「店舗の人材育成を阻む、2つの課題」人材不足時代のリテール組織論 Vol.3 NEW

リテール業界では今、「人が採用できない」「育つ前に辞めてしまう」という課題が深刻化している。こうした人材不足の時代に必要なのは、採用力だけではない。重要なのは、人を「採用する」と「育てる」を切り離さず、一貫した組織設計として捉える視点だ。
本連載ではリテール業界に25年以上携わり、現在はリテール特化型HRコンサルタントとして、企業の採用・育成から制度設計、メンタルサポートまでを一気通貫で支援するLiNo代表・森末道弘さんが、リアルな課題と照らしながら自立自走できる組織づくりについて解説する。
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2(前編)
店長には、「教え方」を学ぶ必要がある
前編では、現場が直面している「育てる難しさ」の正体のうち、「指導の属人化」や「教え方の知識不足」といったスキル面の課題について詳しく紐解いていきました。
プレイヤーとして優秀であることと、指導者として優秀であることは全く別物であり、そこには全く違うスキルが必要になります。
しかし、店長たちはその「教え方」を学ぶ機会がないまま現場に立っているという背景をお伝えしました。
この後編では、現場の根底にある、上司と部下の間に横たわる「意識(価値観)のギャップ」と、日々の業務過多による「現場のキャパオーバー」という、残る2つの大きな課題についてお話していきます。
課題3:部下とのコミュニケーションの難しさ
3つ目は、多くの管理者が頭を悩ませている「若手の部下と、どうコミュニケーションを取ればいいのか」という問題です。
近年、世代ごとに働く目的や価値観が急速に変化しており、時代背景に伴う「意識(価値観)のギャップ」が生じています。
ひと昔前であれば、「背中を見て育て」「言われた通りに、まずは黙って動く」というトップダウンの指導が主流であり、ある程度はそれで組織が回っていました。
しかし今は、自分がその業務を行う意味や納得感、さらにはメリットを重視する傾向にあります。
「なぜこの作業が必要なのか」「自分にとってどんなプラスがあるのか」と納得できたら、彼らは主体的に動き出してくれます。
指導側がこの意識の変化を理解し、部下へのアプローチを変えていかなければ、信頼関係を築くどころか、心のシャッターを閉ざされてしまう結果になりかねません。
ハラスメントへの恐れが、指導のためらいを生む
さらに指導側(上司)を悩ませているのが、「ハラスメントへの過度な恐れ」と「指導の引き出し(バリエーション)の不足」です。
現場の店長たちからは、
「少し厳しく注意したら、ハラスメントと言われるのではないかと怖い」
「どこまで踏み込んで指導していいのか」
「どんな言い方がダメなのかが分からない」
という声をよく耳にします。
それに加えて、「部下に響く、正しい褒め方や教え方のバリエーションがない」という課題も抱えており、結果として当たり障りのない表面的な対応になってしまい、適切な距離感を測りかねて指導自体を躊躇してしまうという悪循環が起きています。
上司の慎重さが、部下には「孤立感」として伝わる
一方で若手スタッフ側(部下)は、上司のこの慎重な姿勢を別の意味で捉えています。
「自分を育てる気がないのではないか」
「放置されている」
「期待されていない気がする」
「もの凄く気を使われている(距離を置かれている)気がする」など、
どうコミュニケーションを取ればいいか苦悩する上司の裏側で、若手は「孤立感」を募らせているケースがあります。
「ハラスメントを恐れて踏み込んだ指導や関わりに悩む上司」と、「上司との距離感に不安を感じる部下」。この関係性のすれ違いが、スタッフの育成が上手くいかない要因の一つにもなっています。
課題4:業務過多で部下育成の時間が持てない
ここまでに挙げた「属人化」「知識不足」「意識(価値観)のギャップ」というすべての悩みをさらに増幅させているのが、「日々の業務に追われて物理的に時間がない」「人員不足で育成にまで手が回らない」という、店舗が抱える物理的な環境の課題です。
現場の管理者は、日々の店舗運営(売上シミュレーション、シフト作成、VMD変更、さらには本部やデベロッパーへのレポート作成など大きな業務から小さな雑務まで)をリアルタイムでこなしながら、そこに自らの接客を重ねています。
また様々な理由で、最低限の人員で運営しているお店も多くあり、そういった店舗内は教える側の業務量がすでにキャパオーバーを迎えています。
自身の仕事だけで手一杯な中、さらに「指導」というミッションがプラスされ、「売上を追わなければいけない、でも部下も育てなければいけない。これ以上どうすればいいのか」というのが、現場を預かる店長たちの本音です。
ベテラン・中堅層の不在が、育成負担を集中させる
さらに深刻なのは、現場の「教えられる人材の不足」です。
かつてのように、新人の面倒をじっくり見る「ベテランスタッフ」や「中堅スタッフ」が在籍している店舗は今や稀(まれ)です。
ベテラン層や中堅層が抜けてしまった店舗では、店長一人がすべての育成負担を背負い込むか、もしくは、まだ入社したてで自分自身も育ちきっていない若い先輩スタッフが、後輩の教育係を任されるという、あまりにも無理のある構図が生まれています。これでは教える側も潰れてしまいます。
必要なのは、「育てる仕組み」
店舗という場所は「お客様主導」の環境です。
どれほど事前に丁寧な育成計画を立て、スケジュールを組んでいたとしても、目の前のお客様の状況や突発的なトラブルによって予定は一瞬で変動してしまいます。
「今日こそあのロープレをやろうと思っていたのに、急に混雑してしまい、結局何も教えられなかった」
「突発的なクレームが入って、新人をフロアに放置する形になってしまった」
こうした不可抗力による予定変更で、「育成」がどんどん後回しになってしまうという、リテール特有の構造的な難しさがあるのです。
前後編にわたってお伝えしてきた、「指導の属人化」「教え方の迷い」「意識のギャップ」「現場のキャパオーバー」。
これらすべては、人材育成の環境や仕組みが整っていないことから生じる、いわば現場の「リアルな悲鳴」です。
最初から人を育てられる店長や先輩はいませんし、育成には、時間と手間が掛かります。
「人を採用できない・定着しない」この時代に、現場だけに部下の育成を委ねるのには限界がきています。
今のリテール企業に求められているのは、本部と店舗の管理者たちが一つとなり、「組織としての育てる仕組み」を構築していくことです。
では、現場の管理者たちが迷わずに、そして負担なくスタッフを育てられる組織をつくるには、どうすればよいのでしょうか?
次回は、これらの現場課題を解決するための「育てる環境づくり」についてお話ししていきます。
■執筆者プロフィール
森末 道弘 / LiNo代表
1977年生まれ。体育大学卒業後、アパレル業界へ。販売から店長、マネージャー、人材育成・採用まで数社でキャリアを積み、2016年にリテール特化型HRコンサルタントとして独立。ファッションからスポーツブランドなど幅広い分野で、採用・育成・制度設計を一気通貫して支援。現場に寄り添う「伴走型支援」を強みとし、企業の持続的な成長をサポート。
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