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アート × 音楽で、業界の熱狂を拡散。「MEET YOUR ART」加藤信介氏が仕掛ける次世代のアートフェアとは?

アート × 音楽で、業界の熱狂を拡散。「MEET YOUR ART」加藤信介氏が仕掛ける次世代のアートフェアとは?

YouTubeチャンネルでの専門番組やリアルイベントなどを通じ、アートを楽しむきっかけや、美術家を知る機会を生み出すアートプロジェクト「MEET YOUR ART」。第2回目となる大型イベント、エキシビジョン型アートフェア「RE:FACTORY」が2023年3月3日〜5日に東京・天王洲 寺田倉庫で開催。アート×音楽をテーマに、作品の展示をはじめ、ライブパフォーマンスやトークセッションなど、このプロジェクトでしか実現できない、新たなアート体験が用意されている。今回は、エイベックスにアートを持ち込んだ、「MEET YOUR ART」の中心人物、エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社長の加藤信介氏にインタビュー。カルチャーやコンテンツ、そしてそこに携わる人々が垣根を超えてクロスオーバーする「MEET YOUR ART」の世界観は、社内の改革を経てイノベーションの創造に挑戦する加藤氏のキャリアに通ずる部分がある。

加藤 信介さん/エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社長
大学卒業後、2004年エイベックスへ入社。入社後は音楽事業に長く携わり、2016年に社長室へ異動。社長室責任者として、会社の横断的な構造改革や新規プロジェクトに参画。2017年よりグループ執行役員として、戦略人事、グループ広報、マーケティングアナリティクス、デジタルR&Dを担当。2018年にCEO直轄本部にて新事業開発・戦略投資機能を立ち上げ、2020年に同領域を子会社化。様々な事業開発をマネジメントしながら自らも「MEET YOUR ART」の総合プロデューサーを務め、事業をリードしている。

挑戦を歓迎する、社内の風土を整えるために

─ 新卒でエイベックスに入社した加藤さん。これまでのキャリアを教えてください。

1年目は札幌で販売店のルートセールスを経験しました。2年目からは東京に戻り、セールスプロモーションやアーティストのマネジメント業務などを担当。2014〜2015年頃に社内の構造改革の機運が高まり、マネジメント業務と並行しながら「円卓の騎士の会」というプロジェクトにアサインされました。旧ローマ帝国のアーサー王が、卓を囲む全員が平等であるとの考えから、上座も下座もない円卓に騎士たちを座らせていたという逸話になぞらえたもの。これは、当時の役員や取締役に対し、次の世代を担う16人の若手が社内の課題感を洗い出し、解決方法を提言する場でした。そこから本格的に構造改革にドライブがかかってきたタイミングで「円卓の騎士の会」からわたしを含む3人の若手が選ばれ、サブメンバーとして経営者層と一緒に議論をさせてもらう機会を得ることに。こうした流れで社長室への道筋ができ、2016年からコーポレート側のキャリアがはじまります。

─ 若手のうちから経営に携わるチャンスが得られるというのは、かなりモチベーティブですよね。2017年に役員になられましたが、役員の立場でどのように会社を見ていましたか?

社長室責任者という立場を経て、並行して行っていた構造改革のプロジェクトが新しい組織になり、2017年1月にグループ執行役員に就任しました。構造上、ミュージシャンやタレントファーストな音楽・エンタメ業界。フロントに出るミュージシャンやタレントがヒットすれば、制度や仕組みが弱かろうと会社は回り続けます。実際に、一定のスピードで成長を続けてきたエイベックスも、フロントはすごく強いのにもかかわらず、当時は制度や風土の部分が弱いという課題感がありました。そんな状況に対して、戦略人事の採択、広報の強化、さらにロゴマークの変更など、プロパーとして働いてきた中で感じてきたことや当時の30代の感覚で課題だと感じる部分を活かして制度や風土を変えるのがわたしの最初の役割でした。

─ その後、事業開発へ。どのような経緯だったのでしょうか?

社内体制を整えた先にある目的は、既存にとらわれずにイノベーションを起こすこと。これまでにないヒットコンテンツやチャレンジを歓迎するような、新しい価値観を迎え入れる風土を目指していたんです。これには、「① 新人を発掘してヒットさせる」「② 多様なIPや人気者をヒットさせる」「③ IPや人気者の領域を超えた新事業をつくる」という3軸あります。①は既にエイベックスで基盤がありますが、②と③の領域はチャレンジングな分野になります。当時は、エイベックスが手がけていない領域のIPや人気者をヒットさせるノウハウや事業開発の経験を持っている社員も多くはなく、専門的にやっている組織もありませんでした。

新しいことに挑戦できて、その挑戦が歓迎されるサイクルを本質的に浸透させるためには、まずファクトを作らなければなりません。これを社内の風土や人事制度だけで変えていくのは到底難しい話。まずは②と③の成功確率を上げる組織、ないしは人のアサインを考えないと、実現できないと思ったんですよね。俯瞰で見たときに、それを自分でやることが自分の役割だ、と決心して。イノベーションのための視点をコーポレート目線から事業目線へ段階的に切り替えていきました。二足のわらじを履いている時期もありましたが、2019年から新事業開発にフルコミットした形になります。

積極的なアクションにより自らのキャリアを築いてきた加藤氏。事業開発へ挑戦する姿は、エイベックス新卒社員の一つのロールモデルだ。

音楽と隣接するアート業界との出会い

─ 事業開発のやりがいや、エイベックスにおける事業開発の立ち位置を教えてください。

エイベックスにはいろんな事業がありますが、1番大事なのは会社の中心にどれだけ多様なヒットコンテンツがあるか。ヒットコンテンツの存在は、周りにある事業の求心力や推進力に関わってきます。なので、ヒットするIPや人気者、コンテンツ作りに貢献できる事業開発に一定ベクトルが向く。チームを立ち上げたばかりのときは、まだノウハウも溜まっていないので、成功確率が高く、クリティカルなエラーも起きにくい既存事業に隣接する領域からはじめました。また、「この社員だったら賭けてもいいな」という社員がいた場合、その社員が想いを持っている事業をエンパワーメントするケースもいくつかあります。

人々の消費も多様化しているので、既存の領域から離れたビジネスデベロッパーだからこそできるスキームでのアプローチを考えています。それは、既にノウハウを持っている別の企業のM&Aも選択肢のひとつ。事業開発をやっている目線でないと、会社をM&Aするという選択肢にリアリティがないと思うので、事業開発チームの存在はとても意味のあるものだと思います。とはいえとにかく試行錯誤の日々です(笑)

─ ニーズが多様化しているなかで、アート事業に的を定めた理由は何でしょうか?

アート市場に対する事業開発は、チーム立ち上げ当初から狙いとしてありました。アートは、IPや人気者の多様性に当てはまるものだと思っていましたし、アート・音楽・ファッションは隣接した領域でもある。ただ、わたしもチームもアートに関する専門性がなかったので、しばらくアクションを起こしていませんでした。一方で、今でこそ立ち上げた事業のグロースに注力していますが、当時はまだ新しいものや人、市場の見極めにアンテナを張って、ソーシングをしていた時期。いろんな人との出会いがあるなかで、アートの専門性を持つ人たちとつながる機会がありました。わたしが漠然と考えていたアート業界に対する課題感、たとえば音楽業界に当たり前にあるものがアート業界にないこと、アート業界におけるアーティストのマネタイズ方法、活躍の場が音楽業界に比べて少ないことなどのディスカッションを繰り返していくうちに、自分の中での解像度が上がり、ミニマムだけどチーム編成も見えてきて。2020年の夏に企画書を書き、12月から本格的に始動しました。

─ スピーディーにスタートした「MEET YOUR ART」。コロナ禍の立ち上げによる影響はありましたか?

コロナの影響でライブの開催などリアルな体験の提供がしばらくできなくなったので、エイベックスという会社全体としては、ハッピーな状況ではありませんでした。俯瞰で見たときに、あまりいいコンディションとは言えず、しかもいつまでこの状況が続くのかさえわからない。それでもわたしたちは新しいものを作っていく立場なので、その先の未来を見据えた目線が必要です。事業開発担当としては、いつまでこの状況が続くのか読めず、投資の意思決定をする上ではクリティカルな問題でした。

アート事業でいうと、「MEET YOUR ART」を立ち上げたときから、いかにリアルな場で熱気を巻き起こしていくのか考えていて。実際に2022年5月に開催したリアルイベント「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」でいいバズが生まれ、シンプルにライブやイベントができるようになってよかったな、と思います。最終的には個々のアーティストをエンパワーメントしたいですが、まずはアート市場そのものを盛り上げていくことが大事。圧倒的なバズが起きれば、より多くの人にインパクトが伝わる。アートの文化を守りつつ、まずはエイベックスのノウハウを使って空気感を作り、中長期的にはアーティストのエージェントやマネジメントに役割を拡大していく進め方を計画しています。

─ エイベックスとして新規性の高いアート領域。リアルイベントには、既存事業のノウハウが生かされているところはありますか?

アサインされているアーティストとアートにきちんと文脈がないと、双方が織りなす効果を最大化できないと思っています。キュレーションするには、アート領域に対する信頼や関係性が必要。「MEET YOUR ART」を立ち上げてからずっとアートのメディアを運営し、そこで少しずつ積み上げたノウハウや関係性のおかげでやっとご一緒できるようになりました。そこにエイベックスが培ってきた、ライブやイベントのノウハウが組み合わさり、「MEET YOUR ART」でしか実現できない、独自のアートフェスティバルになっていると思います。

アートの文脈に沿ったアーティストを集めて、エキシビジョンやフェアをやるだけなら、そこにわたしたちが介入する意味はありません。ユーザーに対してわたしたちが発揮できる価値は、従来のアートイベントとは違う演出でパッケージ化し、場に熱狂をもたらすことがひとつ。もうひとつは、カルチャーとしてクロスオーバーしているアート・音楽・ファッションなどの分野をコラボレーションさせて、多くの人にアートを好きになってもらうこと。音楽やファッションには人が大勢集まるのに、アートの敷居は高くて自分ごとに思えない人がたくさんいます。この3つをミックスさせるイベントを提供し、領域を超えてカルチャーを楽しんでもらうのが狙いとして大事にしているポイントです。

「MEET YOUR ART」は森山未來氏がMCを務めるアート専門番組を中心にECやフェスティバルなどを複合的に展開するアートプロジェクト。“新たな手法で、多くの方へアートに触れるきっかけや、特に若手のアーティストを知る機会を創出すること”を目指している。

アートをより身近に、楽しんでもらうための新たな提案

─ 3/3〜5に東京・天王洲で第2弾となる「RE:FACTORY」の開催が控えています。音楽とアートのコラボレーションということで、アートフェアの見どころを教えてください。

「RE:FACTORY」のメインアーティストであり、アーティスティック・ディレクターを務める大山エンリコイサムさんは、その手法の根底にストリート文化を象徴するエアロゾル・ライティング、いわゆるグラフィティがあります。70〜80年代にニューヨークで生まれたヒップホップシーンが90年代に日本へ入ってきたとき、まさに音楽・ファッション・アートがクロスオーバーしていた時期ですよね。大山さんのように、活動やバックグラウンド、アウトプットに音楽のルーツがあるアーティストにたくさん参加いただいていますが、それだけではなく俯瞰で見た時に今の日本のアートシーンを多面的に切り取った一つのエキシビジョンのようなアートフェアになっていると思います。

アーティストとミュージシャンのコラボレーション作品も制作されています。これは、わたしたちが導いたわけではなく、自発的に生まれているんです。「こういうミュージシャンのポートレートを描きたい」「衣装を使ってオフィシャルの作品を作りたい」みたいなお話もあり、会場ではコラボレーション作品もいくつか展示します。

3月3日の夜には、現代美術と音楽のコラボレーションライブを上演。演奏の演出としてアートがあるのではなく、アーティストとミュージシャンが等しい関係で作品として舞台を作る。大山さんがアートをてがけ、Novel Coreさんがパフォーマンスをします。他にもトークセッションなどさまざまなコンテンツを用意しています。

─ GENERATIONSの片寄涼太さんが、オフィシャルサポーターとしてアートフェアをガイドしてくれます。どのような役割なのでしょうか?

欧米や韓国では、日頃からアートに触れ、コレクションをしていると発信しているミュージシャンが当たり前にいます。それをSNSで見たファンが「アートを見るってかっこいいことなんだ」と受け止めて、実際にアートを見にエキシビジョンや写真展に足を運ぶという素晴らしいサイクルが生まれているんです。日本でもアートに理解があったり、興味を持って向き合っているミュージシャンやタレントが少しずつ増えてきている。わたしたちはそのような嗜好をもった方々と積極的に連携したり支援していきたいと思っていて、それを通して音楽とアートに本質的にブリッジをかけたり、ミュージシャンを通してファンがアートを知るようなサイクルを日本でも生んでいきたいと考えています。特にGENERATIONSの片寄涼太さんは以前からアートに特別な想いを持たれていて、前回我々が開催したアートフェスティバルにもプライベートで遊びにきてくれて、そのご縁で今回「RE:FACTORY」のART FAIRオフィシャルサポーターに就任いただいてます。アートフェアの楽しみ方を、彼の視点で伝えてくれています。

─ 片寄さんがいらっしゃることで、よりアートが身近に感じますね。展示方法で工夫していることはありますか?

通常のアートフェアでは、ギャラリーの空間で複数のアーティストの作品が展示されていますが、わたしたちは基本的に1アーティストにつき1ブース設けた個を立たせる展示になっています。複数のアーティストの作品が1つずつ展示されているよりも、初めてきた人の理解度が違うと思うんですよね。作品を売買するところではあるものの、作品を購入するだけでなく、世界観も含めて楽しめるはず。初めてアートに触れる人も、若い人たちも、気軽に来てもらえると嬉しいです。

─ 最後に、「MEET YOUR ART」の今後の展望を教えてください。

2020年12月にメディアと立ち上げ、基本的にオンラインベースで展開しながら去年5月にオフラインでフェスティバルを開催し、おぼろげながらわたしたちならではのアート業界に対する貢献と事業のあり方が見えてきています。いろんな分野に手を出すというよりは、この確信をより強固なものにしていくのが最優先。わたしたちのためにも、市場の形成のためにも大事なことなので、信じる道を突き進むのみですね。エイベックスはコンテンツの会社なので、これからどのようなプラットフォームが隆盛を極めたとしても、テクノロジーを乗りこなしていくポジションがとれます。これからどのように派生していくのかはわかりませんが、まだまだ分断されて見えるアート業界と外の境界をつなぐ架け橋がかけられれば、いろんな価値が生まれ、マネタイズの多様化にだって貢献できる可能性もある。そのためには、信頼関係を積み重ねられるかが大切です。その信頼が、わたしたちの次なる強みになると思います。

【MEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」開催概要】
開催日程:2023年3月3日(金)~3 月5 日(日)
開催時間:11:00-18:00※最終日のみ 17:00クローズ予定
※ライヴパフォーマンスは 3月3日(金)を予定。
開催場所:
アートフェア 寺田倉庫G1ビル(天王洲・東京)
ライヴパフォーマンス 寺田倉庫G3ビル(天王洲・東京)
URL:https://avex.jp/meetyourart/fair/

文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba

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