ラグジュアリーブランドのマネージャーが教える、グローバルキャリア成功のカギ Vol.17 のんびりだけど豪快!?マレーシアの魅力 NEW

ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!
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「あらま!」
僕の席の後ろに座っているマレー系シンガポール人の同僚が、大きな声で叫びました。
僕はてっきり、彼がその日本語を知っていて、わざと僕にわかるように言ったのだと思いました。彼はサッカー日本代表の熱心なファンで、ワールドカップやアジアカップの時期になると、日本代表のユニフォームを着て出勤してくるほどです。
「『あらま!』という、日本語を知っているんだね」と声をかけると、彼は少し不思議そうな顔をしてこう言いました。
「“Alamak” はマレー語で、驚いたときに使うんだよ」
僕は驚きました。まさかマレー語と日本語に、こんなにも響きの似た言葉があるとは思ってもいなかったからです。同時に、どこかマレーの文化を急に身近に感じた瞬間でもありました。
今月は、日本人が「住みたい海外」として常に上位に挙がるマレーシアについて、僕自身が見てきたこと、感じたことを書いてみたいと思います。
マレーシア人の仕事への向き合い方
シンガポールに来て1年目の12月、僕は初めてマレーシアへ出張に行くことになりました。シンガポールで働いているマレーシア人の同僚がヘルプに来てくれることになり、空港で待ち合わせました。
クアラルンプールはシンガポールからわずか30分ほどのフライト。別の国とはいえ、距離感としては東京から名古屋へ行くような感覚です。
マレーシアのことをまだよく知らなかった僕は、機内でその同僚に聞いてみました。
「マレーシアって、ひとことでいうとどんな国民性?」
すると彼は即答しました。
「Malaysia is chill.」
“チル”。日本語で言えば、リラックスしている、のんびりしている、肩の力が抜けている、そんな感じでしょうか。
そして彼はこう続けました。
「シンガポールのお店は緊張感が高いけど、マレーシアのお店はみんなフレンドリーでのんびりしているよ。でも、仕事ものんびりしているから、勘違いやミスは起きやすい。そこは気をつけてね」
なるほど、と思いました。
実際に店舗に着いて朝礼に参加し、イベントを運営してみると、たしかにその通りでした。
みんな驚くほど親しみやすい。初対面なのに、5秒後には昔からの友人のような距離感で話してくれます。
一方で、仕事はなかなか豪快でした。
店舗からリクエストされた高額なドレスを、かなりの輸送コストをかけてイベント用に取り寄せたことがありました。ところが結果は、まさかの1点も売れず、そのまま元の店舗へ返送することになりました。
日本なら、すぐに「なぜこうなったのか」という反省会が始まりそうな場面です。でもマレーシアでは、誰かが強く落ち込んでいる様子もなければ、犯人探しが始まることもない。
「まあ、仕方ないよね。次がんばろう」
そんな空気でした。
なんでも責任の所在を明確にし、失敗すればまず謝る、という日本の仕事文化に慣れていた自分にとっては、非常に新鮮な体験でした。
日本人にとって心地よい理由
マレーシアは、国民の約6割がイスラム教徒です。残りは仏教、キリスト教、ヒンドゥー教など、多様な宗教が共存しています。
イスラム教の国と聞くと、日本では少し身構えてしまう人もいるかもしれません。でも実際に行くと、とても親しみやすく、過ごしやすい国だと感じます。
シンガポールより圧倒的に国土が広く、物価も安い。美しい海があり、ジャングルがあり、意外にもサーフィンできるビーチまであります。
実際、シンガポールに住んでいて週末になるとマレーシアへ行く人は本当に多いです。金曜日の午後になると、国境を越える車で大渋滞になります。
また親日国としても知られています。1980年代には「ルックイースト政策」で日本をモデルに経済発展を目指した歴史もあります。
東南アジアの中で見ると、マレーシアは少し独特な立ち位置です。
石油、天然ガス、パーム油(ヤシ油)、天然ゴムなどの資源が豊富で、比較的安定した経済基盤を持っています。一方で、シンガポールのようなピリッとした管理社会とは少し違う。どこか緩さがある。
この“ちょうどよさ”が、日本人にとって心地いいのかもしれません。
国土は約33万平方キロメートル。日本とほぼ同じ大きさです。人口は約3400万人。インドネシアの約2億8000万人と比べるとずっとコンパクトです。
クアラルンプールという圧倒的な都市があり、ジョホールバル、ペナンなどの主要都市がある。そしてボルネオ島北部にも広大な領土を持っています。
教育移住先としても人気。気になる治安は?
こうした“ちょうどよさ”からか、近年は日本人の教育移住先としても人気です。
実際に、僕が日本で働いていた時の元上司が、中学生の息子さんをマレーシアに留学させたいということで、2年間シンガポールへ異動してきていました。
彼女の場合、自分の会社の中でシンガポール異動を希望し、それを実現させた形でした。息子さんは都内の私立中学に在籍したまま、ジョホールバルの全寮制インターナショナルスクールに入り、週末をシンガポールにいるお母さんと過ごすというスタイルだったそうです。
ここで気になるのが治安です。
YouTubeやSNSでは、「ジョホールバルは超危険」という情報をよく見かけます。
もちろん、シンガポールのような異常なレベルの安全さを基準にすると、普通の海外都市はすべて危険に見えてしまうかもしれません。
実際に僕も何度もジョホールバルへ行っていますが、特別に危険を感じたことはありません。
もちろん外国ですから、日本にいるような無防備さは危険です。でも普通に気をつけていれば、大きな問題に遭遇する可能性はそこまで高くないように感じます。
むしろ個人的には、高速道路でかなりスピードを出す車の方が怖いです。140km〜170kmくらいで普通に走っている車もいて、そちらの方がよほど身近な危険かもしれません。
最後に、インドネシアとの比較について触れたいと思います。
実はこの2つの国、もともとはかなり近い文化圏でした。マレー語とインドネシア語もかなり似ています。しかし、マレーシアはイギリスの影響を強く受け、インドネシアはオランダの支配を受けました。
マレーシアは、比較的コンパクトで、制度的に整理された多民族国家。
一方、インドネシアは、17,000以上の島を持つ巨大国家。人口もエネルギーも桁違いです。
マレーシアが“整ったチル”だとしたら、インドネシアは“熱量のあるカオス”。
どちらが良い悪いではなく、まったく違う魅力があります。
来月の東南アジアの超大国、インドネシアについて書いてみたいと思います。
■著者プロフィール
野﨑健太郎
大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。
■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。