C.P. Company創業者の息子が語る、受け継いだ哲学とブランドの現在地 NEW

1971年、イタリア人デザイナーのマッシモ・オスティによって創設された「C.P. Company」。ミリタリー、ワークウェア、スポーツウェアの要素を融合し、独自のテキスタイル研究と染色技術によって比類なきスタイルを築き上げた。今回は、創業者マッシモの息子であり、現在CEOを務めるロレンツォ・オスティ氏に、父から受け継いだ思想と、ブランドを現在へと導き、再定義していくその取り組みについて話を聞いた。
ロレンツォ・オスティさん /President, C.P. Company
イタリアの起業家。1971年に父マッシモ・オスティが創業したイタリアのスポーツウェアブランド、C.P. Companyのプレジデントを務める。ボローニャ大学にて視覚芸術およびマス・コミュニケーションを専攻。ファッション業界の外でキャリアを積んだ後、2015年にC.P. Companyへマーケティング・ディレクターとして参画。ブランドのデジタルトランスフォーメーションをはじめ、ブランドイメージの再構築や重要なコラボレーションを主導した。2019年にプレジデントに就任後は、プロダクト研究啓発、テキスタイルイノベーション、そしてカルチャーとの深い関係性に根ざしたブランドの中核的アイデンティティを強化しながら、国際的な事業成長を牽引している。また2024年には、父マッシモ・オスティの先駆的な方法論を現代に拡張・再解釈する実験的プラットフォームとして、研究主導型プロジェクト「Massimo Osti Studio」を設立した。
誰の模倣でもない創造。独自の感性とプロセスが生む自由なクリエイション
― 日本に対する印象と、C.P. Companyにおける日本市場の重要性について教えてください。
ここ数年は毎年のように日本を訪れていますが、実は子どもの頃、8歳と17歳のときに父と一緒に訪れた経験があります。日本は私にとって特別な国であり、いつも多忙だった父との数少ない思い出が残る大切な場所でもあります。
C.P. Companyのビジネスにおいても、1980年代——ブランド創設間もない時期から、イタリア・ドイツ・日本の3カ国が主要マーケットとして存在していました。日本は当時から今日に至るまで、常にブランドにとって極めて重要な市場です。日本の消費者は非常に洗練されており、世界でも屈指のスタイリングセンスを持っています。
ブランドのメッセージを深く理解し、敬意をもって受け止めてくださることに、いつも感謝しています。彼らの着こなしや美意識の高さは、私たちにとって常にインスピレーションの源です。ちなみに今日私が履いているワイドシルエットのパンツも、日本から得たインスピレーションによってデザインされたものです。

― C.P. CompanyのDNAの中で、最も重要な要素は何だとお考えですか。
C.P. CompanyのDNAは、2つの柱で成り立っています。ひとつは「プロダクト」です。ブランドを象徴する製法のひとつに、ガーメントダイ(製品染め)と呼ばれる独自の染色技術があります。これは、生地や糸を先に染めるのではなく、白い生地を縫製して完成させた状態で染料に浸して染め上げる手法です。
たとえば、この一着には6種類の異なる生地が使用されており、同じ染料で染めてもそれぞれ異なる反応を示します。別の製品では、仕上がりが黄色・グレー・グリーンの3色に見えるものもありますが、実際には同じ染料を使って異素材を染めた結果なのです。素材ごとの化学反応が生む色の差異こそが、C.P. Companyらしさであり、効率性とサステナビリティを両立する手法でもあります。
もうひとつの柱は「カルチャー」です。1970年代から2000年代に至るまでの50年にわたる歴史の中で、ブランドは時代の空気や社会の変化を的確に読み取り、それを独自の美学として製品に反映してきました。その柔軟さと洞察力こそが、C.P. Companyの本質的な強みだと考えています。

「Product is the king」——受け継がれた哲学と揺るがぬ一貫性
― マッシモ・オスティ氏から受け継いだ哲学の中で、最も根付いているものは何でしょうか。
最も大きな教えは、やはり「Product is the king(プロダクトこそが王である)」という考え方です。ブランドを構成する要素は多くありますが、C.P. Companyにおいては、すべての中心に「製品」があるということを常に忘れません。次に重要なのはイノベーションです。私は「失敗こそがプロセスの一部であり、失敗の中からこそ真の革新が生まれる」と信じています。そして3つ目は、敬意と誠実さです。ブランドや製品の魅力を社会に伝えるためには、相手に対する敬意と誠実な姿勢が欠かせません。
さらに私たちは、「マーケットを見ない」ことを徹底しています。競合を模倣しても新しいものは生まれません。父は、時代の空気を“嗅ぎ取る“ような感覚を持っていました。人々が何を求め、何を表現しようとしているのかを直感的に理解し、それをブランドに落とし込む——そんな直感と分析の融合を実践していたのです。


顧客とのコミュニティを築き、誠実に成長し続ける
― ブランドを率いる上でのご自身のアプローチと、今後の成長戦略について教えてください。
過去10年間、私たちはブランドを再び自社の手に取り戻してから、着実で健全な成長を遂げてきました。しかし経営者として私は、急激な拡大を追い求めてはいません。何より大切なのは、長く愛されるブランドであること、そしてこれまでの50年の歴史を次の50年へと受け継ぐことです。トレンドを追うことよりも、変わらない本質を提供し続けることにこそ価値があると考えています。私たちは、慎ましく、誠実に、一歩ずつ成長を積み重ねていきたいと思っています。失敗もまたプロセスの一部であり、それを通して強くなるのです。
― 2020年代のC.P. Companyを象徴するプロジェクトを教えてください。
この10年におけるC.P. Companyの大きな前進は、コミュニティの形成にあります。その代表例が、「Behind the Seams(縫い目の裏側)」という取り組みです。名前の通り、“Behind the Scene(舞台裏)“をもじったもので、ブランドの歴史を支えてきた人々に光を当てるプロジェクトです。私たちは長年のコレクターやジャーナリスト、ブランドの友人たちをイタリアのリサーチセンターに招き、アーカイブやビジョンを共有するとともに、まだ一般公開されていない新作コレクションの開発過程を体験してもらう機会を設けています。また、グローバルプロジェクト「Eyes on the City」をInstagram上で展開し、世界中のファンと継続的な対話を続けています。
― 次の世代へブランドを継承していくうえで、大切にしているビジョンを教えてください。
常に自分たちらしくあること。誰かの模倣ではなく、自らの信念に忠実であること。そして、すべてのステークホルダーに対して透明性と誠実さをもって向き合うことです。
もちろん、まだ学ぶべきこと、改善すべきことはたくさんあります。だからこそ、私はチームに「学び、考え、成長し続ける姿勢」を常に促しています。私たちが目指すのは、短期的な成功ではなく、C.P. Companyらしさを時代に合わせて進化させていくことです。
文: 大貫翔子
撮影: 船場拓真