【イベントレポート】平均19.9歳と向き合うユナイテッドアローズ。「ひとゝ服」が映し出す個性 NEW

現代の若者は、服に何を求めているのか。平均購買年齢が30〜40代で推移する中、若い世代との距離に危機感を抱く株式会社ユナイテッドアローズは、“今、服を着ることの意味”を問い直すプロジェクトを始動した。その象徴として平均19.9歳の若者たちを被写体にしたアートブック「ひとゝ服」が制作された。その出版記念トークイベントが2026年3月9日(月)、六本木 蔦屋書店で開催。当日はプロジェクト参加学生が登壇するなど、ジャンルレスに広がる若者のファッション観や消費行動、企業が抱く危機感とファッションの未来が語られた。
登壇者
TEPPEIさん/スタイリスト
松本 真哉さん/株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員CCO
野本 陽波さん/國學院大学
相川 史奈さん/東京経済大学
平野 裕大さん/文化学園大学
加藤 龍之介さん/文化学園大学
モデレーター
大平 かりんさん/プロデュース・編集総括
【第1部】なぜユナイテッドアローズは若者と向き合うのか。トレンドより個性を重視する世代
― 今回、なぜ平均19.9歳の若者に焦点を当てたのでしょうか。
松本 真哉さん(以下、松本):当社の購買層の中心は30代後半から40代です。この世代は大きなトレンドを正解とし、その中から自分らしい服を選ぶ消費感覚があります。一方で、いまの10代、20代は個性尊重型で、世代全体で個性的であることが当たり前になっているように見えます。
30代、40代になってもファッションがひとつのトレンドに収束しないかもしれない。そう考えたとき、いまの商売のままでよいのかという危機感が生まれました。だからこそ、次世代のファッションのあり方を写真に収め、自問自答を続けるプロジェクトとして発信することにしたのです。
― スタイリストのTEPPEIさんとご一緒した理由を教えてください。
松本:TEPPEIさんとは、以前のタブロイド誌の制作で初めて本格的にご一緒しました。スタイリストにはトレンドを表現するタイプと、着る人の個性を引き出すタイプがいます。TEPPEIさんは後者で、とても哲学的で詩的な仕事をされる方です。今回はファッションの概念を見せる企画だったため、その表現を託しました。
― 若者たちのスタイリングについてTEPPEIさんのアプローチをご紹介いただければと思います。
TEPPEIさん(以下、TEPPEI):被写体となる若者たちには、事前にショールームで好きな服を選んでもらっていました。しかし、私はあえてそのラックや資料を一切見ませんでした。好みに縛られたくなかったからです。
フィッティング当日、事前に用意したワードローブの中から服を着てもらい、一人ひとりの表情や感覚を頼りにスタイリングを組みました。他者に服を着せるとは何かを考え続けながら、その人が最も輝く“ファンタジー”を描こうと向き合いました。

想像以上に進んでいた「個性の時代」
― 完成したスタイリングを見て、どのような印象を受けましたか。
松本:想定していた以上に、個性の時代が進んでいると痛感しました。デコラティブな格好の子と抜け感のある格好の子が、ボーダーラインなく同じコミュニティに存在しています。
こうした状況を鑑みると、やはりこれからの時代、ひとつのものを大量に売るこれまでのやり方だけでは、良質なファッションを提供していることにはならないでしょう。だからこそ、一人ひとりに合った提案ができる当社の強みが活きていますし、活かさなければならないと実感しました。
― デジタル全盛の時代に、あえて書籍という物理的な形で残した理由を教えてください。
松本:今回はファッションの概念を見せる企画です。物理的な写真を見せることで初めて伝わる熱量があるはずです。
もうひとつ、ユナイテッドアローズという企業の活動記録として残しておきたかったんですね。かつて時代を象徴した「コギャル」を被写体にした企画もありました。いまの時代を反映する若者たちと真剣に対話したという事実そのものが、今後の企業文化になると信じています。

若者のファッション観を巡る議論を受け、第2部では実際に本プロジェクトに被写体として参加した学生たちが登壇。InstagramやTikTokが当たり前に存在する環境で育ち、K-POPやSNSカルチャーとともにファッションを捉えてきた平均19.9歳の若者たちが、「服を着ること」にどのような意味を見出しているのか、自身の言葉で語った。
【第2部】“今、服を着ることの意味”。19.9歳が語るリアルな声。若者たちが語るファッションとの向き合い方
― このプロジェクトでは平均年齢19.9歳の若者36人が参加し、調査も行われました。そこでは服を選ぶ際に「なぜそれを買うのか」というストーリー性を重視する傾向や、情報収集の中心がInstagramであることも示されました。この体験を踏まえて、皆さんにとってファッションとはどのような存在ですか。
野本 陽波さん(以下、野本):「相棒」という表現が一番近いですね。お気に入りの服を着ていると気分が上がります。ただ、家ではしっくりきていても外に出たら「何か違う」と感じて気分が下がることもあります。そうした気分の浮き沈みも含めて、自分らしさを感じる存在です。
相川 史奈さん(以下、相川):自分を綺麗に見せてくれて、気分を上げてくれるものです。この色や素材、形を使ったら自分がどう見えるのか、どんな気持ちになるのかを考えながら服を選ぶことで、日々のモチベーションを保つのにもつながります。
平野 裕大さん(以下、平野):心臓の一部であり、完全にライフスタイルですね。色々な服を見てミックスし、自分なりに落とし込んでいく。そうやって自分自身のカルチャーを作り、自分が生きる場所を形作ってくれるものだと思っています。
加藤 龍之介さん(以下、加藤):コミュニケーションの一環だと捉えています。大学でも「その服かっこいいね」という会話から仲良くなることが多いです。このプロジェクトも服を通して多くの人と関わることができたので、人と人をつなぐツールだと改めて気づきました。
― 若者たちのリアルな声を聞いて、TEPPEIさんはどのように感じましたか。
TEPPEI:時代が変わっても、服から得られるものは変わらないのだと胸が熱くなりました。私自身、少年時代に服の持つ力に救われた経験があります。若者たちが服を通して自己表現の楽しさを見つけ、本質的な価値に気づきつつあることに、日本のファッションに新しい可能性を感じました。

服を通して自問自答を続ける、次世代へのアプローチ
― 事前のアンケート調査で、予算10万円で「シンプルな白Tシャツ」を選ぶなど、長く使える定番に共感する傾向も見られました。そうした価値観を持つ世代として、今回参加してみてユナイテッドアローズの印象はどう変わりましたか。
野本:これまでは「いざという時に買う服」というイメージがありました。でも、プレスルームに足を運ぶ中で、街中でよく見かけるカラフルなバッグもユナイテッドアローズのブランド「CITEN」だと知り、アイテムの幅広さに驚きました。
相川:企画参加をきっかけに改めて調べてみて、数あるセレクトショップの中でも質の高さを保ち続けている企業だと感じました。フィッティングを通して、質の良い服を揃えていることがよくわかりました。
平野:まわりではブランド単体で着るというより、色々な服をミックスするスタイルが多いです。ユナイテッドアローズだからこそ集められるアイテムもあり、いまの若い世代のファッションにも自然に馴染むブランドだと感じました。
加藤:親や友人にユナイテッドアローズでモデルをやると伝えたら、驚かれました。ユナイテッドアローズにおとなしめのイメージを持っていて、私の普段の格好とのギャップに驚いたみたいです。でも、実際に着てみると想像以上にバリエーションがあり、印象は大きく変わりましたね。

― 松本さんはこの取り組みを通じて、今後どのような企業文化を築きたいと、考えるようになりましたか。
松本:今回の企画は自問自答の連続でした。私はこの業界に30年以上おりますが、「ファッションとは何か」という問いに対する明確な答えをまだ持っていません。
しかし、こうした活動を通して、答えを出せなくても問い続ける姿勢そのものが根づいていくはずです。社員だけでなく、お客様や関係者の皆様と共に「ファッションとは何か」を探求し続ける。その姿勢が企業文化として定着すれば、このプロジェクトは成功だといえるでしょう。
19.9歳の若者たちとの対話を通して、「服を着る意味」という問いこそが、これからのファッションを考える手がかりになるのではないか。確信に近いものが芽生えています。
文:中谷藤士
Brand Information
UNITED ARROWS
ユナイテッドアローズは、独自のセンスで、国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを展開しています。