世界初のプロダンスリーグ「Dリーグ」仕掛け人が語る、熱狂を生むビジネスデザイン NEW

2021年1月、日本初のプロダンスリーグとして誕生した「D.LEAGUE」(以下、Dリーグ)。6期目を迎えた今シーズン、「D.LEAGUE 25-26 SEASON」の舞台となったTOYOTA ARENA TOKYOには約6,500人の観客が詰めかけ、10代・20代の若い世代を中心に熱狂を生み出した。なぜDリーグは一過性の流行ではなく、持続可能なビジネスとして成立したのか。発起人であり、株式会社Dリーグ代表取締役COOを務める神田勘太朗さんに、若年層がリアル会場に足を運ぶ理由や、大手企業を巻き込みながら持続的に価値を生み出す連携の構築、そして世界大会の構想まで、熱狂を生むビジネスデザインの核心を伺った。
神田 勘太朗さん/株式会社Dリーグ 代表取締役COO
1979年長崎県生まれ。起業家、ダンサー、ダンスクリエイティブディレクター。ダンス講師の母のもとで育ち、幼少期からダンスに親しむ。明治大学法学部卒業後、2004年に有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立。2005年より、ストリートダンスイベント「DANCEALIVE」を主催し、両国国技館での開催まで成長させた。2021年、世界初のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」を創設。現在は株式会社アノマリー代表取締役CEO、一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPAN会長も務める。
誰も舵を切れなかった「プロリーグ」への挑戦
― まず、2021年にダンスを「プロリーグ」という形で事業化しようと考えた最初の動機を教えてください。
その当時からダンスのプロリーグ化の話は業界内でもあり、ダンスの「プロ」と「アマチュア」の線引きを明確にする話も出ていました。自分のダンスの追求だけではなく、お客様ありきのスタイルの確立の話です。私にとっては、母がダンス講師だった影響もあり、幼少期から“プロのダンサーとして食べていくこと”は自然な感覚でした。しかし、世間的に何をもってプロとするのか基準は曖昧で、その境界は見えにくい。だからこそ、「プロの形」を誰の目にもわかる形で提示しようと考え、今回プロリーグの実現に至りました。
本来ダンスはカルチャーから生まれた表現です。その思いの強さゆえに、これまではスポーツとしては明確に舵を切れず、実現に至らなかったのだと思います。
そうした中、2018年にブレイキン(ブレイクダンス)がユースオリンピックの競技種目に正式採用され、スポーツ化の流れを実感しました。外部主導で「ダンスの本質とは違うもの」にされる前に、ダンスカルチャーに根ざす自分たちの手でリーグをつくるべきだと判断し、さまざまなタイミングも相まってそこから一気にギアを上げて創設へと動き出しました。
― プロリーグ創設から6シーズン目、今や6,500人を動員するまでとなりました。この現状をどう分析されていますか。
まだまだ、これからです。チケットが入手困難になって価格が上がり、それに伴ってダンサーの年俸や参画企業の価値も高まる。そこまで影響力を持つリーグを目指しています。これまでの5年間は、コロナ禍にも耐え忍んだ序章期間に過ぎません。6シーズン目は、マーケットを本格的に育てるフェーズ2の初年度で、ここからの5年間でどこまで伸ばせるかがDリーグの未来を左右すると考えています。

エンタメ性を追求する「プロデューサー視点」の設計
― 「来場者の中心が20代の女性」という点は、既存のスポーツビジネスと対照的です。この層に届くために、意図的に設計したファン体験や仕組みはありますか。
エンターテインメントの成功法則をスポーツに掛け合わせ、クリエイティブの細部まで若年層の感性に合わせています。国内における多くのスポーツでは、競技性や伝統が優先され、エンタメ視点で全体を設計するプロデューサーの存在が不在だと感じます。実際には「若い層を巻き込みたい」と思われているのですが、古き慣習を変えることが難しい構造があるんです。
その点、僕たちは既存団体に属さない新興リーグです。ゆえに「推し活層」にあたるターゲットが熱狂する要素を分析し、例えばキービジュアルの色味やフォント、SNS上での見え方まで即座に反映できます。また、会場にいるだけで「最先端のカルチャーに触れている」と実感でき、思わず発信したくなるような空気づくりにも力を入れています。
こうしたアップデートを止めれば、若年層のファンはすぐに離れてしまうでしょう。だからこそ規制や固定観念に縛られず、外部の刺激も柔軟に取り込みながらアップデートを続けてきました。その結果、誰が見ても一瞬で圧倒される、最高に面白いエンターテインメントを提示でき、それを体験した人の熱量が口コミとして拡散していくんです。
― Dリーグには、推しチーム・推しダンサーが自然に生まれる構造があります。ファンを「ただ眺める側」ではなく、「没入して観る側」へと変えるために、最も重視しているポイントを教えてください。
ひとつは、1チームあたりのパフォーマンスを「2分〜2分15秒」に設定したことです。従来のダンス業界は3〜5分が一般的でしたが、観客の集中力と作品の完成度を両立させるため、この尺に絞りました。
加えて、新作の発表頻度を高めています。メジャースポーツと並んで観客に継続的な熱狂を生むには、少なくとも月2回は新作が必要だと判断しました。そこで、昨シーズンまでは、あえて「2週間で新ネタを制作する」という高負荷のサイクルをダンサーにお願いしていました。みんな、最初はきつかったはずです。しかし、プロとして制作と練習に集中できる環境を整えることで次第に慣れていき、完成度の高い作品を生み出せるようになりました。
ステージ上では、派手な演出をSHOWの合間に差し込み、観客が集中できる限られた時間内で、磨き上げられた作品が次々に披露され、審査が進んでいきます。その緊張感の連続が、観客を自然と没入させているのだと思います。他のスポーツ競技では中々難しいラインを作れているという感覚はあります。


“6歳児のDリーグ”を関係者全員で育てていく
― 第一生命保険やソフトバンクがスポンサーとなり、多くの大手企業がチームオーナーとしてDリーグに参画しています。企業に対して、Dリーグをどのような投資価値として伝えてきたのでしょうか。
意識しているのは、「誰も想像したことがない世界」を、話を聞いて頂いた方々の頭の中に植え付けることです。私は人の心を動かす最初のスイッチは「熱量」だと信じているので、まずは圧倒的な情熱で相手の心を打つ。そのうえで、なぜ今Dリーグに投資すべきかを客観的なメリットとして整理して提示します。感情と合理で未来を具体化していくイメージです。
企業側のメリットとして大きいのは、Dリーグが若年層へ確実に届くマーケットを持っていること。従来のメディア経由のみのPRでは機能しづらくなり、一方でSNS施策も飽和している中で、10代・20代にダイレクトにアプローチできるDリーグのような場所は希少です。
また、Dリーグと組むことで長期的なブランド形成にもつながります。Dリーグファンの中心層である若年層は多感な時期であり、そのタイミングで触れた体験は、その人の価値観になって残り続けるはずです。例えば中学生の頃にDリーグに没入した層は、大人になってもファンであり続けるでしょうし、その時に支えていた企業名も記憶に刻まれる。結果として、将来の顧客との接点を築くことにつながります。

― 熱量だけではなく、そのような価値も伝わることで、多くの参画企業が協力してくださるのですね。
とはいえ、担当者の心をいちばん動かすのも熱量であり、「チームメンバーと共にファンの方々が心踊ることを仕掛け、そして応援してくれる方々に恩返しがしたい」というダンスから生まれる互いの愛情だと思います。カルチャーは、好きな人たちが自発的に語り、繋がり、仲間を増やすことで広がりますよね。その中心で圧倒的な熱源となり、周囲を巻き込める個人プロデューサー的な存在が必要です。
熱い人たちを増やしていき、その熱に触れた人が「これ、面白いんだよね」と語り始めることで熱狂が広がり、結果的に企業の心も動いていきます。
― 実際のステージを拝見しましたが、Dリーグは関わる全員が「自分たちのリーグだ」という当事者意識を持っているように感じました。
それは、運営側である僕たちが「絶対的な正解」を持っているわけではないからこそ成立している関係性だと思います。“Dリーグを盛り上げたい”と考えている参画企業や若いDリーガーは受け身にならず、「こうしたほうがいい」といつも主体的に提案してくれます。僕らもその声を受け止め、みんなで試行錯誤しながら進めているんです。
ファンの方々も同じです。「自分たちが支えなければ続かない」という視点で、親のように見守ってくれています。運営や企業、選手、観客が一体となり、“6歳児のリーグ”をみんなで育てている実感がありますね。

地殻変動を起こしたDリーグを世界へ輸出したい
― Dリーグは、ダンサーをプロアスリートという職業へと押し上げてきたと感じます。リーグとして最も大切にしている考え方は何でしょうか。
常に意識しているのは、“ファンの方々に、どんな価値を提供するのか”という視点です。Dリーグはファンがいてこそマーケットが成り立つため、自己満足の表現だけでは通用しません。従来のダンサーは、己のかっこいいダンスでカマし(魅了し)、「この人から学びたい」と思ってもらえることで、レッスンなどの仕事で食べていけるわけです。
一方でDリーガーが向き合うスタンスは、応援して頂いているファンの皆様へ「自分の表現がどう届き、そのお返しを対価として頂いている」という循環構造を理解してもらうよう、Dリーガーとの対話も大切にしています。
― プロのダンサーが企業の看板を背負って戦うことは、ダンスカルチャーにどのような変化をもたらしましたか。
確実に地殻変動が起きていますね。立ち上げ当初は「ダンスはスポーツではない」という反発もありました。しかし、Dリーガーの年俸や社会的評価が上がるにつれ、反対していた層からも憧れの目が向けられるようになったんです。今は地方でも本気でDリーガーを目指す子どもたちがいます。例えば将来、年俸1億円のDリーガーが現れれば、さらに多くの若者にとって現実的な目標になるでしょう。
今後は、このリーグの仕組みを海外へ展開したいと考えています。まず10年以内にアジアチャンピオンズリーグを実現したい。そして、各国代表が同じルールで競う世界大会を30年以内に開催したいですね。構想はすでに描いているので、あとは形にするだけです。イーロン・マスクの火星移住計画に比べれば、世界にダンスリーグを広げる挑戦のほうが現実的だ、と自分を鼓舞しながら突き進んでいる最中です。
文:流石香織
写真:船場拓真