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「特別な腕時計を通して得られる、素敵な体験を広めたい」世界的な専門誌の日本版編集長が教える時計との向き合い方

「特別な腕時計を通して得られる、素敵な体験を広めたい」世界的な専門誌の日本版編集長が教える時計との向き合い方

ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回ご登場いただくのは世界的な時計メディア『HODINKEE(ホディンキー)』の日本版で編集長を務める関口優氏。HODINKEEはベンジャミン・クライマー氏が2008年に立ち上げたブログが発端となり誕生、今では世界の時計愛好家に支持されているメディアである。2019年に『HODINKEE Japan』の編集長となった関口氏は、もともと別の会社で腕時計専門誌の最年少編集長として活躍していた。そんな彼にHODINKEE Japanを運営するハースト婦人画報社が声をかけたのが転職のきっかけだったという。関口氏はどのようなきっかけで時計の世界に魅了されたのか、また今日の時計業界の課題や今後の展望についてお話を伺った。

関口 優さん/株式会社ハースト・デジタル・ジャパン コンテンツ本部 メンズ メディアグループ ウィッチディレクター兼 ホディンキー編集長(写真:左)
埼玉県出身。大学を卒業後、新卒より出版社に入社し、一貫して雑誌畑を歩み、腕時計専門誌編集長を4年間務める。業界最年少編集長ながら、専門誌売上No.1に導く。19年9月にハースト・デジタル・ジャパンに入社して現職。

池松 孝志さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 代表取締役(写真:右)
1980年生まれ。広島県出身。アメリカ留学時代、古着屋のディーラーとして全米各地を飛び回る。国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。代表取締役として主にエグゼクティブ人材のサーチやM&A案件を担当。

読者も編集者も30代が中心、若手の感性が光る時計専門メディア『HODINKEE』

― 最初に現在の会社に入社した経緯からお伺いできますか?

前職も出版社にいて、最後の4、5年は時計専門のメディアに携わっていました。当時、若手を起用しようという会社の方針によって、30歳で編集長になりましたが、日本の時計業界のメディアでは、圧倒的に年齢が若かったんです。

実は現在私が編集長を務めている『HODINKEE Japan』は2019年に日本に上陸、創業者のベンジャミン・クライマーが私の一つ上で、現在40歳です。彼は自分のブログからスタートしてメディアとしてここまで大きくしたという背景があるので、老舗のアプローチとはまったく違う。さらに編集メンバーも皆若く、消費者目線に近いメディアとして非常に人気を博しました。そのため『HODINKEE』のフィロソフィーとしては、日本でもできれば若手といろいろなチャレンジを一緒にしていきたいということから、お声掛けをいただきました。

ブランド時計の価格高騰、デジタル化の遅れ…時計業界が抱える諸問題とは

― 現在、ロレックスの価格が高騰しています。この価格高騰にある裏側の、時計業界が抱える問題についてお伺いしたいと思っています。

価格高騰に大きく作用しているのが、転売問題ですね。お店で新品として買ったものが、すぐ売却できる業者に持ち込まれています。最初はプレ値といっても数十万円つくぐらいのものだったのですが、どんどん値段が上がっていって、3、4倍の価格がつくこともまったく珍しくなくなりました。転売に対して個人が群がり、業者が組織的に買いに行っている、という状況もあります。

― たとえビジネスとして成り立っていたとしても、それは業界としては決して望む状況ではないですよね。

今買いたい人が買えない、という問題ももちろんありますし、ブランド側の目線としては、自社の価値がコントロールできなくなってしまいます。だから転売に関しては排除する方向でかなり動いていて。ロレックス以上にオーデマ ピゲとか、パテック フィリップといった雲上ブランドもその対象になっています。この2社に関しては本当に厳密に、転売をされた商品の持ち主が誰だったのか、どこで販売されたのかといったことが、全部追跡されるんです。

― なぜここまで価格が高騰していったのでしょうか?

最初は特定のモデルの一部だけが人気があって、店頭に並ばない、といった状況だったのですが、今や人気のブランドは店舗に行っても商品が何もないですから。一つには日本のみならず中国やアメリカでの人気が高く、購入する人たちが増えたというのもあります。

そうすると、それまでは興味のなかった日本人もちょっとずつ関心を持ち始める。二次流通の価格が上がって、手放す人も出てきた。ここ2年ぐらいはそういった流れでしょう。

愛用している時計は Cartier のゴールドの TANK

― もう1つ業界の問題としてデジタル化が進んでないそうですが、それはなぜでしょうか?

日本の販売面とわれわれのようなメディア面と、両方でデジタル化が非常に遅れています。日本人の商習慣として通販で高額品を買うことがまだ浸透していないことに加え、ブランドのセールス状況でいうと、時計の販売店が国土面積に対して多い、ということも影響しています。百貨店もありますし、高級時計専門の販売店は、首都圏以外でも各県1つはあって。思い立ったらすぐに時計を見ることができるので、オンラインで買うことがまったく進まなかったんです。

メディア側に関しては、雑誌業界全体に言えますが、日本はプリント媒体が非常に多いんですね。その中で収入的にどこもすごく安泰というわけではないものの、かなり多くのセグメントが存在し続けている状況だと思います。

時計のプロに聞く初心者からの楽しみ方

― 最近の問題というと、時計をする人が少なくなったうえに、スマートウォッチを身に着ける人が増えています。こういったスマートウォッチは御社にとって脅威的なものなのでしょうか?

それこそアップルウォッチが出て、5年くらいはそういうことを言われていましたが、今は役割が分かれているというか。アップルウォッチのようなウェアラブルデバイス系統のものは、機能を求めてお着けになっている人が多い。だから高級時計、機械式時計の代替品にはならないというのが、今、主流な見方になっています。特に機械式時計の本場であるスイスでは出荷本数は減っていますが、トータルの金額、いわゆる出荷額は伸びているので、より高級化に向けた方向に舵が切られているような感じになっています。

おそらくアップルウォッチを競合にするのであれば、それなりの本数やシェアが必要になってくるという判断があったと思うのですが、高級時計に限れば、ジャンルが違うという結論になりました。

― 業界としては、まず時計を持っていただいて、徐々にステップアップしてもらうことが必要そうですね。

それは全体の課題だと思います。やはり若い世代に認知されているブランドは勢いがありますし、商品の提案という意味でも、少し昔のものをやり直ししただけではなく、トレンドになり得るような提案がありますから。しっかりとその接点を持ってるかどうかというのは、かなり大きいでしょう。

― 先日、オメガとスウォッチのコラボレーション時計を手に入れるために、長蛇の列になったというニュースがありました。

オメガとスウォッチのコラボレーションは、今年最大の時計のニュースだと思います。ああいうニュースはみんなが時計のことを知るきっかけになるので、影響力がすごいですよね。若い方は合理的なものを買われるのかな、と思っていたら、自分だけのパーソナライズされたもの、ストーリーがあるものが欲しいという傾向が強いようで。そうなると時計は多くのブランドがありますし、それぞれにストーリーが語られている、というところでもマッチするのだろうな、と感じています。

あの時計は、デザインがオメガのスピードマスターそのもので、手にしてみると樹脂の時計なうえにクオーツだから軽くて。おもちゃみたいなんですけれど、時計の楽しみは十分に味わえます。腕にすると何か高揚する感じがあるんですよね。本当にエントリーモデルとしてよいものだと思います。

― 高揚する気持ちを持てる商品から入ってもらいたいですよね。

だんだんそういう楽しみを覚えたら、物の質感の良さを感じられたらいいと思います、今お勧めできるのはロレックスの兄弟ブランドであるチューダー。価格に対して物がいいです。

また上級者は、何かのタイミングでゴールドの時計をされると、本当に素敵な体験になると思います。別に新品のブランドですごく高いものでなくても構わないんです。例えば100万円という予算を決めて、金の時計を買う、というのはヴィンテージであれば実現できます。一生寄り添ってくれるような存在として、自分に合ったゴールドウォッチはその人のアイコンになるというか。上級者は値段の高い安いではなくて、その方のパーソナリティに合うようなものを探されるといいかな、と感じます。

Omega × Swatch「MoonSwatch」(C)HODINKEE
TUDOR「BLACK BY FIFTY-EIGHT」(C)HODINKEE

「時計が好き」という気持ちを素直に言える、楽しい場づくりをしていきたい

― 中級から上級にいくフェーズで、時計に対しての興味や知識が増えていくので、仲間を作ることができる場も重要になってきますね。

ようやく最近、コミュニティが生まれ始めています。たとえいいものをつけても、分かってくれる人がいないと本当に寂しいものなので。興味を持ってくれる人がいるのは、やはり非常に重要。私たちもまさに『HODINKEE』のコミュニティづくりを積極的に進めているところです。

先日行ったイベントは定員に対して6倍ぐらい応募がありました。例えば、オーデマ ピゲの新作をサンプルで見ることができたり、ブランド自体に興味のある人が集まって。あとは私たちと少し話ができたりもするイベントで、いわゆる交流会です。皆さん居心地良さそうに時計のお話をされて、さらに別の趣味の話題まで広がっていました。

― コミュニティが広がることによって、どんな発展が望めますか?

時計業界も市場もそれほど大きくないので、コレクターの方がもたれる意見がブランド側にフィードバックされたりするんです。ブランド側もそれからインスパイアされて新しい発想で時計を作るとか、より開発が進むという側面があるので、永続的なものだろうなと思います。

― 新しいファンやお客様がいないと業界は衰退していってしまいますが、時計業界は若者のファンを獲得していっているのですね。それはやはり『HODINKEE』さんも大きく関わっていらっしゃると思いますが。

アメリカでは、HODINKEE LIMITED EDITIONとして別注時計の製作も行っています。それこそ名だたるブランド、エルメスやIWC、オメガといったメジャーなブランドとのコラボレーション時計も製作・販売をしているのですが、HODINKEEのアイディアで普段はつくられないようなブランドの時計を製作するなど、愛好家の方に刺さりそうなものをプロデュースしたりしています。

ZENITH「Chronomaster Original Limited Edition For HODINKEE」(C)HODINKEE

― 『HODINKEE Japan』の編集長として時計業界発展のために行っていること、もしくはご自身はどんな役割を担っていると考えていらっしゃるのか、教えていただけますか?

役割は、これから新しく時計に興味を持たれる方や、最近興味を持たれた方が、“この業界は面白そう。楽しそうだな”ということを実感いただけるような発信をすることだと思っています。

それは『HODINKEE Japan』というメディアも同様です。雑誌は書いたライターの名前は掲載されても、編集者の名前は掲載されないことが多いんです。でも私たちは自分の名前で記事を書きます。だから『HODINKEE Japan』の発信というよりも、関口という個人の意見、感想のようなものが、かなり色濃く出る。その中で我々が発信している内容が好きだ、と共感してくださる方々がいらっしゃるので、変にひらたいお話をするより、結構偏った内容の発信を行うと、その層の人が反応してくれます。

時計のことについて詳しくないと話せないとか、好きと言えない、といったことは今の時代にも合わないですよね。私たちは“好きで楽しくて、それでいいじゃない”という形で発信をしていますが、皆さんもそう思ってくださると、より時計の世界のことを楽しめるのではないか、と感じています。

プリントの雑誌を年に2回発行。置いて飾っても楽しめるようなこだわりのある作りになっている(C)HODINKEE

文:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba

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