「好き」を仕事の原動力にした28歳の挑戦。ユナイテッドアローズ発「UACG」が描く、新しいアニメカルチャー NEW
ユナイテッドアローズのPRとして活躍しながら、アニメ・漫画・ゲームへの愛と敬意を熱量に新しいプロジェクト「UACG」を立ち上げた本山綺良莉さん。幼少期から親しんできたカルチャーとファッションの知見を掛け合わせ、「消費されないアニメTシャツ」をキーワードに商品を手がけている。作品の魅力を忠実に再現しつつ次世代へとつなげる挑戦を続ける本山さんに、ゼロから企画を立ち上げるに至った背景、制作へのこだわり、今後の展望を伺った。
本山 綺良莉さん/「UACG」ディレクター兼PR
1997年生まれ。大阪文化服装学院卒業後、2017年にユナイテッドアローズへ入社。「ユナイテッドアローズ 新宿店」などでの販売経験を経て、2022年より「ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ」のPRに。現在は「スティーブンアラン」、「エイチ ビューティー&ユース」などを担当。幼い頃からのアニメ、マンガ、ゲーム好きが高じて、2025年に新プロジェクト「UACG」を立ち上げ、ディレクター兼PRとして活動している。
構想を10枚の企画書にまとめて上司に提案
― ユナイテッドアローズ(以下、UA)を志望した理由、入社後のキャリアについて教えてください。
もともとファッションが好きで、大阪の服飾専門学校に通っていました。就職先を決める際、UAでは「お客様第一」という考えを大切にしていることや、販売員の地位向上を目指していることを知り、魅力に感じたのが志望理由です。
入社後はUA新宿店、UA渋谷スクランブルスクエア店で販売員として勤務。入社5年目の2022年に、かねてより希望していたPR業務に就きました。現在は「スティーブンアラン」、「エイチ ビューティー&ユース」などのPRを担当しながら、「UACG」のディレクションとPRを兼務しています。
― 「UACG」は本山さんが立ち上げたプロジェクトだそうですね。“好き”が高じて、企画したとお聞きしましたが。
構想自体は、コロナ禍の前くらいからありました。父がゲーム好き、母がアニメ・漫画好きという影響もあり、私も幼少期からアニメ、漫画、ゲームが大好き。年代・ジャンルを問わずたくさんの作品に触れて育ちましたが、なかでもずっと大好きなのは「少年ジャンプ」。主人公が努力して何かを成し遂げていく姿に自分も大きく背中を押されますし、友情や仲間との胸アツな展開に惹かれる性分なのでしょうね(笑)。
ただ、大量生産された安価なグッズが売られていることに対してはモヤモヤを感じていて、いつからか、「作品と同じように、長く愛されるグッズをつくりたい!」と思うように。そこであるとき、10枚くらいの企画書にコンセプトや目的、つくりたい商品についてまとめて上司に提案したんです。
― 行動力がありますね。提案した結果、上司はどんな反応だったのですか。
「ブランドを立ち上げたいという話はよく聞くけど、自発的に企画書を持ってきたのは君が初めてだよ」と、驚かれました(笑)。企画書自体は拙いものでしたが、“どうしてもやりたい”という強い想いを最後に長文で書き、とにかく熱量はしっかりと伝わるように意識しました。
その後コロナ禍を経て、ちょうどアニメカルチャーが注目されるようになったタイミングで、社長や経営陣にプレゼンする機会をいただきました。そのときも拙い企画書だったと思いますが、“熱量だけは絶対に負けない”という気持ちでプレゼンしました。結果、社長から「そこまでの思いがあるなら、やってみたら」とGOサインをいただけました。

― プレゼンでは、どんな内容に重点を置いて伝えたのですか。
アパレルメーカーだからこそこだわった魅力的なアイテムがつくれること、アイテムをきっかけに素晴らしいアニメカルチャーを次世代へ繋いでいきたいという想いを伝えました。昔の作品も、私という“令和の20代女性”のフィルターを通すことで、同世代や次世代の方々にも橋渡しをしていけるはずだと考えたんです。
「作品の魅力を忠実に再現する」というブレない信念
― 「UACG」のコンセプトや、制作時の率直な感想を教えてください。
「UACG」は、UAにANIME、COMIC、GAMEの頭文字を合わせた名称で、その名の通り、アニメ、漫画、ゲームへの深い敬意から始まったプロジェクトです。“消費されないアニメTシャツ”をキーワードにうたっていて、すぐに消費されて終わるのではなく、作品と同じように長く愛される一着をつくる――そんな想いを大事にしています。自分や「UACG」というフィルターを通すことで、作品の価値や魅力を再構築して、提案していきたいと考えています。
でも、いざ制作を始めると右も左もわからず、難しいことや知らなかったことばかりでした。服づくりを理解しているつもりでしたが、やはりちゃんとはわかっていなかったな、と痛感しましたね。
― 制作の過程では、どんなことを大切にされたのでしょうか。
当初からあった、“作品の魅力を忠実に再現する”という軸の部分、信念です。例えば、第一弾として発売した漫画家・江口寿史先生とのコラボTシャツでいえば、細かい線や色の出し方。江口先生は人物の表情や美少女をとても魅力的に描く方で、線が1本違うだけでまったく異なる印象になってしまうのです。
そのため、技術的な面では試行錯誤の日々でした。結果、全3型つくったうち、必要と判断した2型でシルクスクリーンプリントを採用。シルクスクリーンプリントは、色ごとに版を分け、職人さんが一枚ずつ手作業で刷る技法です。そもそも作品に忠実に再現すること自体がとても難しいため対応できる会社が少ない、そして多色刷りになると予算も手間も時間もかかる……と、困難の連続でした。


― 無事に完成して発売した際、まわりや世間の反響はいかがでしたか。
江口先生は、Xに「若い世代のスタッフの絶対いいものをつくるという熱意が素晴らしかったです」と投稿してくださいました。江口先生のファンの方に喜ばれたのはもちろんうれしかったですが、「たまたま店舗で見かけて可愛いから買った」というお客様がいたこともうれしかったです。「UACG」をきっかけに、まだ知らない方にも作品の魅力を届けることを目指しているので。
あとは、オリジナルのブリスターパックに対する反響もありました。私自身、好きなアニメのフィギュアを買ったときに、「ケースから取り出したい、いや、出さずに飾っておきたい、でもやっぱり出したい……」と、逡巡する時間も楽しかったりするんです(笑)。だからTシャツも、あえて出さずに飾ることもでき、ケースから取り出すワクワク感も味わえるようにという気持ちで1型をこのパッケージにしました。
― Tシャツだけでなく、パッケージにも本山さんのこだわりが詰まっていますね。9月26日に発売する第二弾のTシャツについても教えてください。
第二弾は、望月峯太郎先生の「ドラゴンヘッド」(講談社刊)全10巻の表紙を再現したTシャツ10型を発売します。作品を忠実に再現することにこだわったのは第一弾と同様ですが、望月先生から「フィルターをかけた方がいいのでは?」とのご提案をいただいたものもあり、かっこいい色味に仕上がっているので注目してほしいです。またボディ(地)は、表紙の色や風合いに合わせ、タイダイやヴィンテージ加工にしたものもあります。ロゴの入り方など細かいところもたくさんこだわったので、その分苦労もありましたが、大満足の仕上がりです。

ポップアップの実施やオタク社員を集めて、さらに拡大させたい
― 第一弾、第二弾ともに90年代に発表された作品です。なぜ、この時代の作品を選んだのですか。
20~30代など私と同世代の方々は、あまり馴染みのない作品かもしれません。だからこそ、もっと知ってほしいと思ったんです。魅力にあふれた作品であることは間違いなく、それは世代を越えて響くはずですし、その判断に関しては自分の感覚を信じていますね。古き良き……というわけではないですが、少し昔の作品の良さや価値も伝えていきたい。「UACG」のアイテムがその橋渡しの役割をできたら、と思っています。

― 大御所の先生方からはコラボを好意的に受け止めてもらい、円滑に制作を進められたようですが、その秘訣は何だったのでしょうか。
想いや意図など大事なことを伝える際は、なるべく直接お会いするようにしました。今は大抵のことはメールで済ませられますが、細かいニュアンスが伝わりませんし、一つひとつ確認しながら進めるときなどは、やはり対面でないと難しいと私は思います。例えば、最初に企画書を送付するも、窓口の方からは「メールで」と言われましたが、「できれば直接お会いして想いをお伝えする機会をください」とお願いしました。
― 本山さんの熱意と行動力がそうさせるのでしょうね。最後に、「UACG」の今後の展望や本山さんの目標について教えください。
今後は、ニットやパンツなど新たなアイテムづくりに挑戦すると同時に、世界観を存分に表現した没入感のあるポップアップ会場を企画してみたいです。あと、社内には私のようなオタクがきっとほかにもいるはずなので(笑)、オタク社員を集めて、「UACG」をさらに拡大、成長させていけたらいいですね。
私自身は、いまディレクターとPRを兼務していますが、どちらの仕事も大好きでやりがいを感じています。PR業務では多角的な視点やコミュニケーションスキルを磨けますし、ディレクター業務では、自分の意思を明確化して周囲に伝える大切さやブレない強さを培えています。今後も、仕事を兼務しているからこそ得られる気づきや学びをどんどん仕事に活かしながら、前進していきたいです。
取材・文/鈴木里映
撮影/船場拓真
Brand Information

UNITED ARROWS
ユナイテッドアローズは、独自のセンスで、国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを展開しています。