1. HOME
  2. 最新ニュース&インタビュー
  3. ニットと実直に向き合ってきた山形発の老舗ファクトリーの最先端 ―米富繊維株式会社 代表取締役社長 大江 健氏インタビュー

JOURNAL

ニットと実直に向き合ってきた山形発の老舗ファクトリーの最先端 ―米富繊維株式会社 代表取締役社長 大江 健氏インタビュー

ニットと実直に向き合ってきた山形発の老舗ファクトリーの最先端 ―米富繊維株式会社 代表取締役社長 大江 健氏インタビュー

70年近い歴史を誇る1952年創業のニットメーカー「米富繊維」。テキスタイルの開発、編み立て、パターンメイキング、縫製、リンキング、仕上げ、品質管理に至るほとんどの工程を自社ファクトリーで完結できる世界でも有数の生産体制を誇り、OEM/ODM/自社ブランドの 3 事業を柱に企画・生産・販売を手掛けています。特に3つの自社ブランドでは、創業以来、蓄積された技術や経験をもとに、地域に残る伝統的な技やリソースを生かしながら、従来にはなかった価値を生み出す商品づくりを目指しています。“持続可能性”が地域社会の大切なテーマとなった今、先進的な取り組みを行う企業の魅力に迫ります。

大江 健(おおえ けん)氏
米富繊維株式会社 代表取締役社長 / 「COOHEM(コーヘン)」ディレクター

1977年、山形県生まれ。高校卒業後、上京。IFIビジネス・スクールでファッションマーケティング、デザイン、ファブリックを学び、東京のセレクトショップに就職。2007年、国内有名ブランドとのOEM事業も数多く手掛ける家業の老舗ニットメーカー米富繊維株式会社に入社し、ニットテキスタイルの企画開発に携わる。長い歴史の中で独自に開発されたヴィンテージテキスタイルの数々に着目、ニットツイードという素材の持つ無限の可能性を表現するため、2010年に自社ブランド「COOHEM(コーヘン)」を立ち上げる。2015年、代表取締役社長に就任し、国内外に日本のファクトリーブランドの進化を発信する。

―まずは御社の歴史を教えてください

僕の祖父と祖母が始めた会社でして、創業は1952年です。近所の人と手編みでセーターをつくったのが始まりと聞いています。
山形は古くから羊の飼育が盛んな土地で、戦後、弊社のある山辺町や寒河江市が中心となって、日本有数のニット産地として成長を遂げました。創業者の大江良一は、山形のニット産地の礎を築いた人物と言われておりまして、ニット工場の組合を作って合同の展示会をしたり、手動の編み機が主流だった時代にマシンを導入したり、糸の開発を先駆けて行ったりしていました

―創業の時代の先進的な企業風土は、今もしっかり受け継がれていますね。次に事業内容についてお聞かせください

創業以来、ニットテキスタイルの開発技術は世界でも類を見ない高いクオリティを実現しています。その技術をベースに素材開発から商品開発、量産までを一貫して自社のファクトリーで行い、OEM/ODM、オリジナルブランドの 3 事業を軸に企画・生産・販売を手掛けています。
国内の主な取引先は、ユナイテッドアローズ、トゥモローランド、サザビーリーグなど大手セレクトショップや百貨店、Mame Kurogouchiなどデザイナーブランドがあります。

―コアなものづくりに魅了されるファクトリーブランドにも力を注がれています

自社ブランドは現在3つありまして、ひとつは2010年にスタートした「COOHEM(コーヘン)」。次に、昨年秋デビューのTHISISASWEATER.(ディスイズアセーター.)」。そして、ニットプロジェクト「Yonetomi NEW BASIC(ヨネトミ ニュー ベーシック)」から生まれたベーシックコレクションです。
販路については、「コーヘン」はセレクトショップや百貨店の卸販売がメインです。「ディスイズアセーター.」と「ヨネトミ ニュー ベーシック」は自社ECサイトとポップアップストアで、実店舗はありません。

最初のオリジルブランド「COOHEM(コーヘン)」

―コロナ禍で大手セレクトショップや百貨店が苦戦していますが、御社ではどんな影響がありますか?

元々、OEMの受注が年々厳しくなっていた現状はありました。OEMというのはある程度の量が担保されないとビジネスとして成立しないのですが、すでにシュリンクが加速していた状況があって、コロナ禍が追い打ちをかけるようにそのスピードを早めた感じはあります。

―長期的なビジネスのことを考えると、優先的な戦略としてはオリジナルブランドの強化でしょうか?

取引先から受注をいただいて、それを作って納めれば売り上げが達成する従来型のビジネスモデルだけでは厳しく、お客様に直接届けることのできるD2Cビジネスの必要性はコロナ以前からすごく感じていました。「自分で作って自分で売る」というのは本来シンプルな構造ですが、今後もさらに、自社ECサイトを軸としたオリジナルブランド事業の強化に取り組んでいきます。

昨秋デビューのオリジナルブランド「THISISASWEATER.(ディズイズアセーター)」

―自社ブランドを支えるのは卓越した技術と新鮮なアイディアの総力だと思いますが、御社は勤続30年以上のベテランも多くいらっしゃいますよね

従業員数は現在60名程ですが、半数くらいがベテラン社員です。僕が入社した頃はおじさんとおばさんしかいない会社だったので、正直、ブランドを新しく作れるのか不安な部分はありました。
ファッション業界はどうしても若い人が重宝されて、歳を重ねると戦力外とされてしまう面があると思うのですが、弊社のような製造業では、歳をとって経験を積んだ分、技術力が高まるので、そういう意味ではベテランといっても、第一線を退いた寂しい感じはまったくなくて、バリバリと現役で活躍している人が多い環境です。

―御社は定年延長も実施されていますよね

新卒も採用していますが技術を身につけるには最低でも5年はかかりますし、定年で全員辞めてもらう形をとると現場が回らなくなってしまいます。なので、希望次第ですが大多数の方には延長雇用という形で、なるべく長く働いていただいています。

―長く働ける=サスティナブルなワークスタイルを推進されているのはとても魅力です。一方で若い世代の社員も増えているそうですね

65歳以上のベテランスタッフと専門学校や高卒の18〜20歳のスタッフが一緒に働いています。最初のブランド「コーヘン」を作った10年前に新卒採用を始めて、その時の子たちが中堅の年齢になってきているので、20〜30代の従業員は20名程です。

―地元のみならず、Iターン、Uターンで就職する若手の人材獲得に成功されている印象です

僕自身がUターン就職をしているのも大きいと思います。東京でファッションの仕事をして、地元に帰って職を探す難しさというのは実体験で知っています。弊社の母体は工場ですが、自社でオリジナルブランドを作って、ECサイトを運営して、展示会もやって…アパレル企業と同じような事業内容で、かつ、自分たちで情報発信もしているので、弊社を見つけてくれる若者が増えてきたという感じがします。
昔は地元がつまらないと感じて、高校を卒業して上京したときには、山形に一生帰るつもりはなかったのですが…7年前に家族でこっちに越してきて、今はネットもあるし山形で生活しているからといって買えないものはないですし。自然が豊かなので、夏はキャンプ、冬はスキーと楽しんでいます。

―若手とベテランによる自社ブランド運営のメリットを教えてください

若手だけのブランド作りというのは実際には難しくて、若い発想力にベテランの技術力が組み合わさって発揮される相乗効果こそが、「コーヘン」を始めとする自社ブランドの魅力を高めていると思います。
弊社で作っている商品は、専門学校でニットを勉強したからといってすぐにできるようなものではなく、ベテランたちでさえヒーヒー言いながら作っているような複雑な代物です。また、双方にとってのいい刺激が成長につながって、より良い作品を作り出すプロセスも非常に大切だと感じています。

―アパレル業界の余剰在庫の大量廃棄が社会問題となっていますが、御社では10年前のブランド発足以来、廃棄物削減を心がけているそうですね

安価で大量に作るブランドではないということもありますが、在庫を取っておいて最初に試みたことは、商品を裁断して生地の状態に戻すことでした。一度作ったものにハサミは入れてしまいますが、クラッチバッグやiPadケース、ファブリックパネルなど新たなアイテムに生まれ変わらせることで、再度、プロパープライスで販売できるようにしています。

―セレクトリサイクルショップの「パス ザ バトン」との取り組みについて教えてください

始めは、再利用生地を用いたクラッチバッグのカスタマイズイベントを一緒にやりました。それがだんだん認知されて根付いてきたので、今度は、OEMの残糸を使ったカーディガンなど、ファクトリーとして「パス ザ バトン」とオリジナルのセーターを作りました。今は、サンプル品やキャリー品をCOOHEM ARCHIVEとして「パス ザ バトン」の3店舗で販売しています。

―エコ活動を精力的にビジネスに取り入れていますが、大江さん自身も毎週、プライベートでリサイクルショップに通っているとか?

田舎ってリサイクルショップがいっぱいあるんですよ。店舗も大きくて、服から家具まで何でもあって。交渉して安くなったりすることもあります(笑)。古着も好きでよく着ていますが、僕の感覚では山形のリサイクルショップも、パリの蚤の市や古着屋も同じなんです。
僕たちが作っている商品も、そういう意味ではまったくトレンディではないですし。2年前に作ったセーターと今シーズンのセーターを比べても、どっちが今っぽいかということもない。僕からすれば、最新機能や最旬デザインのプロダクトより、古着の方がかっこいいと感じることもしょっちゅうです。

―「古いものはかっこいい」という大江さんの感性がビジネスにも応用されているのですね。最後に、これからの御社の取り組みについてお聞かせください

キャンプ場でもスキー場でも、今は誰もセーターなんて着ていませんが、昔はどちらのシーンでもセーターが主流でした。「セーターを着る」という行為自体を、今の時代に即した新しいアプローチや価値観で提案できたら…と考えています。大げさに言うと、「セーター着てスキーするのがかっこいい!」ってみんなに思ってもらえたらすごくいいだろうなと思います。

それから、「Yonetomi NEW BASIC(ヨネトミ ニュー ベーシック)」というプロジェクトが本格的に始動しました。すでにマスクやショッピングバッグなど一部商品をECサイトで販売していますが、弊社の新たなベーシックラインとなります。
コロナ禍で大変な状況にあるショップをサポートしたいということもテーマにしていて、全国の小売り店を対象に、商品開発や別注対応、受注会などイベントを開催できるようなものづくりを、比較的小ロットでできる生産システムも含めて提案していきます。
ほかにも水面下で複数のプロジェクトが進行中ですので、楽しみにしていてください。

【Infomation】
新作展示会のご案内 for BUYERS & PRESS ONLY

2021AWシーズンより、COOHEM 2021AWコレクションに加え、米富繊維が考える新しい日常に寄り添うベーシックの提案として始動するプロジェクト、「Yonetomi NEW BASIC(ヨネトミ ニュー ベーシック)」の新作発表会を合同で開催いたします。
すでに弊社ブランドをご存知の方も、そうでない方も、この機会にフルラインナップをご紹介したく思っておりますので、宜しければ是非お越しください!
※尚、本展示会は、商談や取材の場となります。

対象は「バイヤー様」「メディアご関係者様」限定となり、一般・学生の方はご入場できませんので、予めご了承ください。
コロナウイルス感染拡大防止対策もあり、「全てアポイント制」とさせて頂いております。
ご来場ご希望の方は、CONTACTまでご連絡ください。よろしくお願いいたします。

COOHEM(コーヘン)
COOHEM(コーヘン)は「交編(こうへん)」に由来する造語で、山形県の老舗ニットメーカー米富繊維株式会社のファクトリーブランドとして2010 AUTUMN & WINTERよりスタート。
表情も着心地も、より良く新しく、鮮やかに。すべての工程が一箇所で完結する希少なファクトリーから、日本のモノづくりカルチャーを世界に発信している。

Yonetomi NEW BASIC (ヨネトミ ニュー ベーシック)
Yonetomi NEW BASICは、ニットメーカー米富繊維株式会社が考える新しい日常に寄り添うベーシックの提案として2020 AUTUMN & WINTERよりスタート。
創業以来培われたモノづくりの技術と経験を生かしながら、日常で誰でも使いやすく、着やすいアイテムを開発。
ウェアのみならずマスクやショッピングバッグなど新しいアイテムも展開している。

Yonetomi 2021AW EXHIBITON
COOHEM 2021AWコレクション展示会/Yonetomi NEW BASIC新作発表会

OSAKA 2021/3/2(Tue)-3(Wed)
3/2(Tue) 10:00-19:00
3/3(Wed) 10:00-17:00 

PLACE :ORGANIC SPACE(大阪市中央区南船場4-7-21オーガニックビル 2F 202  )

TOKYO 2021/3/16(Tue)-19(Fri)
3/16(Tue)-18(Thu) 10:00 -19:00
3/19(Fri)10:00 -17:00

PLACE :SPEAK FOR SPACE (東京都渋谷区猿楽町28-2)

CONTACT
米富繊維株式会社
TEL :023-664-8176
E-MAIL :info@coohem.jp
※すべてアポイント制とさせて頂いておりますので、ご来場ご希望の方は事前にお問い合わせください。

text: 下村葉月

SNSでこの記事をシェアする

Brand Information

米富繊維

米富繊維

素材開発から生産までを自社工場内で一貫して行う、1952年創業のニットメーカー