アルパインブランド「ミレー」の快進撃が止まらない!日本で2ケタ成長が続く要因とブランド戦略に迫る NEW
1921年、マルク・ミレー夫妻が創業したフランスのアルパインブランド「ミレー」。創業から100年以上にわたって数々のトップクライマーやアルピニストたちを魅了し、現在ではアウトドア・登山好きなど幅広い層の支持を獲得している。2024年にはブランドロゴとイメージカラーを刷新し、リブランディング。さらに今年は主力商品「ティフォン」の大幅なアップデートを発表し、さらなる躍進にも期待がかかる。世界的にブランド展開をする「ミレー」だが、日本においては売上前年比が二桁成長という好調が続いている。そこで今回はブランドディレクターの星裕介さんに、日本市場で大きな支持を集める要因、今後のブランド戦略や展望について話を伺った。
星 裕介さん/ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社 ブランドディレクター
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、オーストラリア・シドニー工科大学で2年間スポーツビジネスを学ぶ。帰国後、新卒でアディダスジャパンに入社。約10年にわたり、営業・販促・マーケティング業務に従事。その後、ファーストリテイリングのスポーツプロジェクトチームにて広告・アスリートマネジメントに携わった後、アディダスグローバルにてゴルフ事業に従事。ゴルフシューズブランド「フットジョイ」の事業本部長を経て、2023年4月より現職に就任。
日本での成功要因は、ローカライズと独自技術
― 日本において、直近数年は成長率2桁を記録し、4年前と比べると売上は約2倍に。その成功要因は何でしょうか。
主に3つの要因があると考えています。1つ目は、日本の環境にあった製品を、日本チームが開発しているということ。外資系ブランドの場合、海外と同じものを日本で展開することが多いですが、ミレーの場合は日本独自に開発している商品が約7〜8割を占めています。日本の環境・気候に合った製品を日本開発チームが、契約ガイドやアスリート、実際のコアユーザーやお取引様にヒアリングを進めながら製品をつくっているのです。
理由は、ヨーロッパと日本の山岳環境は異なるため。例えば、ヨーロッパはドライな気候ですが、日本はウェットな気候。また、ヨーロッパは垂直方向の山が多いですが、日本はなだらかな山が多いです。このように気候や環境が違えば、山の道具やウェアに求められる機能も異なります。我々はフレンチアルパインブランドでありながら、しっかりと日本の山岳環境・気候・トレンドに合わせたものづくりをしています。
2つめはブランドと製品の独自性。ミレーは、独自の素材やイノベーションを持っていて、それが強みでもあります。
例えば、今回リニューアルした「ティフォン」、“アミアミ”の呼び名で知られている「ドライナミックメッシュ」、通気性と保温性に優れた「スルーウォーム」、通気性と超耐久撥水に優れた「ブリーズバリア」などは、日本の山岳環境や気候に適したものですが、すべてミレーが独自に開発をした素材です。
3つ目は、集中的・継続的な360度のコミュニケーション、お取引様との良好な関係です。
注力製品を設定し、そこに集中したコミュニケーションを継続的に実施しています。1シーズンのコミュニケーションだけですと、市場には浸透しませんし、シーズンごとに得たフィードバックを、製品・マーケティングの改善につなげています。また、お取引様と常に話し合い、しっかりと目線を合わせながら二人三脚で進めていることも大きいですね。
これら3つが、コアユーザーである“日本の登山ユーザー”の支持を頂けている理由ではと分析しています。昨今、アウトドア業界もインバウンド需要が大きく拡大していますが、ミレーの場合はインバウンドよりも、日本の方からの需要が非常に大きく、そこも堅調なビジネスの拡大に寄与していると思います。
― 日本市場に向けた商品づくりに注力されているのですね。
そうなんです。例えば日本では「インセクト バリヤー」という、防虫機能をもった製品を展開しています。昨今、日本では登山での害虫被害が問題になっているので、より安全に山を楽しんでもらうために、と考えています。
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2025年はプロダクトデザインやコンテンツを強化
― 2024年3月にリブランディングを実施しましたが、具体的にはどのようなことを行われたのでしょうか。
表層的な部分では、ブランドのロゴとカラーを変更しました。ロゴは昔のロゴデザインにインスパイアされたものにし、カラーは赤から青に変更しました。ちなみに、“フレンチブルー”という色があるくらい、フランスではブルーが代表的なカラー。ミレーにはその意味もありますし、我々のブランドには欠かせない、氷河の“青”という意味もあります。新しいブランドカラーは「フランスのアルパインブランドだからブルーなんですね」と受け入れられていますし、昔のロゴを知る世代も、また知らない若い世代も、好意的に受け止めていただいていると感じています。まさに“ミレーブルー”です。
― これから変化していく部分はありますか。
2025年は、コンテンツやプロダクトデザイン、そしてブランドのアイデンティティなど中核部分をさらにブラッシュアップしていく予定です。これまで以上に、山でのパフォーマンスにコミットしたアルパインブランドにしていくことを目標に登山カテゴリーを中心に据えながら、トレイルランなどのアクティビティカテゴリーにも進出していきます。
― 今回大幅リニューアルを発表したプロダクト「ティフォン」への期待をお聞かせください。
「すべての登山者が安全に山に登り、安全に家に帰ってこられる製品をユーザーに届ける」という強い想いを基に、10年前に発売を開始したミレーのもっとも重要でイノベーティブな製品です。リニューアルにあたって、ゲリラ豪雨にも対応できるよう、耐水性を50%向上させました。
また、耐水性、透湿性、そして「ティフォン」の特徴でもある伸縮性に加え、“軽量性の限界”に挑戦した「ティフォン ファントム」を発表しました。3層の防水透湿レインウェアにもかかわらず、100g台の超軽量を実現。表地、裏地、内側のシームテープにもこだわり、日本の高い技術がなければ実現できない製品が完成しました。登山はもちろんトレイルランなどのアクティビティを楽しむ方々にも「ミレー」を知っていただくきっかけになればと思います。
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日本市場を足掛かりにアジア圏での拡大を見据える
― 現在の日本のアウトドア市場をどのように見ていますか。
日本のアウトドア市場は非常に成熟していますが、常に新しいトレンドがあり、世界から見てもとてもユニークで、特別なマーケットだと思います。 アメリカではロングトレイル、ヨーロッパではアルプスを代表とする高山を登るバーティカル登山など大きな特徴がありますが、日本は類を見ないほど自然環境が豊かで、それに対応するギアの豊富さの面でも飛びぬけています。
登山だけでなく、スノーアクティビティ、自然観察、写真、ハイキングやトレイルランニングなど、自然や山でのアクティビティの豊富さはもちろん、ファッションやライフスタイルなど、アウトドア領域以外のカルチャーとの融合も昨今では非常に盛んです。
新しい楽しみ方やトレンドが次々と生まれてくる魅力ある市場ですし、多くのブランドが日本市場を強化していること、新しいブランドが生まれる状況などを見ると、やはり世界的に見ても非常に魅力的な市場だと思います。
― 本国から日本のマーケットに期待されていることありますか。
売上高はフランスに続いて、日本が2番目に大きいです。ただ成長率は、日本では常に2桁を記録し、グループ内で最も成長している市場になります。そのため、日本に対する本社からの期待は大きいですね。
日本のお客様は、製品クオリティに対して良い意味で厳しい目を持っています。しっかりとニーズに応えなければブランドも製品も受け入れられません。
弊社グループの CEOであるロマン・ミレーは、「日本で通用すれば世界でも通用する。世界で通用しても日本で通用しないこともある」と話しているくらい、アウトドアブランドに求めるレベルは高い。中国、韓国をはじめとしたアジア圏の登山トレンドが急成長している中で、今後アジアに向けても中心的な市場になると確信しています。ミレーの製品開発拠点はフランスと日本にありますが、まさに今後、日本がアジアに向けて製品、マーケティングなどを発信する拠点となります。日本はミレー・マウンテン・グループとしての重要な戦略拠点なのです。
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新たなチャネルを模索しながら常にブランドを変化させる
― ミレーの描く、今後の展望についてお教えください。
「登山」に軸足を置きながらも、他のマウンテンアクティビティでもパフォーマンスにコミットする、広い意味での「Performance Mountaineering Brand」に成長させていきたいです。
今後は、直営店をはじめEコマースの拡大などDtoCにも注力していく予定です。直近では、2025年度中に直営店を1店舗オープンさせるべく準備しています。実店舗は、単に商品を売るだけでなく、消費者との対話やコミュニティを創出する場にしたいですね。リアルとデジタルを融合させ、山やブランドの世界観をより身近に、魅力的に感じられる環境をつくるという構想もあります。
― 今後の挑戦に必要なことは何でしょうか。
地球環境、また消費者の好みやトレンドは今後もめまぐるしく変化していくでしょう。ブランドもそういった変化に柔軟に、かつ真摯に対応しながら、製品、サービス、アイデンティティを届けていくことが肝要です。変えずに守る部分はありながら、変えるべきことは変えていく。そして、その変化を社員一人ひとりが楽しむくらいの気持ちで、ブランドをドライブしていくことが何より大切ですね。