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家業を継ぎながら新しいアイディアでフード/アパレル分野のビジネスにチャレンジ―その根底にあるのは泉州の地場産業への想い

家業を継ぎながら新しいアイディアでフード/アパレル分野のビジネスにチャレンジ―その根底にあるのは泉州の地場産業への想い

服やアンダーウエアには、「裏表前後がある」のが当たり前。が、その当たり前があるからこそ、面倒くささや着づらさの原因になってはいないだろうか?当たり前にあえてスポットを当て、逆転の発想で生まれた「裏表前後がない」アンダーウエアは、多くのメディアでも取り上げられ、グッドデザイン賞も受賞。知る人ぞ知るヒット商品になっている。誕生の背景にある、家業、そして地元・泉州への想いや、今後の展望について話を伺った。

西出 喜代彦さん/HONESTIES株式会社 代表取締役
1979年生まれ。大阪府泉佐野市出身。東京大学文学部、東京大学大学院を経て大手IT企業に就職。地元・泉佐野市に戻り、家業の町工場を手伝う。倒産の危機に直面し、新たな食品事業を立ち上げ、軌道に乗せる。さらにアパレル事業を展開するHONESTIES株式会社を設立。Japan Challenge Gate2021経済産業大臣賞受賞。
https://honesties.jp/

社会人としてのスタートは「このままではまずい」との焦りから

― 学生時代は、小説家を目指していたそうですね。

好きなことを見つけようという想いで大学に入り、「自分探し」みたいなことをしていました。小説を書く以外にも、貧乏旅行をしたり、バンド活動をやったり。社会と距離を置くような学生生活を送っていました。おかげで大学も大学院も留年して、かれこれ9年間も在籍していたんですよ(苦笑)。結局小説家にもなれないし、社会経験もなく、このままではまずいと思っていた矢先、友人が会社を紹介してくれて、IT企業に勤めるようになりました。

― 大手ITには3年ほど勤務されて、その後は地元に戻られたのですね。

実家は泉州地域に根付く地場産業である、ワイヤーロープの製造・加工を行う町工場を営んでいました。30歳になった頃、父から「いつまで東京におるんや」と言われ、家業を手伝いながらまた小説でも書こう、という軽い気持ちで地元に帰ったんです。

ところが父が病気になって、取引先から吸収合併の話がきたものの父は断ってしまい、売り上げも激減。このままでは会社がつぶれてしまうという一大事に直面してしまいました。

何か新しいことをやらなくては、と思い、もともと父母が興味を持っていた植物工場について調べてみたのですが、技術力やコストを考えると状況的に難しい。そこで思い浮かんだのが、泉州の特産品「水なす」を使ったピクルスだったんです。友人から、「地域の特産品を使った事業に補助金が出る」という話も聞き、チャレンジしてみよう、と。

ぬか漬けで有名な泉州の水ナスを発想を変えてピクルスへ。「いずみピクルス」は昨年で10周年を迎えた。

「面倒くささを解消したい」がヒントになった

― 2012年に、ピクルスメーカーを立ち上げて、今や「いずみピクルス」は人気商品として定着したわけですが、そこからまったくジャンルが異なる肌着ブランドを新たに立ち上げたのはどのようないきさつがあったのでしょう。

子どもが生まれて、時々私も洗濯などを手伝っていたんです。そうしたら、洗濯ものを畳むとき、裏表をひっくり返すのがめんどくさい。だったら洗濯機に入れる前に表に返しておけばいいんですけど、それすら面倒。だから自分の肌着なんかは、裏のまま着ていました。そのうち、スティーブ・ジョブズみたいに同じものを毎日着ようと思い、ユニクロとかで上から下まで同じ色のものを揃えて着ていたんです。靴下などは同じ色しかないから、仕舞うときも色ごとに組み合わせる必要がありません。これは楽やな、と(笑)

肌着も裏表なく着られるものがあればいいなと思って調べてみたら、そんな商品はないんです。これはいいアイディアじゃないかと思いました。発想の原点は「めんどくさいを解消したい」なんですね(笑)。

― とはいえ、西出さんにとって、アパレルは未知の領域ですよね。どのようにしてアイディアを具現化していったのですか。

食品事業(ピクルス)もまだ道半ばでしたし、どのタイミングでチャレンジすべきか模索していました。

そんな矢先、地元である泉佐野市が、地域活性化のためにふるさと納税を新規事業に活用して応援、という企画と出会ったんです。提案するには、サンプルが必要ですから、これまた泉州地域の地場産業である知り合いのタオル製造会社にお願いして、サンプルづくりを手伝ってもらいました。水なすも泉州の特産品ですが、繊維産業も泉州にずっと根付く産業です。アパレル事業の立ち上げも、地場産業のネットワークに助けてもらったんです。

助成事業に採択され、クラウドファンディングにも成功し、ようやく必要な額を得ることができました。

ご自身の原体験から着想を得て、これまで経験のない未知の領域へ挑戦していった西出氏。

泉州の地場産業を活かして、泉州を元気にしたい

― ご実家のもともとの事業もそうですが、泉州には農作物の特産品もあるし、伝統の繊維産業もある。西出さんの挑戦には、「泉州の地場産業」が根付いているのですね。

そうなんです。地場産業を営む両親を見て育ち、そのお金で私たちは生活していたわけですから、地場産業を通じて「地域貢献したい」という想いが、自分のなかにあったのだと思います。代々続く家業も絶やしたくなかったですしね。

― そうして、裏表のない肌着ブランド「HONESTIES」を立ち上げて、販売をスタートされた頃、お客様から手紙が届いたそうですね。

発達障害のお子様を持つお母様からのお手紙でした。そのお子さんにとって、肌着の裏表を正しく把握しながら着ることは、ハードルが高かったそうです。でも親としては、しつけも含め、そのつど注意せざるを得なかった。ところがうちの商品なら裏表も前後もないから、お子さんも楽に着られて、叱ることもなくなったと。肌着を変えただけで、親子ともに楽になれたというお手紙には大感激しました。もともとは、自分の面倒くささを解消するために作ったものが、思っていた以上に社会的意義のある商品になっている。もっと一生懸命やらなければと思うようになりました。

― 実は、発達障害や視覚障害、認知症の方にもやさしい、ユニバーサルデザインだったのですね。

ただ、手軽に着ていただくには価格が高い。肌着は毎日着替えるものなのに、1枚2700円もするのはちょっと…ですよね。そこで、海外に生産拠点を設けて、万単位のロットで大量生産できるようにしました。今は子ども用のスタンダードインナーは990円。大人用も1320円で販売しています。

― 海外生産も含めて、着々と順調に進んでいるように見えますが、実は苦労も多かったのではないですか。

おっしゃる通り大変でした。海外で作るとなると、貿易でしょう。間にいろいろな会社に入ってもらうことも必要ですし、コストやら、やり取りやら、何もかも初めての経験です。壁にぶつかってはリサーチして、人に助けてもらって、の繰り返しでした。

一方で、納得のいく商品づくりに関してもまだまだ改善点はたくさんあると思っています。今は自社内にラボがあるので、改善点や新企画を思いついたら、すぐに試作できるようになりました。

HONESTIESの肌着はフラットシーマ(フラットシーム)ミシンを使い、縫い目を重ねて平らに縫い合わせる縫製手法を用いている。品質表示の設置場所にも工夫が凝らされている。

一度使えば手放せない便利さが、ユニバーサルデザインの原点

― 今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

直近のプランとしては、より洗練された形でHONESTIESの商品をお届けしたいと考えています。今まではハンディを持つ方にもやさしい商品というイメージが先行していたと思いますが、今後はさまざまなニーズに対応できる商品を、お客様とのコミュニケーションを含めて展開していきたいですね。

そして、家族みんなで使っていただけるブランドにしたいです。最初はお子さんに、という方にもぜひ一度着ていただきたいなと思っています。着ればよさがわかる。だからみんなで使いたい、と思っていただける商品に、というイメージでしょうか。

USBケーブルもかつてはタイプA,Bが主流でしたが、上下のないタイプCが出てからはものすごく便利になりましたよね。一度使えばその楽さがよくわかる。HONESTIESも、USBタイプCのように、生活を便利にできる世界のアンダーウエアのスタンダードを目指したいです。

― 現在のラインナップは、アンダーウエアや靴下ですが、Tシャツも夏にはクラウドファンディングの予定とのことですね。

すべての商品に、機能性と生活をシンプルに、というコンセプトをベースとしながら、楽しさや新しさ、遊び心などもプラスした、コラボTシャツにも力を入れていきたいです。

― Tシャツを媒体に、新しい付加価値をつける。すごくおもしろいし、可能性も広がりますね。アイディア好きの西出さんの本領発揮ですね。

ありがとうございます。こういうことを考えるのが、大好きなんですよ(笑)。

撮影:WACOH

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