ファッションブランドのKPI実態調査! 某有名ラグジュアリーブランド販売員8名にASK―販売現場におけるKPIのリアル
近年当たり前に使われている“KPI”というワード。KPIの指標はビジネスモデルによってさまざまで、ファッションの現場=販売現場においてはブランドや業態によってかなり違いがある。今回はそんな販売現場のKPIについて、エーバルーンコンサルティングの五十野氏が解説。某有名ブランドの販売員にアンケートをとった実態調査の内容も必見だ。
五十野 正人さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 シニアヴァイスプレジデント
大阪府出身。大学卒業後、セレクトショップにて販売、外資系ラグジュアリーブランドにてマネジメント職を経験。2011年にエーバルーンコンサルティング入社。大阪オフィスに在籍し、自らのネットワークを活かし、マネジメントからストアオペレーションまで全国のショップ系求人を担当する。
KPIってそもそも何?ファッション業界で使われるようになったのはいつ?
― そもそもKPIの定義について教えてください。
KPI=Key Performance Indicator、日本語では「重要業績評価指標」。目標を達成する経過における達成度合いを計測し、監視するために設置する指標のことで、その指標は組織の特性や戦略によって大きく異なるものです。私は2011年頃まで10年以上ラグジュアリーブランドの販売職に携わっていましたが、当時はKPIというと、いわゆる客単価・セット率・来店客数など、ごくベーシックなものしかなく、KPIという言葉自体使っていませんでした。計測の仕方も、自分たちでアナログに客単価やセット率を出して、来店客数なんかは手でメモをとっていたほど。それをエクセルに入れて月次レポートは出していたものの本部からそれに対してフィードバッグがあるようなこともなかったです。
― ファッション業界でKPIが一般的に使われるようになった背景は?
いろいろな背景があると思いますが、ファストファッションブランドの影響は大きいと言えます。彼らは接客で売上をとるのではなく、データをもとに店舗の動線づくりやVMDで売上をとっています。多くのラグジュアリーブランドなどと異なり、日単位ではなく“時間単位”で客数や客単価・セット率・CV率などをウォッチするので、KPIはかなり重要です。ラグジュアリーブランドで一般的にKPIが使われるようになったのはこの5-6年ではないでしょうか。
―販売現場でよく使われるKPIの指標とは?
さまざまなKPIがありますが、一般的に使われるものは
CVR(Conversion Rate)=購入率
UPT(Unit per Transaction)=セット率
AUR(Average Unit Retail)=1点あたりの単価
AT(Average Transaction)=1人あたりの客単価
などです。KPIにもトレンドがあるので変化していきますが、今の時代よく重視されているのは、AUR。長く愛用できる、本当にいいもの=高額品の販売をすることでブランド価値の醸成を図る背景があると思います。
― 今回某有名ブランドの販売員の方々にアンケートをとられたそうで、とても興味深い結果ですね。
驚いたのは「KPIは特にない」という販売現場があったということ。またKPIはあるものの、戦略的に本部から指示があるわけではないというブランドもありました。ブランドによって、そして扱う商材によっても大きく異なることがわかりました。
<販売員8名にアンケート!販売現場におけるKPIの実態調査>
ユニークなKPIとしては、富裕層の高齢化の背景もあり、Gen-Z世代への販売をしたかどうか、また特定のデザイナーの商品を売ったかどうかといった、ブランドの戦略をかなり細かく落とし込まれたKPIです。また、購入に至らなかったお客様の名簿獲得までKPIになっているブランドもありました。これまで購入者だけに名簿獲得していたハイブランドなども、新しいお客様の獲得に力を入れていることがわかります。
さらにはミステリーショッパーの評価ポイントがKPIになっているブランドもありましたが、ミステリーショッパーで見るポイントも変化してきているのが特徴です。以前は何着提案したか、クロスセールスができているか、などが重視されるポイントでしたが、最近はH社のようなミステリーショッパー(お客様)がどれだけ楽しい時間を過ごせたか、幸せな時間を過ごせたか、といったものが重要視される傾向にあります。
― ブランドによってここまでKPIの内容は変わるのですね。
なかでも究極のKPIだな、と思ったのはD社のようなラグジュアリービジネスモデルを追求することでした。どこのブランドもエルメスやシャネルといった究極のブランドを目指していますが、それはなぜかというと欲しいと思っても、いつ行っても商材がない点=いくら高額なものでも皆が熱望するブランドであり、たとえ欲しいものがなかったとしても別の提案に満足できるブランドだからだと思うんですね。D社はそういった点をKPIに置き、スタッフの育成に力を入れていることがわかります。
コロナ禍における新たなKPIとは?
― コロナ禍だからこそのKPIというのもあるのでしょうか?
ラグジュアリーブランドもコロナによって現場での接客ができなくなったことで、どこのブランドもリモート接客ができるツールを導入しましたよね。そういったリモート接客におけるKPIとして、リモートで何名コンタクトを取ったか。そのなかの何名がオンライン接客につながり、何名が購入に至ったのか。などはどのブランドもデータ管理しています。リモート接客の販売強化として、画面上で商品をできるだけ美しく見せるために機材を工夫したり、商品がよりよく見えるためにモデルを起用したり、こだわっているブランドもあるようです。
― KPIは現場の販売員にとってあったほうがいいものですか?
やはりKPIを達成することで、例えば高額品を売ることでインセンティブが入ってきますし、特定の商品を売ると〇〇%のリターンを得られるなど、販売員にとってのプラスも大きいです。KPIをただ追いかけるだけでなく、きちんと達成することで販売員本人に対するメリットはとてもあると思います。最近ではお店のipadなどで自身の達成状況をは把握できるツールなどで可視化されているので、自分の状況を把握することで、自己分析にもつながります。
― KPIの最大の目的とは?
やはりブランドの経営陣のビジネス戦略をきちんと現場のスタッフに落とし込むことができるのがKPIの最大の目的だと思います。また月間のランキングを出すことでスタッフのモチベーションアップにもつながっていますし、自身の強み・弱みを理解するきっかけにもなります。自己分析によってアピールポイントもでき、昇給の機会や転職時にも活用することができるでしょう。
転職活動に欠かせない、KPIの理解
―KPIの理解は、転職時にも活用できるのですね。
面接に臨むときにもKPIの理解はとても重要です。最近は面接時にKPIを聞くことも多く、どのようなKPIを重視していたか、またどのような達成状況だったかなど、具体的な数値を出すことでアピールにつながります。例えば、ただ「AURを重視していました」と伝えるだけよりも「AURを重視していて、〇ヶ月で〇%UPしました」と具体的な数値を伝えることで面接官の印象は大きく変わります。応募する企業やブランドがどのようなKPIを重視しているか把握することも大切。実際の転職活動に活用したい方は、エーバルーンコンサルティングの転職支援でしっかりサポートさせていただきます。
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