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「人との繋がり」が何よりも大切。楽天イーグルス森井社長が語る仕事の心得

「人との繋がり」が何よりも大切。楽天イーグルス森井社長が語る仕事の心得 NEW

2023年8月より「東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天イーグルス)」を運営する株式会社楽天野球団 代表取締役社長に就任した森井誠之さん。2007年に楽天イーグルスに営業担当として入社して以来、楽天ヴィッセル神戸(以下、ヴィッセル神戸)、仙台89ERSなど様々なチームを渡り歩きながら、スポーツビジネスの世界でキャリアを築いてきた。森井さんのキャリアは、まさに「出会い」と「タイミング」の連続。携わる中で、組織の在り方、そしてリーダーとしての役割を肌で学んできた。今回は、森井さんが歩んできたキャリアを振り返りながら、組織や事業を率いる上で大切にしていること、楽天イーグルスの未来について伺った。

森井 誠之さん/株式会社楽天野球団 代表取締役社長
株式会社楽天野球団に2007年1月入社後、2013年同社執行役員営業部長に就任。その後、2018年2月にプロサッカーチームJ1の楽天ヴィッセル神戸株式会社に出向し、2019年7月に楽天ヴィッセル神戸株式会社取締役副社長執行役員事業本部長に就任。その後、2022年3月に楽天グループを退職。2022年7月からはプロバスケットチームB1の株式会社仙台89ERS代表取締役会長に就任。2023年8月に株式会社楽天野球団へ帰任し、代表取締役社長最高執行役員オーナー代行に就任(現職)

トップの近くで情報を得て、チャンスを手繰りよせる

― 森井さんは、これまで様々なスポーツチームを渡り歩いていますね。これまでのキャリアについて教えてください。

実は新卒で入社したのは、広告代理店でした。当時はバブルのなごりもあったので、テレビ局担当者とひたすらお酒を飲み、接待する日々が続きました。そんな環境で8年ほど働いた後に営業に異動し、ある時、上司の紹介で世界的に有名なスポーツブランドのカタログ制作に携わることになったんです。私にとって大きな転機となりました。アスリートの考え方や、スポーツビジネスの可能性に触れる中で、本格的にスポーツビジネスの世界で挑戦したいという気持ちが芽生えました。

そして、転職活動をする中でご縁があったのが、当時球団創設3年目を迎えた楽天イーグルスでした。全く土地勘のない仙台で、右も左もわからない状態からのスタートでしたね(笑)

― その後、数年で営業部長や執行役員に就かれていますが、意識して磨かれたスキルや行動などはありますか。

実は、どれも偶然の連続なんです。マネージャーになった時は、たまたま当時マネージャーを務めていた人が本社へ帰任することになり、私が代理を務めていたらそのまま正式なポジションになりました。営業部長になった時も同じで、東京に部署を作る話になったときに、当時の営業部長が東京に行くことになり、残された仙台の営業部で私がたまたま話し合いの場にいたので部長に任命されたんです。

どれも偶然ではありますが、常に一番手の人の近くにいることを意識していました。なぜなら、トップの人が一番情報を持っているからです。チームであれ、部署であれ、自分から情報をとる機会を多く持つようにしていました。その結果、何か決定がくだされるときに、「森井さん、どうですか」と名前が挙がり、2013年には執行役員になりました。

様々なチームをわたり歩き、再び楽天イーグルスへ

― 明確にキャリアを描いていたというよりは偶発的だったのですね。その後、ヴィッセル神戸、仙台89ERSと野球以外のスポーツにも関わっていますね。

これらも偶然のつながりです。ヴィッセル神戸については、当時楽天イーグルスの社長だった立花さんが、ヴィッセル神戸の社長も兼任することになったのです。当然ですが、2つの会社をみるのは難しいことも多いため、私に白羽の矢が立ちました。3週間だけ立花さんの代わりにいく予定だったんですが、結果的に4年いて、副社長まで務めていましたね。

― 3週間の予定が4年に…!その後、バスケットボールの道へ行かれたのはなぜでしょうか。

ヴィッセル神戸の副社長を務めた後、楽天グループから一度離れることになります。そのタイミングで、楽天イーグルス時代に知り合ったオーナーさんからお声がかかったんです。仙台89ERSは、楽天イーグルスやヴィッセル神戸と比べて、規模も予算も限られていました。限られたリソースの中で、いかにチームを強化し、ビジネスとして成長させていくか。その難しさと同時に、やりがいも感じました。

そうして仙台89ERSで約1年間、経営に携わった後、再び楽天イーグルスに戻る話が舞い込んできたんです。三木谷社長からオファーをいただき、2023年8月に代表取締役社長に就任しました。

ご自身のキャリアは偶然の連続だったと語る森井さん。仕事へ真っ直ぐに向き合い続ける姿が人を惹きつけている

「無能」を自覚したからこそ築けた「人」の財産

― 森井さんは、様々な方との出会いを通してキャリアを築いてこられたように感じます。森井さんが仕事で大切にされているものは何ですか。

やはり「人との繋がり」を何よりも大切にしています。人とのご縁があり、より良い仕事に繋がっていくのだと信じています。

そして、その考えの根本として、私は「自分は無能だ」という意識を常に持ちながら、仕事をしています。勉強が特別できたわけでもなく、これといった強みもありませんでした。だからこそ、自分にできることは何でもやろうと手を挙げましたし、自分にできないことは周りの人に支えてもらいながら、ここまでやってくることができました。「無能」であることを自覚しているからこそ、誰かと協力することの大切さを知っています。

それに、一度会社を辞めて個人事業主になった時に、改めて「人」の大切さを痛感しました。一人で仕事をするには限界があり、逆に仲間がいればどんな仕事も助け合いながらできると気づきました。そういう意味で、仕事をする上で人は財産であり、大事にしない手はないと思います。

― これまで様々なチームの経営に携わってきた森井さんですが、特に印象的な出会いはありましたか。

やはり、楽天イーグルスの元球団社長である立花陽三さんとの出会いは大きかったですね。立花さんは、仕事に対する情熱はもちろんのこと、人としての魅力も兼ね備えた、まさに「カリスマ」と呼ぶにふさわしい存在でした。

特に、立花さんの人柄がわかるエピソードは、私が初めて楽天イーグルスの執行役員に昇格した時のことです。ちょうど立花さんが社長に就任され、「選手と職員の一体化」を掲げて、様々な改革を進めていました。その一環として、選手と職員全員で記念写真を撮ることになったんです。私は撮影の構図を任され、立花さんのダメ出しをくらいながらもなんとか構図を完成させました。

しかし、撮影前日に持病の腰痛が悪化し、参加できなくなりました。残念ではありますが、構図作成という役割はまっとうしたので自宅待機しておこうと思ったんです。でも、立花さんが「森井は写真撮影に必要だ、呼んでこい」と言い張り、結局、車椅子に乗って撮影現場のスタジアムへと向かいました。

― 何か意図があったのでしょうか。

立花さんのちょっとしたサプライズが隠されていたんです。撮影現場につき、急いで「後ろ側」の自分のポジションへ行こうとしたら、「森井さんは前側です」って言われまして。自分で構図を考えたので間違えるわけがないのですが、結局、最前列で写真に収まりました。その日は、私のポジションがなぜ前側だったのかも分からないまま帰宅しましたが、数日後、会社から執行役員の辞令が出されたんです。

そこで初めて、立花さんが私を撮影現場に呼んだ理由、そして写真の中で私が最前列にいた理由を知りました。立花さんは、私を執行役員にするつもりで、ポジションも用意されていました。かつ、その立場にふさわしい場所で写真を撮影するようにしてくださったんです。立花さんは、常に人の心を動かすような、粋な計らいをする方でした。心を掴まれてしまい、彼のためにできることは全部やろうと思いましたね。

「選手と職員の一体化」を掲げて、選手と職員全員で撮影した当時の記念写真

― 森井さんが考える、今後の楽天イーグルスのビジョンについて教えてください。

「東北の強さを発信できる存在」。それが、私が目指す楽天イーグルスの姿です。

2011年の東日本大震災以降、「がんばろう東北」というスローガンのもと、被災地と共に歩んできました。そして、2013年には球団創設9年目にして初の日本一を達成。チームは東北の皆さまに勇気と感動を届けてくれました。

しかし、東北地方の人口減少は深刻さを増しており、楽天イーグルスを取り巻く環境も変化しています。これからの10年、20年を見据えた時、私たちは「東北と共に成長する球団」という新たなステージを目指さなければなりません。まさに今、「東北」をどう発信していくべきか、チーム全体で議論を重ねているところです。

歴史を振り返れば、東北は幾度となく困難に立ち向かい、それを乗り越えてきました。厳しい冬を耐え忍び、自然と共存しながら、独自の文化や強靭な精神力を育んできた歴史があります。そんな「東北らしい強さ」を、私たちは楽天イーグルスという球団を通して発信していきたいと考えています。東北の強さを体現するチームとして、そして東北の魅力を発信する拠点として、楽天イーグルスはこれからも進化を続けていきます。

文:金井みほ
撮影:小林啓樹

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