【連載➂「大名古屋展2025」の裏側】青学の学生と深掘りして見えた、“日本の交差点”としての名古屋 NEW

2025年10月11日(土)、ビームス ジャパン「大名古屋展」と青山学院大学総合文化政策学部発のプロデューサー集団「AOGAKU PROJECT DESIGN CENTER」が名古屋市内でワークショップ「#もっと #いいじゃんなごや 〜みんなの名古屋自慢!」を開催した。同年8月に開催されたビームス ジャパン主催の「大名古屋展2025」で集めた名古屋自慢をもとに、東京の学生と観客が対話しながら名古屋の魅力を深掘りするという新しい試みだ。今回、ワークショップを行った学生8名と、青山学院大学の講師であるWRITING&DESIGN PARTNERSの矢花宏太さん、ビームス ジャパンの佐野明政さんに、取り組みの背景や今後の展望について話を伺った。
矢花 宏太さん/株式会社WRITING&DESIGN PARTNERS クリエイティブパートナー 代表取締役(上段右端)
株式会社電通でプロデューサーとして19年勤務。2006年入社、営業局に配属、その後コミュニケーションデザインセンターで「Tokyo 2020」など多彩な案件を担当。2022年に「プロジェクトデザインルーム」を立ち上げ、2024年に「プロジェクトデザイン部」を新設。2025年に独立し、「株式会社WRITING & DESIGN PARTNERS」代表取締役に就任。これまでの仕事は、映画「PERFECT DAYS」企画・プロデュース、日本サッカー協会「夢への勇気を」、サッカー日本代表「最高の景色を2026」など。青山学院大学総合文化政策学部 客員講師。
佐野 明政さん/株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(上段左から2番目)
愛知県名古屋市出身。2000年ビームスに入社。2010年に修士号取得。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2015年よりビームス ジャパンのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2019年、名古屋・愛知を盛り上げるイベント「鯱の大祭典」の象徴となる名古屋グランパスの選手ユニフォームのデザインオファーをきっかけに、「大名古屋展」を立ち上げた。2021年より現職。
名古屋の魅力を引き出すワークショップを開催
ー はじめに、「AOGAKU PROJECT DESIGN CENTER(以下、「APDC」)」講師の矢花さんにお聞きします。今回「APDC」の皆さんは「大名古屋展」に続き、本ワークショップを開催しました。そもそも「APDC」が「大名古屋展」に関わることになった経緯を教えてください。
矢花宏太さん(以下、矢花):まず、「APDC」を立ち上げた背景には、「若者のプロデュース集団をつくり、継続的な活動を通して世の中を面白くしたい」という想いがありました。そこで佐野さんに相談したところ、「5年間続けてきた『大名古屋展』を新しいフェーズに移したい」とのことだったので、昨年から関わらせていただいています。
僕が考えるプロデュースとは、ものづくりではなく、「この先、どんな名古屋市になったらワクワクするか」をという物語を描き、そこから逆算して必要な手段をデザインすること。だからこそ、単なるプレゼンや商品開発プロジェクトではない「大名古屋展」への参加を決めました。

ー ワークショップでは、名古屋人の特性や名古屋弁の早口言葉を紹介したほか、「名古屋は日本の中心に位置し、文化や思いが交わる“日本の交差点”である」という斬新なプレゼンも行われました。
矢花:「交差点」というキーワードは僕が指示したわけではなく、学生たちが自ら見つけたものです。やはり、学生の着眼点や気づきはとても面白いと思いました。学生にとっても自信になればいいと思います。
ー 観客から、「キュンキュン」や「トキントキン(名古屋の方言で「尖っている」)」といったオノマトペに当てはまるスポットを聞き出し、リアルタイムで観光マップを作る企画も盛り上がりましたね。
矢花:それも、学生たちの発見から生まれた企画なんです。昨年、「APDC」の学生が名古屋の人に「名古屋って何があるんですか?」と尋ねたところ、「何もないよ」と返ってきたそうです。ところが、学生が「私の地元にはこんなものがあります」と話すと、名古屋の人はスイッチが入ったように「名古屋にはこれがある!」と次々に自慢を語り始めたのだとか。
そんな経験から、外の人がはたらきかけることで、名古屋の人から名古屋の自慢、「#いいじゃんなごや」を引き出そうと考えたそうです。
ー 「APDC」の皆さんには、どんなことを学んでほしいですか。
矢花:「APDC」では、ロジカルに積み上げるのではなく、空想や妄想を膨らませて、「どうしたら実現できるか」と考えることを大切にしています。「どうしたら名古屋がもっと良くなるか」「自分ならどう名古屋に関わるか」を考え、形にしたのが今回のワークショップです。空想や妄想を自由に描くことは素晴らしいですし、その可能性を活かす手段を考えていくことが、まさにクリエイティブであることを知ってほしいと考えています。
ー 「APDC」の今後の展開について教えてください。
矢花:名古屋市がこれまで取り組んできたプロジェクトとは違う視点から名古屋を広げられたらいいなと思います。たとえば、ほかの大学生が「自分たちも何かやりたい」と名古屋に訪れてくれるきっかけとなるような、新しいものを生み出したいですね。


名古屋で感じた、人の温かさと地元への想い
ー それでは、「APDC」の皆さんにもお話をお聞きします。ワークショップを終えた感想を教えてください。
岩波那奈さん(以下、岩波):私は小学生の頃、名古屋に住んでおり、今回の会場であるラシックにも訪れたことがあります。ワークショップでは、「名古屋について話したい」という方や、「最近転勤で来たので、名古屋の良いところを知りたくて聞いていました」という方もいました。名古屋のことを話したい人や知りたい人がたくさんいると分かって、とても嬉しかったです。
加藤潤也さん(以下、加藤):僕は有名な観光地や名産品だけでなく、日常の中にある魅力や思い出を大切にしたいと考えています。今日も、名古屋の人たちが思い出の場所やこれから流行りそうな場所を語り合う姿を見て、身近な魅力をどんどん発信していけたらいいなと思いました。
佐藤初妃さん(以下、佐藤):私も有名な観光地は魅力的だと思います。でも、そこに住む人や訪れた人の思い出とか気持ちが詰まっている場所の話を聞くと、もっと魅力的に見えることを今日改めて実感しました。名古屋の温かさも感じることができ、このあと名古屋で過ごす時間がとても楽しみです。
柿沼花那さん(以下、柿沼):名古屋出身の友達に「名古屋に行きたい」と話すと「名古屋は何もないよ」と言われることもあり、これまでは「ご飯はおいしいけれど、観光地としては大阪などの方が先に思い浮かぶ」という印象でした。
でも今回、観客の皆さんと対話したことで名古屋には本当にたくさんの魅力があることに気づきました。特に、人の思いが込もった話に触れたことで名古屋の人たちの街への愛情や温かさを感じ、大きく印象が変わりました。
赤坂大樹さん(以下、赤坂):名古屋には何度か来たことがありますが、現地の人と話したことはありませんでした。皆さん、地元の話や思い出の話になると熱が入り、とても盛り上がってくれたと感じます。最初は「初めて訪れた東京の学生を受け入れてくれるかな」と不安もありましたが、温かく迎えてくれて嬉しかったです。


ー 東京に住んでいる皆さんだからこそ気づけた、名古屋の魅力を教えてください。
若林夢果さん(以下、若林):東京ではエスカレーターの右側を歩く人が多いのですが、名古屋の人は皆きちんと両側に並んでいて驚きました。名古屋の人は心にゆとりがあり、それが行動にも表れているのだと思います。
菅叶音さん(以下、菅):今回初めて名古屋を訪れましたが、レトロな街並みが多いことを知りました。ワークショップでは古民家の改修の話も聞くことができ、昔から一人ひとりが丁寧に土地を大切にしてきたことを感じます。昔から丁寧に住んできたからこそ、名古屋の人自身も気づいていない街の魅力があるのではないかと思いました
奈良大樹さん(以下、奈良):名古屋の街にはあちこちに彫刻があり、芸術性やメッセージ性を感じられて面白かったです。こうした発見は、イベントなどを通して初めて気づくものだと思いますし、少し視点を変えれば、さらに面白いものを見つけられそうだと感じました。


「いいじゃんなごや」がつなぐ、名古屋と学生の未来
ー 今後、「いいじゃんなごや」の活動をどのように発展させたいですか。
奈良:前回の「いいじゃんなごや」では、「名古屋の中で『いいじゃん』を見つける」がコンセプトでした。今回は青学生などの外からの視点を掛け合わせることで、新たな「いいじゃん」が生まれることに注目しました。次は、これまで集めた名古屋の魅力を東海道など、より外の地域に広げていきたいです。
菅:私たちの目標は誰でも知っている観光名所だけではなく、一人ひとりの思い出や名古屋で過ごしたときに得た感情などに寄り添い、それを見える化することです。そうやって誰かの思い出に寄り添った観光マップづくりができたらいいなと思います。また、先ほど話した「名古屋の人には当然になっている魅力」や大切にされてきた土地を守り、「これが名古屋の魅力です」と広めていきたいです。
若林:私たちは「カエリミチ・ラボ」というチーム名で活動しています。この名前には、「日本各地が、いろいろな人の“故郷”になってほしい」という想いが込められています。多くの人に名古屋の魅力を知ってもらい、「いつでも帰れる自分の故郷」と思ってもらえるように頑張りたいです。


ー 「こうすればもっと名古屋の魅力が伝わる」という新たなアイデアは生まれましたか。
岩波:観客の方が話していた「モリコロパーク」には、私も小さい頃によく訪れていました。普段は思い出さないようなことでも、人の話を聞くことで自分の思い出と重なる瞬間があります。だからこそ、名古屋は「ここが観光名所です」とアピールするよりも、人のエピソードを交えて伝えたほうが、より魅力が伝わるのではないかと思いました。
柿沼:私も、その場所での思い出や感じたことを聞いて、実際に行ってみたくなりました。何気ない場所でも、名古屋に住む人の気持ちを発信することで思い出が共有され、特別な場所になるのではないでしょうか。
ー これまでの経験を、将来の仕事やキャリアにどう活かしたいですか。
加藤:現在、インターン先で営業をしていますが、もともと人前で話すことは苦手です。「できないからこそ挑戦したい」と思い、このゼミに入りました。初めてプレゼンしたときは震えるほど緊張しましたが、今日はまったく緊張しなかったので自分でもビックリです。
いつもゼミの教授や矢花さんに「失敗しても大丈夫」と励ましていただいています。今後も人前で話すことや人に声を掛けることに挑戦し、失敗を重ねながら成長したいです。
岩波:就活では、不動産業界の中でもまちづくりや地域創生に携わる仕事に絞っています。理由は、有名な観光地よりも地元の人しか知らない場所を訪れるほうが好きだからです。これまでも現地で地元の人と仲良くなり、魅力的な場所を教えてもらう体験をたくさんしてきました。そうやって地域の人と触れ合いながら、街の良さを知る体験を形にしたいです。
今回の取り組みはまさにそれに直結していて、やりたい仕事に対する思いが一層強まりました。
佐藤:将来のことはまだはっきりイメージできず、不安もあります。ですが、このゼミで出会った社会人の方は皆ポジティブで熱意にあふれていて、「こんな大人もいるんだ」と希望を感じました。自分も頑張ろうという気持ちになれます。


ー 名古屋に住んでいる人にメッセージをお願いします。
柿沼:これまで名古屋といえば名古屋駅や市街地のイメージが強かったのですが、それ以外にもたくさんの魅力が詰まった街だと感じました。これからも名古屋の魅力をもっと引き出していきたいので、ぜひいろいろ教えていただきたいです。
赤坂:今回のワークショップでは、皆さんの思い出を交えたお話を聞くことで、インターネットだけでは伝わらない名古屋の魅力を発見できました。お話を聞いた場所へ足を運んでみたいと思える、とても貴重な機会になったと思います。今後は、東京など関東の魅力も伝えたいです。

企業×学生の新しいコミュニティで、日本をもっと元気に
ー 最後に、佐野さんにお聞きします。今回、「APDC」の皆さんと活動してみていかがでしたか。
佐野明政さん(以下、佐野):こんなにもたくさんのアウトプットが出てくるとは思っていませんでした。今回で「APDC」の皆さんと活動するのは3回目ですが、回を重ねるごとに深掘りされていきます。常に新しい発想と刺激を与えてくれるので、とても嬉しいです。ぜひ次につなげたいですね。
ー 本ワークショップについて、「大名古屋展」に参画している企業の反応はいかがでしたか。
佐野:皆さんすごく興味を持ってくれています。名古屋にはものづくりの会社が多く、優秀な学生を求めているところも多いです。普段あまり接点のない学生と関わりを持ちたいという思いもあるのではないでしょうか。
ー 今回の学生との交流を、今後の「大名古屋展」にどう活かそうと考えていますか。
佐野:名古屋の企業や市長たちとお話した際、皆さん口を揃えて「『大名古屋展』の魅力はコミュニティにある」「普段接点のない人とつながることで発想やできることが広がる」と言っていました。「大名古屋展」を通してできたコミュニティの幅が広がることで、今後参画企業のリクルートなどにも繋がったら嬉しいです。
昨今「良いものを作るだけでは売れない時代」において、ストーリーや新しい視点、取り組みが生まれるコミュニティを求める企業が増えています。今回の学生との取り組みもまさにコミュニティが広がる一例です。名古屋から若者が東京へ流出してしまう課題を解決するヒントは、学生の皆さんが持っていると思います。
「何が面白いから東京に行くのか」「じゃあ名古屋には何があればいいのか」という会話をもっと交わし、名古屋から日本を元気にしていきたいです。

文:山際真弥
撮影:Wataru Sato