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「創業110年、新しいビジネススタイルでチャレンジしていきたい」谷口化学工業所 谷口弘武氏

「創業110年、新しいビジネススタイルでチャレンジしていきたい」谷口化学工業所 谷口弘武氏

創業110年の老舗靴クリームブランド「ライオン靴クリーム本舗」の谷口化学工業所。天然由来の原料を使い、手作りでの製法にこだわる理由、前職での経験を生かした今後のシューケア業界で新しいビジネスモデルを打ち出す新機軸について、専務の谷口弘武さんにお話を伺いました。

谷口弘武さん
株式会社谷口化学工業所 代表取締役専務
東京都墨田区出身。大学卒業後、IT企業に5年間勤め、その後2017年に家業である谷口化学工業所へ入社。2019年、従来品からより品質を高めた「エクセレントシリーズ」を開発しブランド化。2020年には、原料やモノヅクリの製造背景にまでこだわった「自然から作ったシリーズ」を展開。革靴のお手入れ方法の認知を広げるため、定期的に靴磨き講習を実施。コロナ禍においてもオンライン講習などで開催している。

―創業のルーツについて教えてください。

ルーツは1904年の日露戦争時に軍用ブーツを手入れして長く使う海外の文化が日本に根付いた頃と言われています。弊社の創業は、海外視察を繰り返して、国内で靴クリームを製造開発に成功し、ライオン靴クリームという名前を付けて日本一古い靴クリームメーカーとして販売を開始しました。

―靴と周辺の産業がどんどん伸びた時代に、御社は日本発の靴クリームメーカーとしてスタートされたということですね。当時、同業者は何社ありましたか。

資料によると、国内に12社くらいですね。当時、人口の増加に伴い革靴の需要はどんどん増え、また高価な分、永く履くためにシューケアをすることが一般的だったようです。昭和中期頃までは、日常的に革靴を磨く習慣があり、業界の調子が良かったと聞いています。

―当時、上野動物園にライオンがいたことが社名の由来になったということですが。

1903年に上野動物園に初めてライオンが来日して、日本はライオンブームでした。そこで「ライオン靴クリーム」という商品名で創業したといわれています。その時代の会社は動物の名前や珍しい生き物の名前を社名にすることがよくあったようです。

―創業から110年。会社がこれだけ続いている理由は、何だと思われますか。

これまでの100年、堅実に創業当時の仕事を行なってきたということが継続につながっているのだと思います。ただ、生活様式が大きく変化していく昨今、核となる事業をベースとしつつも、事業を細分化し多面的に行う新しいことを行うチャレンジ精神が、次の100年を乗り越えていくために必要な要素だと考えています。

―谷口化学工業所の現在の事業全体の内容を教えていただけますか。

弊社の事業は主に3つあります。1つ目がライオン靴クリームという自社ブランドの製品開発と製造です。2つ目が、2年ほど前から注力しているレザーケア用品のコラボレーション事業です。革靴ブランドの企業との商品共同開発や、野球のグローブやスパイク、バイクの手袋やレザーブーツといった製品のメンテナンス用品の製造などを行っています。3つ目が中敷きや踵の靴擦れを防ぐパットなどの靴付属品の卸売りです。足回りに関することであれば、弊社で一貫して対応できるような体制を整えています。

―靴クリームの製造数や、卸先や取扱い店舗、市場の金額や規模を教えてください。

ケア用品の繁忙期は冬で、1日1000個以上は手作りで製造できますね。従来通り小売りチェーン店様やホームセンター様を中心に卸していることに加え、現在では、製品に付加価値を与え、よりこだわった製品の開発を行っており、都市型百貨店様に置いて頂けるケースが増えています。

―御社の靴クリーム作りのポイントをお聞かせください。

靴クリームの原料は主に蝋と油と水です。火で溶かした蝋成分を液体の状態で容器に注いで固まったら製品となるのですが、これを機械で行うと充填するときに液体が飛び散って固まり、斑点状になってしまいます。また、1回しか注がないと蝋成分が収縮して真ん中がへこみ、全体が固まるまで待っていると、表面がマットになってしまうんです。革のつやを出すアイテムなのに、見栄えが美しくなく、製品として見劣りしてしまいます。そのため当社では3回に分けて手作業で注ぎ、固まっても表面が乾燥していない状態でお客様へ届けています。ちなみに自衛隊様の駐屯地へも納めています。

―創業のルーツが日露戦争の軍用ブーツの手入れで、今なお自衛隊の隊員さんに使われているんですね。

軍用ブーツって国からの貸し出し品なので毎日お手入れしなければいけない規則があるそうです。我々にはありがたい話ですね(笑)。

―天然由来の原料を主体とした商品にもこだわっていらっしゃいますね。

靴クリームは、原料が天然由来と合成物質に分かれます。合成物質のほうが安価で手に入りやすいので、業界全体では、おそらくほとんどのクリームに使われていると思います。

―天然の蝋というのは、蜂の巣から取るんですか。

自然由来の蝋には主に、植物由来、動物由来、鉱物由来の3つがあります。我々がよく使うのは、蜂の巣から抽出された蜜蝋やハンドクリームによく使われるシアの木から取れるシアバターです。これらは保湿効果が高いので化粧品にもよく使われています。ヤシの木から取れるカルナバワックスやモンタンワックスなどもあります。

―エゾジカの脂も使っていますね。

エゾジカの脂は、新開発した自然由来の製品に油脂として使用しています。サステナブルという部分と環境保全を意識した製品です。北海道ではエゾジカは害獣指定にされていて、駆除されると基本的に廃棄されてしまいます。そこで我々は処分されたエゾジカの脂を抽出して活用した新製品を作りました。「自然から作ったシリーズ」は製品製造の背景が見えやすく、お客様からもご好評いただいています。
実はシカの脂というのはヘアトリートメントに使われるくらい浸透性が高く、高品質なんですよ。ただ、あまり馴染みがなく、食用の牛肉や豚肉の脂のほうが、たくさん取れるので安価で市場に出回っています。

―今のエゾシカや天然由来の原料もそうですが、消費者には高価格の商品を提供することになります。ビジネスモデルとして成り立つのに、時間やコストがかかりますね。

過去の商品に比べて若干価格帯が上がるため抵抗感があるかもしれませんが、せっかくお気に入りの靴を購入されたのに安価なケア用品を使うことに心配を感じる方もいらっしゃいます。我々は、大事な革靴を永く履くお客様に良い製品をお届けすることを軸としています。

―御社ならではの靴の磨き方、お手入れ方法を教えてください。

弊社ならではの方法ではないんですが、革靴を長く履くためにお伝えしているのは、ケア用品を使いすぎないでくださいというところですね。メーカーが言うのもおかしいんですけど(笑)。 乾燥を防ぐため油分を補給してつやを出すのですが、使いすぎると油分過多でカビが生じることもありますし、若しくは、使いすぎることでベタツキを生じさせることもあります。薄く塗り伸ばして、最後にから拭きすると靴の美しさを長く保つことができます。

―スポーツメーカーさんがスニーカーに近い合皮のビジネスシューズを作ったり、カジュアルな服装でオフィスに勤務するようになったりしています。今年に入ってリモートワークも進んで、上質な革靴を履く機会がどんどん少なくなっています。

おっしゃる通りの時代背景で、どんどんシーンは少なくなっています。だからこそ革靴を履くときがものすごく大事なシーンになるのではないかと考えています。日常的に履いて頂くことも嬉しいですが、心機一転のときや大事な商談があるときなど、自分の気持ちを整えるときに革靴を活用していただけたらと思います。またケアを行うことで、永く愛用頂けるのも革製品ならではの変わらぬ魅力だと考えています。

―ちなみに、谷口さんはどんなときに革靴を履かれますか?

僕は大事な商談のケースがいちばん多いですね。常に革靴は履いてますけど、大事な商談の前には念のため自分で磨き直しています。

―御社のおすすめ製品を教えてください。

靴クリームは大きく分類すると、クリーナー、靴クリーム、靴ワックスの3種類しかないんです。いろいろな色がついている製品は革靴の色褪せ対策、補色用ですね。
化粧品で例えると、クリーナーは化粧落とし。前回、塗った靴クリームや、日々の生活で付着した油汚れや泥を落とします。靴クリームは、化粧水。あくまで油分と水分を革に補給して永く履くために使うもの。それにプラスして自然なつやを生み出す効果もあります。最後に、靴ワックスはファンデーションです。これ自体は特に栄養を与えるものではなく、表面をよりきめ細やかにして輝きを美しくさせる。革靴全体にワックスを塗ってしまうとコーティングした蝋がひび割れして白い線が入ってしまいますので、革が曲がらない爪先や踵などにしかワックスを塗りません。
また、革オイルという製品もあります。これは革全体に使えて、財布やバッグにも使えます。靴にも使えますが、靴は専用のものを使ったほうがいいですね。

―創業から製品の話を伺ってきましたが、谷口専務の簡単な経歴をお話いただけますか。

大学卒業後、ITの会社に勤めました。お客様の事業の心臓部分となる基幹システムを構築・開発する会社で、営業職を5年くらいしていました。
自分が今の会社を継ぐかは決めかねていたときで、IT関係の仕事なら仮に会社に戻っても知識が役に立つかなと思って選んだんですね。5年間、製造業を中心に担当していたので、お客様の物づくりの現場にもしょっちゅう伺っていました。現場を見て、システムで応援しているうちにものを作るメーカーに興味が湧き、家業を継いでいきたいという考えに変わりました。

―その経験が今の会社の中でどんなふうに生かされていますか。

アナログな業界なので、合理的にしながらも良い部分は残していく。敢えて手間がメリットになる部分もある。そういった仕分け、選別する目も外の世界を経験していたおかげで得られましたね。
また靴業界のことでまだまだ知らないことが多いからこそ、自分自身もお客様目線で製品の開発を考えたりすることを意識しています。

―今後の御社について、描いている将来像を教えてください。

今現在では、販売店様がオンラインで商品説明をいつでも見られて、商品発注業務もすぐに行えるシステム構築を行っています。もとからあるオンラインショップのBtoC仕様をBtoB仕様にカスタマイズして、全国の販売店様が閲覧できる仕組みです。営業が伺わせて頂き商品説明を行うことがベストですが、情報をご提供するのにどうしても時間が掛かってしまいます。まずは情報をタイムリーにご提供し、ご発注の環境を整えた上で、各営業が随時フォローを行う。老舗ゆえにアナログな部分が多く残る会社ではありますが、このようなITとアナログの組み合わせから手掛けていくことを考えています。

―そんな谷口専務の考えや110年続いた事業の秘訣は、今後も社員の方々に受け継いでもらいたいですね。今後は、会社の成長とともに社員数を増やしたり社員教育にも着手していく予定ですか。

長く勤めて頂いているベテラン社員さんが多い中で、社員の高齢化が進んでいることも事実です。会社の成長や継続のために、新しい仲間を集め、会社の若返りを行うことは必要なタイミングになっています。これから先10年間をかけて行い、新しいビジネススタイルでいろんなことにチャレンジしていく会社にしたいと思っています。

―ありがとうございました。

業界最古の靴クリームメーカーとして、製法へのこだわりは守りつつ、サステナブルを意識した新しい製品展開、既存のビジネスモデルを軸にITを活用した業務改善など、精力的に次の10年に向けて動きだしたところだという印象を受けました。

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