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一本のヴィンテージメガネが人生の転機に。─「SPEAKEASY」「guépard 」山村将史氏インタビュー

一本のヴィンテージメガネが人生の転機に。─「SPEAKEASY」「guépard 」山村将史氏インタビュー

ファッションアイテムとして確立されてきているメガネは、身につけるだけで自分の顔立ちを変え、装いまでアップデートしてくれる唯一のアイテムだ。なかでも特にファッションラバーに愛されるのが、“ヴィンテージアイウェア”。およそ80年以上も前に作られ、その巧みな技術、時代背景まで受け継がれ、愛されるヴィンテージものは、一方で素人には敷居が高くも感じる。そんなあらゆる人向けにヴィンテージ目利きのプロが新たに立ち上げたのがオリジナルアイウェアブランドの「guépard (ギュパール」だ。ヴィンテージを限りなく再現し、現代に落とし込むことがコンセプトの同ブランドの立役者となったのが「SPEAKEASY(スピークイージー)」の山村将史氏。今回は、山村氏が「スピークイージー」を立ち上げるまでと「ギュパール」創設の裏話を伺った。

山村将史さん/株式会社GIROUETTE 代表取締役CEO
ヴィンテージアイウェア専門店「SPEAKEASY(スピークイージー)』オーナーとして神戸と青山に2店舗を展開する。主に1940〜1950年代のフレンチヴィンテージのデッドストック(未使用品)のみを取り扱い、国内の数少ない専門家としてさまざまなフレームを日本に紹介。2016年にオリジナルアイウェアブランド「guépard(ギュパール)」を仲間と立ち上げる。
SPEAKEASY:@speakeasy_kobe@speakeasytokyo_official
Guepard:@guepard_jp

アメリカで見つけたヴィンテージのメガネが引き合わせた運命。

― 山村さんがアイウェアに心酔するきっかけを教えて下さい。

もともとは服に興味がありファッションの専門学校に通っていたんです。いつかお店をやりたいと考えていて、そのためにはシンプルに「英語を話せないと無理だな」と思い、2001年にアメリカに留学しました。最初は1年で帰るつもりだったんですが、1年が経ってもまだ勉強したい気持ちが強くて、田舎の短大に通いました。短大を卒業してからの1年間は就労ビザでアルバイトをしながらお金を貯めて、ニューヨークに渡ったんです。

イーストビレッジにあるセレクトショップの会社に就職して、働きました。もともとそのお店はニューヨークに行った時に働けたら嬉しいなと思っていたお店で、自分がやりたかった最初の仕事だったので満足していたのですが、働けど働けどなかなか給料が上がらず(苦笑)。やりたいことをやれていてたのしいけれど、苦しい生活をしてまでこの生活を続けるべきが自問自答を繰り返していた時、なぜか急に、少しづつ貯めていたお金で、ずっと好きだったメガネを「買おう!」と思ったんですよね。

そのときに出合ったのが、10代の頃に憧れていた「CAZAL(カザール)」のデッドストックのメガネでした。当時は日本に戻って服の仕事をしようと思っていたんですが、そのときに服よりもメガネのほうが好きなことに気づいたんです。まだ世の中的にも市民権を得ていないヴィンテージアイウェアに大きな可能性を感じて、そこから日本でヴィンテージアイウェアを取り扱う会社を立ち上げることを決めました。

― まさにメガネが引き合わせてくれた転換期でしたね。SPEAKEASYスピークイージー)の成り立ちを教えてください。

2008年に帰国した頃は、お金がなくて。けど、収集していた「カザール」のアイウェアだけはめちゃめちゃもっていたんですよね(笑)。なので、それを元手にオンラインで販売したり、バンコクの友人のお店でトランクショーをやったりして資金を貯めて、2012年に「SPEAKEASY(スピークイージー)」を立ち上げました。

― 「SPEAKEASY」のこだわりとは?

主に1940〜1950年代のフレンチヴィンテージのデッドストック(未使用品)にこだわり、さまざまなフレームを取り扱っています。フレンチヴィンテージのこの年代にこだわっているのは、メガネがファッションアイテムになりはじめたのが1960年代頃なのですが、それよりも以前の1940〜1950年代に作られたものが実に素晴らしい。黄金期で、高いデザイン性や着用する人のことを考えた一目ではわからない仕上げが手作業で行われていました。そしてそれらは現代のアイウェアの源流だと言うこと。あと僕が一番フレンチにこだわっている部分は、アジア人の顔に乗せても負けないと言うところです。

“丁寧に売る”ことがバイイングにつながっている。

― その当時のものはなかなか再現のできない貴重なものなんですね。なかでも一番貴重なものを教えて下さい。

これが1940年代のフレームになるのですが(※写真下)、パッと見て「デザイン性がある」という感じが滲みでていますよね。一体これがなんのためにデザインされて、どんな人が使っていたのか? 最初オーダーメイドかと思ったんですが、1本だけじゃなく、いくつも作られている。そういう背景を考えるのも面白いですし、一見わからないほどの貴重な細工が施されている、とても貴重なものです。

こうしたデザインのものは今では50万円程の価値があります。細かいデザインも直接見ないとわからないしサイズもあるので、実際に見てもらうことが重要です。だからオンラインでの販売は基本しておりません。

貴重な40年台のフレンチヴィンテージフレーム

― こんなに多くの貴重なアイテムをどのようにして、仕入れられるようになったんですか?

最初はe-bayとかで買っていました。古いメガネをたくさん買うと、少しずついろんなディーラーから「もっとたくさん持っています」と連絡が来るんですね。すると海外のディーラーからどんどんオファーが来るようになって、世界中に広がって、とあるフランスのディーラーとつながり現地を訪れるようになりました。彼はフランスのジュラ(メガネの産地)の人で、家族や友人など周囲の人がメガネ職人の人も多く、デッドストックを集め出したときからディーラーとしての生活がはじまったそうです。

― なぜその人は“山村さんに”売ってくれたのでしょう?

きっと誠意を感じてくれたのだと思います。最初、彼らはものの価値をよくわかっていなくて、売値がものすごく安かったんです。だから、「これはこれだけの価値があるものだから、もっと高く売っていい」と言ったんですよね。そこから関係が深まって、滞在用のホテルを手配してくれたり、お酒を飲んだり、いろんな話をするようになりました。それはやっぱり僕たちが“丁寧に売っている”ということが大きいと思います。「SPEAKEASY」は対面で販売するシステムなので、いいものをいい空間で、いい会話で、嘘のない販売がしたい。たまにこのバーカウンターでお酒を提供しながらお話することもあるんですよ。

地下にあるとは思えない開放的な店内。バーカウンターもあり、くつろぎの空間が広がっている

フレンチヴィンテージの目利きのプロだからこそのオリジナルアイウェアブランド「guépard」。

― そんな山村さんがオリジナルアイウェアブランドも立ち上げましたね。

2016年に「guépard(ギュパール)」を立ち上げました。僕と札幌のヴィンテージ眼鏡店「Fre’quence(フリークエンス)」の柳原と、神戸のビスポークアイウェア専門店「めがね舎ストライク」の比嘉の3社がチームとなって、フレンチヴィンテージの独創性のあるデザイン、細部への作り込みなどを再現するオリジナルブランドを作りました。

フレンチヴィンテージは再現性のない唯一のものである一方、同じものが製造できない以上、やがては無くなってしまう、有限な存在です。フレンチヴィンテージの素晴らしい世界観をより多くの人にどうにか紹介できないか、そう考えているときに「フリークエンス」の柳原から提案をもらいました。僕は最初、どう頑張ってもヴィンテージを超える再現ができるはずがないし、デザインだけの側面でオリジナルを出すのは安易な考えだから嫌だと思ったんですが、やはりヴィンテージであるが故の不備、サイズや物量の問題は尽きない。であれば、フレンチヴィンテージの高いデザイン性と本質を理解した僕が、リスペクトを込めて作ろう。そう思い、「guépard(ギュパール)」をスタートしました。今では、公式オンラインストアと、70拠点の卸先で販売をしています。

― 精通している人たちでやるからこそ、価値があるのでしょうね。

ヴィンテージアイウェアのお店がヴィンテージスタイルのメガネブランドをしているのは世界でも僕らくらいではないでしょうか?やっていたとしても、ヴィンテージをソースにモディファイするところがほとんど。僕らが秀でているのは、ヴィンテージが持つ“細かいディテールがよく見えている”ということなんです。だから立ち上げからずっと挑戦し続けているのは、“そのまま再現”すること。ただ、ヒンジ(メタルパーツ)などは高くなりすぎてしまうので、コストを抑えつつ、再現できるようにしていますが、あくまでデザイナーは当時の職人。僕らはそれをいかに現代に蘇らせられるかというところに力を入れているんです。

これは8mmのフレーム(※写真下)で、かなり厚みがあるんですが、それが厚く見えないように山を強く作って、前からみるとほぼ厚みが見えないようにしている。当時のものは山の確度も上と下で違ったりするのですが、それを見抜くことができる僕らが少しでも再現できるようにこだわって作っています。そして、ヴィンテージ特有の悩みであるサイズ感はデザインバランスを損ねないギリギリに調整しております。

オリジナルブランド「guépard」の8mmフレーム

“いいもの”を日本に広めていきたい。

― ヴィンテージを知っているからこそ見える細部のディテールがあるということですね。

いわゆるヴィンテージの模倣品と比べてもらうと、ぜんぜん違うと思います。今、僕がかけているメガネがハマるきっかけになったアイテム(※写真下)なんですが、フレンチのメガネが好きな人はほとんどこれを機にはまると言われるほどの逸品です。シンプルだけど奥行きがある。不思議と、メガネに詳しくない人でもこれを直感でいいものだと感じて手に取るんです。メガネには詳しかったが、フレンチのことをあまり知らなかった僕も最初はそうでした。

― これだけのこだわりを身近に手に取ることができるってすごいですよね。

これまではこだわりがある人だけが好みがちだったヴィンテージメガネですが、「ギュパール」で多くの方にファッション感覚で取り入れていただけるようになって、とてもうれしいです。少しでもヴィンテージアイウェアの魅力が広くの人に伝わればいいなと思います。

― 山村さんの今後の展望は?

今までも単純に「いいものを紹介したい」という想いでやってきて、それがたまたま好きだったメガネだったので今の仕事をさせてもらっています。これからも自分の得意なことで喜んでいただきたいと思っています。今はメガネだけですが、メガネ以外にも例えばライフスタイルなど、自分が経験したことをベースに、知っていること、価値観などを日本にどんどん紹介していきたいなと思っています。

― ありがとうございました!

撮影:加藤千雅

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