発信し続けることも難しいですし、ブランドを大きくすることはもっと難しい。

ファッション業界におけるCFOポストの必要性

-CFOがいる会社といない会社について、良し悪しを教えてください。

良質なCFOは、身の丈に合いつつも、成長も加味したバランスの良い予算を作ってくれます。一般的なファイナンスの会計財務の知識を持ちながら、会社のビジョンに対しての程度問題が見える人材は重要で、お金の動きを把握して資本政策まで踏み込んでやらないとブランドは成長しにくいと感じます。

-会計・経理担当者とCFOの違いとは?

数字の取りまとめや銀行とのやりとりだけを担っている方は多いですが、違いは資金調達を含む資本政策が出来るか出来ないか。CFOは、公認会計士やコンサルティングファーム、投資銀行やファンド出身者が多いですが、彼らにとってファッション業界に転職するメリットを見出しやすいように、IPOやストップオプションの付与など、それなりのやりがいやインセンティブを提供しないといけないですね。

-実際CFOを紹介した事例はありますか?

外資系投資銀行に務めていた友人を、パリコレでも活躍し、欧州のラグジュアリーブランドとのコラボレーションも話題になった第一線のデザイナーに紹介したことがあります。まずは、一定期間業務委託としてスタートしてもらって、相性や目線が合えばCFOに迎えてはどうか?と提案し、その後CFOに就任されています。

CFOになった友人は、ファッションへの情熱が人一倍あったので、同じような事例を再び出すのは簡単ではないかもしれませんが。

-「NEST BOWL」で業務委託の募集をかけ、CFOを探す手もありますね。

そうですね。小さい会社ではCFOをフルタイムで採用できる予算捻出しにくいので、会社の成長段階にもよりますが、業務委託契約から始めるのもひとつだと思います。例えば月に数回であっても企業の経営課題や成長戦略を一緒に検討してもらうだけで相当な支援になりますし、ブランド発展の機会は増える。ファンドに務めていている方や会計士さんでも兼業OKの方、独立している方も多いので、まずはそういう方を見つけて欲しいですね。

海外進出成功のものさしは、海外の人に求められているかどうか

-海外で成功している日本ブランドは少ないですが、海外進出における課題は何だと思いますか?

皆さんに正しく理解していただきたいのが、ファッション業界で海外市場でも商売が成り立っているブランドは、フランス、イタリア、アメリカ等に限られており決して多くないということ。それが出来ているブランドは、母国でのマーケットで売り上げと認知度をしっかり築いている。その上で生まれたキャッシュを使い、海外に出ています。海外進出は難局の連続だと思いますが、何度もチャレンジを繰り返すのが王道であり、その資金を自国で生み出す力が何より必要です。

-実際にサポートされているブランドで事例があれば教えてください。

投資のパートナーである「45rpm studio(フォーティーファイブアールピーエム)」は、現在国内外に直営店が62店舗(国内44店舗、海外18店舗)あります。彼らには他国で事業をやられている方から「自国で展開したいから、一緒に事業をやってくれないか」という問い合わせが多数きており、その中から、45rpmを深く理解して下さり、一緒に45rpm事業を拡大したいという熱意がある方と、事業を共にされています。ですので、海外に出て行くときに必要なのは、最終消費者とブランドの間にいる現地のビジネスパートナーであり、海外進出成功のものさしは、売り上げや認知はもちろん、現地の方々に求められているかどうか。現地のブランド理解がない限りなかなか成功しないと思います。

-一般的に、アパレル企業が海外進出で直面するハードルは何ですか?

人材不足です。海外でビジネスをするには最低でも英語が必要になりますし、国内とは違って別次元のスキルセットが必要。あとは、現地の声や目線を意識して出て行くことですね。ただ現地に信頼できる方がいれば、このハードルは一定程度クリアできます。進出する国によりますが、まずは現地で卸売りをお願いしながら、その企業との合弁会社の設立を検討するなど、徐々に発展させていくのもありだと思います。

-日本で「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」や「KERING(ケリング)」のような大手複合企業を作ることは可能だと思いますか。

いわゆるヨーロッパが持っているラグジュアリーブランドの集合体を作るのは難易度が高いですが、日本らしさが詰まった付加価値の高いブランドの育成やそういったブランドを束ねる企業を生み出すことは可能だと思います。皆が共通の目標を持ち、人とお金が集まる仕掛けがあれば不可能ではないので、まさにそういったブランドや企業を目指すところがあれば、弊社でも投資をしてフルでサポートしたいと思っています。

-クールジャパンの投資先で渡邊さんが担当されている「シタテル」にはどのような理由で出資したのですか?

現状日本の生産背景は様々な課題を抱えているので、そこに物が安定的に流れてくるようにしないと“メイドインジャパン”の服を作ることが出来なくなってしまい、それによって“クールジャパンが謳えるメイドインジャパンの服”自体がなくなってしまう。そういう背景があって、日本の生産背景を守るべく、縫製の生産背景をITで繋ぎ合わせている「シタテル」への投資が決まりました。

私自身が社外取締役で入っているのですが、具体的には、取締役会に出席して、経営やガバナンスの課題等に一緒に取り組んでいます。また、弊社は官民ファンドであり、どの民間企業にも属していないという高い中立性が特徴であるため、昨年の投資実行以来、シタテルの営業支援を継続的に行っており、すでに50、60社ほど紹介しています。クールジャパン機構の投資先であるということは、企業にとっては何よりの安心材料にもなりますし、社内への説得材料にもなっているようです。

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ファッションと経営、両軸への理解がある渡邊さんの話しから考えたい“良いものを作り、広げる力”。その力となるのは、資金であり、その資金を動かしコントロールできる人材を見つけることが、日本のファッション業界におけるwithコロナ時代にとって最良な選択になるはず。海外進出も視野に考えている方は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

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