「#AAAA鉄腕アトム」プロジェクトに抜擢!日本とフランスで数々のアート活動を行う若きアーティストVictor Kaitoの挑戦
2021年に開催された東京オリンピック。そこからバトンを引き継いで、次の2024年はパリでオリンピックが行われる予定となっている。芸術の街としても有名なこの地で生まれ育ちつつ、母の生まれ故郷である日本の文化にも影響を受け、自らのアート作品にそのエッセンスを活かしているアーティスト、Victor Kaitoさん。高校時代から始めた、スニーカーに日本の漫画やアニメのイラストを描くスニーカーアートで広く名前が知られるようになった彼は、現在、フランスと日本のさまざまなプロジェクトに参加し、新たな挑戦を行っている。そんな新進気鋭のアーティストであるVictor Kaitoさんに、スニーカーアートを始めたきっかけや、現在の漫画・アニメがなぜ海外でブームとなっているのかといった考察、さらにこれから目指していきたい方向性についてお話を伺った。
Victor Kaitoさん/アーティスト
1999年フランス・パリ生まれ。フランス人の父と日本人の母を持ち、幼い頃から芸術の街、パリのモンパルナス地区でファッションやファインアート、芸術作品に触れて育つ。日本の伝統的な文様や絵画を独自の感性で表現し、学生時代からアート活動を開始。これまでスニーカーアートを通じ、有名ミュージシャンの舞台衣装なども手がけてきた。2022年にフランス国立芸術大学を卒業。小室哲哉NFT『Sound ART Project FLUcTUS-SYMBOL』デザイナーに抜擢され、『NEXT ATOM for the future Produce by #AAAA』(※)(株式会社手塚プロダクション監修)では、キーグラフィック・アートを担当。また本人のスタイリッシュな雰囲気を生かし、このプロジェクトのモデルとしても活躍。
Instagram:Miyazaki Kaïto(@victorkaito)
(※)手塚治虫が描いた21世紀の未来の中で、アトムは2003年に誕生し、その誕生から20年後の2023年は、アニメーション化 60周年の記念すべき年でもある。これを記念して、株式会社手塚プロダクション監修のもと「NEXTアトム ~これからの20年 ~ 」「未来へつなぐ『ASTRO BOY』」をキーワードに、誕生した【NEXT ATOM for the future Produced by #AAAA】プロジェクトがスタート。Victor Kaitoさんが担当したキーグラフィック・アートを使用し、世界的な靴の職人によるアート作品や日本の伝統工芸品、ゴルフウエア、帽子、デニム小物などを作成。このプロジェクトは2023年に限らず、今後も展開していく予定。
靴さえあれば、どこでも描ける。それがスニーカーアートの面白さ
― Victor Kaitoさんはこれまで多くのすばらしいスニーカーアート作品を発表されていますが、いつごろからスニーカーに絵を描き始めたのでしょうか?
高校の時からです。ある時、父がスニーカーを買ってくれて、「それに絵を描いてみたら?」というアイデアをもらったので、頑張って描いて周りの友だちに見せたら、「すごい!」と好評で。それから友だちから頼まれて描くようになったのがきっかけです。
完成した作品を見せると、みんな非常に喜んでくれたのでうれしくて続けていたら、友だち以外の人からも、注文が来るようになりました。
― なぜ靴にイラストを描こうと思われたのですか?
靴を手に入れさえすれば、外でもどこでも描ける。そこが面白いなと感じたんです。外に行く時は靴を1つ持って出かければ、友だちといながら仕事ができるんですよ。なかでも靴はストリートファッションのアイコン的な存在。フランスでは相手を判断するために、靴を見る人が多い、ということもあります。
― 最初は何の靴に描いたのでしょうか?
最初からナイキのエアフォース1に描いています。すべて同じ素材でできているから一番描きやすいし、白い靴なので絵を描くのに適している、と思ったんです。
― 紙でなく立体のものに描くというのが、ユニークですよね。
そうですね。あとジャケットも好きなので、洋服にも描きましたし、ポーチなど小物に描くこともあります。イラストが加わるとユニークな靴やジャケットになりますし、その人のパーソナリティが出せて面白いな、と思いました。
― イラストの題材として『ONE PIECE(ワンピース)』や『NARUTO -ナルト-』など、日本の漫画を描くことが多いのはなぜでしょうか?
私自身、幼いころから日本の漫画を読んでいて、非常に影響を受けました。最初に見たのは、6、7歳のころ、フランスのいとこが紹介してくれた『NARUTO -ナルト-』のアニメーション。私は『NARUTO -ナルト-』と一緒に育った気がします。
日本の漫画に影響受けたこともあり、その中で特に自分にとって思い出に残るシーンなどが描けたら面白いな、と考えスニーカーに描くようになりました。描き始めると周りの友人などからも日本の漫画を描いてほしいという依頼が増えていったのです。
― Kaitoさんのイラストを拝見すると、非常に精密に描かれていますよね。
最初はペンを使っていたんです。でもあまり細かく描けないので筆に変更しました。それに絵の具であればどんな色も作れるから、筆にしてよかったと思います。
日本の漫画、アニメのブームはかつて浮世絵が評価された時代とつながる
― フランスは日本のアニメがブームになっていますが、なぜこれほどまでに日本のアニメが広まっているのだと思われますか?
ヨーロッパはこれまでさまざまな戦争が起こり、土地を征服し合うことで、文化的にもお互いに影響し合い、混ざり合っているという状態です。でも日本は島国であり、長年鎖国をしていたという歴史もあって、日本独自の文化が発達し、絵の描き方も独特のものが育まれてきましたよね。
昔、ヨーロッパの芸術家が陶磁器の緩衝材として用いられていた葛飾北斎による絵手本『北斎漫画』が発見されて。「この描き方はすばらしい」と、浮世絵の魅力を仲間たちに伝えたことをきっかけとして、日本美術ブームの「ジャポニズム」がヨーロッパで始まった、と伝えられています。
ヨーロッパの絵画については、印象派の絵や宗教画を思い浮かべていただくと分かりやすいと思うのですが、光の面で捉えて、色を置いて描くという特徴があります。日本だと形やシルエットが大切で、輪郭をきちっと描く。アニメや漫画もそれと同じように、日本らしいものだと思います。
そして昔は1枚の絵でストーリーを読み取っていましたが、今はそれが動いて、ストーリーの1話から200話まで広がり、バージョンアップしているのがアニメなのだと考えています。それはヨーロッパの人たちが今までやってきた手法とまったく違うものなので、みんな驚いて、「日本の漫画ってすごいね」という状態が今なのではないでしょうか。昔の北斎の絵に深いストーリーがついたことによって、日本のアニメが人気になり、今なお熱狂的に受け入れられているのだと思います。
さらにヨーロッパの漫画はほとんど1話で完結してしまいます。たとえば『タンタンの冒険』では、タンタンがアフリカ行きました。はい、終わり。次、エジプト行きました。終わり、と1話1話がつながっていないんです。でも日本の漫画、アニメは「次にどうなるの?」と続きが気になるように作られている。日本人は、ストーリーの構成が非常に秀逸だと思います。
― Kaitoさんも葛飾北斎と伊藤若冲がお好きだそうですね?
そうですね。彼らが描く妖怪の世界観も大好きなんです。あとは他の人が見えないものを描くところも面白いな、と思います。フランスだと見ているものを描くけれど、日本だと見たいものを描く。それが日本独自のユニークな点ですね。
本当に好きなことに夢中になって続けていれば、周りの人は認めてくれようになる
― 今回、手塚プロダクション監修のもとでスタートした【NEXT ATOM for the future Produce by #AAAA】で、Kaitoさんはキーグラフィック・アートを担当されることになりました。お声がけをいただいた時、どのように思われましたか?
まさか自分が幼い時から『鉄腕アトム』はもちろん、いろいろな作品を読んできた手塚治虫先生の仕事ができるなんて思ってもみなかったので、とても光栄に思いました。手塚治虫先生の作品はメッセージ性が強いので、私自身も同じようにメッセージ性のあるものを作りたいと考えました。
― キービジュアルでアトムの絵を描かれていますが、どういう思いを込めましたか?
文字を使用して、植物、動物を含め、地球を大切にしようというメッセージがあります。地球の成長も人間の成長もあるけれども、持続可能な、サスティナブルな形で成長していってほしいという思いを込めました。
― さらに2024年はパリでオリンピックが開催されます。日本とフランスで活動されているということで、今後、パリと東京のかけ橋として、どんな作品を制作されたいと思われますか?
今までのスニーカーアートとは別のものとして、フランス、パリの良いところ、日本、東京の良いところをそれぞれ取り出して解釈し、自分ならではのアートを作りたいと思います。
あと、私の周りには才能豊かな友だちがたくさんいるので、仲間たちと一緒に新たなアートを作りたいと考えています。かつて昔のモンパルナスに集まっていたモディリアーニやダリ、ロートレック、モネ、ゴッホ、ピカソといった芸術家のように熱く語り合い、その中で、かつてヨーロッパに陶器と一緒に渡った浮世絵のような日本の文化のムーブメントを起こす架け橋になれたら、と思います。
基本的にはパリを拠点としながらも、日本での仕事も行いたいです。デジタルな時代だからこそ、たとえ距離があってもすべてやりとりができるのは、非常に助かりますね。
― Kaitoさんからご覧になって、日本のアート文化とフランスのアート文化では、どんな違いを感じますか?
日本はフランスと比べるとキャラクターをよく使いますよね。たとえば何かの会社のビジュアルアイデンティティを作る時、キャラクターが大切なのだな、と感じました。フランスだと字などに個性をつけて、そこでアイデンティティを組み立てることが多くて。私も幼い時から字を書くのが好きで、グラフィティにも影響を受けたので、今後のアート作品は字を混ぜ合わせていこうと思います。
― ご自身の好きなアートを極め、現在アーティストとして活躍していらっしゃいますが、Kaitoさんのように「自分の好き」を仕事にするには、どんなことが大切だと思われますか?
最初はあれこれ言われるかもしれないけれど、自分が本当に好きなことに対して夢中になってずっと続けていれば、次第に周りから認められるようになると思うんです。私も自分の作品で友だちが笑顔になると、「もっといいものを作りたい」と思うので、人に認められて喜んでもらえることが、とてもエネルギーになっています。
とにかく好きなことをやることが一番だと思います。他の人は才能と言うかもしれないけど、自分はただ好きなことをやっているだけなんですよね。それで練習を続けて上手くなったら、ずっと好きなものであり続けると思います。
©️Tezuka Productions
©️GLOBE.VICTOR KAITO/ #AAAA
文:キャベトンコ
撮影:加藤千雅