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花王100年の技術を活かした「休息美容」を提案する。「melt」が切り開く、ヘアケアのハイプレミアム市場への挑戦

花王100年の技術を活かした「休息美容」を提案する。「melt」が切り開く、ヘアケアのハイプレミアム市場への挑戦

市場ニーズの変化を受け、ヘアケア事業の変革に本格的に乗り出した花王株式会社。2024年4月には、休みながら美しくなる “休息美容”をコンセプトに掲げた新ブランド「melt(メルト)」を発売し、24年春の発売~25年5月までのインバス製品における累計出荷数は250万本を突破するなど好調な滑り出しをみせている。花王のヘアケア研究100年の知見を生かし、躍進を続ける「melt」が誕生した背景やブランドに込めた思いについて、シニアマーケターの服部 有香さんにお話を伺った。

服部有香さん/花王株式会社 グローバルコンシューマーケア部門 ヘルス&ビューティーケア事業部門 ヘアケア事業部 シニアマーケター
日系化粧品会社に新卒で入社後、スキンケアやメイクブランドの事業に従事。営業職を経てマーケティング部門へ異動し、ブランドマーケティングをはじめ、自社ECサイトの立ち上げや、デジタル施策を推進し、実店舗に匹敵する売上に育成。ブランド事業部の営業統括も担当したのち、2022年に花王へ入社。現在は「melt」で商品開発からブランド戦略、コミュニケーション活動などマーケティング業務を包括的に担う。

営業・マーケの経験を活かし、新ブランド展開を推進

― まずは、服部さんのキャリアについてお聞かせください。

日系化粧品会社に新卒で入社後、スキンケアやコスメのマーケティングや、自社D2Cの立ち上げなどを担当してきました。システム開発からCS、MD戦略など多岐に渡る業務で、日々決断の連続でしたが、決められたバジェットの中で、いかに効率的な運用ができるのか、実務兼プロジェクトリーダーの立場でPDCAが回せるのかを構築していく仕事は非常に刺激的でした。一方で、“マーケティングの専門性を更に高めたい”という思いから、2022年に花王へ転職しました。

― 現在は、どのような領域を担当されていますか。

2023年より、ヘアケア事業部が取り組む1,400円以上の「ハイプレミアム(高価格帯)」市場奪還に向けた新ブランド立ち上げに携わっています。私が担当する「melt」ブランドのマーケティングチームは、通常商品開発から広告宣伝、販売との連携など少人数制で、一人一人が裁量を持ちながらブランド育成を行っていますが、melt立上げ時には、これまでのやり方を捨て、ものづくりの進め方を一新しました。従来マーケティングチームがハブとなり、バケツリレー型で他部門と協業していたものを、各部門の代表者が参加するスクラム型の組織に変え、実務者が主体的に動ける体制を構築。意思決定のスピードを各段に上げる改革を行ってきました。最初こそ戸惑いはありましたが、各部門の責任を担った実務者が、自ら動き、提案するスタイルが徐々に構築され、更に上層部がその動きを後押しすることで、通常なら妥協しがちな事案さえも、チームの意思で突破しイノベーションを生み出しやすい環境ができていると感じます。

新ブランド「melt」の立ち上げを牽引した服部さん。

「セルフケア」に寄り添うハイプレミアム商品を開発

― 時代に合わせて生活者のニーズは変化しますが、国内のヘアケア市場には、現在どのような動向があるのでしょうか。

約3,000億円規模にまで成長したヘアケア市場では、高価格帯のハイプレミアムが伸長しています。ヘアケア専業メーカーではなく、マーケティングに強みを持つ新興ブランドなどが、OEMを活用して次々とプレミアム市場に参入し小売店のシェアを押し上げ、ブランド設計・世界観・発信力で勝負する潮流が加速しています。

その一方で、1,400円未満のマス向け製品が中心の花王では、ハイプレミアムの割合がわずか1%しかなく、シェアが縮小し続ける結果に。マスを得意とする大量生産・大量販売という花王の強みが発揮しづらい状況でした。

こうした背景から、2023年からハイプレミアム拡大へと動き出しました。ヘアケア事業を成長ドライバー領域へと育成強化するため、既存の枠組みを超えて組織体制や開発の仕組みを見直してスタートしたのが私の携わるプロジェクトです。

― 飽和状態ともいわれるハイプレミアム市場で、どのような戦略を実行されたのですか。

ひとつは、生活者の「感情」を軸としたことです。それまでは、生活者の悩みを解決するために、技術力をベースに商品づくりを行なってきました。しかし、高価格帯シャンプーに生活者が求めるものには、「ダメージケアしたい」などの機能ニーズだけでなく、「気分を高めたい」「可愛いものを使いたい」などの直感的な魅力が求められます。

そこで、私たちは心理学に基づいた6つの感情ニーズの中から、取るべきポジションを設定しました。meltでは「優しさ」や「安心感」を求めるニーズを満たすため、デザインから香り、使用感、広告表現に至るまで一貫したモノづくりを行うことを重視しています。

― コンセプトを考える際、どんなことを重視されましたか。

コンセプトを考える際に重視したのは、“ヘアケアの枠に閉じない”ということです。コロナ禍で自分と向き合う時間が増えたことで、自分自身を大切にする「セルフケア」がトレンドになりました。世の中で「ご自愛消費」が浸透する中、そのニーズをヘアケアにも採用することができないか考えた結果、休息とヘアケア行動を結び付けた「休息髪」というアイデアが最初に生まれ、そこからmeltの「休息美容」というコンセプトが作られました。

― 心が安らぎ、気持ちよくなれそうなパッケージ特徴的ですね。

パッケージも生活者のニーズに寄り添ったデザインにしています。チーム内では「休息」というテーマに対して「落ち着いた雰囲気」や「とろけるような感覚」など、いろいろな捉え方があり、どの案が最も「癒されたい、心地よい」といった感情ニーズを引き出し、且つ直感的な魅力を持つかを、盲目的にならないよう、美容感度の高い層に対して調査を行い評価しました。

すると、ターゲットである20〜30代女性の心を圧倒的に掴んだのはチームの予想に反して、ほっとするような優しさを感じて大人っぽさと可愛いらしさを兼ね備えた、現在のビジュアルの元になるデザインでした。この教訓を活かし、「melt」のものづくりの過程では、必ず美容有識者や美容感度が高い方の声を開発に活かしています。

パッケージデザインから使用感まで、“休息”をかたちにしたmeltのビジュアル。

基礎研究や花王の技術力を活かした、他にはできないモノづくり

― ハイプレミアム市場へ参入するにあたり、ほかに取り組まれた戦略はありますか。

花王の技術力を活かし、真似できない商品体験や本質的なソリューションを提供することです。近年、参入メーカーが増えたことで、機能だけで商品を差別化することは難しく、そうした中で選ばれるためには、使って満足できる「新しい知覚」を生み出さなければいけません。

そこで私たちは、100年にわたる研究知見をもとに、ハイプレミアム市場に新たな価値を生み出そうと考えました。こだわっているのは、”エビデンスベース”であり、”知覚WOWのある”モノづくり”です。花王には自社の研究開発部門があり、「melt」も基礎技術研究(さまざまな領域で物質や現象の仕組みを解き明かす最先端の研究)で得られた、確かなエビデンスに基づいて開発しています。

― 具体的には、どのような技術が生かされているのですか。

例えば、生炭酸シャンプーの「メルト クリーミーメルトフォーム」は、炭酸を活用したモノづくりを得意とする花王の技術力を活かした製品です。水に炭酸顆粒を混ぜると炭酸泡が発生する粉末洗浄剤の技術を応用。とろシュワな濃密泡で、毛穴まわりの汚れを浮き上がらせて落としたり、トリートメントのなじみをよくしたりするなどの効果があり、忙しい毎日の中でも、ほんのひとときヘッドスパのような体験が自宅で得られ、癒しの時間を過ごせるヘアケア製品になっています。

今春発売になった、うねり髪にアプローチする「スムースシリーズ」にも基盤技術研究の知見を応用。ストレスとうねりの関係性を解明した技術を活かし、うねりをヘアケアで解消する「花王にしかできないモノづくり」を行なった。

「休息美容」で日常を心地よい時間で満たしていく

― 「melt」のマーケティングについても教えてください。ユーザーとのタッチポイントで重要な役割を果たすSNSでは、どのような工夫をされていますか。

SNSで継続的に注目してもらえるよう、オーガニック投稿を生み出すことです。感度が高く、目も肥えたSNSユーザーの多くには、作り込まれたマス向けの広告は響きません。リアルで信頼できる情報が重視されるため、SNS上で影響力を持つ方々に対し、それぞれに最適な情報を設計しました。

例えば、成分解析士には成分や効果の裏付けを、インフルエンサーには使って満足できる知覚やデザインを伝えるなど、個別に設計しています。それを1対1でのオリエンテーションで伝えるなどの地道な活動を重ね、この約2年間でブランドへの共感を少しずつ広げてきました。

また、SNSと同時に、リアルでの体験の場を重視し、イベントやスパ、サロンを通じて、世界観込みでファンになっていただけるようにしています。昨年は花王内のインバスヘアケア市場の売上シェアに回復傾向が見られ、今後の目標は「melt」が市場を牽引していく存在になることです。日用品メーカーである花王の使命は、生活者の日常を豊かにする確かな製品を、ドラッグストアでも買える単価でお届けすることです。買い回りが盛んなカテゴリーだからこそ、安心して使っていただける商品の一つとして定住いただけるよう広めていきたいですね。

― 最後に、今後の「melt」についての展望を教えてください。

まだまだ誕生したばかりのブランドなので、まずは基盤固めと考えています。発売して終わりではなく、発売した瞬間から改善のステージが始まります。生活者に評価していただいて、初めて真の評価と課題が現れます。現に発売後、商品や販促、広告のPDCAを回し、検証と改善を繰り返していますが、妥協せずにやり続けたいと考えています。そして、10年続くブランドに育てることを見据え、ブランド価値をより強固にする商品展開として、ニーズ拡張、カテゴリー拡張など、多くの可能性があると考えています。日常生活におけるちょっとしたストレスを、「癒し」や「心地よい」時間に変えていく。そんな価値を届けられるブランドにしていきたいです。今後のmeltにもご期待いただけたら嬉しく思います。

文:流石香織
撮影:船場拓真

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