スニーカー界のカリスマ・国井栄之さんが仕掛ける!虎ノ門「ヘリンボーン フットウェア」発信の新しいスニーカーライフに期待
東京・虎ノ門エリアの新たなランドマークとして注目されている「虎ノ門ステーションヒルズ」。商業施設、企業オフィス、住居、ホテルなどが入るビルの2~3階には、アパレル大手のベイクルーズがエリア初の大型セレクトショップを展開。その一角にあるのが、スニーカー専門のセレクトショップ「ヘリンボーン フットウェア(Herringbone Footwear)」だ。このブティックのディレクションを担うのは、スニーカー業界のカリスマとして知られるmita sneakers クリエイティブディレクター・国井 栄之さん。国井さんに、スニーカーや新店舗への想いを伺った。
国井 栄之(くにい・しげゆき)さん/「mita sneakers」クリエイティブディレクター
1976年生まれ。ショップスタッフとして「mita sneakers」に入社した後は、斬新な発想で数多くのブランドとのコラボを展開。別注モデルのデザインや、インライン企画にも携わる。2024年2月からは、「ヘリンボーン フットウェア」の外部ディレクターも務める。
約30年間、ずっとスニーカーと向き合ってきた
― 国井さんがスニーカー業界に携わってもう30年近くになるのですね。
当時、未知だったスニーカーのコラボレートを実現するためにこの業界の門を叩きました。右も左もわからないし、当時はまともにプレゼンもできないような若造でしたが、各メーカーさんに当時在籍されていた寛大で理解がある大人たちの英断もあって、奇想天外なコラボがどんどん実現されて、今の立ち位置に至るという感じでキャリアを歩んできました。
― 2024年の今、スニーカートレンドはどのような状況にありますか。
世間一般から見ると、2010年代のような熱狂的なスニーカーブームは終わったという感じに捉えている方が多いと思います。しかし実際は、スニーカーの転売ブームがひと段落しただけで、客観的に数字で見るとスニーカー関連の小売店の数は増えていますし、売上が上がり続けている流通も多いです。また、新たなブランドの躍進もあり、魅力的な商品の人気はますます加速しています。
コロナ以前は、上野を拠点とする「mita sneakers」もインバウンドには頼っていなかったのですが、コロナ禍が明けてからは海外からのお客様比率がかなり上がりました。円安の影響もあって、今日本は買い物するにはとても良い国なんですね。ビジネスとしては上向きなのですが、ひとつ難点を言えば、スニーカーカルチャーとしては新しい文化が育っていない気がしてなりません。
インバウンドによるお土産っぽい売れ方だと、「売れた」だけで完結してしまいます。昔はそんなに足数は売れなくても、半径数メートルの小さいコミュニティ内でとても流行って、それがその周囲の人たちへ目新しさや面白味を帯びながら広がっていくというカルチャー的な派生と進化の側面がありました。でも今はそうした動きがあまりないんです。その点についてはかつての文化形成を見てきた世代としてジレンマを感じます。
ベイクルーズ初のスニーカー専門店としてオープン
― 2024年2月から、虎ノ門ステーションヒルズにオープンした「ヘリンボーン フットウェア」のディレクションをされています。どのような経緯で携わることになったのでしょう。
虎ノ門ステーションヒルズの2階と3階の全フロアに、ベイクルーズさんが社運をかけてセレクトショップを展開するプランをお伺いし、同社がこれまで手がけていなかったスニーカー専門業態の相談でお声がけいただいたんです。同社はメンズ・レディース問わずセレクトショップでの実績はもちろん、衣食住さまざまな業態での実績があり、一線を画した強いカードをたくさん持っています。その多種多様なカードとのハブとなるスニーカーショップを出せるのであれば、引き受けたいと思いました。
― 「ヘリンボーン フットウェア」という店舗名も、国井さんが名付けたと伺いました。
スニーカーのアウトソール(靴底)形状である「ヘリンボーン」が名前の由来です。ヘリンボーンは60年代からある伝統的なパターンなのですが、とても機能的で現代のパフォーマンスシューズにもいまだに取り入れられています。幾多のスポーツブランドや時代を超越したアウトソールパターンから着想を得ながら、普遍的でニュートラルな思考という想いを込めて採用しました。
― 店舗の内装も、とても個性的ですね。
無機質な空間にしたかったんです。店内に存在する有機的なものはスニーカーとそれを履く人だけで表現したくて、こうしたデザインになりました。ここ虎ノ門でスニーカーを購入するお客様は、ファッションに留まらずスポーツで使用するためにスニーカーを探し求める方も多い印象です。そのため、デザインだけでなく、スポーツブランドが長い時間をかけて作り上げてきた機能性も体感していただけるような雰囲気づくりも重視しています。
ラインナップとしては、有名スポーツ・シューズブランドはほぼ網羅していて、新興勢力として人気のあるブランドも扱っています。ベイクルーズのさまざまなファッションレーベルで買い物をする方が来店されてもそれぞれのスタイリングにフィットするようなスニーカーを常に揃えておきたいですね。
虎ノ門発信のスニーカーライフ、コミュニティづくり
― ファッションともスニーカーとも縁遠いイメージがある虎ノ門。このエリアで出店したことに関しては、どのように感じていらっしゃいますか。
渋谷や新宿といった、山手線内の主要駅ではないところに新たな魅力を感じています。また、上野の「mita sneakers」で長年やってきたことと切り離されたエリアでやりたいという想いもありました。僕は「mita sneakers」のクリエイティブディレクターで、「ヘリンボーン フットウェア(以下、ヘリンボーン)」では外部ディレクターという立場。仕事をするうえで自分なりの明確な線引きも欲しかったんです。その点において、虎ノ門はロケーション的にも客層的にも、上野とはかぶらないからとても新鮮ですし、何か新しいことができそうな予感がしています。
― 手がけているのは、どちらもスニーカーですが、「mita sneakers」と「ヘリンボーン」ではお店のスタイルが違いますよね。
客層も違いますし、立ち上げたばかりの店舗なので、今は若手のショップスタッフたちと意見交換しながらやっているという感じです。まだまだわからないこともたくさんありますが、試行錯誤しながらみんなで挑戦するのは、いつでも楽しいですね。
― 虎ノ門という場所で、どのようなスニーカーライフを提案していきたいですか。
スニーカーにはスポーツ軸とカルチャー軸の二軸があると捉えています。上野の「mita sneakers」はカルチャー的な側面から提案することが多いですが、虎ノ門の「ヘリンボーン」は、もしかするとスポーツ的な側面からの提案がハマるのかもしれません。虎ノ門ステーションヒルズには、今後企業がオフィスに入居してくるので、このエリアで働く方々を対象に、「ヘリンボーン」を軸としたランニングやヨガコミュニティをつくったりするのも面白そうだなと思っています。
― スニーカー市場全体を視野に入れた、国井さんならではの展望はありますか。
以前、車椅子で来店されたお客様がいたんです。スニーカーは本来「履くもの」ですが、履けないけれどスニーカーが好きで買ってくださる方もいらっしゃいました。スニーカーをコレクションと捉え、あえて「履かない」コレクター層とも異なる方々ですね。そうした「スニーカーを履けない」方々に対して何かできないかな、という想いは、昔からずっと持ち続けています。例えば、デジタル上のアバターなどに履かせるスニーカーなんかもいつか手がけられたら、と思っています。
一方で、上野の「mita sneakers」に関しては、変わらないところに美徳があると考えているので、「アメ横に久しぶりに行ったら、mitaがまだあったからちょっと覗いてみようか」と感じていただける店として、この先も長く続けていけたらと思っています。
国井氏がセレクトしたおすすめの2アイテム
ナイキ コルテッツ
1972年発表の名作ランニングシューズ。ヘリンボーンパターンを取り入れたソール。クラシカルな魅力で普遍的な人気を誇る。
ニューバランス MT580 GORE-TEX
ニューバランス × mita sneakers × MARQUEE PLAYER(マーキープレイヤー)のトリプルコラボ。防水・透湿性を発揮するゴアテックスを搭載。
文:伊藤郁世
撮影:Takuma Funaba