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ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.12 日本人がすでに手にしているスーパーパワー

ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.12 日本人がすでに手にしているスーパーパワー NEW

ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!
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海外に出たから気づいた、日本人の強み

今月は、海外で働いて感じた「日本人の強さ」をテーマにしてみたいと思います。過去のコラムでもお伝えしましたが、シンガポールや東南アジアの人々は日本や日本人に対し、驚くほど尊敬の念を持ってくれています。多くの人が何度も日本を訪れ、「日本は他の国の数十年先の世界を生きている」「人々はどうしてあんなに礼儀正しいんだ」と称賛してくれます。

私たちが「当たり前」に思っている習慣や文化は、実は外国人から見るとすごいことだったりします。海外に出て気づくのは、「自分たちが自国の文化を知らず、言語化もできないこと」です。では海外から、日本人の何がそんなに評価されているのか。

私の所感に過ぎませんが、日本人の強みは、

・物事を掘り下げる探究心の強さ(職人気質的で小さなことにもこだわって極め、それを楽しめる)

・連帯的責任感の強さ(自分がやらないと他の人に迷惑が掛かってしまうと考えられる)

・モラルの強さ(正しい事、ダメな事に敏感で高いレベルでのジャッジがある)

にあると思います。

自分たちの文化や強みを知って、もっと自己肯定をしていいと思います。日本独特の自己肯定感の低さが、実はレベルの高い仕事の原動力の一部だったりもするので、自己肯定しすぎるのも問題かもしれませんが、少なくともお互いにけなしあったり、「どうせ日本人なんか」「どうせ私なんか」と自虐的になったり、虚無主義=ニヒリズムにだけは陥るべきではありません。

では、自己肯定はどこから育まれるのか。
その鍵は、「自分の文化の源泉を知ること」にあると、海外に出て強く感じました。

禅の思想や仏教は、世界も注目するスーパーパワー

インドへ出張して驚いたのは、人々の暮らしとヒンドゥー教との結びつきの強さでした。インド人の同僚からは「インドやインド人にとって宗教は一番重要なビジネスだよ」と冗談半分に言われましたが、たしかにインドは宗教が日常の中に深く入り込んでいる国だと感じました。「シンガポールのコンドミニアムのプールで、インド人が服のまま沐浴してセキュリティに叱られた」という本当かウソかわかりませんが、そんな笑い話があるほど、彼らには独自の風習があります。実際にPew Researchの調査でも、インド人の8割以上が「宗教は自分の人生にとってとても重要だ」と答えています。

インドのほか、中東でもトルコやパキスタンでは、イスラム教が国の法律や日常の生活リズムを形づけています。ラマダン、金曜礼拝を中心にしたサイクル、飲酒のルールなど、宗教が社会のOSとして機能しています。

キリスト教圏も同様で、イタリアやイギリスではクリスマスやイースターなどの祝祭日、日曜日の過ごし方など生活の細部にキリスト教文化が息づいています。国旗に目を向けても、ギリシャやスウェーデンをはじめとする北欧諸国が十字を掲げているように、宗教が国家の成り立ちや価値観の根底にあることを示しています。こうして見ると、宗教を単なる「信仰の話」ではなく、文化や行動規範、そして社会のリズムをつくる“生活の軸”として取り入れている国は、世界にはたくさんあると感じます。

自分を知るうえで、宗教というのは背骨のようなもので、自分の根幹に流れている考え方や習慣、生活の源を成しています。しかし、それが現代の日本では、すごく見えにくくなっているように感じます。「宗教」は非常にセンシティブな話題で、もしかすると日常生活を送ったり、人間関係を構築するうえでは最も避けたい話題のひとつかもしれません。しかし、私は海外に出て初めて、自分の宗教観や文化の背景を深く知ることの重要性と大きなポテンシャルを感じました。

結論から言うと、日本人は日本の禅の思想や仏教にもっと目を向けるべきだと考えています。宗教とは、何千年も積み重ねられてきた人類の叡智で、世界最古にして最強の教えですし、禅の思想や仏教は世界が注目するスーパーパワー。これを活かさないのは本当にもったいないことです。

AI時代に価値と重要性を持つ仏教やZEN

実は、仏教やZENは、科学やビジネスと相性が良いのをご存じでしょうか。

ここであえて「禅」ではなく「ZEN」と書いているのは、日本人の日常生活や価値観は、実は非常に強く仏教が染み込んでいて、それを外から見た人から再発見されて「ZEN」として語られ、利用されるようになったからです。

ZENは「万物は流転する」「すべては因果で成り立つ」という前提で、創造神や奇跡を信仰の中心に据えていません。特別な力ではなく、「心の状態を整えること」に重きが置かれています。自然とともにある姿勢や、無駄をそぎ落とす感覚、物事の本質を見る態度――こうした考え方は生活にもビジネスにもそのまま役立つスキルです。そしてその方法を、シンプルに、実践的に教えてくれるのが日本仏教であり、ZENだと思います。

スティーブ・ジョブズはまさに「ZEN」の再発見者のひとり。「ジョブズが学んだZENの先生がSOTO宗だった」と聞くと、なぜか急にありがたみが増してしまうから不思議です。無駄をそぎ落とすZENは、「LESS IS MORE」というAppleの哲学の核になったことで世界中に広まりました。シリコンバレーをはじめとするITやテクノロジー企業が取り入れていることも有名なエピソードですね。そんな世界を席巻する巨大企業すらも注目するパワーを持った私たちの文化を、日常生活や仕事に利用しないのはもったいないと思います。

今後、本格的にAI時代へと突入した時に、仏教的な感性やZENはさらに価値を持ち、重要な役割を果たすことになると予想します。AIによって複雑な作業や手間のかかる事務作業が必要なくなると、「物事の本質を掴む力」「美意識」「モラル、エシック」が重要になるでしょう。これはZENが最も得意とする分野です。AIによって、仕事をする時間が短縮化した時、暇を持て余す人が増加する可能性が指摘されています。ITによってノマドワーカーが増加したことですでに証明済みですが、人々は自由を手に入れると幸福度が下がってしまうケースがあることが研究で分かっています(Cassie Mogilner Holmes の論文 「It’s Time for Happiness」)。そのときに生活の規範やベースとなる軸を与えてくれるのが、仏教であり、広い意味での宗教の役割です。

世界的に重宝されている仏教やZEN的な考え方は、日本人にとってはあまりに身近なものなので、認識しづらいですが、海外に出たり、自分の文化を掘り下げてみることで、このパワーを手に入れることができるようになるかもしれません。仏教に関する書物を母国語で読めるという大きなアドバンテージがありますし、身近にある禅寺に行くこともおすすめです。

「神は死んだ」。
これは哲学者ニーチェが「ツァラトゥストラ」や「悦ばしき知識」の中で記した言葉です。この有名な一文は、「宗教が終わった」という意味だと誤解されますが、実際にはそうではありません。

ニーチェが語ったのは、「外から与えられた価値に依存するのではなく、自分自身を乗り越えよ」ということです。これはむしろ、ZENに近い考え方にも通じています。そして、彼は「どうせ私なんか」「どうせ何々なんか……」というニヒリズムを強烈に批判しました。自分の中に火を灯し、自分自身を超えていく“超人”になれ。これがニーチェの思想の中心にあります。

「ツァラトゥストラ」には、こんな一文もあります。
「人間とは、動物と超人のあいだに張り渡された一本のロープである。前に進むのも危うく、後ろに戻るのも危うい」。

この一文を読んで、あなたならどちらへ進みたいでしょうか。私なら前へ進みたい。そしてそのとき、ZENの力は、より安全にロープの先へと足を運ばせるための道しるべになると思います。動物にはなく、人間にだけあるもの―それが宗教だからです。

来月は、ZENの思想や仏教的な考え方を具体的にどのように生活に取り入れたらよいか、自分自身を知ることで得られる具体的なメリットについてお話させていただければと思います。

■著者プロフィール
野﨑健太郎

大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。

■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。

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