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JOURNAL

クオリティにこだわりぬき、数々の人気レストランをプロデュース。常にアンテナを張り、興味あることを探究し続ける

クオリティにこだわりぬき、数々の人気レストランをプロデュース。常にアンテナを張り、興味あることを探究し続ける

ライフスタイルに影響を与えていくカルチュラル・エンジニアリング・カンパニーとして、新しい遊び場を生み出し続けている株式会社トランジットジェネラルオフィス。同社において数々の人気飲食店のプロデュースを手掛けているプロジェクトマネージャー 丸山明子氏に、プロジェクトマネージャーとしての仕事やこだわり、フードやライフスタイルの探求、常にクリエイティブでいるための秘訣などについて、お話を伺った。

丸山 明子さん/株式会社トランジットジェネラルオフィス Transit Branding Studio PROJECT MANAGER
武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科。アトリエ系設計事務所勤務、フリーランスを経て2015年入社、プロジェクトに関わる全ての事柄の監理・ディレクションを担当。前職の経験を生かした設計デザインに関わる業務や、VMDなどのスタイリング、テーブルコーディネート等を得意とする。趣味は旅で、各地方の食や音楽、建築・アートを巡ること。
公式HP:https://www.transit-web.com/

海外ライセンスやブランド店舗など多彩なジャンルの飲食事業を展開

― 株式会社トランジットジェネラルオフィスについて、ご紹介いただけますか。

メインは飲食事業を展開する会社として、約120店舗を運営しています。加えて、ブランディング・プロデュースの事業の他、イベントプランニング、ケータリング、人材紹介などを手掛けるグループ会社で構成された企業です。

― 120店舗ですか。それはかなりの数ですね。

加えて、ほとんど全て業態が違うんです。同じ店舗をチェーン化していくのではなく、出店する場所に合った業態を都度開発したり、海外から探してきたり、自社の完全オリジナル直営店舗もあれば、クライアントから受託運営している店舗もあったり。ファッションブランドや自動車メーカーなど、自社で飲食機能を持たない企業と組み、飲食店のプロデュースや運営を受託するケースもあります。

― たとえばどんな企業と組んでいるのか、いくつか事例を教えていただけますか。

最近では神戸阪急新館にオープンした、クロエのクラフトアイスショップ「クロエ・ル・グラシエ(Chloé Le Glacier)」のプロデュース、同じくリシュモンジャパンのダンヒル銀座本店併設の「ダンヒルバー(dunhill BAR)」の運営のほか、六本木にあるメルセデス・ベンツのレストラン「メルセデス ミー 東京 アップステアーズ(Mercedes me Tokyo UPSTAIRS)」など、その他にホテル系や鉄道、大学や企業の食堂などジャンルを問わずたくさんの企業様とお取り組みさせて頂いております。

都ホテル博多のメインダイニング「SOMEWHERE RESTAURANT & BAR」
NINE by Lacime / THE UPPER

― 丸山さんの所属部署であるTransit Branding Studioでは、具体的にどのような事業を行っているのですか。

Transit Branding Studioは、最初のマーケットリサーチ、プロジェクトの軸になるコンセプトの設定から、ブランド戦略、メニューの方向性、インテリアの方向性、グラフィックデザインやBGM、ユニフォーム、事業計画などをトータルで行い、その内容に合わせて各種クリエイターをアサインし、企画進行、予算管理などを行なっています。

最初のコンセプトメイクから、店に置かれる備品の一つ一つまで、領域を横断して店づくりに必要な要素全てにコミットし最後まで一貫して俯瞰する旗振り役といった形の、プロジェクトマネジメントとクリエイティブ全般のディレクションですね。あとはオペレーションの計画に関しても、オペレーションサイドのメンバーと連携して進行します。当たり前ですが飲食店はオペレーションが重要で、そこがきちんとできていないと店舗として機能しないので入念に行います。

メンバーのバックグラウンドとしては、設計者やフォトグラファー、グラフィックデザイナー、もともとは店舗でサービスを経験したメンバーなど様々なバックグラウンドのメンバーが在籍しています。

バルセロナ発のレストラン、ラグジュアリーブランド初のアイスクリームショップなど数々の人気店をプロデュース

― 丸山さんご自身の実績についてお伺いします。どんなプロジェクトに携わり、どのようなプロデュースをされてきたのですか。

まず、今私達がいる「チリンギート エスクリバ(XIRINGUITO Escribà)」。ここはインターナショナルライセンス店舗として、海外の優れた飲食店とパートナーシップを組んで展開している店舗の1つとなります。スペイン・バルセロナでいちばん美味しいパエリアを提供するシーフードレストランとして30年以上地元の人々に愛され、観光客にも人気のレストランを渋谷にオープンさせました。

他の海外ライセンス店舗には、オーストラリア・シドニー発、東急プラザ銀座11Fのモダンギリシャレストラン 「アポロ(THE APOLLO)」、恵比寿ガーデンプレイスの中にある、これもシドニー発のモダンタイ料理レストラン「ロングレイン(Longrain)」なども運営しています。

チリンギート エスクリバの店内でのインタビュー風景 

― 中でも思い入れの強いプロジェクトはありますか。

この「チリンギート エスクリバ(XIRINGUITO Escribà)」がそうですね。基本はバルセロナ本店のスタイルを踏襲しているのですが、そっくりそのままでは日本にフィットしない部分もあるため微調整を加えたり、本店にあるような装飾品が日本では手に入らなくて、自分達で絵の具を塗ってつくったり。壁に飾ってあるお魚のオブジェやポスターなんかはそうやって用意しました。

日本で独自に用意した魚のオブジェ

― 私も以前スペイン人の方と仕事をしていたことがあり、バルセロナにも出張で出かけていたので本店のことも知っているのですが、本店の温かみがこの渋谷の店舗にも表現されていると感じます。コンセプトの部分でのご苦労はありましたか。

本店は海が目の前。まさにチリンギート(スペイン語で“海の家”を意味する)なんです。渋谷という立地では、海の雰囲気が全然ないんですよね。そのギャップをどう埋めるかは課題でした。少しでも“海の家”感が残るように、家具などを海の家仕様のものを選んでいたり色々と工夫をしています。

― その他に、印象に残っている仕事を挙げるとしたら何でしょう?

最近だと、「クロエ・ル・グラシエ(Chloé Le Glacier)」です。神戸阪急新館1~3階のファッションフロアをリニューアルするにあたり、2階のクロエさんからカフェを併設したいというお話をいただいたんです。フランス本国にアラン・デュカスと一緒にやっているカフェがあり、最初はそれを、とのことでした。ただ今回、飲食フロアではなくファッションフロアという区画環境的に難しい事も多かったので、その条件を考慮しつつ、フレーバー・カラー表現の幅が広く、ブランドアイデンティティを表現しやすいアイスクリームショップをやる事になりました。ですから、神戸が世界初です。フランス本国にもないんですよ。

クロエの初の試みとなるアイスクリームショップ、クロエ・ル・グラシエ

徹底的に考え抜き、クオリティにこだわって、長く愛される店舗づくりを

― クロエのような有名ラグジュアリーブランドから、スペインで一番おいしいレストラン、ローカルに根付くようなレストランまで、多岐にわたるプロデュースを手掛けていらっしゃいますが、ご自身のお仕事の流儀があれば、教えていただけますか。

徹底的にクオリティにこだわることです。クリエイティブの部分だけでなく、オペレーションについても、考え抜いてやっていく。それは、自社グループ内にレストランオペレーションを手掛ける事業部があるからこそできることではあるのですが、デザイン会社だけだと難しい飲食の知見を交えつつ作り上げていく。特に細かなKPIが与えられるわけではありませんが、私は長く続き愛されるお店をしっかり作っていきたいということを考えながら仕事をしています。

記録し、人に伝えるという作業が日々の仕事に紐づいていく

― ご自身のインスタグラムの活動、「孤独のグルメ」ならぬ「#孤独のアキグルメ」についてもお伺いしたいです。これは言わば全国、世界のフードやライフスタイルの探究活動ですね。なぜ始められたのか、どういう思いでやっていらっしゃるのかをお聞かせください。

何か明確な意思があって始めたわけではないんです。ただ、色々なところに行って色々なものを食べたことを人に伝えるという作業、言葉にしたり写真に撮ったりする作業は、自分が普段やっている企画や業務に少なからず紐づいているなとは思います。 それに、このお店の何がおいしくてどこがよかったかを詳しく記録しておくことによって、自分の中のアーカイブになっていくし、知人から「今度○○へ行くんだけど、おいしいお店ない?」って連絡が来た時に紹介もできますしね。自分の思ったことは正直に書くようにしています。ストーリーでアップしたものをハイライト機能を使って残しておき、都道府県別にまとめたりもしています。

インスタグラムアカウント「孤独のアキグルメ」には様々なお店の情報が並ぶ @a___________k

― デザインや盛り付け、味付けなどは当然として、それ以外にプロの目線で見ているところってありますか。

空間ですね。デザインが凝っているお店ならもちろんデザインを見るんですけど、大衆居酒屋であっても、ものすごく計算されているレイアウトのお店もありますし、厨房とお客さんの関係性なども見ます。本人たちは意識しないでそういう形になっているのかもしれないけれど、すごく優れていると感じることもあります。お客さまの動線、接客するスタッフの動線、どちらも見ます。

― それ以外に、ご自身のブランド、ディレクションのインスピレーションになる活動を何かなさっていますか。

特にインスピレーションを得ようと意識していなくても、日々何かしら気づきがあります。特別な意識をせずともアンテナが常に張られている状態なのだと思います。もちろん美術館巡りなどもしますけど。

普段見過ごしていたものに少し目を向けるだけで新たな感覚・発想が生まれてくる

― 丸山さんにとっては、クリエイティブでいること、アンテナを張り続けることは自然なのだと思うのですが、そうした思考法ではない方々もたくさんいると思います。クリエイティブでいるための秘訣や、どうやったらクリエイティブな活動を産み出すことができるのか、クリエイターではない人々へのアドバイスをぜひお願いします。

そうですね…。普段見ていないものを意識して見るようにしてみてはいかがでしょうか。たとえば毎日行く建物の天井や壁なんかをもっと気をつけて見たりとか。普段なら何も考えずに通り過ぎるところを、違う視点を持って見つめてみるとか。

ご飯を食べた時も、ただおいしいというだけではなく、盛りつけられたお皿を見たり、なんでこのレストランが楽しいのかなと考えてみたり。そういうちょっと違った視点をもつことで、それまでにはなかった感覚や発見、発想が生まれてくるかもしれません。きっと、自分が好きなことに対してなら、みんな自然とクリエイティブになるのではないかと思います。

文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba

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