「その人が望む未来を応援したい」転職エージェント 北川加奈のキャリア論 Vol.5 NEW

学習塾の講師からリクルーターへ転身して18年。現在、人材紹介会社・エーバルーンコンサルティングのヴァイスプレジデントを務める北川加奈さんは、これまで3,000人近くもの人々の仕事人生の岐路に立ち会ってきた。このコラムでは、北川さんがリクルーターとしてキャリアを積み重ねてきたなかで得た学びや気づきを、自分自身の体験も交えながら綴る。
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4
ひとりの候補者との出会い
18年間、リクルーターとして多くの方のキャリアに向き合ってきました。転職という人生の節目に立ち会うたびに感じるのは、キャリアに「正解」はないということです。
転職することが最善の人もいれば、現職に残ることが最善の人もいる。そして時には、転職という選択肢そのものを選ばない方が、その人らしい未来につながることもあります。
今回は、そんなことを改めて教えてくださった、ある方との出会いについて書きたいと思います。
その方とは、親しくさせていただいていた企業のHRの方からご紹介いただき、候補者として初めてお会いしました。
「ぜひ一度、会ってみてください」
その一言から始まったご縁でした。
初めてお会いした時から、とても印象的な方でした。
仕事に対する考え方が明確で、経験も豊富。人としての器の大きさも感じられ、「どの企業でも活躍できるだろう」と自然に思えるような方でした。
転職市場に出れば、多くの企業が興味を示すことは想像に難くありませんでした。けれど、その日の面談で、転職の話以上に私の心に残った言葉がありました。
「いつか、自分の会社を持ちたいと思っています」
その夢を、とても自然な言葉で話してくださいました。
会社員として十分な実績を積み、その先は自分の力で挑戦したい。
誰かに雇われるのではなく、自ら価値を生み出す立場になりたい。
その言葉からは、漠然とした憧れではなく、長い時間をかけて温めてきた強い想いが伝わってきました。
その後も定期的にお会いし、キャリアについて話す機会が続きました。転職市場の動向や求人の話をすることもありましたが、話題はいつも「どんな人生を歩みたいか」というところへ戻っていきました。
転職か、独立か。迷いの中で見えたもの
ある日、その方が静かにおっしゃいました。
「転職するか、独立するかで迷っています」
リクルーターとして考えれば、転職という選択肢は決して難しいものではありませんでした。その方の経験や実績を考えれば、魅力的なポジションをご紹介することは十分にできたと思います。
けれど私は、求人票を探す前に考えました。
この方が本当に実現したい未来は何だろう、と。
思い返せば、初めてお会いした日から、「会社を持ちたい」という夢は一度もぶれることがありませんでした。
だから私は、転職という選択を急いで勧めることはしませんでした。
もちろん、独立は簡単な道ではありません。会社員とは違い、すべての意思決定を自分で行い、その結果に責任を負うことになります。
成功が約束されているわけでもありません。だからこそ、軽い気持ちで背中を押したわけではありませんでした。
「この方が本当に望んでいる未来は、どこにあるのだろう」
そして私がたどり着いた答えは、一つでした。
私は転職を応援したいのではない。
この方が何年も語り続けてきた夢を応援したい。
最終的に、その方は独立という道を選びました。経営者として歩む道は決して平坦ではありません。会社を立ち上げることはゴールではなく、そこからが本当のスタートです。けれど、その方は自らの力で事業を成長させ、経営者として着実に歩みを進めていかれました。
そして、そのご縁は今も続いています。今では親友と呼べる存在となり、お互いに仕事の相談をしたり、新しい挑戦について語り合ったりしています。私が何か新しいことを始めようとすると、真っ先に相談したいと思う一人でもあります。あの時、もし私が転職だけを勧めていたら、この関係は生まれていなかったかもしれません。
転職を成立させることだけが、仕事ではない。
この出来事は、私にリクルーターという仕事の本質を改めて教えてくれました。私たちの仕事は、転職を成立させることだけではありません。求人を紹介することだけでもありません。
その人がどんな人生を歩みたいのか。
どんな未来を描いているのか。
その想いに耳を傾け、一緒に考え、その人にとって最善の選択を応援すること。それが私たちの本当の役割なのだと思っています。
18年間、多くのキャリアに寄り添ってきました。その中で感じるのは、キャリアは肩書きや年収だけでは語れないということです。
どれだけ高いポジションに就いたとしても、自分らしく働けなければ幸せとは言えません。一方で、自分が本当に望む道を選び、そこに覚悟を持って挑戦している人は、自然と表情が輝いています。
私は、そんな瞬間に立ち会えることが、この仕事の何よりの喜びです。転職は、キャリアを実現するための手段の一つです。決して目的ではありません。だから私はこれからも、「転職ありき」で考えることはありません。
その人らしい人生を実現するための、選択肢の一つとして転職という手段がある。私はそう考えています。
だからこれからも、目の前の「転職」ではなく、その先にある「人生」と向き合い、一人ひとりにとって最善のキャリアを一緒に考えられるリクルーターでありたいと思っています。
■著者プロフィール
北川加奈/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国留学後、塾の講師を経て人材業界に転身。2021年エーバルーンコンサルティングに上級職として就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界に強みを持ち、外資系エグゼクティブサーチに従事。1,000件以上の紹介実績があり、業界屈指のネットワークを誇る。平日は都会的なライフスタイル、週末はアウトドアを愛し、愛犬と共に都市と自然の調和の取れた生活を送る。
「次のキャリアを考えたい」「業界にフィットする人材を探したい」――そんなご相談は、北川加奈さん(kitagawa@aballoon.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。 ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界を中心に、1,000件以上の紹介実績を持つエグゼクティブサーチのプロフェッショナルとして、一人ひとりに寄り添いながらサポートいたします。
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「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。