ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.10 日本人が見習いたい、韓国人の「軽やかさ」と「恐れない心」 NEW
ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4、Vol.5、Vol.6、Vol.7、Vol.8、Vol.9
日本の9月といえば二学期の始まり、米国や英国では新学期・新年度のスタートですね!シンガポールのローカル校は1月始まり、韓国は3月ですので、ひと口に「9月」といっても、国によって節目の感覚はずいぶん違います。
私にとっては毎年一気に忙しくなる季節で、今年も例外ではありませんでした。寒さの残るメルボルンで1週間のイベントを終えたその足で空港へ向かい、シンガポールへ。3時間でシャワーと荷物の入れ替えを行い、その後韓国・ソウルへと飛びました。直接の担当リージョンではありませんが、大きなイベントがあるため、ヨーロッパ本社からの依頼で急遽サポートに入ることになったのです。こういう無茶な予定ほどなぜか気合いが入り、改めて「旅中毒者だな」と自覚する出張でした。帰りも真っすぐシンガポールには戻らず、ソウル→大阪→徳島を経由して友人に会ってから帰る予定です。
約5年ぶりのソウル。シンガポールに移ってからは初めての韓国での仕事。東南アジアからの視点で韓国を見てみると、「韓国もやっぱりすごいな」と思わされました。スタッフ全体のレベルが高く、仕事をしていても余計なストレスをあまり感じません。日本にいた頃は「日本と韓国は全然違う」と思っていたのに、今は両国ともアジアで尊敬される成熟国であり、90点と95点の違い程度にしか見えません。
ただ一つ、韓国に分があると感じるのは「英語力」と「コミュニケーション力」ではないでしょうか。韓国のスタッフは、あまり臆せず、器用に、そして“軽やか”にコミュニケーションをとり、短時間で信頼を築いて仕事を前に進めていきます。この「軽やかさ」は、私たち日本人がもっと学ぶべき部分だと思います。
間違いを恐れない
韓国チームと働いて真っ先に感じるのは、彼らはあまり「間違いを恐れない」ということです。業務に関することはどんどん質問してきますし、ミーティングでも活発に発言する。日本だと「こんなこと聞いたらバカに思われるかな」と遠慮してしまいそうな質問でも、韓国では普通に飛び交います。結果として場が和み、良い質問も出やすくなります。日本の会議が質疑応答でシーンとしてしまうのとは対照的です。
もちろん、積極的なコミュニケーションといっても、何でもかんでもではありません。ときどき、何の前触れもなく個人的な事を聞いてくる人がいますが、そういう積極性はあまりお勧めできません。ここでいう積極的なコミュニケーションとは、業務に関わることを頭の中でシミュレーションして、クリアでない部分を見つけ、それをどう補うかを質問することです。もし質問が思い浮かばないようでしたら、5W1H+How much を考えると質問しやすくなると思います。そして相手の距離感を尊重しながらも一歩踏み込んで、堂々と大きな声で話す。そして間違ってしまったら柔軟に修正する。これが彼らのスタイルであり、強みだと思います。
日本では、あ・うんの呼吸が美徳とされますが、海外では勘違いが起きるのはデフォルト。だから日本式の控えめなコミュニケーションでは圧倒的に情報が足りず、誤解や間違いが起きるリスクがあります。我々日本人は普段の1.2倍から1.5倍くらい、少ししつこい、少し大げさなくらいのコミュニケーションでちょうど良いと思います。勘違いがおきても“軽やかに”修正して、仕事を前に進める部分は韓国から学べる大きなヒントだと思います。
インターナショナルであること
以前、「超」がつくほど日本好きのイタリア人と韓国を訪れたとき、彼はこう言いました。「日本より韓国の方がインターナショナルだよね」。
その時の私は「いやいや日本だって…」と言いかけましたが、彼が私以上に日本文化に通じていたことを思い出し、代わりに「なぜそう思うの?」と尋ねました。彼は「韓国は外に開かれ、文化を柔軟に取り入れる力がある」「日本の方が圧倒的にピュアだ」と答えました。
朝鮮半島は中国・ロシア・日本という大国に囲まれ、歴史的にも彼らと柔軟に渡り合わなければ生き残れませんでした。そうした地政学的背景も、彼らの“軽やかさ”を育んだのでしょう。一方、日本は海に囲まれ、長らく他国に征服されたことがない世界でも珍しい国で、外に合わせる必要が少なかった分、自国を内省的に成熟させてきました。
この違いは産業にも現れています。スマホで世界を席巻するサムスン、ディスプレイで勝負するLG。負けを認めて“軽やかに”次へ移る切り替えの速さは、日本企業が苦手とする部分です。韓国の柔軟さが世界で生き残る強さにつながっているのは間違いありません。さらに驚かされるのが、宗教や移民の面です。韓国ではキリスト教徒の割合は20%を超え、日本の約1%とは比べものにならない規模です。また米国に渡った韓国系移民の数も日本よりも多く、そこで培ったネットワークや文化を持ち帰り、社会を成熟させているのも大きな特徴です。
よき隣人として
私がシンガポールに赴任した初日、最初に声をかけてくれたのは若い韓国人スタッフでした。同僚を紹介してくれたり、安くて美味しいランチを教えてくれたりしました。今も毎日のように一緒にランチを食べる仲で、出張に行けば必ずお土産を買ってきてくれる、本当に温かい友人です。日本の文化を尊敬してくれていて、僕が韓国の事を知らないことが恥ずかしくなるくらい日本の事を良く知っています。
今回のソウル出張最終日、仁川空港近くに新しくできたサーフィン用のウェーブプールに行きました。夕方までいい波を楽しみ、帰ろうとしたらタクシーが1時間以上捕まらず、仕方なくバスに乗ろうとしたものの、カードも現金もない。困っていた私にバスの運転手さんが「ケンチャナヨー(大丈夫)」と笑って手招きして乗せてくれました。日本ではあり得ないような荒い運転でしたが、その柔軟さと優しさに胸が熱くなりました。
東南アジアから見た韓国は、日本から隣国として眺めていた時とは違って映ります。まったく別の国でありながら、同時に驚くほど似ている国でもあります。
韓国の「失敗を恐れず一歩前へ出る文化、軽やかに外圧とも柔軟に対応する文化、そして海外へ飛び出して良い部分を持ち帰り、自国に貢献する文化」は、日本人にいま最も必要なものではないかと思います。そして実際に海外に出てみれば、韓国の人たちは頼もしい隣人であり、時に友人でもあります。
日本人としての頑固さと誠実さを守りながら、韓国の持つ“軽やかさ”や“柔軟性”をスマートに少しだけ取り入れること。それがこれからの時代を生き抜く大事な鍵だと思います。
もう一歩踏み込んで言うと、イタリア人がフランスを何となく嫌っていたり、フランス人が英国に複雑な感情を抱いていたり、隣国に対してネガティブな気持ちを持つことは世界中どこにでもあります。私自身、隣国のニュースを見ていて嫌な気持ちになることもあります。
でも、ただ嫌うだけでは何も生まれません。インターナショナルであるということは、実際にその国を旅して、その良さを自分たちに巧みに取り込み、自分の価値観を広げ、高めていくことなのかもしれません。
■著者プロフィール
野﨑健太郎
大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。
■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。