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「営業志望の自分がなぜ?」から始まったHRとしてのキャリア ― ビジネスにフォーカスした人事・組織のあり方を追求しつづける

「営業志望の自分がなぜ?」から始まったHRとしてのキャリア ― ビジネスにフォーカスした人事・組織のあり方を追求しつづける

ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする新感覚対談「Career Naked」。今回登場いただくのは、不動産コンサルティング会社を皮切りに、数々の外資系企業のHR(Human Resource)のプロとして、戦略的人材マネジメントや組織・企業風土改革を遂行し、現在はフランス発祥の自然派コスメティックブランド「L’OCCITANE( ロクシタン)」「Melvita(メルヴィータ)」を日本で事業運営するロクシタンジャポンの企業変革を推し進めている水田欽士氏。ご自身のキャリアやロクシタンジャポンの人事戦略、次世代育成について、エーバルーンコンサルティングの北川氏が話を伺った。

水田 欽士さん/ロクシタンジャポン株式会社 人事総務部ディレクター
愛知県出身。大学卒業後、不動産コンサルティング会社の採用担当として人事のキャリアをスタート。その後、外資系企業の人材開発マネージャー、HRBPマネージャー、採用マネージャーなど、様々な人事領域を経験。外資系リテール企業と外資系広告代理店では人事部門の責任者として、戦略的人材マネジメントを推し進め、企業風土の変革を遂行。また、新規ビジネスの立ち上げに際しての人事領域の構築など、企業の成長ステージにおけるさまざまな人事課題を解決。2017年5月にロクシタンジャポンに入社し、人事の側面からL’occitane Brandの向上に尽力。

北川 加奈さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国への留学を経て、英語教師としてキャリアをスタート。その後、人材業界に転身し、外資系人材コンサルティング会社にてキャリアを積んできた。2021年エーバルーンコンサルティングの上級職に就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメティック業界に専門性を持ち、外資系クライアントのエグゼクティブサーチを中心に強みを発揮している。また「歩く人材データベース」とも呼ばれ、業界でも屈指のネットワークを誇り、キャリアを通じての人材紹介数は3,000件を超える。平日にはハイブランドのファッションを愛するかたわら、週末にはアウトドアを愛し都市と自然の調和の取れた生活を、愛犬とともに送っている。

HRとしてキャリアを極める覚悟を持てたのは、一人の上司との出会いがあったから

― 水田さんのこれまでのキャリアについてお教えください。

大学卒業後、不動産コンサルティング会社に就職し、地元の名古屋支店に配属となりました。営業志望だったのですが、なぜが人事総務へ配属され、東海地区の新卒採用業務から私のキャリアはスタートしています。約9年間名古屋支店で新卒採用、新人研修、中途採用などを担当しましたが、人事とはどうあるべきなのかを真剣に考え始めたのは入社5年目頃だったと思います。そこでビジネス書や人事関連書籍などを読み漁り、採用業務だけでなく、人事制度などにも興味が広がっていた中で、東京本社へ転勤となりました。

HRとしてキャリアを極めていこうという覚悟ができたのは、東京本社の上司との出会いが大きかったですね。業務の幅も少し広がり、もっと勉強が必要だと痛感していた私に、ビジネススクールで学ぶことを勧めてくださったのです。そこでグロービス経営大学院で半年間学びました。

― その後は外資系企業でキャリアを積み重ねてこられたんですよね。そのきっかけはなんだったのでしょうか?

東京転勤から1年で転職しているのですが、きっかけは明確です。先にSCジョンソンへ転職した上司から誘っていただいたからなんです。与えられたのは人材開発マネージャーというポジションで、これまでの私の経験では不足する部分もあったため、いろいろな研修を見学や受講して自分の引き出しを増やしていきました。

仕事で英語を使うのも初めてだったので、ビジネス英語の勉強もしたりと、自己投資に時間もお金もかけました。当時の日本企業はまだ年功序列型の人事だったため、役割によってポジションや給料が決まる外資系企業の人事は新鮮に映りましたね。

次にジョンソン・エンド・ジョンソンのカンパニーのひとつであったデピューへ、HRBP(HRビジネスパートナー)に近いポジションで移り、組織改革を推進。難しいネゴシエーションも経験しました。

その後、フィリップモリスジャパンで関東圏のリージョンBP、製薬会社2社のタレントアクイジションダイレクターを務めたのですが、これからのHRとしてのキャリアを思うと、そろそろヘッドの仕事がしたいと考え、転職先として選んだのが、ファッション・アパレル、化粧品、アクセサリーなどを取り扱うブルーベル・ジャパンです。よりグローバルな風土に改革したいという社長の思いを受け、人事制度や評価制度の改革、就業規則のアップデートなど、当時のメンバーと創り上げ、整えていきました。それから広告代理店のグレイワールドワイドに移り、その次にロクシタンジャポンへ転職しました。

新卒入社した企業で人事配属となったことがきっかけとなり、そこから人事としてのキャリアがスタートした。

人事に理解ある人と一緒に働く喜び、社員満足度向上と人事組織改革に尽力

― ロクシタンジャポン入社の決め手は、当時の社長の二コラ・ガイガー氏だったと伺っています。

その通りです。会社でも公言しています。2年前に、二コラがニューヨークへ異動になった時は、みんなから「辞めない?大丈夫?」と心配されました(笑)。

― 彼の何がそこまで水田さんを惹きつけたのですか?

ロクシタングループ会長の息子である二コラは、2017年5月に日本法人の社長に就任すると、まず最初に人事ディレクターの採用に着手したんです。それまでは管理本部長が人事総務、ファイナンス、IT、薬事を全部取りまとめていたのですが、中長期的に業績を伸ばしていくためには人と組織の改革が必要であり、HR領域のプロフェッショナルを置かなければダメなのだと言って。私との面接でも、彼が会社や組織をどうしたいか、人事組織に何を期待しているかを熱心に語ってくれました。私にとって重要なのは人事に対する理解ある人と働くこと。まさに二コラはそうだったのです。

― ロクシタンジャポンのHRヘッドとしての水田さんの役割についてお教えください。

ひとつは社員満足度の向上。もうひとつはきちんと人事を機能させることです。ロクシタンは24年前に日本でビジネスをスタートさせ、以来急成長を遂げてきました。その間完全なるトップダウンで組織運営がなされていたため、下の人間は上からの指示で動くという文化が根付いてしまっていたのです。

当時のロクシタンの人事の状況を如実に物語るエピソードがあります。私の入社初日、部下がいきなり相談に来たんです。「こういう問題が起きました」と。そして次の言葉が「どうしましょう?」。「こういう課題があり、こうしたいと思うのですが、こういう選択肢もあります。アドバイスをいただけますか?」ならわかるのですが、「どうしましょう?」と聞いてきた。自分たち自身で課題解決に取り組んでこなかったんですね。

一方で「こういう目的でこの資料が必要だから用意しておいてね」というと、期日までにきちんとやってくれる。ただ細かく説明しないと必要なデータが出てこないわけです。ですから人事メンバーたちが自分で考え、自立して仕事ができるよう育成することが私に課せられた大きな役割でした。

二コラ・ガイガー氏の「人を大切にする」考え方に惹かれ、水田氏はロクシタンジャポンへの入社を決めた。

女性社員やワーキングマザーが多い組織に求められる働き方のフレキシビリティを追求

― そこから5年半の間に、さまざまな変化があったと思います。現在は転換期に差し掛かっていると伺っているのですが、その辺りもお話いただけますか?

社員満足度については、当社は「働きがいのある会社(Great Place to Work®:GPTW)」の指標に基づく調査を行っており、2016年度の満足度29%から現在は60%まで改善、つまり社員の3分の2は当社で働くことに満足しているという結果が出ています。

ビジネス面ではやはりコロナ禍の影響がもっとも大きかったですね。リアル店舗にお客さまがお越しにならない代わりに、ECサイトでの売り上げが爆発的に伸びました。もともと同業他社と比較して、ロクシタンはEC事業が進んでいたというのもありますが、現在ではECサイトのみの売り上げが、姉妹ブランドのメルヴィータ全体と同規模にまで拡大しています。

こうしたビジネス環境の変化は、働き方改革にも影響を与えました。当社の社員は、店舗はほとんどが女性、オフィスは8割が女性、ワーキングマザーの比率も高い。となると働き方のフレキシビリティが求められてきます。私が最初に行った制度改革は、フレックスタイムの変更です。かつてはコアタイムが長かったのですが、朝7時から夜8時の間で1日4時間働けば1日勤務と見做し、総労働時間が所定労働時間に達していれば問題ないというスーパーフレックスタイム制度に変更しました。

また、コロナ禍が始まったのは2020年始め頃ですが、当社が在宅勤務制度を導入したのは2018年度で、当時は週1回の在宅勤務を認めるというものでした。しかし現在は、出社は2日しか求めておらず、残りの3日は出社でも在宅でもかまいません。ただ責任と成果は求めます。ある意味での自由さ、ある意味での厳しさを与えているわけですが、女性社員、ワーキングマザーが多い当社ではうまく機能しており、社員満足度向上にもつながっています。

― 2022年2月に、長年御社で働いてこられた木島潤子さんが新社長に就任されたのも大きいのではありませんか?

おっしゃる通りです。マーケティングディレクターから社長に昇格した彼女は、メルヴィータの日本のブランドディレクターの経験もあり、そしてワーキングマザーでもあります。ビジネスとして2つのブランドをよくわかっていて、なおかつ今いる社員の気持ちも理解しており、人とのコミュニケーションも非常に上手です。

彼女は社長就任後、オフィス勤務の社員全員とOne on Oneミーティングを実施しました。今社員が何を考えているのか、どんなことを会社に期待しているのか、どういうキャリアを積んでいきたいのか。時間をかけて耳を傾け、社員たちも上司や部門ディレクターが知らないことまで話してくれています。

コンフィデンシャル(秘密)という前提で、話の内容は公にはしないものの、きちっとフィードバックはしてくれていて、それぞれのチームのマネージャー、ディレクターは、しっかり対応するよう心掛けています。何より、聴く姿勢を示して社員に対してオープンになってくれていますので、社員に対する影響力は大きいですね。

会社や事業を熟知した木島氏が社長に就任したことで、組織としても新たに生まれ変わった。

いかに社員のリテンションを高めていくかという観点からの施策を重視

― 社長自らが社員と向き合う中で、御社は「3Pストラテジー(戦略)」を策定されているそうですね。水田さんのお立場として、どの部分をリードしていくのですか?

Planet(地球や環境)、People(人)、Profit(利益)。この3つのPについて中長期的戦略を策定し、それそれの目標達成に向けて進んでいこうというのが「3Pストラテジー」です。

私が担うのは、もちろんPeopleの部分です。Peopleの一番のKPI(重要業績評価指標)は、グローバルではターンオーバー(離職率)です。グローバルのロクシタングループでは店舗の退職率はまだまだ多いのが実情です。しかし、ロクシタンジャポンの店舗の場合は17%程度で、昨年、一昨年は15%を切っていました。とはいえコロナ禍ではタレントマーケットが活況を帯びており、17%が上振れするリスクは当然ありますので、その対策は必要だと思っています。

ただ私は、より重要なのはターンオーバーの前のリテンション(人材の維持)だと考えています。ターンオーバーはあくまでKPIであって、大きなオブジェクティブ(目標)は、リテンションであるべきだと。HRとしてそこがいちばん注力しなければならないところだと思っています。

次代を担う人材を社内で育成し、人事組織の底上げを図っていきたい

― 次世代の人材育成において、水田さんが大切にされていることとは?

社員満足度やリテンションの向上以外に、もうひとつ私には大きな目標があります。それがサクセションプラン(後継者育成計画)です。私と営業ディレクターはあと5、6年で定年を迎えるのですが、これまで務めてきた5年半の中で、外部からディレクターを迎えることの難しさを痛感しているんです。なおかつ社員の立場に立つと、自分の上のポジションが空いたのに外から人が迎えられたとなるとモチベーションが下がります。

社内の人材を昇格させれば本人のモチベーションが上がるだけでなく、採用コストも抑えることができます。総合的に考えると、サクセションプランを立てておくことのメリットは非常に大きいのです。

私はすでに後継者を決めています。本人にも伝えているし、社長にも話しているし、経営会議でも伝えています。本人の今後4年間のタレントディベロップメント(能力開発)も明確にしています。だからこそバトンを渡すまでに、人事組織の底上げをさらにやっていかなければなりません。各チームのリーダーはある程度自分で考えて動けるようになっていますが、その下のメンバーにはもっと成長してもらう必要があります。人事の実務ではなくビジネスにフォーカスし、そのうえで人事として何をするかを考え、実践できるよう、メンバーたちの考え方を変えていくこと。それが私の3つ目の大きなミッションだと思っています。

― 水田さんはHRを突き詰めてきた方だと思います。そんな水田さんを突き動かす原動力は何なのでしょうか?

社員に対する責任ですね。我々が社員の皆さんにいろいろなものを求めるのであれば、人事側もそれに対応していろいろなことをやっていかなければならないし、それができないのであれば、このポジションにいる必要性がないと思っています。

もともとはやりたいとは考えていなかった人事の仕事ですが、今は人事でよかったと思っています。腹をくくるまでに多少時間はかかりましたが。30代で人事の勉強を真剣にやり始めた時、20代を無駄に過ごしてしまった、もったいないことをしたと感じました。どこで踏ん切りをつけるかは重要だし、時間には限りがありますので、自分に対して投資をするならきちんとやったほうがいい。でないと必ず後で後悔すると思います。そんな話をうちのメンバーにもよくしているんですよ。

文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba

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