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レッドブル・ジャパンCMOの経験を街づくりへ活かす。ダイバーシティが尊重される街・渋谷の可能性を追求するおもしろさとは

レッドブル・ジャパンCMOの経験を街づくりへ活かす。ダイバーシティが尊重される街・渋谷の可能性を追求するおもしろさとは

ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回登場いただくのは、一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長の長田新子氏。前例のないアクティベーションに挑み続けたレッドブル・ジャパン時代の経験から得たもの、渋谷の新しい未来創造を推進する一般社団法人渋谷未来デザインでの活動、そしてWeb3時代のキャリアについてお話を伺った。

長田 新子さん/一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長
神奈川県横浜市生まれ。東京育ち。大学卒業後イギリスに留学。帰国後、AT&T、ノキアにて通信・企業システムの営業、マーケティング及び広報責任者を経験し、2007年にレッドブル・ジャパンに入社。コミュニケーション統括責任者及びマーケティング本部長(CMO)として10年半、エナジードリンクのカテゴリー確立及びブランド・製品を市場に浸透させるべく従事し、2017年に退社。2018年より渋谷未来デザイン理事・事務局長として、都市の多様な可能性を追求するプロジェクトを推進。NEW KIDS(株)代表としてマーケティング・PR関連のアドバイザーやマーケターキャリア協会理事としてキャリア支援活動も行う。

堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な企業、政府系機関、ベンチャーなどのブランド戦略構築に幅広く参画している。

前例のないチャレンジの中、磨いた「巻き込み力」

― 長田さんと言えば、レッドブル・ジャパンのマーケティング本部長(CMO)としてのご活躍がよく知られています。マーケティングの仕事に就いたきっかけは何だったのでしょうか。

レッドブルの前に勤めていた携帯電話会社のノキアで、プロダクトを海外市場から日本市場に投入し、ローカライズするというプロダクトマーケティングを担当していたのですが、そのプロジェクトが撤退したため、広報部へ。広報部ではメディア対応や広報の仕事を任され、それがきっかけでレッドブルからお声が掛かったのです。ですからノキアでプロダクトマーケティングやマーケティングコミュニケーション、広報の仕事の知識・経験を積み重ね、レッドブル入社後はマーケティング全般を統括する仕事を任されたという流れですね。レッドブルでは、コンシューマーマーケティングを学ばせていただいたと思っています。

― 「レッドブル・エアレース」など、レッドブルはかなり独特のマーケティング手法を取っていますよね。そこでの経験から得た学びやご苦労などについて教えていただけますか。

人は、何かワクワクすることによってブランドに対する愛情が湧くのだということを、目の当たりにしました。またイベント開催やキャンペーンを単体で捉えるのではなく、全部つなげていく。レッドブルでは、スリーシックスティアクティベーションと呼んでいたのですが、本当の意味でのマーケティングというか、全社をつなぎ、一緒に何かを成しえることも学びました。

ただ、常に誰もやったことがない新しいチャレンジを目的としていたため前例がなく、全てにおいてゼロベース、ゼロ位置からのスタートでした。たとえばエアレースを千葉の幕張海浜公園で開催できるなんて、誰も予想しなかったと思います。当然ながら1年やそこらの準備では実現などできません。数年かけて行政や関係各所に交渉し、説得し、それでもなかなか許可が下りない。その年に提出したビジネスプランを遂行できず、実施時期がずれてしまうわけです。海外では比較的簡単に許可が取れるので、「日本はなんでできないの?」「もっとできるんじゃないの?」と言われてしまうんですよ。そんな苦労をした分、成しえた時の達成感は500%と言っていいくらい大きかったですね。

レッドブルはさまざまなスポーツとの取り組みをブランディングに活用することで有名だが、モータースポーツのF1にも関わった長田氏。

― レッドブル時代のチームメイトだった方々から「新子さんはチームをまとめ上げるのが非常に上手」「チームを一つにする巻き込み力がすごい」と伺いました。チームビルディングやチームで困難を達成することに対して、心掛けていらっしゃることはありますか。

「みんなに任せる」でしょうか。私よりいい意見やアイデアを、スタッフたちはたくさん持っています。ですから、上司部下の関係ではなく、できるだけフラットに接することで、「言える環境づくり」を大切にしていました。たとえ発信者が大学生であっても、いい意見であれば、「やろう!やろう!」と、自分の権限でできることは極力実現させていきました。そのことが、みんながひとつになるモチベーションになっていくんですね。レッドブルで学んだのは、ハンブル(謙虚)です。ドミナント(支配的)な態度はダメだよと。所詮人間はひとりでは何もできません。そもそも自分がリードするより、巻き込む方が好きですし。巻き込まれた人は迷惑かもしれないですけれど(笑)。

企業と行政・街をつなぎ、街づくりプロジェクトを推進

― 現在は、活動の主軸を渋谷未来デザインに置かれているとのことですが、渋谷未来デザインの役割やミッションについて、教えてください。

渋谷未来デザインは、2018年4月に設立された渋谷区リードで生まれた初の一般社団法人です。官民連携や産学官のイノベーションの重要性は認識されていたものの、行政が一つひとつの企業に深く向き合うのは非常に難しい。そこで、民間の活力を用いたよりよい街づくりを、行政がバックアップしていくオープンイノベーションの推進組織として立ち上げられました。私自身、レッドブル時代に行政と向き合った経験があったため、この組織の設立のお話を聞いて、「ここで役に立てることがあるんじゃないか」と考えました。実は6ヶ月間、ボランティアで立ち上げもやったんですよ。

― 長田さんは主にどのような活動をされているのでしょうか。

参画いただいているパートナー企業約100社の方々と街をつなげるのが私のミッションです。行政・地域が持っているアセットと企業が持っているアセットを常にチェックして、街づくりにつながるプロジェクトを企画・推進しています。プロジェクトはソーシャルイノベーション的なものや元々私がやっていたようなスポーツ事業、最近よく話題に出る「バーチャル渋谷」のようにメタバースで新しい街のあり方を考えるものなど、さまざまです。

行政の場合、可能性に対してバジェット(予算・運営費)が付きません。私たちの仕事は、新しい可能性を構想して、実験して、それが実際の事業として成り立つところまでつくっていくこと。プロジェクト自体は民間の支援を受けていて、助成金を受けたりもしています。要するにお金を取ってくるのも私たちの仕事なんですよ。ですから営業はめちゃくちゃやっています(笑)。

多様性を受け入れ、新しいカルチャーを生み出す「渋谷」

― 渋谷というと、東京の中でも文化の発信拠点という印象が非常に強いですよね。たとえば90年代のギャル文化・ギャル男文化だったり、109だったり。若者文化発信の源泉というイメージがあるのですが、現在の渋谷は文化的にどのような位置付けなのでしょうか。

私はダイバーシティだと思っています。若者、外国人、労働者等々、多様な人々が「なんだか渋谷は居心地がいい」と言う。以前タレントのryuchell(りゅうちぇる)さんが「自分は沖縄にいた時すごく生きづらかった。でも原宿に来たら、自然体の自分でいても誰からも何も言われない」とおっしゃっていました。そんな包容力が渋谷のひとつの文化をつくっているのではないでしょうか。そして「渋谷だからできる」ものをどんどん生み出し、ファッションや音楽だけでなく、スタートアップとか、新しい社会のあり方とか、いろいろなものが積み重なって文化ができてきている。みんなが自分から発信できるカルチャーがあるのではないかと思いますね。ですから私、渋谷区基本構想の「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というスローガンが大好きなんです。

「一人ひとりの違いが一緒になると力になる。渋谷にはそんな土壌がある」。そう長田氏は語る。

― 興味深いお話ですね。今までPoC(Proof of Concept)を回した中で、おもしろかった案件や、実はこういうことがすでに実現できてるんだよねといった実例はありますか。

「バーチャル渋谷」ですね。渋谷って来訪者が多い街じゃないですか。でもコロナ禍で、驚くほど人がいなくなりました。街が死んでしまうと感じたほどです。そんな様子を見て、今までとは違う街やコミュニティのあり方を考えなければと、KDDI含めたパートナーとつくったもうひとつの渋谷が「バーチャル渋谷」。渋谷区公認の都市連動型メタバースです。

「バーチャル渋谷」では地下にライブハウスをつくり、100組のアーティストのライブを開催したのですが、このような形でリアルとバーチャルがつながれば、新しい何かが生まれていくのではないかという、大きな可能性を感じました。

スクランブル交差点をバーチャル化しても価値が生まれる、そんなアイコニックな場所としての渋谷の可能性。「バーチャル渋谷」をやらせてくれる行政の可能性。それを受け入れてくれる街の可能性。民間企業と一緒に組んで、後押ししてくれる渋谷という街だからこそ、できることが広がっていくのだなあと。

※PoC (Proof of Concept)とは新しい概念や理論、原理、アイデアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションのこと。

バーチャル渋谷は、渋谷区公認の「第2の渋谷」。日本におけるメタバースの先駆的取り組みとして、注目を集めている。

バーチャルでもリアルと同じワクワクやコミュニケーションが生まれている

― なるほど。先ほどの包容力のお話につながりますね。さて、Web3時代を迎え、メタバースやNFTといった文脈がすでにトレンドになっています。これからは社会に実装されていくフェーズになると思うのですが、長田さんご自身は、Web3時代をどのように捉えていらっしゃいますか。

大企業とかビッグスポーツとかではない、小さなものが花開いて、グローバル規模で新しいものが生まれる可能性を見てみたいですね。DAO(分散型自律組織)やWeb3時代の個人のあり方、誰にでも何かができる可能性といったもので、みんながエンパワーメントされるようなことをやりたいです。

ただ、Web3は自分には遠い領域だと思っている人々もいると思います。でも「百聞は一見に如かず」です。たとえばメタバースなら、まずは1回アバターになって、その世界に入っていくことにトライしてほしいと思います。今はスマホでもできますから。そこからイマジネーションが生まれていきます。

先ほど「バーチャル渋谷」でライブを開催したお話をしましたが、リアルの渋谷はライブハウスに行くまでの道も楽しくて、ワクワクするんです。そして目的地に着き、ライブが始まったら、一気にエネルギーが放出されますよね。メタバースの中にもそうした動線をつくったのですが、初めて来た人はやっぱり迷ってしまう。すると誘導してくれるアバターが現れたのです。制作サイドの仕込みではなく、ボランティアのアバターです。リアル世界では道に迷ったら教えてくれる人がいますよね。バーチャルでもリアルと同じような楽しさやコミュニケーションが生まれた。これはすごいことだと思うのです。

※Web3とは、「分散型インターネット」と称される次世代のインターネットのこと。

「上」ではなく「横」へ。自分の経験を社会に活かすという発想を

― ところで、長田さんはご自身をどういうタイプの人間だと思われますか。

ミーハーですね。常におもしろいこと、自分がやったことがないものに対して興味があるんです。興味を持って話を聞くとすごくおもしろくて。引き込んでくれる人もいるし、逆に自分が周りを巻き込むこともありますね。知りたいし、オタク気質でもあるので、ハマるとそれを突き詰めるタイプ。そういう意味でのミーハーです。きっとマーケターはみんなそうだと思うんですよ。また、自分と違う人にも興味があります。全く違う意見を持っている人、全く違うことをやっている人、トランスジェンダーの人にも。時々「無邪気にいろんなことを聞いているよね」って言われたりします。

― 特にこの2、3年のコロナ禍で、キャリアに対する考え方や働き方が大きく変化しました。これからの自分のキャリアをどうデザインしていけばいいのか悩んでいる方々に、アドバイスをお願いします。

私は上に昇っていきたいというよりは、横にキャリアを広げていって、最終的には自分の持っている経験が、行政・街づくりも含めて、社会に活かされるようになりたいと考えています。今ここで自分がやっていることがこれからの社会にどう活かされるのか。もう少し遠いところを見ながら考えることで、何かが見えてきたり、なんとなくやっていることがチューニングされたり、もしかしたら何かの決断につながったり。そういうことが起こるのではないでしょうか。

上に昇れば権限が持てるのは事実です。でも非中央集権型システムであるWeb3の時代は、個人で権限を持つことができます。上に行かなくても、自分で権限を持って何かができる時代が、すぐそこまで来ています。

文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba

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