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グラスはワインの美味しさを倍増させる翻訳機。「リーデル(RIEDEL)」が重視する日本市場での体験型サービスとは

グラスはワインの美味しさを倍増させる翻訳機。「リーデル(RIEDEL)」が重視する日本市場での体験型サービスとは

創業265年以上もの歴史を誇る、オーストリアのワイングラスブランド「リーデル」。世界で初めてブドウ品種ごとの理想的なグラスの形状を開発したことでも知られ、ワインの個性を忠実に再現するグラスを多く生み出してきた。今から20数年前、ワイン黎明期の日本にワイングラスの重要性やワインとグラスの関係性を伝えてくれたのが、「リーデル・ジャパン」代表取締役のウォルフガング・アンギャル氏。来日のきっかけ、日本でのビジネス展開、リーデル社の強みなどについてお話いただいた。

ウォルフガング・アンギャルさん/RSN JAPAN株式会社 代表取締役
1965年、オーストリアのチロル地方クフシュタイン生まれ。ホテルのサービスマンをしていた1985年、大阪で開催された第28回「技能五輪国際大会(World Skills Competition)」のレストランサービス部門に、オーストリア代表として参加。金メダルを受賞する。その後1年間、「辻学園 日本調理師専門学校」で講師を務めるうち、日本の風土に惚れ込み移住を決意。オーストリアと日本をつなぐアイテムとしてリーデルグラスを選び、1989年よりその有用性を広める活動に専念する。2000年「リーデル・ジャパン」(現RSN Japan株式会社)代表取締役社長に就任。グラスとワインの密接なる関係を、最初に日本人に認識させた人物として知られる。

堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な国内外の企業、政府系機関、ベンチャーなどブランド戦略構築に幅広く参画している。

30年以上にわたる日本でのキャリア

― まず、アンギャルさんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか。

私はオーストリアの小さな町クフシュタインで生まれ育ちました。学校を卒業した後はホテルのサービスマンとして働いていました。1985年に大阪で開催された「技能五輪国際大会」にオーストリア代表として参加したことが、日本を訪れた最初のきっかけです。その大会で私は金メダルを受賞したのですが、そのときに本能的に日本との縁を感じたのを覚えています。その3年後に再び来日し、大阪の「辻学園日本調理師専門学校」で講師として1年間働きました。

― リーデルの仕事に携わるようになったきっかけは?

実は、私の故郷クフシュタインにはリーデルの本社があるんです。故郷が誇るブランド「リーデル」の仕事をしたいと思うようになり、働き始めました。そして2000年に「リーデル・ジャパン」(現RSN Japan株式会社)が設立されて、現職に至ります。

― 日本での暮らしをどのように感じていますか。

実は1990年代前半は、日本に対してそこまで魅力を感じていませんでした。というのも、その時代はまだ居心地のいいカフェや飲食店が充実しておらず、退屈な街だと感じていたのです。ただ、2000年以降はそういうお店がどんどん増えて、日本のことをより好きになり、ここでキャリアを築いていこうと決心することができました。日本に住み、働き始めてもう30年以上。私のキャリアの大半は日本での経験となります。

体験型の「テイスティング・セミナー」を展開

― 日本での「リーデル」の展開について教えてください。

日本でのビジネス展開はすべてが挑戦でした。日本のお客様に「リーデル」のワイングラスを知っていただき、体験していただくことに多くの時間と労力を費やしてきたと思います。リーデル・ジャパンにとっては、持続的にそして安定的に発展してきた23年間だったと思います。

― 日本での展開で、特に重視されていることはありますか。

単なるワイングラスのブランドではなく、“体験型”のブランドでありたいと思っています。そのため、リーデル青山本店をはじめ、いくつかの店舗にはバーやセミナールームを設置し、リーデルのグラスの機能を体感できる「テイスティング・セミナー」を実施しています。このセミナーではテイスティングを行いながら、グラスによってワインの香りや味わいが変わる理由、正しいグラスの選び方などをレクチャーしています。ワインの基礎知識やグラスのお手入れ方法も学べる内容です。

ほぼ毎日開催中のテイスティング・セミナー。一人でも気軽に参加でき、ワインの基礎知識も身につく。

― 「テイスティング・セミナー」のアイデアはどうやって生まれたのでしょう?

日本で行っているこの「テイスティング・セミナー」の形式は私の発案で、日本で独自に展開しているものです。日本のお客様は目の肥えた方々が多く、製品に対してとても高い水準を求めます。そういった方々との対話から自然と湧いてきたアイデアです。

― 日本で展開している製品には、日本にローカライズしたものも多いですね。

そうですね。商品開発の面でも日本のお客様のお声を大切にしています。例えば、純米酒や大吟醸、甲州ワインに合わせるのにぴったりのワイングラス、金沢の箔職人とつくりあげた金箔を施したグラスなどを展開してきました。リーデル・ジャパンで扱う10%強の製品が日本で開発されたものです。日本のお客様はサイズ感にこだわる方も多いので、サイズも豊富に揃えています。日本では微妙な差異、サイズの違いを見出し、提案することがとても重要だと感じています。

純米酒に特化したグラス形状を約8年かけて開発した。
金沢で金箔加工を施した「HAKU」

“ワインの持つメッセージ”を届けるブランドとして

― コロナ禍において、ワイン市場やワイングラス市場にはどんな変化がありましたか?

ワイン市場、ワイングラス市場にとってコロナ禍は追い風となりました。家で過ごす時間が増えたことで、ワインがベストフレンドのようになった方も多いことでしょう。それに伴い、ワインについて学ぶ方も増えたと感じます。ワインを楽しむためにワインについて知りたくなり、知るとさらに楽しめる…という好循環が生まれていますね。素敵なワイングラスでワインを飲みたいと思う方も増えたのではないでしょうか。

― そうですね。家飲みの機会が増え、そういった学び、楽しさを体験できるようになりました。

一方で、そういった生活の中では心身の健康を保つことにも意識を向けなければなりません。当社では、ひとりで閉じこもってネガティブになってしまわないように、ワインを通じて喜びを見出し、ポジティブになることを社内で喚起しました。これに関連する、私の中で記憶に残っているエピソードがあります。日本人の女性の方で4ヶ月間家に閉じこもっていた方をホームパーティーに招いたときのこと。シャンパンを開けて、グラスに注いでお渡ししたら、その方が泣き出してしまったのです。きっと、人の温もりを久しぶりに感じたのでしょう。そのときに、1本のワインを数人で飲む、つまり何かを共有することは、“感情の共有”と同じなのだと気づきました。そんな気づきも、先ほどお話した体験型のビジネス展開に繋がっているのかもしれません。

― 印象深いエピソードです。ところで、「リーデル」ではワインとグラスの関係性をどのように捉えていますか?

「リーデル」のグラスは、いわば翻訳機のような存在。ワインそれぞれの香り、味わいといった個性=“ワインの持つメッセージ”を皆さまにきちんとお届けする――。それが「リーデル」のグラスの役目です。「リーデル」のグラスが多くのソムリエたちから支持されているのは、ワインの魅力や個性をうまく引き出せるからでしょう。

― 「リーデル」の会社としての強みはどんなところにありますか?

リーデル社は、ワインのことを熟知し、長年にわたってワインとグラスのコンビネーションを追求し続けてきました。素晴らしいグラスを完成させるためにはたくさんのステップがありますが、それを実現するにはファミリービジネスならではのトップダウンのディレクションが非常にうまく機能していると考えています。一般的な企業では、営業、マーケティング、PRなどの部門ごとでディレクションが揃わないという状況がよく起こりますが、リーデル社の場合はトップが示した方向性に皆が向かうことができています。

― なるほど。組織全体が同じ方向に向かうための秘訣はありますか?

部署がユニット化し、部署同士がベストな距離感を探り、それを保ち続けることではないでしょうか。例えるなら、太陽と地球の位置関係です。太陽と地球の距離はこれ以上近すぎても遠すぎても、私たちは生きていけませんよね。それと同じように、部署間にもベストな距離感があるのだと思います。

― 今後の展開について教えてください。

「リーデル」は、創業265年以上という歴史のあるブランドです。これまで受け継がれてきた高度な技術や知見を次世代にしっかりと引き継いでいくことが重要だと考えています。今後も人々の喜びにつながる製品や体験をご提案していきたいです。

右)ウォルフガング・アンギャルさん 左)堀 弘人さん

文:鈴木 里映
撮影:Takuma Funaba

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