「”肩書きを下げる転職”の意味」転職エージェント 北川加奈のキャリア論 Vol.6 NEW

学習塾の講師からリクルーターへ転身して18年。現在、人材紹介会社・エーバルーンコンサルティングのヴァイスプレジデントを務める北川加奈さんは、これまで3,000人近くもの人々の仕事人生の岐路に立ち会ってきた。このコラムでは、北川さんがリクルーターとしてキャリアを積み重ねてきたなかで得た学びや気づきを、自分自身の体験も交えながら綴る。
※過去記事はこちら→Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4、Vol.5
“スーパーマン”のような経歴を持つ、ある方との出会い
私は18年間、リクルーターとして多くの方のキャリアに向き合ってきました。その中で、何度も考えさせられてきたことがあります。
それは、キャリアの価値は、肩書きだけでは決まらないということです。
転職するのであれば、今よりも高いポジションへ。
年収も上げたい。
より大きな責任を持ちたい。
そう考えるのは自然なことだと思います。もちろん、キャリアを考えるうえでも大切な要素です。けれど時には、あえて肩書きを変えることや、一見すると「下がった」と思えるポジションを選ぶことが、その先のキャリアを大きく広げることがあります。
今回は、そんなことを改めて教えてくださった、一人の方との出会いについて書きたいと思います。
その方は、ある大手企業で長年にわたりキャリアを築かれた後、異業種へ転身され、営業部門の責任者として新しいキャリアをスタートされていました。私は、実際にお会いする以前から、その方の存在を知っていました。
長年にわたる大手企業での経験。
豊富な営業経験。
そして責任あるポジション。
その経歴を見て、「こんなに素晴らしいキャリアを歩んでいる方がいるんだ、いつか一度、お会いしてみたい」と思っていました。
私の中では、いわば「スーパーマン」のような存在でした。どんな環境に行っても、どんな課題を与えられても、きっと何でもこなしてしまうだろう。そんなイメージを勝手に持っていたのです。だからこそ、初めてお会いした時にその方が発した言葉には驚きました。
「今の環境が合わないんです」
新しい会社に移られて、まだそれほど時間が経っていないタイミングでした。正直、私は意外でした。あれほど素晴らしい経歴を持つ方が、環境が合わないと感じている。これまでのキャリアから考えれば、どんな場所でも力を発揮できる方だと思っていたからです。
私は、「新しい環境に入ったばかりですから、まだ慣れていないのも当然だと思います。まずは少し環境に慣れてみてはいかがでしょうか」とお伝えしました。
これまで長く一つの会社で経験を積まれてきた方だからこそ、新しい企業文化や仕事の進め方に慣れるには、ある程度の時間が必要なのではないか。
私はそう考えていました。ところが、次にお会いした時、その方はすでに決断をされていました。
次の会社を決めずに、退職するとのことでした。
私はまた驚きました。長年にわたって築いてきたキャリアがあるからこそ、次を慎重に決めてから動くのではないかと思っていたからです。けれど、その方の意思は明確でした。そして、そこから本格的な転職活動が始まりました。
あえて選んだ、「役職が下がる」転職
結果として、その方は私がご紹介したラグジュアリーブランドからオファーをいただくことになりました。
ただし、そこには一つ、大きなポイントがありました。
前職では営業部門の責任者。
一方、今回提示されたのは、営業部門を率いるポジションを支える、No.2という立場でした。
つまり、肩書きだけを見れば、“役職が下がる転職”です。一般的に考えれば、迷うところだと思います。それまで責任者として仕事をしてきた方が、次の会社ではNo.2になる。
「なぜ、わざわざタイトルを下げるのか」。そう考える人も少なくないでしょう。私自身も、その方にしっかりとお話をしました。
ただ、私はこのポジションを「タイトルが下がる」とだけ捉えてほしくありませんでした。
今回の転職では、これまでとは異なる商材を扱うことになります。これまで経験してきた業界からラグジュアリーへ。
業界も、商材も、ビジネスの考え方も違います。初めて経験する世界で、いきなりトップのポジションに就くよりも、まずはその業界を理解し、実績を積み、その先にポジションを広げていく。
その方が、長い目で見た時にはキャリアの可能性が広がるのではないか。私はそう考えました。
そしてもう一つ。そのラグジュアリーブランドの規模や事業内容を考えれば、No.2という立場であっても、決して仕事のスコープが小さくなるわけではありませんでした。
むしろ、それまでとは異なる領域まで含めて、幅広い責任を持つことができるポジションでした。
企業側も、その方がこれまで培ってきた経験を高く評価していました。実際、タイトルは下がりましたが企業側から高い評価を受け、年収は上がりました。「この方にどうしても来ていただきたい」という企業の意思があり、その経験や実績も十分に考慮された条件が提示されたのです。
私は、そのオファーを見ながら改めて思いました。
キャリアは、肩書きだけで判断してはいけない。
そのポジションで何ができるのか。
どれだけの経験を積めるのか。
どんな人たちと仕事をするのか。
そして、その先にどんなキャリアが描けるのか。
そこまで見なければ、本当の意味で、その転職が良いものなのかは分からないのだと思います。
その方は、最終的にそのオファーを受けることを決めました。そして、その後長きにわたり、そのラグジュアリーブランドでキャリアを築かれていきました。今でも、ラグジュアリー業界でご活躍されています。
肩書きや年収よりも、その先に描けるキャリアを
振り返ってみれば、あの時の「No.2」という立場は、その方のキャリアを下げるものではありませんでした。
むしろ、新しい業界でキャリアを築くための入口だったのです。もちろん、タイトルを下げれば必ず成功するわけではありません。
大切なのは、その人がその環境で何をするのか。
どんな覚悟を持って仕事に向き合うのか。
そして、与えられたポジションをどう自分のキャリアにつなげていくのか。
その方は、その場所で結果を出しました。そして結果を出したからこそ、周囲から評価され、その後のキャリアにつながっていったのだと思います。
この経験から、私は改めて「肩書き」について考えるようになりました。
転職の相談では、
「今よりタイトルを下げたくない」
「今より年収を下げたくない」
という言葉を聞くことがあります。
もちろん、それは当然の希望です。これまで積み上げてきたものを大切にすることは、決して悪いことではありません。
ただ、その条件だけに目を向けてしまうと、見えなくなるチャンスもあるのです。
一時的にタイトルが下がっても、経験の幅が広がるかもしれない。
年収が大きく変わらなくても、将来につながる経験が得られるかもしれない。
今までとは違う業界に飛び込むことで、新しい市場価値が生まれるかもしれない。
キャリアには、そんな可能性があります。だから私は、候補者の方とお話しする時、今の肩書きだけを見ることはありません。
その人がこれまで何を積み上げてきたのか。
そして、これから何を経験したいのか。
今のポジションから次のポジションへ移ることで、何が変わるのか。
その先に、どんなキャリアが描けるのか。
できるだけ長い時間軸で考えるようにしています。
あの時、責任者という肩書きからNo.2というポジションに移ることを、その方が「キャリアダウン」とだけ捉えていたら、今のキャリアはなかったかもしれません。
タイトルを下げたことではなく、その場所で何を成し遂げたのか。
結局、キャリアを作るのは肩書きではなく、その人自身なのだと思います。
そして、どんな環境に身を置いても、自分の仕事に誇りを持ち、結果を出そうと努力する。その積み重ねが、次の評価につながっていく。
18年間、多くの方のキャリアを見てきました。その中で、華やかな肩書き以上に印象に残っているのは、与えられた環境の中で愚直に結果を出し続けた人たちです。
キャリアは、肩書きの積み重ねだけではありません。
その場所で何を成し遂げたのか。
そして、その経験を次にどうつなげるのか。
私はこれからも、目の前のタイトルだけではなく、その人がその先でどんなキャリアを築いていけるのか。
そこまで一緒に考えられるリクルーターでありたいと思っています。
■著者プロフィール
北川加奈/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国留学後、塾の講師を経て人材業界に転身。2021年エーバルーンコンサルティングに上級職として就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界に強みを持ち、外資系エグゼクティブサーチに従事。1,000件以上の紹介実績があり、業界屈指のネットワークを誇る。平日は都会的なライフスタイル、週末はアウトドアを愛し、愛犬と共に都市と自然の調和の取れた生活を送る。
「次のキャリアを考えたい」「業界にフィットする人材を探したい」――そんなご相談は、北川加奈さん(kitagawa@aballoon.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。 ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメ業界を中心に、1,000件以上の紹介実績を持つエグゼクティブサーチのプロフェッショナルとして、一人ひとりに寄り添いながらサポートいたします。
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「エーバルーンコンサルティング(A Balloon Consulting)」は、東京と大阪を拠点にしたファッション業界に特化した人材紹介サービス会社。販売スタッフからエグゼクティブクラスまで、ファッション業界の優良な人材と企業をつなぐエージェントとして、多くの紹介実績を持つ。