【イベントレポート】登壇者3名それぞれが実践する、SNS時代の接客&スタイリング NEW

ファッション小売業の発展と販売スタッフの地位向上を目的に、1991年に発足した「スペシャリティ ストアーズ アソシエーション(以下、SSA)」。現在は、株式会社アバハウスインターナショナル、株式会社ビームス、株式会社ビショップ、株式会社ノーリーズ、株式会社ユナイテッドアローズの5社で運営されており、年に2回のフォーラムや、社会貢献を目的としたチャリティーイベントを開催している。35年目となる今年のテーマは「多様性の時代に合わせた『ファッションを楽しむ』を考える」。本記事では、10月2日(木)に東京・六本木の国際文化会館にて行われたフォーラムの様子をご紹介する。
<登壇者>
堀辺 美希さん/株式会社アバハウスインターナショナル EMMA ROUGE VIFディレクター(写真:右)
Heg.さん/株式会社ビームス オムニスタイルコンサルタント(写真:左)
林 真由美さん/株式会社ノーリーズ ノーリーズブランド長兼プレス(写真:中央)
「起立、礼、着席!」で心ひとつに。主役は、参加者全員
会場には、SSAメンバー企業の販売スタッフ33名が集結。各社役員及び相談役の挨拶に始まり、SSAの恒例でもある「起立、礼、着席!」の掛け声とともに参加者がひとつになり、午前中の勉強会が始まりました。司会を務めたのは、株式会社ユナイテッドアローズの五十嵐保行さん。ECやSNSなどデジタルで発信する「情報の価値」と、リアル店舗で提供する「体験の重要性」の融合がますます求められていること、そのなかで、販売員に何ができるのか、何をすべきかを個々人が考えなければならないといった共通認識を語ります。
そして、SSA参加各社から選ばれた3名によるパネルディスカッションがスタート。「スタッフ発信から始まる“服育”の輪 ~販売員自身が楽しむスタイリングから、服育を届けよう~”」と題し、今後スタッフは何を発信していくべきなのか、お客様に満足いただける接客とはどんなものなのか、デジタルチャネルへの取り組みを中心に意見交換を行いました。

「私と同じだ!」共感が、参加者の成長を後押し
— ファッションを職業にした理由は何ですか。
堀辺 美希さん(以下、堀辺):自分の好きなものを共有することでお客様と繋がり、共感していただけることに喜びを感じました。
林 真由美さん(以下、林):とにかく、“好き”を形にしたかったんです。
Heg.さん(以下、Heg.):ファッションを職業にしたというよりは、ビームスを職業にしたという意識。ライフスタイル全般の発信や提案ができる環境を求めました。
— SNSに取り組もうと思ったきっかけは何ですか。
Heg.:私は過去にオンラインショッピングでひどい経験をしたことがあり、それ以来少し苦手意識をもっていました。でも、そんな経験をした私だからこそ、発信できることがあるんじゃないかと思ったんです。私ならではの目線で商品を紹介することで、同じようなお客様の不安を払拭できるのではないか、と。以来、私がどういう体型で、どういうサイズ選びをしているか、リアルな感想を交えながら自分らしい発信を心がけています。
林:SNSに取り組み出したのは、ちょうどコロナに入った頃でした。立場的にも、SNS発信を強化することが急務でした。InstagramやYouTubeのショッピング機能が当たり前になることも予測できていたので、数年後を見据えながら、企画や販売員だけでなく、パタンナーも巻き込みながら、全社で地道にやってきたという感じです。
堀辺:私が入社したのは2022年で、アパレルに就職する=SNSは当たり前の感覚でした。でも、本当に素敵なものがたくさんある中で選んでいただくのは簡単じゃなかった。そんな時、「低身長」という切り口に軸を置いたことが、軌道にのるきっかけになったと感じています。実際私は低身長なので、丈感のバランス、サイズ選びのテクニックなどを発信することで、同じ悩みをもつ方に喜んでいただけて、嬉しい反響が自分のモチベーションにもつながっています。

— スタイリングを組む上で、何を大切にしていますか。どんな信念をもって行っていますか。
林:シーズンごとのルック撮影であれば空気感、ECであればディテールまでわかりやすく、SNSであれば手が届きそうなくらいの憧れでしょうか。販売スタッフとしてのスキルって、お客様に提案するスタイリング力だと思います。 そして、それを的確に言語化できる能力。お客様の心に響くワードや、どんなシーンでも使える魔法の言葉とか、そういう「強い共感ワード」みたいなものを日頃の接客を通して見つけていくことがSNSで表現するのにも重要だと思っています。
堀辺:私は、リアルな情報を組み込んだスタイリングを意識しています。先のシーズンではなく、今ジャストで着れるもの。お客様のリアルな生活に寄り添って、すぐに真似できるようなところを大事にしています。
Heg.:まず、自分の気分が上がるかどうかが絶対なのですが、私は「代理試着」という発想も大事にしています。お客様の代わりに試着するという意識です。実際に着てみないと肌触りや風合いはわからないですし、オンラインでは伝わりにくい。なので、自分で試着をして、お客様に細かく伝えられるくらい商品としっかり向き合って、スタイリングを組むようにしています。
— 店頭での自分のスタイリング、お客様へのスタイリング提案、そしてSNSのスタイリングの違いはありますか。
堀辺:店頭ではマネキンとして新作のコーディネートを取り入れますが、お客様へ提案するときは1年分のスタイリングをお伝えできるようにしています。夏ならこう、冬ならこうと、スタイリングを写真でお見せしながら、少しでも長く愛用いただけるように。SNSでは、撮影場所を意識します。カフェや美術館やオフィスなど、シーンをイメージできることが大事かと。
林:店頭でお客様にご提案するスタイリングは、お客様のサポートに徹する。そのために、その方がどんなライフスタイルで、どこに着て行きたくて、何を求めているのかを探ります。もう、質問質問質問の連鎖ですね。 最近は、SNSを使って直接相談してきてくださる方も多くなりました。同じように質問を繰り返して、お客様の情報収集に徹して、その方に合ったスタイリングを提案します。苦労もありますが、たくさん集まった情報は、新しい商品開発へとつながっていくので貴重な財産ですし、昔は店頭に行かなければお客様のリアルを聞くことができなかったですが、今はSNSで毎日教えていただけるので、とてもいい時代になったと思います。
Heg.:これは、ビームスの良いところでもあると思うのですが、私はいろんなレーベルの洋服を組み合わせたスタイリングを提案しています。古着を合わせたり、メンズ服を着たり、他社のアイテムを取り入れたりしながら、自分ならではのスタイルを発信する。そうすることで、私のスタイルに興味をもっていただけて、私のファンになっていただける。それが大事かなと思っています。

— SNS上で参考にしている人はいますか。
堀辺:再生回数が回っている動画の構成や写真の雰囲気を参考にすることは多いです。最近はVlog系も人気だと思うので、私もプライベートをミックスさせたような投稿を発信していきたいです。
林:メンズもレディースもテイストも関係なくいろんな方を参考にして、その中で好事例としてスタッフに落とし込む題材に使えるかどうかという視点で見ています。 ただ言えることは、私たちはアイドルでもタレントでもモデルでもないので、可愛いとかオシャレなだけでは絶対に伸びない。やっぱり、洋服を通して、接客を通して、お客様たちに喜びを伝えるお仕事。SNSで結果がついてきているスタッフは大体、店頭でもめちゃくちゃ接客スキルが高いですから。
Heg.:私は、アパレルスタッフのアカウントはあまり見ないです。真似になってしまって、逆にアイデアが浮かばなくなってしまう気がするので。むしろ、海外のデジタルクリエイターの、新作ガジェット開封動画のようなタイプが好きですね。この人、本当にこれが好きなんだろうなと伝わってくるし、見ていて楽しい。まず自分が楽しむことが、誰かの心を惹きつけて買いたくさせるのではないかなと。それはきっと、アパレルでも同じなんじゃないかと思っています。
— SNSで結果が出始めたのはいつですか。継続する上でのモチベーションは何ですか。
林:最初の1年間はいくら頑張っても成果が出ず、本当に苦しかった。でも、あるひとつの投稿をきっかけに伸びたんです。その投稿は「コケたシーンを入れた」ものでした。「すごく親しみやすい」という印象に見えたことで、林さんってこんな人なんだという印象のハードルが下がり、コメントが増えるようになりフォロワー が何万人も爆増。何がきっかけになるかわからないですね。バズったその動画は、再生数やフォロワーを増やしただけでなく、売り上げも大きく伸ばしてくれました。着用していたアイテムは、その日を境にヒット商品に。結局、モチベーションが何かと聞かれたらそこですよね。売上げであり、お客様からの嬉しい反響。とはいえ、きっかけを掴むまではやっぱり苦しい期間が続いていたので、その中で絶対に成功させたい!と思えた探究心が、ここまで支えてくれたと思います。
Heg.:私は、フォロワーを増やすためというより、SNSは店舗活動の立案といったイメージですね。お客様にお店に会いに来てほしいという気持ちがゴールにあって、それを叶えるために、まずは私を知っていただく。それがデジタルを始めたきっかけでした。そして、店頭では自分のInstagramを紹介しているのですが、目の前にいらっしゃるお客様に対して伝えていけば、デジタルのような「1対n」の世界でも、今、目の前にいらっしゃるお客様を含んだnになります。顔が見える方に対して届いているんだという認識があると投稿の質は変わってきますし、モチベーションにもつながります。それが継続する力にもなります。
堀辺:私は以前、横浜のお店で販売をしていたのですが、その時のお客様が、大阪のオープンの時にInstagramを見て会いに来てくださったんです。そういう方が1人でもいらっしゃることが、自分の原動力になっています。

— これまで投稿してきて、挫折したことはありますか。どんな状況で、どう克服しましたか。
Heg.:挫折というか…、実は私、最初、デジタル発信の業務はお断りしたんです。顔も名前も出したくなかったので。でも、オンラインショッピングで苦い経験をした自分だからこそ、同じように困っているお客様に有意義な発信ができるんじゃないかって思ったんです。店頭での接客も全然得意ではなかったですが、SNSやECの業務を通して、様々な商品と向き合うことができて、語彙力を高めることができて、その力を店頭で活かすことができるようになりました。つまり、デジタルチャネルは、結局は店頭での接客力を上げるためにあるんだと、私はそう思っていますし、私のようにSNSに抵抗のあるスタッフには今の話をいつもするようにしています。
林:壁にぶち当たったことがない人なんて、多分いないんじゃないかと思うのですが。当初、「社を挙げてInstagramに取り組もう!」となった時、これは全員で進んでいく必要があると思いました。そして、事業部で直談判。SNS会を毎週開催することを決めたんです。「伸びてないのは、私だけじゃないんだ!」とわかるだけで、気持ちは結構救われます。継続がとっても大事なので仲間と共有できる環境が整ってこそ、スタッフは安心してSNS業務を継続できると思います。
堀辺:私は一度、SNSをお休みした時期がありました。「こんなに頑張ってるのに、どうして伸びないの!?」って、しんどくなってしまって。でも、少し休んだら、自然と投稿したい気持ちが湧いてきて、そこからは自分自身が楽しみながら発信できるようになりました。やらされるのではなく、自主的に取り組むことが、長く続けられる秘訣だと思います。
学びと挑戦を後押しする環境が、個人と組織を強くする
この後も3人は、SNSの撮影テクニックなどについて発言しました。 この講演内容を踏まえて、各社から参加した販売スタッフは、SSAらしく会社の垣根を超えてグループディスカッションを実施。他社同士で意見を交換し合うことで参加者が新しい気づきを得て、考え、自分に活かすヒントを見つける。そして店舗へ持ち帰り、仲間と共有しながら実践するーーそんな好循環を生みだしながらメンバーをバックアップしていく環境が、SSAにはあるように感じました。35年もの間続いてきたこの地道な活動が、販売スタッフの地位とモチベーションの向上へと繋がり、業界全体に良い影響を与えているはずです。
文:林 知佐
撮影:加藤千雅
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ユナイテッドアローズは、独自のセンスで、国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを展開しています。