「朝起きたらパンツが脱げていた」グンゼ・ボディワイルドが営業赤字でも残る理由(後編) NEW

「朝起きたら、パンツが脱げていたんです」腰ゴムのないボクサーパンツをつくろうとして、最初の試作品をはいて寝た社員の話である。商品としては、ほぼ致命的な失敗だ。ただ、この話が興味深いのは失敗そのものではない。この試作品から製品化までに、グンゼは7年をかけている。2011年に着手し、発売は2018年。50を超えるプロトタイプをつくり、300人に試着させ、ようやく世に出した。それが累計280万枚を超えるヒット商品「AIRZ(エアーズ)」になった。
一枚の下着に、7年--。現在までの28年で、この会社は何を積んだのか。それは、いま何の役に立っているのか。前編ではブランドの開発史や開発姿勢を中心に、後編ではブランド刷新の意義、決算資料に表れるブランドの資産価値に迫る。
初の刷新でまず決めたのは「変えてはいけない核」

構造改革の局面で、28年続いたブランドは何の役に立つのか。
2024年のブランド刷新を担当した7代目MDの浅野正史氏は、最も苦労したのは長年親しまれてきたロゴやブランドイメージへの愛着と向き合うこと、そしてボディワイルドの変えてはいけない核を問い直すことだったと語っている。
取った手順は、まずブランドの歴史を徹底的に振り返り、なぜ支持されてきたのかを考え直すことだった。部署や世代を超えて議論し、そこで再確認したのが誕生以来の「挑戦」と「反骨心」というDNA。それを現代の価値観で再解釈したことが、刷新の原動力になったという。
リブランディングの実務として、ここは示唆的だ。外側を変えるために、まず変えない部分を全社で定義したという順序である。ロゴやコンセプトの更新は成果物であって、作業の中身はむしろ社内の認識合わせだった。前述のAIRZで機運づくりに時間を割いた話と、構造は同じである。
2025年にバトンを受けた8代目MDの寺島功基氏は、はき心地は時代を問わず頑なに守り続ける一方、カッコよさは時代に合わせて変わっていくものだと整理している。守る軸と動かす軸を分けておく、というブランド運用の考え方だ。
この人選そのものが、ブランドが28年で蓄えたものを示している。寺島氏は中学生の頃からボディワイルドを愛用し、そのはき心地と身に着けたときの高揚感に惹かれて、この価値をもっと多くの人に届けたいという理由でグンゼに入社した。ブランドのファンが、そのブランドの責任者になっている。ロングセラーが採用にまで効いている例として、これはかなり分かりやすい。
この「守る軸と動かす軸を分ける」という発想は、いま会社が事業単位でやろうとしていることと相似形になっている。生産体制は動かす。品質基準は動かさない。ブランドの見た目は変える。はき心地は変えない。粒度は違うが、判断の型は同じである。
アパレル事業は営業損失13億3,400万円。それでもボディワイルドは残す側にいる
このブランドが28年で積み上げたものは、いま具体的な形で効いている。それが見えるのが、グンゼの決算資料である。

2026年3月期、同社のアパレル事業は営業損失13億3,400万円を計上した。売上高は585億9,700万円で前期比3.6%減。前期は7億5,300万円の営業利益だったので、赤字転落である。連結では売上高1,309億1,800万円、営業利益48億8,200万円だったから、アパレル事業はグループで唯一マイナスを出したセグメントということになる。

赤字の直接の引き金は在庫だった。ブランド集約とSKU削減を進める過程で非継続品となる在庫を特定し、実現可能価格を厳しく見積もった結果、棚卸資産の評価損が19億円増加している。需要が消えた結果というより、事業を作り替える過程で出た費用の色が濃い。
売上構成比44%の最大事業が、利益では△15%

この事業の位置を言い当てているのは、金額よりも構成比のほうだ。
売上高に占めるアパレルの比率は44%で、4セグメント中最大である。売上で見れば、グンゼはいまも衣料の会社だ。

ところがセグメント利益で見るとプラスチックフィルムなどの機能ソリューションが84%を占め、アパレルは△15%になる。
社名を背負い、130年の歴史の中心にあり、創業130周年の記念企画でブランドの物語が語られている事業が、利益ではマイナスに沈んでいる。ボディワイルドは、その事業の中にある。
ブランドを4分の1削る計画に、BODYWILDの名前がある
グンゼはアパレル事業の構造改革として、営業損益を33億円改善する計画を掲げ、2026年度でその93%を達成する見込みだと開示している。柱の一つが集中特化戦略で、重点ブランドへ絞り込みながら累計SKU削減率25%減を進める内容だ。

そのブランド集約を説明する資料が、重点ブランドを4つ図示している。KIREILABO、SABRINA、アセドロン、そしてBODYWILDである。
ブランドを4分の1近く削る計画の資料に、名前と商品画像が載っている。整理される側ではなく、残して集中投下する側に置かれているということだ。
同社が掲げるアパレル事業の2030年の姿でも、それを支える経営資源の筆頭に挙げられているのは「高信頼ブランド資産」である。高度な生産加工技術と独自素材が、それに続く。
ブランド資産は貸借対照表に計上されない。それでも会社は、赤字の事業を立て直す資源の一番目にそれを置いた。
編機を自社改造し、腰ゴムをなくすのに7年かけ、ゴムを3km試作した。それらの積み上げが、事業を絞る局面で「残す理由」として機能したことになる。一枚のパンツに7年かけられる会社であることと、その7年が資産として評価されることは、別の話ではない。
参考・出典
本記事の前編・後編における事実関係はすべてグンゼ株式会社の開示資料・公式発表に基づいています。評価・分析はNESTBOWL編集部の見解です。
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- グンゼ創業130周年キャッチコピーおよびロゴの決定について(2025年9月24日)
- 沿革・歴史
- History of GUNZE – グンゼのあゆみ
- BODY WILD(ボディワイルド)公式ブランドサイト
- 2026年3月期(130期)決算説明資料(2026年5月14日)/IR資料室