「テクノロジー/接客業」の現在地とこれから
デジタルによる変革という意味を指す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が社会全体の急速な課題となり、ファッション業界においてもテクノロジーによってビジネスに変化が生まれた。デジタルでの代替が難しいとされる店舗接客においては、どのような変化があったのだろうか。「店舗接客とテクノロジー」に焦点を当て、大丸松坂屋のバーチャル技術を取り入れた取り組み、そして「STAFF START」という店舗とオンラインをつなぐためのアプリケーションサービスについて考察していく。
テクノロジーによる新しい顧客体験の開拓に挑む大丸松坂屋
テクノロジーと接客の新しい在り方としてまず注目したいのが大丸松坂屋百貨店。最新技術を導入したこれまでにない新しい百貨店の可能性を発信し続けて、注目を集めています。
2020年12月から現在まで、継続的にバーチャルリアリティ(VR)空間上で次世代型バーチャル店舗を展開。アバターなどの3Dアイテムの販売のほか、商品の3Dモデルを用意してECでの実際の商品の購入もでき、テーマパークのようなワクワク感が楽しめます。
また今年4月からは大丸梅田店で、インフォメーションデスクに3Dアバターのバーチャル店員を用いた「リモート型」接客案内サービスを導入しています。日本の百貨店としては初めての取り組みとして報じられました。
別室に店舗従業員が待機し、アバターが来店客から質問を受けると、従業員の身ぶりや言葉が連動してリアルタイムで伝わるという仕組み。接客の担当者は現場にいる必要がなくなるため、将来的には複数店舗のデスクサービスを担当することが目標とされています。
ECと店舗接客の対立問題と課題
ファッション業界全体でDX化に取り組んだ結果、ECサービスの充実は既に前提となり、現在はOMO化(OMO=Online Merges with Offlineを略した言葉。オンラインをオフラインと融合するという意味)を目指した動きが出てきています。
ECで商品を購入した場合、例えその前に顧客が店舗スタッフに接客を受けていたとしてもそのスタッフの功績は可視化されず、店舗側にとって顧客のECでの購買はあまり歓迎できないものでした。さらに、ECと店舗の在庫一元化により、店舗側がオンラインの出荷も担うようになり、負担が増えることに。
「販売員のオムニチャネル化」を提唱するバニッシュ・スタンダード社は、このオンラインとオフラインの間の溝を埋めるためのアプリケーションサービス、「STAFF START」を数多くのファッション企業に提供しています。
ECや、SNSなどのオンライン上でも各販売員の提案を反映し、デジタル上の売上と販売員を紐づけることで評価につなげるというもの。オンライン業務に対するスタッフのモチベーションを保つ上では欠かせない仕組みと言えそうです。
STAFF STARTについて
オンラインも販売員のフィールドになることで、販売スタッフの業務のボリュームが大きくなるという点では課題もありそうですが、オンラインとオフラインのシームレス化を進める仕組みであることは間違いありません。在庫管理についても、AIの精度が高くなればいずれ負担は少なくなることが予想されます。
「人だからこそできること」を見つめなおす
実店舗での接客がほぼ通常に戻った現時点でECと店舗での売上を比較すると、ECが普及しオンラインサービスも充実したとはいえ、やはり店舗での売上がブランドの売上の大半を占め、ECの売上は高くても3割程度。コロナ禍を経て、よりいっそう実店舗での購買体験に対する評価が上がったという見方もあります。
バーチャルでの試着や、AIによる採寸のサービスもコロナ禍でいくつか見られましたが、そのどれも機能としてはまだ不十分な点が多く、普及には至っていません。現状では身長別にデータ化された販売スタッフの着こなしを参照する、というのがオンラインにおけるフィッティング問題に向けた提案として多く取り入れられています。
バーチャル技術を使ったフィッティングは今後精度が上がってくることも予想されます。しかし、商品の着心地や素材感、フィット感までカバーする技術が登場するのは今のところ非現実的です。
テクノロジーではカバーできない、こうした「感覚」の部分に対するアプローチや、着ている人の雰囲気を実際に見て似合うコーディネートを提案するといった、「人対人」ならではの信頼関係にもとづいたやりとりを意識することが接客において求められるようになるでしょう。
大丸松坂屋のアバターによる接客も、来客からの質問のデータがある程度集積された後は店舗従業員にかわりAIが質問に答える時代が来るのか、それともそこは百貨店として、経験を積んだ人間によるサービスの提供を保ち続けるのかという点もこれから注目したいですね。どこまで接客をテクノロジーで代替するのかという問題についてのひとつの指針となり、今後のサービスの方向性に大きな影響を与えるかもしれません。
文:ミカタ エリ