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【現地レポート】イタリアはなぜ色を語るのか?「C.P. Company」に学ぶ色彩とブランド哲学

【現地レポート】イタリアはなぜ色を語るのか?「C.P. Company」に学ぶ色彩とブランド哲学 NEW

1971年にイタリアで創設された「C.P. Company」。ミリタリー、ワークウェア、スポーツウェアの要素を横断し、独自のテキスタイル研究と染色技術によって、他に類を見ないスタイルを確立してきたブランドだ。本記事では、H-7HOUSE LLC 代表でブランド・マーケティングコンサルタントの堀 弘人さんが、「C.P. Company」のR&Dセンターおよび染色工場を訪問した際に得た気づき、CEOのロレンツォ・オスティ氏との対話を通して見えてきた、イタリアならではの美意識と「色」に宿る価値観を紐解いていく。

堀 弘人さん/H-7HOUSE LLC 代表 | ブランド・マーケティングコンサルタント
独立系マーケターやクリエイターと連携する H-7HOUSE (エイチセブンハウス)を創設し、企業の経営課題や社会課題に対するブランド・マーケティング戦略を推進するコンサルタント。 起業前は外資系ブランドでマーケティングディレクターを経験し、日系上場企業の国際戦略部門にて、新規事業責任者としての事業の垂直立ち上げと短期間での収益化を実現した実績を持つ。 人的資本を活かしたブランド構築を実践し「人」を軸にしたブランド価値の最大化を支援する。 ブランド戦略を経営視点で捉え、事業成長とブランド価値の最大化を両立させるコンサルティングを強みとする。

2026年2月。ミラノ・コルティナ冬季五輪の開幕を2週間後に控えたイタリアでは、すでに祝祭の空気が街に満ち、来たる国際イベントに向けた高揚感が色とりどりの装飾に反映されていました。私が今回訪れたのは、まさにこの「色彩の国」イタリア。ミラノのマルペンサ空港に降り立ち、北イタリアの山々を抜けながら小さな町カッレ(Carrè)へと車で向かいました。車窓から見えたのは、旅の本質を予感させるイタリア特有の夕焼けの色でした。この瞬間、色というものが緯度や経度の違いによって、これほどまでに異なる表情を持つのかと驚かされました。空の色、建物に映る影、光の広がり方は、明らかに日本とは異なっていました。その違いは単なる自然現象ではなく、「色を見る感性そのもの」が自然環境の中で培われていることを教えてくれました。

カッレに向かう夕焼けの写真

アーカイブ倉庫で出会う、色と機能のダイアローグ

カッレの「C.P. Company」 R&Dセンターを訪問すると、まず案内されたのは膨大なアーカイブを収蔵した倉庫でした。ミリタリー、ワークウェア、テーラリングが融合した1970年代から現在に至るまでのコレクションが保存されており、単なるファッションブランドではなく、「技術と思想の研究機関」であることを強く実感しました。

アーカイブに並ぶジャケットやパンツは、いずれも色と機能、素材と構造が精緻に結びついていました。特に初期のコレクションには、現在のスポーツウェア的なギアの印象とは異なる、テーラリング要素の強いプロダクトが多く見られました。ブランドの根源には、クラシックと実験が常に共存してきたことがうかがえます。私は展示品に感嘆するだけでなく、アーカイブを資料ではなく思考の痕跡として読み解いていきました。この姿勢は、ブランドの本質に向き合う自身の仕事とも深く共鳴するものでした。

続いて訪れたのは、R&Dセンター近くにある染色工場。そこでは「C.P. Company」だけでなく、多くのヨーロッパのメゾンブランドが染色を委託しており、イタリアが誇る染色文化の拠点といえる場所でした。驚いたのは、その非機械的ともいえる製造プロセスです。染料の温度や素材の吸収具合は職人の手と感覚によって調整されており、アルゴリズムでは代替できない繊細な工程が連続していました。私自身もワークショップに参加し、タイダイ染めのTシャツ制作に挑戦しました。この体験を通じて、染色とは単なる仕上げ工程ではなく、素材と対話し、偶然と共存する生成のプロセスであることを理解しました。

C.P. Companyの貴重なアーカイブ
C.P. Company R&Dセンターの写真

ロレンツォ・オスティが語る「色とブランドらしさ」

その後、歴史的文化遺産が今なお息づくボローニャへ移動し、「C.P. Company」創設者マッシモ・オスティ氏の息子であり、現CEOでもあるロレンツォ・オスティ氏と対話する機会を得ました。ボローニャは「イタリアにおける京都」とも言える都市であり、彼のアトリエ兼アーカイブスタジオはその中心にありました。

ロレンツォ氏は色彩について、「同じ染料で染めても素材ごとに色が異なることこそが私たちの表現であり、効率性とサステナビリティを両立する方法でもあります」と語ってくれました。プロダクトごとの揺らぎを許容し、その個性を美しさとして捉える哲学が、「C.P. Company」には息づいているのです。

さらに彼はこう続けました。「父はもともとファッションデザイナーではなく、グラフィックデザイナーでした。完成後に手を加える発想から、ガーメントダイという技術が生まれました」。

この考え方は、色を事後的な装飾ではなく、生成後の余白として捉えるイタリア的美意識の象徴だと感じました。均質で高品質を求める日本的な価値観とは異なり、揺らぎを美として受け入れる姿勢から、新たな価値観を得ることができました。

ボローニャの街並み
ボローニャにあるマッシモ オスティスタジオの色とりどりの生地

日本人がファッションで忘れかけている「色の思想」

五輪に向けて街が色彩に包まれていくミラノの風景を眺めながら、日本人が日常的に選ぶファッションの色が、なぜこれほど控えめなのかと考えました。白、黒、紺、グレー。それは繊細さや奥ゆかしさの表れである一方、色を楽しむ感覚や自己表現が薄れつつある兆しでもあります。イタリアでは、色は語ります。五輪の開会式の衣装、街中のポスター、壁画に至るまで、色は国家のエネルギーとして存在しているように感じられました。テラコッタやセージグリーン、バーガンディ、マスタードといった色は、建築や絵画、食文化と深く結びついています。色彩とは文化的記憶であり、精神性の結晶なのです。

色が心に与える影響は文化によって異なります。イタリアでは赤や黄色が誇りや官能を象徴し、日本では白や紺が清廉や調和を表します。こうした違いは、着こなしやブランドの色使いにも表れています。

この旅を通じて、街並み、夕焼け、人々の装い、そして「C.P. Company」のプロダクトの細部に至るまで、色彩への深い信仰のようなものを感じました。

それは単なるトレンドでも、美意識でもない。色とは、文化的なDNAであり、社会の未来をデザインする文化的なコードともいえるのかもしれない。五輪という平和と色彩の祭典をきっかけに、私たちもより自由に、より豊かに色という文化的コードを身にまとい、ファッションを楽しんで良いのでは--。そう強く感じながら、イタリアの地を後にしました。

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