人事スペシャリストに聞いた、円満な退職のために必要なポイントと注意点
転職活動の最後の難関ともいわれる退職交渉。今回は、日系企業やラグジュアリーリテール業界にて、人材育成や制度設計などの人事マネジメントを手がけてきた合同会社NOBuコンサルティングの青栁 伸子さんに、人事の目線から見た退職交渉におけるポイントを詳しく伺った。
記事監修/青栁 伸子さん 合同会社NOBuコンサルティング
人事・総務・ITを専門分野とするコンサルタント。日系企業、日系ベンチャー企業での人事経験を経て、ラグジュアリー・リテール業界へ転身。エルメスジャポンほか 数社で人事・総務部門の責任者として活躍。同時にビジネスパートナーとして、経営陣に対して人事的な側面からのサポートを行い、会社の業績向上にも寄与する。2015年にコンサルタントとして独立。
転職でキャリアアップを目指すならば、円満退職は必須
キャリアアップを考えて転職する場合、現職(今の会社)を円満に退職することが転職先の考える最低限の条件。現職に禍根を残すような行為は先々のキャリアにも影響します。SNSによる情報戦も可能な今の時代において、現職を円満に退職するためのチェックポイントをご説明します。
会社に不満はないものの、家庭の事情によって転職や休職をする場合、会社側もあまり強引な引き止めをせずに退職を受理してくれるケースがほとんどです。引継ぎを入念に行い、職場の負担を減らすことで、退職(転職)の理由である家庭の事情がひと段落ついたら元の職場に復帰できるような円満退職を迎えることができます。
もし会社に不満があった場合でも、強引に退職を進めるなどの行為は転職先にマイナスの情報が伝わるリスクがあります。同じ業界内の転職であればなおのこと。退職交渉の際は今までお世話になった職場への礼儀を忘れずに行動し、転職を実りのあるものにしましょう。
退職交渉をスムーズに進めるためのポイント
事前準備は入念に
転職活動を開始したら、まず「いつ辞められるか、いつ転職先でスタートしたいか」を明確にしましょう。調べておくポイントは2点、退職を申し出る日と有給休暇の残日数です。
退職をいつまでに申し出ればよいのかを就業規則で確認します。法的には(民法第六二七条)「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と定められていますが、会社の多くは1~2カ月前までとしています。
辞めたい日を決めたらそこから有給休暇の残日数を逆算して、実質勤務最終日と退職日を決めておきます。実質勤務最終日の後の有給休暇の消化中は、仕事はしていなくとも籍はまだ現職にありますので転職先の企業で働くことはできません。「有給の消化に入ったら御社で働きます」といった発言を面接でする候補者は、モラルを疑われることになりますのでご注意ください。退職日=現職と円満に縁の切れる日です。
このとき、有給の残日数の確認を人事に依頼すると会社に退職の動きを察知されることがあります。社内の誰にも悟られずに話を進めたいならば給与明細などで確認しましょう。
会社によっては「3カ月前までに申し出が必要」という規程を設けているところもありますが、そこまで長い場合は、法律で定められた期間を引き合いに出して交渉することをお勧めします。会社の定めた期間は、国の決めたルールより強い拘束力を持つことはありません。
とはいえ、2週間で辞めるとなれば引継ぎなどに不備が出ることは避けられません。担当業務のマニュアル作成を含む後任への引き継ぎ、取引先への後任の紹介などに必要な期間を見積り、なるべく職場に負担をかけないように配慮し行動することが円満退職のカギとなります。
退職の意思を強く持ち、転職先の内定が出たら即交渉
転職先で内定が出たらすぐに会社に退職の意思を伝えることが重要です。引き止めにあった時に気持ちがぐらつかないよう、しっかりと決意を固めて交渉に臨み、自分のペースを崩さないようにしましょう。
直属の上司または人事部に時間をもらい、退職の意思表示をします。退職の意思が固まっているのであれば「退職届」を提出します。
退職届:「〇月〇日をもって会社を辞めます」という意思表示の書面。会社の同意不要、ただし撤回不可。
退職願:会社との労働契約の解除をしたい意思を会社に伝える書類。会社との調整後退職日が決まる(その後退職届を提出する場合もある)。
会社によってはまず退職願、その後人事等との調整で退職日が確定してから改めて退職届を提出する、というルールを定めている場合もありますので、事前に就業規則で確認しましょう。
退職理由は必ず聞かれます。「新しいことにチャレンジしたい」「他の業界を知りたい」「自分の力を別の環境で試してみたい」などのポジティブで明確な回答を用意し、誰に聞かれても同じ答えを返しましょう。上司に伝えた理由と人事が聞いた理由が異なる場合、「退職する」を切り札にした条件闘争(待遇改善や部署異動などの要求)と疑われるリスクがあるので注意しましょう。
転職が完了するまで転職先の情報は伝えない
退職交渉時に転職先を伝えてしまうと、今の会社から転職先に転職者の事実ではないネガティブな情報を流すなどの妨害をされるケースがあります。人事がそのような行為をすることは道義上ありえませんが、悪意をもった第三者による妨害で内定が取り消しになった事例もあるほか、入社してから経歴詐称などを疑われて解雇されてしまった場合はご自身の経歴にも傷がついてしまいます。
転職が決まったことは職場の同僚であっても会社名などは伝えないこと。聞かれた場合の常套句は「次の会社で落ち着いたら連絡します」。伝える場合は、転職先に入社し試用期間が終わって転職先での立場が安定してからにしましょう。
また、退職交渉の過程で「次の会社を教えなければ退職は認めない」などと言われることもあるかもしれませんが、そのような言葉に何ら法的な拘束力はありません。逆にその意図を問うなどして切り抜けましょう。
退職理由の切り出し方
職場の人間関係や環境など、会社に不満があることが退職理由であったとしても、それを転職理由として話すと「そこは何とかするから」などと引き止められやすいほか、会社側の心象を損なうことで退職交渉が不利になることもあり得策ではありません。
先にも述べたように、自分の成長を考えてのチャレンジであるといった、ポジティブな理由を明確に伝えましょう。その際に「この会社でも様々な機会を与えてもらい成長できたと実感している」と、現職への感謝もさりげなく伝えておくとよいでしょう。
引き止められにくい理由として「家庭の事情」が挙げられます。親族の介護などで一時的に会社を離れざるを得ないものの、いずれ元の職場に戻ってこられる可能性があるならばその旨を伝えておきましょう。いずれにしても簡潔に説明することが大切です。
その上で、退職理由とは別に職場の問題点を指摘することは双方にとって意義があります。会社においても環境の改善に向けて努力する機会ですから、退職時の面談の際は、退職理由とは別に気になる会社の問題点について言及しましょう。不平不満にならないよう、あくまで指摘する形を保つことがポイントです。
入社日について転職先の人事が望んでいること
転職先の会社は良い人材を早く採用したいもの。採用活動に際して「だいたい内定を出してから1か月から1か月半で入社できるだろう」と考えているのが通例です。面接で「いつ頃入社できますか?」と聞かれた際に「2か月先」と答えてしまうと、採用側は「2か月待つのであれば1か月で入社できる別の候補者でも良いか」と判断してしまうかもしれません。
「内定を頂いたのち会社に申し出ます。有給休暇の消化も含めて1か月半後には入社できます」など入社予定日についてしっかりと面接の場で伝えておくと、採用側の好感度アップにつながります。ここで「御社がお急ぎであれば有給休暇の消化はしません」というアピールも有効です。「転職(退職)に関しての準備がきちんとできている」と示すことが採用に繋がります。
退職交渉が難航した場合
待遇面の改善による引き止め
会社が現在よりも待遇面の条件を良くすることで退職を引き止めることがあります。しかし、たとえ希望の条件に叶っていたとしても現職に留まるのはなるべく避けましょう。一度退職の意思を伝えた以上、双方の心理になんらかの形で禍根が残ってしまうもの。職場での居心地は以前より悪いものになるでしょう。
有給休暇を会社に買い取ってもらいたい
有給休暇の取得は権利が保証されているため行使して問題ありませんが、有給休暇の買取については会社側に対応する義務はないため、交渉が成功することは少ないです。例外として、会社からの要請で有給休暇を取る暇もないほど退職日まで業務を行なうことになったような場合は(例:業務引継ぎ、プロジェクト進行の都合上など)交渉の余地があります。
なお、「次の会社に早く入社したいから(あるいは入社日を約束してしまったから)退職日までに消化しきれない有給休暇を買い取ってほしい」などという交渉は会社側からすると言語道断。また、「前職での有給休暇を消化したいから、入社日を遅らせてほしい」という転職先への交渉も、採用自体を取り消される可能性がありますので控えましょう。
深刻なトラブルについて
会社側が退職を認めず解雇をしたり、嫌がらせのような配置転換をされた場合は、会社の労働組合が適任です。組合がない場合は個人でも入れる「企業別労働組合」「合同労組」などといった労働組合に入り、交渉を依頼することができます。個別に時間外手当等の未払いの問題を解決したい場合は、労働基準監督署に直接申告しましょう。
パワハラやセクハラなど、労働基準法そのものには違反していない場合は、労働基準監督署は対応しません。会社に訴えても是正されず、退職にあたってどうしても解決を求めたい(慰謝料、和解金や解決金等の支払いなども含む)場合は、弁護士に相談しましょう。個人で加入できる組合でも、慰謝料の交渉などをしてくれることもあります。
最後に
退職交渉に対し明確なビジョンを持つことは、採用の現場において「早く御社で働きたい」と転職先にアピールすることにも繋がります。転職活動の最後の難関とされている退職交渉ですが、記事の内容を参考に円満退職を目指しましょう。
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