ファッション・音楽・スポーツとのコラボで“ブランドラブ”を育む。「バドワイザー」のシニアブランドマネージャーが語るマーケティング戦略とは
85カ国で販売され、140年以上愛され続けるプレミアムラガービール「Budweiser(バドワイザー)」(以下、バドワイザー)。マーケティング戦略のPillar(柱)を「ファッション・音楽・スポーツ」と定め、アーティスト・VERDY(ヴェルディ)さんとコラボした音楽フェス「BUDXUNCOVERED CURATED BY VERDY(バドエックスアンカヴァードバイヴェルディ)」をはじめ、様々なイベントを開催している。シニアブランドマネージャーを務めるのは、映像制作会社、広告代理店、メーカーを渡り歩いてきた関根正己さん。ご自身のキャリアストーリーと「バドワイザー」のマーケティング戦略について語っていただいた。
関根 正己さん/AB InBev Japan合同会社 バドワイザーシニアブランドマネージャー
福岡生まれ、神戸出身。アメリカ・ボストンのエマーソン大学を卒業後ロサンゼルスの制作会社P.I.Gに入社。帰国後グループエムジャパン、アシックス、アンハイザー・ブッシュ・インベブなどで10年以上に渡ってマーケターとしてキャリアを築く。現在、バドワイザーシニアブランドマネージャーを務める。
映像制作会社、広告代理店、メーカーで幅広く経験を積む
― まず関根さんのキャリアについてお伺いします。最初はアメリカの映像制作会社に勤務されたようですが、その経緯について教えていただけますか。
高校生まで日本のインターナショナルスクールに通い、小さい頃から映画が好きだったことから、大学はアメリカの映画専攻があるエマーソン・カレッジに進学しました。在学時には映像制作会社にインターンとして携わり、有名アーティストのミュージックビデオや企業のコマーシャルを制作していました。
日本に半年留学している間も、ショートショートフィルムフェスティバルのインターンをしたり、仲間を集めて長編映画を撮ったり、作品を映画祭に出したりと映画漬けの日々でしたね。もちろん就職も映像の道に行こうと思っていたので、卒業後はロサンゼルスの映像制作会社に勤めました。
ー その後、日本に帰国されましたね。
映像制作会社に一年間勤めた後、ビザの関係で日本への帰国を選びます。帰国後は外資系の広告代理店グループエムジャパンに入社し、メディアプランナーとしてさまざまなメディアを対象に広告をプランニングしていました。
今までは映像を作るクリエイティブ側でしたが、戦略を考える数字と向き合う職種に変わり、とても鍛えられました。
ー 続いて、株式会社アシックスに転職されました。
広告代理店での仕事をやり切ったと感じ、次は事業主側を見てみたいなと思ったのです。転職先の候補がいくつかあるなかで、日本を拠点にしながらアジア、アメリカ、ヨーロッパ各国に進出しているアシックスに興味を持ちました。
さらに、アシックスが東京オリンピックのスポンサーになることが決まっていて、面白そうだなと思い、入社しました。ランニング分野やファッション分野のグローバルマーケティングに携わりました。
ー アシックス時代に印象に残っていることはありますか。
アシックスの創業者である鬼塚喜八郎の生誕100周年キャンペーンや、2017年の世界陸上のキャンペーンなどたくさんあります。
特に、コロナ禍でブランディング用の映像を撮影する時は大変でした。アメリカで撮影の予定でしたが、コロナ禍で出国できないのでリモート撮影を行い、日本から指示を出しました。普段とは慣れない状況で手こずりましたし、カメラマンがコロナにかかってしまって。さらに代わりのカメラマンも罹患し、なんとか3人目のカメラマンを見つけてきました。
そのキャンペーンでは面白いこともありました。大学時代に映画を一緒に作っていた仲間の一人が率いる広告代理店とタッグを組んだのです。卒業後に別々の道を歩み、彼は広告代理店を立ち上げ、「いつか一緒に仕事をしよう」と言っていたのですが、このような形で実現するとは感慨深かったです。
ー AB InBev Japan(アンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパン)合同会社にはどのような経緯で入社されたのでしょうか。
もともと知り合いが働いているので、どんな企業なのかは知っていました。私はサッカーをやっていたので、AB InBevがカタールのワールドカップに協賛していたことに共感を感じました。
さらに、グラフィックアーティストのVERDYさんとコラボしていて、すごく面白そうだなと。映像に関わってきたので私のコアにはクリエイティビティがあります。ワクワクを届けるような仕事がここではできそうだと感じ、入社しました。
若者をターゲットにファッション・音楽・スポーツとのコラボを展開
ー 関根さんがシニアブランドマネージャーを務める「バドワイザー」のマーケティング戦略の特徴を教えていただけますか。
若者がビール離れと言われてるこのご時世に「バドワイザー」のメインターゲットは20~30代です。日本のマーケットでは若者を獲得していかないと縮小していく傾向があり、積極的に若者を獲得していきたいという背景があります。「バドワイザー」の特徴である世界観やスムーズでまろやかな味わいは若者に支持されており、また、ビールがフェスやイベントに行く若い世代とマッチしています。さらにビールは、ウィスキーやシャンパンのように高価でなく、若者にとって手の届きやすい金額なのです。
20~30代にリーチするために、マーケティング戦略のPillar(柱)を「ファッション・音楽・スポーツ」と定めています。さらに、「みんなで楽しく飲む」というイメージづくりをするためのオケージョン戦略にも取り組んでいます。
戦略を踏まえて、VERDYさんとコラボした音楽フェス「BUDXUNCOVERED CURATED BY VERDY」や、FIFAワールドカップのパブリックビューイングに各国の音楽、文化、ライフスタイルを反映したイベント「FIFA FANFEST」を開催しました。
ー 従来のビールメーカーのマーケティング戦略とは違う手法を取られていますね。
ビールのマーケティング戦略の王道は、タレントを起用してテレビCMで美味しさを伝えるという手法です。しかし、私たちは新商品をどんどん出すわけではなくプレミアムブランドをつくり、“ブランドラブ”を創造し、ファンを生みだすことに注力しています。バドワイザーのブランド認知をしブランド体験を通して、お客様の“ブランドラブ”が育つと考えています。
飲料なので、まずは飲んでもらうことが大切です。飲んでいただければ「おいしい」と言っていただけることが多いので、最初のひと口を飲んでいただくような体験を作るのが大切だと考えています。
ー イベントで最初のひと口を飲み、ブランドを好きになるきっかけになりそうです。
そうですね。特に音楽イベントとビールは親和性が高いので、これからさらにプッシュしていこうと考えています。
さらに、日本ではユーザーのライフスタイルに入り込んだファッションカルチャーとの相性も良いです。「バドワイザー」が前面に出ているストリートファッションが好評なので、起爆剤として活用していきたいですね。
ー 「バドワイザー」は世界最大の広告賞「カンヌライオンズ」で受賞されていますね。
AB InBevのCMO(最高マーケティング責任者)が「クリエイティビティを追求すればビジネスがついてくる」と言っていて、社内全体でクリエイティビティを大切にする社風があり、評価体制や勉強会、社内のアワード(CreativeX Awards)に反映されています。
評価体制は各キャンペーンに対してリージョナルCMOや社外のマーケターからフィードバックがあり、勉強会ではクリエイティビティに精通するゲストの話を聞くことができます。
また、社内のアワードには取引先の広告代理店も招待し、表彰するのです。表彰されるとモチベーションが上がるので、良い機会になっているのを感じます。
ー クリエイティビティを大切にしているのが伝わってきます。
各キャンペーンに対してどのぐらいブランドのイメージが上がったかの検証も行っていて、会社全体でクリエイティビティの質を上げようとしています。
さらに、AB InBevのリーダーシップの強さもクリエイティビティを支えていると思います。約5年前に“「カンヌライオンズ」を獲得する”という目標を掲げてから、戦略を練り、プログラムに落とし込み、投資をして、数年後に実現しました。1つの国だけでなく、どの国でも実現できるような仕組みをつくっています。
面白さとビジネスの成長を両立したクリエイティビティを追及したい
ー 今後、「バドワイザー」は日本市場でどのような展開を考えていますか。
音楽とファッションカルチャーを中心に、お客様の心をつかんでいきたいなと考えています。2023年にVERDYさんとのコラボを日本と韓国の連動で行ったのですが、両国で好評を得て、社内のアワードで高く評価され、VERDYキャンペーンのパッケージデザインが入賞しました。このようなインパクトフルなキャンペーンを、日本を拠点にアジアや世界各地でも展開できないかと模索して行きたい。
エンタメ業界はネットのおかげで境界線が無くなってきています。日韓連動のキャンペーンのように、各国とシナジーを作っていきたいです。
ー 最後に、関根さんが仕事で大事にしていることを教えてください。
やはりクリエイティビティですね。面白さだけではなく、消費者とミーニングフルな(意味のある)体験などビジネスの成長や良い評価につながるようなクリエイティビティを大事にしていきたいと思っています。
文:吉田櫻子
撮影:船場拓真